信頼と栄光 - 3/6

 強引な快感に引きずられ、口の動きが疎かになっていたセジェルを娘は叱咤する。
「あらお口がお留守よ。あなたはわたしを射精させないとだめなんだから。それにどうせ出ないわよ、あなた髪留めがささったままだもの」
 セジェルはあまりの強引な快感に涙を流しながら一心に奉仕を続ける。脈打つ筋を慰めるように舌で舐め上げ、笠を喉奥で締め上げる。塩辛い先走りを一滴も無駄にせずちゅぶちゅぶと吸い、ごくりと嚥下した瞬間だった。
「それいいっ」
 嚥下に狭まった口腔と喉の感触が善かったのだろう。娘はセジェルから足を退き、彼の後頭部を抱くと腰をばちゅっと喉奥に突き上げた。
「ぐご、ごぶっ……!?」
 それはお馴染みの射精の合図だった。
「んんっ、全部飲んでっ!」
 セジェルの喉に娘の粘っこい白濁が勢いよく注がれる。
「ふ、んお、おご」
 飲み干せないほどの精液を直接、しかも大量に喉の奥に注ぎ込まれる。その息苦しさはまるで水責めで、脳髄が痺れてぼんやりと思考が霞む。
 そして粘度の高い精液はセジェルの喉をすんなりと通り抜ける事はなく、ねっとりと厭らしく絡みついてなかなか離れない。まるで本人の偏執的な性行為そのもの。
「ふ、んふー、ふ、ふ……っ」
 やっとすべての精が喉奥に突っ込まれた所でセジェルの呼吸が許される。
 暫くすると娘の怒張がずるりと抜かれ、セジェルの肉厚な唇との間に唾液と先走りの糸が引く。
「口開けて」
 怒張をずるりと引き抜くや、娘はセジェルの顎に親指を当てて唇を開かせた。セジェルはされるがままに唇を大きく開く。
 セジェルの口内の粘膜、整った歯列、疲労に突き出された舌、そして震える咽頭に白い精液の残滓が絡みついている。
 セジェルは生肉を前にしたジャッカルのように、はっはっ、と興奮の息を吐く。厳つい腹筋は荒い呼吸にうねる。
「ふう、えらいわねえ。全部飲めるようになったのね。前は気持ちが悪いって吐きだしてたでしょ。今は大好物になった? わたしの生臭いお汁が」
「う、るさい……」
 主人の白々しい称賛に奴隷は顔を背けた。
「お前ぇっ、他に褒めるべき所は、ないのか……っ!」
 セジェルは息を上げながら娘を詰った。
「それどういう事。ああ、わかったわ、あなた褒めて欲しいのね、さっき……」
 娘は目を輝かせて唇を軽薄な笑みの形に吊り上げた。
「うるさいぃっ、黙れぇっ!」
 セジェルは顔を一層紅潮させた。
「うるさいのはあなたよ。さっきから善がり息を吐いちゃって」
「は、吐いてない!」
「それに自分で扱いちゃって」
「ん、んんんっ!?」
 セジェルが自身の股間に目をやると、己の手が勝手に肉棒を手荒に扱きまくっていた。
「う、うそだ……!?」
「そんなに善くなりたいなら、髪飾り外したらいいのに。そうしないなんてあなたどう考えても被虐趣味者よ」
 セジェルは激しく頭を振る。
「あ、あああッ、違う、俺はぁあっ」
 けれど手は止まらない。
「違わないでしょ。自己評価の不一致ね。そんなんじゃそのうち頭おかしくなるわよ」
「ひいっ、ああ、死ぬっ、死んじまう、あぎいっ」
 娘の誹りと腰に溜まる快感に、セジェルは男泣きしながら床に跪まる。
「ほらあ、いつもみたいにわたしに頼めばいいのよ」
 娘の意地悪な声がセジェルの背に降り注ぐ。だがセジェルは身体中を支配する痛いほどの快感に、肉棒を扱く以外出来ない。
 娘は思案げに自身の顎に指を当てた。
「うーん、でも、今日は初めての闘技大会だったのだもの。あまり虐めるのは人道にもとるわね」
 何を今さら、人道なんて冗談だろう。という話ではあるが、娘は至って真面目なのだった。
 娘はセジェルの前に座ると、肩を押し上げて上体を起こしてやり、その股間に手を差し入れた。左手で射精寸前で止められ、卑猥に膨張した竿を逃げないように支え、右手でかんざしの花飾りを摘む。そしてそれをゆっくりと引きぬいてゆく。
「ほおおおぉ、んああああぁ」
 セジェルの上体が仰け反り、胸が張る。まるで尾てい骨や骨盤まで持っていかれそうになる快感だった。
 やっと射精できるという期待にセジェルの顔が緩む。
 遂情して余裕が戻ったならば、こんな女寝台に突き飛ばして自分を舐めきったその態度を改めさせてやる、とセジェルはひとかけら残った理性で復讐を企む。
 しかし、もう少しですべて抜け落ちる、という所でかんざしがまた一時に奥まで突っ込まれた。
 ぎちゅっ!
