Deprecated: Function create_function() is deprecated in /home/e-c-bp/public_html/wp/wp-content/plugins/php-code-widget/execphp.php on line 62    留守番する彼 | 食べて、呪って、変をして、
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留守番する彼

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「本当にお一人で大丈夫?」
 イザドラのしっとりと冷たい手がドゥーベ氏の額を撫でる。だがその慈愛の籠った手は根の深い頭痛を駆逐する事は能わなかった。気圧の変化という自然のなせる御業の前では、人の及ぼせる影響などちっぽけなものだ。
「大丈夫、いい大人なんだから。君こそ気を付けて行ってきなさい」ドゥーベ氏は窓越しに冬晴れの空を見た。「これから天気が崩れる」
「西高東低冬型の低気圧がくるの? こんなに晴れているのに」
 ドゥーベ氏は頭蓋骨を激しく軋ませる気圧の変化とやらに実に敏感だった。
「昼頃には、ああ、多分」
 だから女同士のお出かけはさっさと切り上げて早めに帰って来た方が絶対に本当にすごくいい、と言いかけてドゥーベ氏は口を噤んだ。奥方の交遊に文句をつけているように聞こえては己の人格が疑われるだろう。
 しかしドゥーベ氏としては出かけて欲しくないのも山々なのだ。特に今日のように体調のすぐれない日には。暖炉の前の寝椅子で毛布に包まる惨めな芋虫には、傍らに寒さを遮る慈しみ深い葉がないと心細い。
「なら、わたくし今日は出かけるのをやめようかしら」
 イザドラは帽子を脱ぎ、ドゥーベ氏が身体を預ける寝椅子に腰かけた。
 そうしてもらえるなら嬉しいが、イザドラにも女同士の愉しみというものが多分に必要だろう。何せ妙齢の、箸が転がっただけで手を叩いて笑いそうな年頃なのだ。そうした純粋で無垢で独善的でグロテスクな女の性質まではさすがにドゥーベ氏には共有できない。それを知るのは彼女と同じ女だけ。まあイザドラが女かというと……いや、女だろう。
 だからこそ快く送り出してやりたいのだ。
 それに遊び疲れて帰ってくれば、おそらくイザドラのいうところのお淫らとやらにこちらが疲労させられる事もないだろう。今日は日曜、つまり明日は仕事。絶倫な妻に夜通し付き合わされるのはたまらない。
 なんという名案! 伊達に警察二十年やっていない。ドゥーベ氏は毛布の下でほくそ笑んだ。
「でもまあ、夕方にはまた天候は落ち着くだろう。空模様が優れなければどこか喫茶店ででも時間を潰せばいいんだ。だからゆっくりしてきなさい」
「でもわたくし、あなたが心配なんですの。だから予定は先延ばしにしてもらうわ」
 心底心配そうな表情の妻に帽子をかぶせてやりながらドゥーベ氏は言う。
「いいや、私の事は気にせず行って来なさい。相手のある事なんだから」
 なんて物分かりのいい夫なのだろう。ドゥーベ氏は白々しく心中で自分を褒め称えながら妻を見送った。

