寂しい時の彼 | 食べて、呪って、変をして、
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寂しい時の彼

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「はいじゃあ、おしり。うしろ向いて」
「妙齢の女性の言葉とは思えん」
 ドゥーベ氏はゆっくりとイザドラに背を向ける。嫌々という風を装うが、内心期待が滲む。肉欲の予感は純白の絹を侵食する汚泥だった。
 がたん!
 後ろを向いた瞬間、背中をものすごい力で押され、無様に上体が机に倒れる。
「あら、物欲しそうにおしり突きだして」
 そうさせたのはイザドラであるにも関わらず、彼女はドゥーベ氏を言葉で責めたてる。
「そのままでいて。あなたはなんにもしなくてもいいんですの。わたくしに任せて」
 イザドラはドゥーベ氏の長い法服を捲り、キュロットを下げ、臀部を覆っている長いシャツを捲りあげた。
「うう……」
 暖炉で火が燃えているとはいえ、真冬の広い室内は寒い。勝手に臀部の筋肉が震えてしまう。
「なんていやらしいの」
 冷たい手が筋肉の隆起をなぞる。ぞわりと鳥肌が立つ。
「んっ……」
「りっぱなおしり」
 イザドラの息が尻にかかり、次いで、ちう、と鼠の鳴くような音。
「く……っひ!?」
 尻肉に吸い付かれ、軽く歯を立てられ、それを癒すように熱い舌でちろちろと舐められる。
「はっ、あぅ」
 びくびくと腰が跳ねる。
「んちゅ、んふ、ふ、ちゅう。つめたいおしり、ふふ」
 微笑の吐息と接吻が善すぎる。
「かふ、あ、ぁぁ」
 尻に与えられる責め苦が、身体の中心を支配し、それを持ち上げる。こんな事になるなら、さっき自慰なんてしなければよかった。これからいいだけ、数え切れないくらい絶頂させられるのだから。
 ドゥーベ氏は顔を冷たい机に押し付け、唇を噛んだ。
 瑞々しい果実でも味わうかのように、臀部を余すところなく舐め吸い桃色に染め、やっとイザドラは唇を離した。
「ぷあ、んふ、おいし」
 イザドラは唇を小さな舌でちろりと舐めてそれを終える合図とした。そして、執務机の引き出しを開け、漁り始める。
 ドゥーベ氏はぼうっとして重たい上半身を反らし、振り返る。
「鍵が……かかっていただろう」
「かかっていませんでしたわ」
「そんな筈ないだろう」
 現にさっき、イザドラの封筒を隠して鍵を閉めた筈だった。
「わたくしがかかっていないと思えば、鍵なんてかかっていないのです。わたくしが明日、人の世が終わると言えば、終わるのです」
 ドゥーベ氏に伝える風でもなく、独り言のようにイザドラは言い、強制捜索を続ける。
「ふむー、おうちのキャビネットのようにきちんと整頓されていますのね。あらこれ……」
 イザドラは一枚の封筒を取り出し、掲げる。
「あ! イザドラ、それは……」
「わたくしのお手紙。書簡の検閲もお仕事とは聞いていましたけれど、わたくしの手紙まで。酷いわ、信用がありませんのね」
 イザドラは悲しげな声色で言ったが、表情は嗜虐的な笑みに歪んでいる。賭博師が切り札を滑らせるように、封筒を机の上に投げた。それは忠実な僕のようにドゥーベ氏の顔の前で止まった。
「違う! 他の書簡に紛れていたんだ、返そうと思って、保管していた。良く見てくれ、封は開いていないだろう!」
「そうね。でも、本当にとっておいただけですの?」
 イザドラの冷たい手が、情欲に火照った尻たぶに食い込む。
「あひ、あ、あ、自慰に……自分でするために……」
「ええ、どうやって」
 イザドラは本当に、心底驚いているようだった。
「香りや、文字で……君を想い出すんだ」
「ふふ、へんたい」
「嗚呼……」
