寂しい時の彼 | 食べて、呪って、変をして、
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寂しい時の彼

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「あ、ぁ……うーん、だめみたいです。あまり感じませんもの」
 ぴたりと手を止めたイザドラは、自身の昂りかけた男根を手放した。
「ブリュノさんのお口やおしりの中の方がずっと善いわ。だってとってもお淫らだし」
「な、なに」
 ドゥーベ氏は素っ頓狂な声を上げた。
「とっ途中でやめるのは、よくないぞ!」
 私にとっても、と心の中で付け加えるドゥーベ氏。
「だって、全然いやらしい気分にならないのですもの」
「昂らないのなら、何かそれらしい事を考えればいいだろうに」
 イザドラは唇に人差し指を当てて思案する。
「あなたが、お口にご自分のよりも大きいわたくしのモノを入れられて無理矢理動かされて苦しんでらっしゃるところとか、感じ過ぎてるおしりを後ろから犯されて泣きながらやめるように懇願なさるところとかかしら」
 イザドラの想像は酷く現実的で、ドゥーベ氏の精神を淫蕩に苛んだ。
「も、もうそれでいい。とやかくは言わん、想像は自由だからな」
「あら、想像じゃないわ、本当の事じゃあありませんか」
「うぐ……」
「うーん、でもやっぱり、自分で自分をいじるなんて、どこかへんな感じだわ。自分ので手が汚れるのも厭だもの」
 イザドラが青大将のぬるぬるを触ってしまった子供のように、汚れた手を自分の夜着で拭う。そうしながら何かいい事でも思いついたようで、目を見開き、ドゥーベ氏を見上げた。だが彼女の思いつきは大抵碌なものではない事をドゥーベ氏は厭と言うほど知っていた。
「そうね、ブリュノさんがお手本を見せてくださればいいのだわ!」
 イザドラが手を叩く。ドゥーベ氏はうんざりした。
「いやそれは無理だ」
 たぶん羞恥心によって憤死するだろうとドゥーベ氏は思った。
「ではわたくし、これからもあなたとしかしないわ。自分ではしません。やり方がわからないのですもの」
 ドゥーベ氏は血管が隆起するような痛みをこめかみに感じた。
「ね、だから今夜はしばしのお別れをお互いに耐えられるように、たくさんしましょ」
 イザドラが広い寝台の上をにじり寄ってくる。
「わ、わかった!」
 ドゥーベ氏がそれを手で制した。
「やった」
 イザドラはそれを押し倒す同意とみなし、ドゥーベ氏の首に抱きついて、彼の下腹部に手を伸ばした。
「ち、違う、見せる! 私のを、見せるから……そうしたら、自分でできるな?」
 ドゥーベ氏は緊張の脂汗をかき、ぎこちなく笑いながら確認する。こんな交換条件を持ちかけるなんて、常日頃のドゥーベ氏からは考えられなかった。部下相手なら、こんなふうに阿ったりはしないというのに。どうしてこうなった。本日二度目の失敗にドゥーベ氏は嘆息した。
「ええ」
 イザドラはにこりと笑った。それは例えば、落としたハンカチを拾ってくれてありがとう、とか、お世辞を言ってくれてありがとう、とか、そういう類の、淑女の軽い礼の笑みに見えた。とかく場違いではあるが、イザドラにとって、これはその程度の事なのだろう。
 ドゥーベ氏は軽く諦めの息を吐くと、胡坐をかいた。彼の重みで寝台が軋む。そして彼はガウンの腰ひもを外し、前を肌蹴る。濃い体毛に守られた浅黒い肌と、汗馬のような脚、そして中心の勃起した赤黒い男根が露になる。
「っふ、う……」
 見られているだけでも羞恥心が湧いてくるのに、これから自分がしなければならない行為を思うと、眩暈さえする。
「うふ、なんだか男臭くていやらしいわ。森のくまさんみたい」
