このめでたい門出の日に - 3/5

 顔から唇から胸元から、そして大事な婚礼衣装から、べっとりと大量の種汁が付着している。種汁は白いが、しかし王女の肌の高貴な白さに比べるとそれは穢れた白さだった。生まれも育ちも死肉の蛆のような白さだ。その上臭いも酷い。
 王女の滑らかな喉が嚥下にこくりと微かに動いた。
「飲んではいけません、ああ! 私はなんという事を!」
「駄目なのですか」王女は精液にまみれた唇の周りを小さな舌でなぞる。「どうして」そして形よく膨らんだ胸の上に溜まった精液を手で掬い、口元へ運ぶ。
「いけません、そんな汚いものを」
 騎士長は王女の隣に座り、その手を押さえつけた。
「汚いとお思いになるのなら、綺麗にして」
 そして王女は騎士長に押さえつけられている自分の手に顔を近づけ、ちゅ、と種汁の付着した指を吸った。
 その仕草の扇情的な事といったら。いつもの王女とは思えない。
 騎士長は王女を抱きとめ、身体の種汁という種汁を舐め取ってゆく。
 まずは果実のような唇を舌でなぞる。柔らかなそれが傷つかないように優しく。そして垂れ落ちる精液を追って小ぶりな顎や首筋に顔を埋める。そして鎖骨や胸元に溜まったもの。胸元を縁取るレースやペンダントトップまで咥えてきれいにする。白くほっそりした手の汚れを舐め取る事も忘れない。一本一本丁寧に。最後は唇の中。歯列や舌からしっかりと穢れの跡を拭い去る。それが深い接吻になっているとも気づかずに。
 自分の精液は嫌悪の味しかしなかったが、とにかく王女を清浄したい一心であった。
「舌で綺麗にしてくださるなんて、騎士長殿、いつものあなたとは思えません。胸や口の中まで、するんですもの。ケンタウロスの舌って、器用なのですね」
 そう言う王女の表情は蕩けて、嫌ではなさそうだった。それどころか、次の行為を待ち受けているようにも見える。
 このまま流れと勢いに任せて王女と愛し合いたかった。肉の悦びを交えたかった。
 だが、もし自分の完全にいきりたった怒張を王女の中に欲望のままにつき入れたのなら、おそらく彼女は耐えられずに死んでしまうだろう。肉の交わりという想いを遂げる事は、どうなっても二人の間では不可能なのだ。
「姫君、姫君、もうこれ以上は……」
「続きをしてもいいでしょう」
 王女は可愛らしく首を傾げて騎士長に問う。
「お願いよ。全部わたくしがします。あなたは何も心配なさる事ないの」
「いけません」
 王女は悍馬――のような、ではなく本当に悍馬――の前脚を撫でる。するとびっしりと詰まって固く密接に絡まりあった筋肉の繊維がリボンのようにするりと解け、前脚の力が抜ける。騎士長は再び地に崩折れた。
 王女が騎士長の後ろに回る。何をするつもりかは知らないが、おそらく一線を超えるつもりなのは確かだろう。
「い、いけません姫君!」
「本当に駄目ならは、あなたなら力づくでお止めになるはずです。そうなさらないという事は、そういう事なのでしょう」
 これ以上間違いを犯しては、嫁入り前の王女の名誉を汚すと騎士長はようやっと腰を上げようとした。だが、しかし――
「あっ、きひぃ、んあああッ!?」
 下半身に鈍い衝撃が奔り、騎士長の屈強な軍馬の前脚が折れる。しかし後ろ脚はぴいんと突っ張って地を踏みしめる。
 王女の手が騎士長の尾の上を叩く。
「はひっ、くぉっ、おっ」
 叩かれる度に臀が跳ね上がり、笑窪が浮かばんばかりに力む。その反対に馬体の前部と上半身の力は削がれてゆく。
「くう、うう」
 騎士長は未知の感覚に上半身を地に倒し、土を掻く。自慰の度に使い込んだ乳首が鎧下の麻布と擦れて痛いほどに感じてしまう。
「おしりを叩かれて腰を上げるなんて、あなた猫のようですね。ケンタウロスは皆そうなのですか?」
 とんとんとん、と王女の拳が騎士長の尾の上を叩き続ける。
「ちがっ、なんっ、なんで、あ゛あっ、おかし、こんな事おぉっほぉおんッ」
 叩かれるリズムに合わせて尻尾は意志とは関係なく踊る。そしてまた肉棒がばきばきと硬く鋭く立ち上がってくる。
「フー、んふ、ふー」
 騎士長ができることといったら、荒い息を吐くことのみ。
「騎士長殿、あなたのそのようなお姿を見ていると、わたくし欲情してしまいます」
 騎士長の後ろ脚に何やら硬いものが当たる。側頭部を地につけたまま出来る限り後ろの方へ頭を巡らせると婚礼衣装を捲りあげた王女の姿が目に入った。王女は下腹部を騎士長の脚に擦り付けている。その股間には目を疑う物があった。
「んなっ……なんです、それは!」
 知識に関しては並み以下だが、騎士長の知りうる限りの知識の中にさえそれはあった。それはあれ以外の何物でもなかった。なんです、と言ったのは少しばかりの希望も込めてだ。どうか自分の知るあれではありませんようにという。
「男性器です」と、こともなげに王女。
 やっぱりか、と騎士長はえも言われぬ気持ちに陥る。
「しかし……しかしなぜ男性器が」
 胸の膨らみも、腰のくびれも、声色も、優しげな面差しも、すべて女性的だというのに。