「おっ……ぬおあああああああぁぁっ!?」
 どっぷ、とかんざしと先端の隙間から、先走りと精液の入り混じった半透明の汚液が迸る。
 それを凌辱の始まりの切欠として、まるで女の膣を肉棒で滅茶苦茶に犯すかのようにかんざしを抜き差しされる。
「んぎ、ぐぎゃああ、あぎいい、んおおおおおッ!!!」
 痛みも過ぎると快感に変わる。そういう身体になってしまったのだ。
 冷たい銀のかんざしはセジェルの尿道に痺れる快楽を擦りこんでいく。
「あああああ! も、やめろおおっ!」
 セジェルの哀願など聞かず、娘はその快感に悶える彼を甚振るために抜き差しを続ける。
「やめろじゃないでしょ」
「っあ、ああ……うあ、あ、や、めてください……」
 セジェルは拳を握り締め、弱々しく言った。
「出したい時はどうやって頼むのだった?」
「お……お願い、します、もう、逝きそうだ……」
 セジェルは腰を浮かせて娘に縋りつく。屈強な男が華奢な娘に泣きながら縋るというのはかなり滑稽であるのだが、セジェルとしては切羽詰まって切実なのだ。
「いきそうだから、なに」
 構わずじゅぽじゅぽと中をかき混ぜられ、セジェルは悲鳴を上げた。
「イかせて下さいいいぃっ!」
 人としての尊厳や栄誉将軍としての威厳などもうそこには存在せず、ただ自身の欲望に忠実な叫びを上げる。
「いいわよ」
 娘は存外優しく笑うと、セジェルに浅く口づけした後かんざしを引き抜いた。
「んんんっ!?」
 セジェルは腰を跳ね上げ、ぽっかりと口を開いた鈴口から自身の精液を噴出させた。
「んお、おおおおおおぉっ!!」
 勢いよく精液を撒き散らす反動で踊り狂う怒張を娘に捕らえられ、射精しながら激しく扱かれる。腰を持っていかれそうな程の激しい絶頂に、涙も洟も涎も垂らしながらセジェルは善がった。
 濃厚でねとつく精液を二度三度と噴き上げ、セジェルは床に座ったまま、長椅子にぐったりと背を凭せかけた。
 眉根を寄せ、軽く痙攣しながら荒い息を吐く。精液に塗れた赤銅色の筋肉が吐息に蠢動し、まるで肉体の妙を誇示しているようでもある。
「すっごくやらしい」
 細い指が筋肉の溝をなぞり、垂れ落ちる雄臭い精液を震える筋肉に塗りこめる。
「ふーっ、んん、ふぉ……」
 セジェルは眉根を寄せ、目を閉じてされるがまま。全身の力が抜け、そのまま床に溶けて倒れ伏してしまいそうだった。しかしその達したばかりの睾丸に娘の指が絡みつき、軽く握られると、また全身の筋肉が張りつめ、弓なりに背筋が反る。
「おぉっ、ふ」
 溜まっていた最後の残滓を吐き出し、セジェルは今度こそぐったりと床に倒れ伏した。
 火照った身体に床の冷たさが心地よく、このまま眠ってしまいそうだった。
「眠るならベッドで眠ったら。わたし今日はもうあなたに手出ししないから」
 セジェルを見下ろし、娘が投げかける。しかしセジェルは死んだようにぐったりとして動かない。
「あらそんなに手酷く扱ったつもりはないんだけど」
 セジェルの横に娘がしゃがみ込んでその肩に手を置いた瞬間だった。
 バネ仕掛けのように起きあがったセジェルは伸ばされた細い腕を鷲掴み、自身に引き寄せる。そのまま娘の両腕を片手で後ろ手に拘束し、遥か高みから睨みつけた。
「俺がこれからどうするか、わかるな」
「なんだ、元気じゃない。心配したのよ」
 剣呑なまなざしを向けられても、セジェルを見上げる娘はやはり鷹揚だった。
「俺は質問してるんだが」
「わからないわ」
 セジェルは自身の背後にあるテーブルの上の花飾りを撓る腕でたたき落とした。
「怒っちゃった? 怒ろうが笑おうがどちらでもいいけれど、あんまり煩くすると人が来るのよ」
 鋭い視線と花瓶が床と激突する音に怯えもせず、娘は場違いな声色でセジェルに問う。
「それともあなた、わたしを恫喝してるの」
 娘は凄味のある笑顔をセジェルに向けた。
「黙れ!」
 夜の淀んだ空気を震わせるような一喝。
 そしてセジェルは娘を抱きとめたまま重心を後ろに傾け、テーブルに仰臥した。
 筋骨隆々だが野生の動物のようにしなやかな身体の上に腹ばいになっている娘が眉を顰めた。
「あなた大丈夫? そこはベッドじゃないのよ。エジプトではどうだか知らないけれど」
「俺を愚弄するな」
 セジェルは娘の腕を掴んだ手を自身の身体に導き、分厚い胸板に置く。筋肉質で丸太のような脚は娘の腰を抱え込むように開かれ、その滑らかな脇腹を撫でる。
 小さな手が添えられた左胸の上、鎖骨の下辺りにはまだ新しい矢創があった。それを見るだにセジェルの中に甘美な屈辱がわき上がる。
 それは娘に奴隷として買われたその足で、初めてこの邸宅に来た折につけられた傷だった。セジェルがたかが女と甘く見ていたその娘は、隙をついて逃げだした彼を二階のバルコニーから冷静に狙って弓矢で庭木に縫いとめたのだ。
 驚き見上げるセジェルの目には、その娘がまるで……。
 甘美な敗北をその時セジェルは初めて知った。
 手負いの獣は狩人に捕らえられ、徹底的な調教の末に肉欲の虜にさせられたのだ。
「もう跡が消えてしまいそう。体力があると違うわ」
 娘がセジェルの傷跡を撫でる。
「本当に運がよかった、弓を射たのはあの時が初めてだったのよ。天はわたしを見離さないの。あれは天が与えたあなたを逃がすなという啓示だったんだわ」
 そう言って悪戯っぽく笑う娘の右手には小さなマメがあった。