 確かにイザドラの夫の予言は当たった。昼前から機嫌を損ねはじめた空は今や冬のぼんやりした太陽を雲で覆い隠し、雪を激しく往来の人々へ叩きつけていた。
「まあ、すごいわ、ブリュノさんたら。おっしゃった事が大当たり。まるで気象予報士みたい」
 その光景をコーヒーの湯気で曇った喫茶店の窓から眺めながら、イザドラは甘ったるいショコラの吐息をこぼして結露の手助けをした。
「この様子では、しばらく馬車は拾えそうにないわね」
 イザドラに相対して座るD……伯爵夫人は温かな紅茶をすすりながら、過ぎゆく馬車を拾えず右往左往する市民に優越感を感じているようだった。
「しばらくこの店で吹雪をしのぎましょう」
 皆考える事は同じようで、次々と頭や肩口を白く染めた男女が喫茶店に飛び込んでくる。そのせいで喫茶店は満席で、いつもならコーヒー片手に面倒くさそうな議論を飛ばす男達もこの悪天候の話題で持ち切りだった。
そこここで相席をもちかける声が上がっていたが、イザドラ達の座る奥まった四人掛けのソファ席は目につきにくく、そうした喧噪からは程遠い場所にあった。一度テーブル付きの給仕に慇懃に相席を依頼されたが、伯爵夫人は年若い給仕にいくらか――といってもそんなに安くない額面の紙幣を――渡してこう言った。
ごめんなさいね、配慮してくださる。だって、女同士の積もる話というのがあるじゃない。
 給仕はその申し出を快く受け入れてくれたようだった。それは握らされた紙の中心に鎮座する哲学者の訳知り顔の力だけでなく、貴婦人の蠱惑的な微笑の力もあったろう。
 まあ、なんて人かしら。イザドラはそんな身勝手な貴婦人に少し閉口する部分もあったが、しかしその有無を言わさぬ威厳には魅力を感じた。
「でも夕方にはまた天気は持ち直すそうです」
 イザドラは口元で構えた純白のカップ越しに伯爵夫人を盗み見た。
 真っ白な肌は暖色の間接照明に真珠のように輝いてイザドラの目を焼く。秀でた額の際に乗った細い眉は計算されつくしたかのように完璧な曲線を描き、その下の男好きしそうに垂れた目は窓の外で風雪から逃げ惑う人々に向けられている。紅茶のような上品な色合いの髪房が絡むほっそりとした首筋を辿って行けば、金糸があしらわれたドレスのデコルテラインによって強調された豊かな胸が息づいている。それはまるで額縁に入った一枚の絵画だった。
 何から何まで完璧ともいえる貴婦人を前にしてしまうと、イザドラは少し気後れしてしまう。見下ろす自分の胸はまるで安普請の家壁のようにまったいらで、フックを取り付けないとバスタオルも外套も引っかからない。
「あらそう。あなたの旦那様は予言者ね」
 窓の外へ流していた銀貨のような瞳がゆったりとイザドラに戻り、好奇心に輝く。
「ええ。もしカッサンドラでなく、彼がトロイの滅亡を予言したならばきっと木馬作戦は失敗していましたわ」
 イザドラはさっと伯爵夫人から目を逸らし、ショコラの深淵を見つめた。頬が熱いのは飲み物のせいだけではあるまい。
「そうでしょうね。彼のいう事を誰も無碍にはしないわ。なんたって天下の警視総監殿だもの」
「昔のまじない師だとか予言者って、彼のような少し憂鬱で勘のいい頭痛持ちだったのじゃないかしら」
 フードを目深にかぶった騎馬警官が激しい風雪に逆らうように目抜き通りを進んでゆく。イザドラは署に帰るのであろう警官をぼうっと見送りながら、ふと家に置き去りにして来た夫の事を想っていた。
頭痛の薬は効いて来たかしら。こっそり温めたワインなんて飲んでいないかしら。お昼は食べたかしら。頭痛に飽かして使用人に意地悪していないかしら。
「ご主人の事、心配?」
 見透かされていたようで、テーブルの向こうにいる人物が首を傾げて困ったように微笑みかけてくる。
「ええ、少し」
 こうした場でその場にいない者の事を考えるのはあまりよろしくないのだろうが、嘘をついても仕方ない。相手はきっとすべて見透かしているだろうから。
「あたくしくらいになったら亭主の事なんて考えもしないのよ。むしろ家に帰りたくないわ。ずっと吹雪いたままならいいのに」
「わたくしもいつかそうなるかしら。それって少し、悲しいわ」そこまで言ってイザドラは相手の気分を害する発言であったと気付いた。「ごめんなさい、悪くおとりにならないで」
「悪くなんて思わないわ。ただ、今は忘れていて欲しいだけよ」
 伯爵夫人はイザドラの隣に腰を下ろし、その耳元で優しく囁いた。低く濡れた声が耳の中を滑り降り、イザドラの細い身体を震わせる。
「あ……」
 イザドラの身体に甘ったるい寒気が走り頬をふわりと染める。
「折角二人でいるのだもの」
 伯爵夫人の肉感的な唇がイザドラに迫り、お互いのそれが軽く触れあう。一瞬の浅い口付けは壁を打ち崩すのには十分な威力で、次にイザドラに降りかかった接吻は紅茶の味がした。
「いけないわ、こんなのって」
 伯爵夫人の腕の中でイザドラは小さくなって首を横に振る。
「どうしていけないの」
「浮気だわ」
「女同士は浮気ではないわ」
「うそよ、そんな……」
「でもあなた、悦んでいるわ」
 白い手がドレスの上からイザドラの肉棒をさする。昂りやすい若者の性器は成熟した接吻で欲望を孕まされ、撫でさすられる程にその存在感を増し、誇るように立ち上がってくる。
「あなた、男の子なの? ひどいわ、あたくし騙された。女の子だと思ってこんなによくしてあげていたのに……」
 わざとらしく呆れた声を出す伯爵夫人にすがりつき、イザドラは否定する。
「ん、ち、ちがう、ちがうわ。だますつもりなんて、ないの、ほんとうよ」
 瞳にはいっぱいに涙が溜まり、今にも溢れそうだ。イザドラは伯爵夫人に嫌われたくなかった。彼女はイザドラにとって大事な……。
「きらいにならないで、わたくしおんなだから……!」
「そうみたいね」
 伯爵夫人の白魚の指がイザドラの肉棒の奥へ滑り、布越しに彼女の秘められた少女の部分を擦る。
「ひあ、あ、あふ」
 イザドラの下腹部にずん、と重たい快感が響き染みる。腹の奥が熱くもどかしい。いつもの男の昂ぶりとは違う。
「ちゃんと女の子の場所もあるんじゃないの。ならこっちで気持ちよくしてあげる」
 伯爵夫人の手が背側からイザドラのドレスの中へと侵入する。おかげでぱっと見にはドレスの中を暴かれているようには見えない。
「あ、あ、こんなのいや、わたくしたち、お友達でしょう」
 内腿をきゅっと閉め、伯爵夫人の手を秘所から締め出すイザドラ。だが「お友達だからよくしてあげるの。さあ、ちゃんと脚を広げて」そうぴしゃりと命令されると言う事を聞かざるを得ないような気になってしまう。「でないとあたくし、あなたの事嫌いになるわ」
「ん、いや、やあよ、きらわないで、言う通りにします」
 イザドラはドレスの下で大きく脚を広げた。
「いい子」
 冷たい手がイザドラの秘部にかかり、人差し指と薬指がぴたりと閉じ合わさった柔らかな媚肉を開いた。
「はぁ……っん」
 とうとうイザドラの目から涙が零れ落ちる。ドレスの中とはいえ、外気に触れた事のない場所を暴かれたのだ。
「や、ぁ、そこ……っ、あ、あ、ブリュノさんにも、触ってもらったこと、ないのに……ぃ」
「ではあたくしが初めて? うれしいわ」
 伯爵夫人はイザドラの頬を伝う涙を唇ですくいながら言う。
「教えてあげる、女の子の気持ちいい事」
 くちゅ、と伯爵夫人の中指の先がイザドラの初々しい場所に埋まる。

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