 ドゥーベ氏は肉棒が硬く持ち上がり、机の装飾に張り付くのを感じた。蔑まれて欲望が膨れ上がるようになってしまった自分がそら恐ろしい。
「いいもの見つけた」
 イザドラが引き出しの中から琥珀色の液体の入った小瓶を取り出す。緑のラベルには、王立劇場の版画と、ロココ書体の飾り文字が記してある。
「わたくしがプレゼントした蜂蜜、まだ大事にしていて下さったのね。半分以上残っているわ」
 それはかつて、蜂蜜が好きだと言ったドゥーベ氏にイザドラから贈られたもので、王立劇場の名物であった。
 中身はすべて劇場の屋上で飼育されている蜂から採取したもののため、数に限りがあり、売り切れ必至かつ高級な一品である。イザドラからの贈り物だという付加価値も相まって、ここぞという時にしか食べられないのだ。
 イザドラは一緒に引き出しに入っていたハニーサーバーを取り出し、粘度の高い蜜に埋めた。重たい気泡が攪拌される。ハニーサーバーを持ち上げると、その先端の螺旋に絡みついた蜜がとろりと垂れた。イザドラの髪の毛のようだ、と茫洋とした意識でドゥーベ氏は思った。
 イザドラの手の中のそれらが、ドゥーベ氏の尻の陰に隠れ、視界から消える。食べる気だろうか。
「くあっ、ふ――!?」
 尾てい骨に冷たい衝撃。次いで、広げられる尻たぶ。そして、露になった肛門に垂れる蜂蜜。
「きひぃ、あ、あっ」
 腰が、内股が、筋肉質な脹脛が痙攣する。淫液よりも粘りがある蜂蜜は、通り過ぎるまでにねっとりと強かに肛門を嬲る。
「んっ、はぁ、うあ」
 自分でも肛門がじんじんと疼いているのが分かる。
「下のお口もひくひくさせて、本当に蜂蜜だいすきですのね。いやらしいくまさんだわ」
「っみ、見るな……っあ」
 隠したいのだが、最早身体はイザドラの次の行為を欲していて、自分のものだというのに言う事を聞かない。
 イザドラの顔がドゥーベ氏の下半身の陰に隠れる。
「おいしそう。いただきまあす」
「イザドラ……?」
 ちゅぷり、とイザドラの唇とドゥーベ氏の下の口が重なり合う。
「あ゛っ!?」
 ドゥーベ氏の背がしなる。一瞬、思考が吹き飛んだ。
 イザドラの舌が入口を蹂躙し、解す。皺の一本一本を伸ばし、そろりと円になぞり、蜂蜜を塗りつけたり舐めとったりしていく。
「あ、ああ……だめだ、だめだイザドラ、汚い……」
「そんなことありません、洗ったばかりでしょう、だいじょうぶ」
 イザドラに会う直前に身体を清めた事がばれているなんて、愛欲に支配された今の彼には分らなかった。
「それに、とってもよさそう」
「んっ、そんな、ちがう……」
 舐められながら舌ったらずな調子で言われ、反応してしまう。
「物欲しそうにぴくぴく動いていらっしゃるもの」
「はあぁ、あ、はあ」
 再びイザドラがドゥーベ氏のそこを啄み始める。ドゥーベ氏はすっかり熱を持ち出来上がった陰茎を、冷たい机に擦りつける。
 ちゅく、ちゅぷ、ちゅっ。
 イザドラの舌が段々下がって行き、睾丸にまで垂れ落ちた蜂蜜を味わわれる。
「んぐあ、あぁ」
 飴を舐めるように口に含まれ、弄ばれ、転がされる。びくびくと肉棒が跳ね、透明な液が迸り、爪が机をがりがりと掻く。
「おいし、もっと、ください」
 ぬちゅっ。
 イザドラの舌がドゥーベ氏の中に潜り込む。
「んむっ、んんーっ!?」
 ドゥーベ氏の腰が浮き、上に逃げかけるが、イザドラにがっちりと押さえられてしまう。
「はっ、むあっ、んぐぅ」
 尖らせた熱の塊を奥に差し込まれ、犯され、まるで深い接吻をしているかのようだ。耳に飛び込んでくる淫猥な音も、それに似ていた。
「やめてくれ、イザドラもう……」