 イザドラだけが、彼の身体をそう称する。
 性的な関係を持った女もかつては何人かいたが、誰も彼の身体をこうして褒めたたえた事はなかった。いや、イザドラの言葉も、褒めているのか、貶しているのかどうか、皆目分かったものではないが。恐らく半々なのだろう。
 ドゥーベ氏が憮然としているのを知ってか知らずか、イザドラは言いなおす。
「野生の動物のようだと言っているのです。威厳があって美しいの」
 ドゥーベ氏は躊躇いがちに自身のそれを武骨な手で掴み、ゆっくりと扱き上げる。先走りが絡まって、くちゅっ、ぢゅっ、という淫靡な音が響く。
「もう濡れていらっしゃるのね。もしかして、わたくしのあれを見て興奮していらしたの」
「ああ、そうだ……」
 ドゥーベ氏は頷き、早く終わらせようと手を早める。こんな風に人前でやることが自慰と言えるのか、甚だ疑問であった。
「ねえ、ブリュノさんは、よくご自分でなさるの」
 無邪気な問いが彼を責め苛み、絶頂への道のりを手助けする。
「昔は、な。今は、君にいいだけ玩具にされるから、そんな必要はない」
 少し恨みがましく言う。これくらいの嫌味は許されてもいいだろうと思ってのことだ。
「ね、今、どんな事を考えてしていらっしゃるの」
 羞恥にドゥーベ氏の心臓がわななく。快感が尾てい骨からせり上がってくる。
「わたくしに凌辱されているところ?」
「っう……違う」
「あら、わたくし以外の事を考えてしていらっしゃるの、なんだかいやだわ」
 と、言いつつもイザドラは興味津々といった表情でドゥーベ氏に詰め寄る。
「いや、君の、事だ……君の身体を、美しい身体の事を考えている。ん、ふぅっ、イザドラ……」
 どこか幼さの残る蒼い身体、真夏の最中でも、情事の最中でも、石のように冷たい。そう、石のように。
「わたくしの事、美しいと心から言ってくださるのはブリュノさんだけ。わたくしの全部を知ってるのはブリュノさんだけ」
 イザドラは珍しく少しはにかんで言う。その様子にドゥーベ氏は理性の箍が外れた。
「イザドラ、嗚呼!」
 彼はイザドラを押し倒し、自分の男根と彼女のそれを絡め合わせる。お互いの粘ついた肉同士が、ぴったりと沿い、窪みや隆起が求めるように吸い合う。さながら性交に勤しむ二人そのもののように。それらをドゥーベ氏は大きな手で包みこみ、激しく扱く。
 ぐちゅ、ちゅ、ちゅぷ。
 お互いの隆起した筋が擦れ合い、痺れるような快感が湧きおこる。
「あ、ん、あなたのびくびくして善い……ね、わたくしの身体見て」
 イザドラは腰を躍らせながら、夜着の胸元の編みあげを外し、胸を露出させた。小ぶりで硬そうな、若い二つの乳白色の雫。ドゥーベ氏は空いた手でそれを愛撫する。
「愛しているイザドラ、愛している」
「わたくしも」
 イザドラの手が、怒張を扱くドゥーベ氏の手に重なり、一緒に律動する。もう片方の手は彼の背に回し、珍しくすべて委ねる。イザドラが唇を開いて接吻を強請り、ドゥーベ氏がそれに応える。
 舌を貪り、唾液を混ぜ合い、お互いの歯列を確認するようになぞる。せり上がる快楽のせいで、その行為はとても荒々しく、性急なものだった。
「ん……ふ、ぁふ、ブリュノさん、ブリュノさん……」
 イザドラが男根を扱くドゥーベ氏の手から己の手を離し、彼の背にきゅっとしがみつく。腰をかくかくと揺らし、彼の男根に自分のそれを押し付ける。
「わかった、わかった……」
 ドゥーベ氏ももう限界はとっくに来ていた。だがイザドラと共に登りつめる為に、耐えていたのだ。彼はイザドラに覆いかぶさった。彼の厚い胸板がイザドラのまろやかな胸を押しつぶす。首筋に顔を埋めると、イザドラの蜂蜜の芳香が胸一杯に広がる。
