城主の帰還 - 5/7

 バランタンは完全に雌にされてしまっていた。堕とされてしまったのだ。
「おあぁ、んあ、おおっ」
 支配の楔がバランタンの媚肉を巻き込みながら徐々に打ち込まれていく。
「ああ、熟れて熱い。随分わたくしに慣れて、善い身体に成れて来ましたのね。とってもうれしいわ」
 太いそれにみぢみぢと穴を広げられ、無理矢理満たされていく。いくらクロードが悦んでいようとも、バランタンには苦痛であった。
「ふ、うう、あ゛ッ」
 その大きさに抗議する余裕などバランタンにはもうなく、勇んで尻たぶを掴んで広げていた手は、今や羽枕を抱え込む事しかできなかった。冷たかった枕は、バランタンの身体の熱を溜め込んで燃えるように熱くなっていた。
「はおぉんっ!?」
 クロードの楔がバランタンの性器の裏側に引っかかり、大きな身体が弓なりに反った。完全に出来上がっていた性器が、腹にべち、と当たり先走りを垂らした。
「はひぃっ、も、だめ、だ、はいらな……い」
 これ以上支配されれば、もう戻ってこられないのではないか、という恐怖がふと過る。
「では、もうやめましょうか」
「ああ、ああ……」
 バランタンは首を縦に振った。
 クロードの楔が引き抜かれていくや、唐突に現れる喪失感。
「あ、いや、違う、駄目だそうじゃない、私は」
 クロードを失いたくなかった。
「どうしたらいいんです」
 バランタンは厭らしく腰を前後に振って続きを強請った。
 もう戻れない所まで来ていると知ったのだ。
「奥まで入れていい、だから私を」
 周りの者は、慈悲深い妻が、残忍で冷酷な夫を健気にも深く愛しているという。だが実際は。
「私を愛してくれ」
「はい旦那さま。青髭の、残忍で冷酷な公爵さま」
 バランタンの尻たぶがクロードによってめいっぱい開かれ、そしてその細い腰のどこにそんな力があるのかという勢いでそれを叩きつけられた。
 ばちゅっ!
「おぎゅっ、ごぎゅううっ!?」
 舌を突き出し、バランタンが呻吟する。唾液の塊が舌を伝い、枕を濡らした。
 クロードの怒張はバランタンの善い場所を越え、入り得る最も奥まで打ち込まれていた。
 敏感な内壁はクロードの到来を悦び、締め付けて歓待した。
「ああ、きもちいいわ、あなたの熱を、悦びを感じるの」
「ん、ふー、ふほっ、くほ……」
 バランタンは全身の筋肉を張りつめさせながら、許容量を超えた快感を逃がそうと息を吐く。
 そんな苦労を知ってか知らずか、多分知っていて、ぐっとクロードが腰を入れた。
「っあ、待ってくれ、もう少し……」
「だあめ」
 クロードは小さく笑うと、腰を短兵急に動かし始めた。
「こうされるのがお好きなのでしょ。無理矢理されるのがお好きだから、厭だ厭だとおっしゃるのでしょ」
「ほおっ!? はおぉっ! くひぃっ、おごおっ、んおおお!!」
 抜け落ちるぎりぎりまで引かれては、また奥まで突っ込まれるという肉杭の暴虐に、バランタンは狂わされた。
 一度の突きで、いい場所を先端の、くびれの、竿の三カ所で素早く擦られる。その度に先走りがびゅくびゅくと漏れ、怒張が跳ねる。勿論引き抜かれる時も。
 もうバランタンは後ろの快感だけで射精できる身体になってしまったのだ。そういう風にしっかりと身体に躾けられたせいで。
「お願いだ、愛しているとっ、言って、くれっ」
 激しい責めの中で、バランタンは泣きながら頼んだ。
「んっ、ふう、ええ?」
「クロード! クロードおぉ! 愛していると、頼む……お願い、します……」
 クロードが荒い息を吐くだけで、一向に望みを叶えてくれないと知るや、それは哀願へと変わった。
 すると、はたと責めが止まり、背にクロードの冷たい熱が伝わった。
「あいしています」
 そして、背に沿わされた唇から漏れる幽かな囁き。
 それは古傷を伝って皮膚を切り裂くように震わせ、身体中に反響した。まるで楽器だ。
「んごおっ!?」
 バランタンは豚のように汚く鳴いた。
 愛を囁かれた瞬間、自身の内部が狭まり、クロードをよりしっかりと感じてしまったせいだった。
「うれしかったのですね。中がすごく締まりましたのよ」
「でもっ、あっ、ああっ、足りない、足りないからっ、もっと辱めてくれ、頼むううぅ!」
 動きを止めたクロードに、でっぷりした尻を揺さぶり、自分で怒張を出し入れしながらバランタンは懇願する。
「これでもだめなんですの。あなたはわたくしの何が物足りないのです。何がほしいのです」