 イザドラの前で浅ましく自慰をするよりも恥ずかしかった。不浄の穴を、少女の清廉な、それこそ甘いものしか受け付けないような無垢な舌で弄ばれ、抉じ開けられ、味わわれる。そんな羞恥に打ちのめされてしまう。
 くちゅぷ、ちゅぷ、ちゅこ、ちゅぷり。
 イザドラの舌の熱が中を熟れさせ、じんわりと腰に快楽を溜めさせていく。
「くお、ああは、くあ、あ、あ、やめ、やめろ、ああ――」
 ちゅ。
 登りつめる寸前、イザドラの舌が離れる。
「は、っあ、なぜ」
 行き場のない快感に身体を震わせるドゥーベ氏を起こし、イザドラは肘掛椅子に座らせる。
「人が来ますもの。それにあなたやめろとおっしゃったわ」
 事もなげにそう言って、イザドラはドゥーベ氏のゆったりとした長い法服にするりと潜りこんだ。
 それと同時に扉がノックされた。
「ふ、フォルトナートです」
「……入れ」
 法服に阻まれて自身の剥かれた下半身と妻が見えない事を確認すると、ドゥーベ氏は快感に枯れ、上ずった声で許可した。
 入ってきたフォルトナートはやはり怯えながら、沢山の書類を抱えていた。そしてフォルトナートは部屋に入ると辺りをきょろきょろと見回した。きっとドゥーベ氏に甚振られているはずのイザドラの姿を探しているのだろう。さっさと用事を済ませて出て行けというのだ、とドゥーベ氏は苛立つ。
「あの、書類を……」
「そこに……そこに置いておけ」
 ドゥーベ氏は重たい腕を上げ、入口の傍にあるサイドボードを指さす。その時、下からイザドラの身じろぎする音が聞こえてきて、ドゥーベ氏は血相を変えた。
「奥様がいらしている所に持って来るのは、失礼かと思ったのですが、ベルビュ殿に今行け早く行けとせっつかれて……」
 はやく出て行けと言うのに、フォルトナートはこういう時に限って長々と弁解を始める。それがドゥーベ氏が彼にいらつく最たる理由であった。とかく間が悪い。大抵はベルビュ達の愛ある新人苛めのせいなのだが。
「わかった、いいから、も……っくあ!?」
 下半身に奔る甘い痺れに、ドゥーベ氏は喘ぎ、前のめった。法服の下でイザドラがドゥーベ氏の陰茎を撫でさすり、舐め始めたのだ。
「閣下?」
 フォルトナートが窺うように首を傾げた。
「っい、や、なんでもないっ!」
 ドゥーベ氏は机の上で拳を握り、腰が踊らない様に両足に力を入れる。奥歯を噛みしめて淫蕩な声が出ない様に耐えるが、眉が勝手に快感に歪む。茎をごしゅごしゅと乱暴に扱かれ、膨らんだ先端をちろちろと舐められる。自分でも先走りが溢れているのを嫌という程感じてしまう。
「あの、奥様は。そろそろ日も暮れますので、お帰りになられる頃ではと、ベルビュ殿と言っていたのです」
 この、時間泥棒の長広舌が!
 ドゥーベ氏は心の中で悪態をついた。はっきりそう言えば臆病なフォルトナートは踵を返して脱兎のごとく逃げただろうが、口を開こうとした瞬間に陰茎を口に含まれ、機会を逸する。
「っこぁ!? はあっ、ぁ、隣の……隣の、部屋に、いる」
 両足の間にいるなどとは言えず、咄嗟にそう答えるが、すべて言ってしまってからドゥーベ氏は後悔した。
 フォルトナートが一瞬納得したように頷きかけたが、しばし怪訝そうに顎の下に手をやった後、息を呑み、顔色を真っ青にしたり真っ赤にしたりした。隣が仮眠室であると血の巡りの悪い頭ながらに気付いたのだろう。
 仮眠室というのだから、勿論寝台がある。風呂も。寧ろその二つしかない殺風景な部屋と言ってもいい。とすればいくら鈍い彼といえども察しがつくというものだ。
「ああっ! ええっ、そういう……もっ、申し訳ありませんでしたっ!」
 忙しなく虫のようにペコペコと頭を下げ、フォルトナートは躓きながら逃げかえった。

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