「まあ、あなたご存知なかったんですの、騎士長殿。てっきり知っていらっしゃるとばかり……」ここにきてやっと王女はいつものような恥じらいをみせた。「あ、どうしましょう」
 唇に手を当てたまま、王女はしばし俯き、また顔を上げた。
「どうしようもこうしようも、もうこうなっては考えても詮無い事でした。わたくし半陰陽ですの。つまり両方の性の性器があります。けれどご覧の通り見た目はどちらかというと女性寄りですし、好きなのはあなたのような男性です。でも使いたいのは男性器なの。難儀なことだわ。でも丁度よかった、あなたとは肉体の欲望を交わしたいと思っていましたから。あなたのはどう考えてもわたくしには入らないし、なら、わたくしが入れた方がいいです。名案だわ」
「は」
 王女の立て板に水の喋りに騎士長の身体も頭も呆けたままだ。緊張すると喋りすぎる、これが騎士長のもっともよく知る王女の悪い癖だった。
 腰を覆う紋章布が払われ、軍馬の尻に王女の手がかかる。
「何をなさるおつもりです」
「思いを遂げるつもりです」
「つまり、貴女様のお話を総合しますと、私の尻に、その、それを」
「男性器」
「うっ、そうです、それを入れたいと、そういう事で」
「ええ」
 当たり前でしょう、という王女の顔に騎士長は並々ならぬ決意を見て取った。
「汚いから、お止めになられたほうがいい。肛門から何が出てくるか知らないわけではありませんでしょうに」
「では、綺麗にするならよろしいのね」
「いや、綺麗になど」なるわけがない、という言葉は汚らしい悲鳴に取って代わった。「んっお゛!?」
 尻穴が鋭い水流に貫かれた。王女の放った水の魔法だった。
「ご心配なさらないで、すぐ綺麗になります」
「あ……ッ、はひ、ひいぃ、やめっ、尻が、壊れぉうっ、がほおっ、あお゛、ん゛ん゛ーッ」
 老廃物を排泄する場所を逆流してくる冷たいものに騎士長は臀を震わせる。水流は絶妙な動きで肉襞に付着した汚れをこそぎ落とし、腹の底へと溜まってゆく。
 実に不愉快な感覚で、それに無様な反応を示してしまう。しかしそんな姿を王女に見られていると思うと、背筋が惨めな愉悦に泡立つ。
「辛いでしょうけれど、もう終わりますわ」いつの間にか魔法は止んでいて「後は、お水を出すだけ」後は騎士長の排泄を待つのみだ。
「く……フゥ、う゛」
 冷たい水を無理に詰め込まれたことで騎士長のはらわたが不穏に痛み、脂汗が額に滲む。常ならば強い意志を感じさせる眉は弱々しく顰められ、唇はわなわなと震えていた。
 ひどい苦痛ではあったが、しかし騎士長は必死に尻穴を締め付け耐える。決めた場所以外での道理に反した排出は誰だって抑え込んでしまうものだ。ここで悦んで守りを突き崩すほど墜ちきってはいない。
 排泄の憂き目に遭うのであれば、せめて王女の視線の支配下から逃れようと、騎士長はよろよろと木陰に向かうが「はやく出さないと、辛いままですよ」しかし無情にも王女はそんな彼に鞭打った。つまり、尾の上を再び軽く拳で小突いたのだ。
 ぶるり、と震える騎士長。
「はぁっ、っひ……!?」
 尻穴から滴った水が自身の内股をなぞる感覚に騎士長は絶望の声を上げる。もうそうなっては押し留めることは能わず、決壊の運命は免れない。
 憐れ騎士長の努力は無に帰した。
「がああっ、あ゛、ン゛ン゛ッ」
 騎士長は臀を掲げ、脱肛しながら水を噴き出した。それには種汁を放出するのとはまた違った開放の心地よさがあった。冷たい水が肉粘膜を荒らすのだ。
「あっ、ああーっ、姫君ぃッ、み、見ないでくだっ、あ゛ふっ、こん゛な゛、姿ぁ、おんン゛っ」
 全開なのは肛門だけでなく、涙も鼻水も、涎も垂れ流しだった。そして股間で狂乱する肉棒からは種汁も。
 王女もそんな騎士長の姿をとくと鑑賞しながら自身の生殖器を弄っていた。
「はあ、ああ、なんていやらしいの。いつも澄ましていらっしゃる騎士長殿のこんな姿が見られるなんて」
「くぁああっ、んおおっ、んほっ、ふほ、お゛――」
 ダメ押しのようにびゅくびゅくと最後の一滴まで汚れた水を撒き散らすと、騎士長は後ろ脚の膝を地に落とし、臀を突き出したままぐったりと地に伏した。そして緩やかな放尿。
 水の勢いが治まると、脱肛していた騎士長の肛門は何事もなかったかのように元に戻る。脱糞に際して尻が汚れないための仕組みだった。
「これで綺麗になりました。だから、いいですね」
「や゛、へお゛お゛……っん゛ぇ、ふー、っ」
 騎士長は否定の言葉を投げかけたつもりであったが、それは言葉にはなっていなかった。
 騎士長の尻に王女の指がかかり、割り開かれる。そしてその穴も同様に。
 王女の指が穴の入口をなぞる。騎士長の穴は未知の感触にぴくぴくと震え、実に初々しかった。
「ふんんっ!?」
 王女の指が穴に埋まる。騎士長の下半身がびりびりと痺れる。最初は痛みだと思ったが、そうではないようだ。
 王女の指が中を探り、蠢く。いつの間にか指は二本に増え、リズミカルに肉粘膜を擦る。