「やぅ、あ、これすごい、の……あ、ぁ、はじめて……」
 ドゥーベ氏の耳元でイザドラの喘ぎ声が弾ける。イザドラが彼の手でこんな風に乱れるのは初めてであった。彼の動きがいやましに速まり、絶頂へ追い上げる。ドゥーベ氏の背が快楽に震える。冷たいイザドラの身体で唯一、熱を持った肉棒が、ドゥーベ氏のそれと蕩け合う。もうどこからがどちらの肉体かわからない程に。
「ふあ」
「ん、むう」
 ドゥーベ氏の手の中で、二つの欲望が爆ぜる。どろりと溢れたそれは、イザドラのひくつく白い腹に凝る。
「はあ、っは、ふー……」
 疲労したドゥーベ氏は、イザドラの隣にどさりと倒れた。倦怠に荒い息を吐き、妻を抱きよせる。イザドラは何も言わず、目を閉じてドゥーベ氏に擦り寄り、彼の火照った身体に冷たい脚を絡める。
「あ、イザドラ……」
 ドゥーベ氏の大腿に、イザドラの硬い一物が当たる。イザドラは一度では満足しないことをドゥーベ氏はぼんやりとした頭で思い出す。だがもうこの後の事なんて、惚けた思考ではどうでもいい事だった。肉欲のままに凌辱されようとも、ドゥーベ氏以外と出来ないというイザドラに我慢させるなんて酷ではないだろうか。暫く会えないというのに。それ以上に、イザドラはドゥーベ氏を愛しているとさえ言っているのに。拒絶するなど。
 その気になってイザドラの肢体を撫でるドゥーベ氏。だが、イザドラは一向に手を出そうとしない。ただ、彼の大きな胸の中で小さくなっている。
「イザドラ」
「はい」
 イザドラはドゥーベ氏の胸に埋めていた顔をちょこんと上げて彼を見る。目の周りを性感に赤らめ、耐えているようでもある。
「し、しないのかね」
 これを許可だと受け取られて、このまま押し倒されるかもしれないと思いつつも、意を決して尋ねてみる。
「なにをですか」
 焦らしているのだろうか。イザドラは目を伏せて、身体をもっと密着させてきた。
「私と、あの淫らな行為を。君は満足していないだろう」
「がまんします」
 返ってきた言葉はやけにしおらしいものだった。
「わたくしに沢山させられて疲れるのがお厭なのでしょう」
 そうしてイザドラは縋りついていた小さな身体をドゥーベ氏の腕の中で捩り、彼に背中を向けた。
「いやそういうわけでは」
「これからは頑張って一人でやってみますわ」
 そうしょんぼりと言われ、なんだか相手をしてやらない自分が悪いような気になってくるドゥーベ氏。
「いや、いやいいんだ、明日からは暫く会えないのだし……」
「ん、いいのです!」
 そう言って彼の方を振り向いたイザドラの顔はいやに清々しげで、夜着の前を直すと、寝台から起き上がる。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「どこへ」
 立ち上がったイザドラの腕に手を伸ばしてドゥーベ氏は問う。
「自分の部屋に戻ります。戻って自分でする練習をします。ブリュノさんが帰っていらっしゃる頃には、もうブリュノさんいらずかもしれませんわね!」
 当て付けで、というよりは本心から、ドゥーベ氏のためを思って言っているようだった。
「ちょ、ちょっと待て」
 ドゥーベ氏が引き止めるのも構わず、イザドラはサイドチェストの燭台を取り、隣の自室に行ってしまった。
 厚い扉が非情な音を立てて閉まり、ドゥーベ氏は暗闇に取り残された。
「イザドラ……もう少し言葉を選ぼう」
 常日頃はイザドラの責め苦から逃れたいと思ってはいたが、いざいらないと言われると少し、いやかなり落ち込むのだった。どうしてこうなった。ドゥーベ氏は暗い部屋でため息をついた。

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