 かつて自身が投げかけた言葉を返された。
「足りないのは、私の、私の君への愛の証明だ。だからもっと君の好きにしていい、壊れるまで、狂い果てるまで、犯してくれ」
「どうして愛を証明しようとそんなに躍起になられるの」
 淡々とした声色がいやましにバランタンを必死にさせた。
「君が、君が私の愛を信じずに去ってしまうのが怖いっ。私を置いて、かつての妻達のように、消えてしまったら、私はっ」
 固く目を瞑り、自分で腰を振りながら一心に吐露する。
「いなくなんてなりません。もう分かっていらっしゃると思っていました」
「何もわからないんだ、私は、何も……君の事をっ」
 バランタンの背中でクロードが笑った。
「ここまで言っても、わたくしが離れていくのが怖いのなら、そうね、もう一緒に重犯罪にでも手を染めるしかないのだわ。ボニーとクライドのように、マリーとゴーダンのように、あるいは……スウィーニートッドとラヴェット夫人のように。そうして共犯者として絆を深めるしかないわ」
「そんな、そんなっ、嗚呼……」
 妻が優しく見えるのは、相手に興味がないからだ。妻が慈悲深く見えるのは、道徳心がないからだ。バランタンはよく知っていた。平時には認めないだけで。努めて忘れるようにしているだけで。
 そして、自分が一生クロードに愛される事がないと決めつけ、はたはたと落涙した。腰を動かす力はもう消え去り、ただ脈打つ内壁がクロードの愛を得たいとそれを締め上げるのみ。
「あいしています」
 クロードは突き上げを再開し、しかし息を上げることなく囁いた。
「うそだっ、あっ、ああっ、クロードっ、あ」
「信じてほしいの。あいしています。信じて、愛には信仰が必要だから」
 ぶちゅ、ぶちゅ、という放蕩に耽る音が部屋に響く。
 内壁にクロードの粘液と自身の唾液を擦り込まれ、脊髄に快感が溜まってゆく。
 広げられ、捏ねまわされ、叩きつけられ、滅茶苦茶にされる。まるで敵襲に陥落し、野蛮な略奪の限りを尽くされる城塞都市のように。
「いいっ、しんじる、しんじるからっ、んぐっ、おおっ」
 遠慮なしに中を抉られ、肉の襞一つ一つを広げられ、覚えこまされた肉の味を享受させられる。決して反逆を起こす気になどならないように。
「いぐっ、あ、いいい゛、いくッ」
 バランタンは絶頂の予感に咆哮した。
 下半身は悦楽に痺れ、終わりへ昇り詰めていく。
 ばちゅ、ばちゅ、ばちゅっ! ぶちゅん!
 最後に芯の通った楔をごりごりと深く打ち込まれ、バランタンはとうとう達した。
「んぶぉ、んぐう、っぎ――!」
 びちびちっ! びゅくっ!
 媚肉でクロードを締め上げながら、弾けるように精を噴き上げる。反り返っていた怒張から放たれたそれは、バランタンの腹や胸を汚した。
 枕に噛みつきながら絶頂に背を反らしたせいで、凄惨な狩猟現場のように羽毛が辺り一面に散乱する。
 倒れ込んだ彼の眉は顰められ、腹筋がひくつき、快感の凄さを物語っていた。
「はっ、はっ、ふは、っほおぉ……んんん」
 しつこくちょろちょろと吐精しながらも、バランタンは全身で荒い息を吐き、行為の疲労に悶えた。目を緩く閉じ、口をだらしなく開き、殆ど理性は残っていなかった。
 一方、未だ達していないクロードは、ずるりとバランタンの中から固く太い怒張を引き抜いた。ひくつく淫乱な穴とそれの間に、先走りの糸が引く。
「んあぁ……」
 その動きは性急な物ではなく、寧ろ気遣うようなそれであったが、排出されるその感触に、感じやすい身体を持て余したバランタンは喘いだ。
 クロードは決してバランタンの中に精を放出する事はなく、いつも傷だらけの背に出していた。今回もそうするために怒張を引き抜いたのだ。
 それに気づいたバランタンは、肉欲に塗れてぼやける身体を残る力で無理矢理起こし、首を傾げているクロードを組み敷いた。
 バランタンは、これが本来あるべき形なのではないだろうか、などと考えながら、堅牢な城壁のような身体の陰になっている白亜の宮殿のような華奢な身体を見下ろした。
「あら、お元気ですのね。でもわたくし、言ったでしょう、痛いのはやあよ」
 かつてクロードの女の部分を使おうとした時の事を言っているのだろう。それは結局クロードが真っ青な顔で痛がったために、指さえ入れずに終わったのだが。
 しかしそうは言っても、物理的な力では絶対に敵わないのがクロードである。バランタンがその気になれば、逆の務めを果たさなければならなくなるだろう。
 その気になれば。