戦友と報酬 - 6/6

 娘の野太い肉棒によって内側から射精を促されるが、セジェルは唇を噛みしめて堪えんとする。だが暴走しかかる快感に己の重たい腰を支えきれずに娘の上にしかと座り込み、自重のせいでより深く、招かれざる客を受け入れてしまう。
肉壺の奥の奥、肉の関門が怒張の先端に磨り潰される。
「あ゛ッ、ひぃっ、ぐ、んおおおぉっ」
「ああー、うっそ、まだ奥入るんだ、うわ、今まで手抜きしてたってわけ! さいてー!」
 娘に罵倒されながら奥津城を踏み躙られ、セジェルはとうとう堪えていたものを吐き出した。
 そうして腰を動かす体力どころか、なけなしの気力まで砕かれ、セジェルはぐったりと娘の上に倒れこんだ。
「ん、もう、威勢よく始めた割にはこうなんだから。奥突かれただけで軟弱になる」セジェルの下から這い出した娘は長々と嘆息した。「わたしが終わるまでしてくれるんでしょう、ちゃんと有言実行してよ。そんなんじゃ部下に示しがつかないわよ」
「貴様、もう吐精したろう」
 弱弱しい声でセジェルは抗議する。たとえそれが全力を尽くした抗議であっても主の前ではなんの意味も成さないが。
「察しも運も悪いわね、まだ満足には程遠いってことよ」
セジェルの背に迫る娘の声は彼の体中の皮膚を撫でつけた。

 娘の腰が容赦なく将軍の尻を叩く。
「ふーう、いい運動になるわ」
 娘の荒熱はあらかた鎮まり、その行為は欲を吐き出すためではなく組み敷いた男を責め苛むためのものへと変容していた。
「おっ、おぅっ、んぉっ、ああぁー……っ」
 勿論泣き声混じりの情けない善がり声をあげて犯されているのはセジェルだ。今や彼の理性は粉微塵で、床に無様に這いつくばり、快感を甘受するために腰だけを高く捧げ上げていた。何度も肉関門にめり込ませて放たれる白濁の奔流に弱い粘膜を荒らされ、放漫に幾度も、回数など数えられないほどに気を奪われ、もはや泣きながら嬌声を上げるしかないのだ。
「はおっ……おんっ……ッ」
 尻の中へ巨根を押しこまれる度に、押し出されるように舌が垂れ、先端から粘度の高い唾液が滴る。
「きもちいい。何回でもできちゃう」
 雌扱いされている将軍の腰は妙に艶めかしく蠢き、娘の欲を搾り取るどころか、寧ろ気勢を高めてしまっていた。欲深い粘膜は飽食というものを知らず、常に娘に強請るように絡みついていた。
「んあっ……は」
 再び情けない声をあげて将軍の肉棒から精汁が飛び散る。薄くなりつつあったが、勢いは削がれず失禁のように床を叩く。絡みつき離すまいとする肉環を力任せに擦りぬかれる乱暴な快感のせいだ。
「量多いね。床でも妊娠させるつもり」娘は組み敷く男を嘲笑した。「そういうわたしが将軍を妊娠させちゃうかもね」
 過ぎたる肉悦に茫洋としていた将軍の瞳が揺れ、拡散していた瞳孔が針の先ほどに収縮する。
 悪い想像が肉を支配する。敵国の者の手に落ち奴隷として慰み者にされたばかりか、その上――
「そんな……そんなわけがっ……!」
 有り得んぞ!
 とはいえしかと腹の奥に感じる娘の強烈な陽根と渦巻く種汁を思えば、脳裏に鮮烈にその可能性が焼き付く。非力な女にいいようにされて、凌辱され、孕まされる。嫌悪するほどに身体はそれを求める。
 隷属の悦びに奥歯がガチガチと鳴り、浅黒い肌に期待の汗が珠となり滲む。
「ああ゛……ッ、んご、お゛っ、孕む、ぅ……」
「なに本気にしてんの。そんなわけないじゃん。残念でした。舌突き出して喘いでるなら、ついでだから床きれいにしてよ」
 肉体も心の昂ぶりすぎて、娘のそんな非情な命令にも、二つ返事どころか行為でその返答としてしまう。
 駆り立てられるように後ろから腰を叩きつけられながら、セジェルは床に飛び散る己の精汁に舌を這わせた。
 熱っぽい舌が床の冷たさで慰められるや否や、居心地悪い苦味が蔓延する。このような屈辱もまたいやましに劣情を加速させる。
「はへっ、え……」
 脳まで満たさんばかりの濃い雄の香りに中てられ、セジェルの目が潤んで再び瞳孔が拡散する。口腔に唾液が溢れ、床に当てた舌を伝って地に垂れる。しかしそれでは任務の遂行には能わずと、セジェルは一心に舌を動かす。汚らしい音を立てて精汁と涎を啜り舐め回す度に、娘の怒張を咥えこんだ尻の穴がきゅんきゅんと疼く。
「さすがにお礼とはいえここまでさせるのは気が引けるようなそうでもないような。うん、そうでもないわ。いい眺めよ。次は何してもらおうかなあ」
 と、かなりの奉仕を受けているにも関わらず、相変わらず大上段な娘。
 セジェルは勢いよく後ろに顔を向け、娘を睨み付ける。
「なにその顔こわい。わたしに一言ありがとうって言えばこんなことにはならなかったよ。自分のせいだよね。だからそういう顔は鏡に向かってすればいいのよ。そういうわけで、これから改めてく、だ、さ、い!」
 へらへら笑いながらの嫌味に常ならば激烈に言い返すところではあるが、しかしセジェルはすぐさままた視線を逸らす。触れれば斬れてしまいそうな鋭い表情は今や苦痛か、あるいは羞恥に歪み、定まらぬ双眸は熱に潤んでいる。
「もう……好きに、するがいい。そのつもりだった……最初から、お前に、礼を……ふぅ、う……礼を言いたかったのに、お前が余計な……言葉よりもこっちの方がいいだろうと思って、だから、こうして……」
 床舐めて腰振ってんだろ馬鹿野郎、と、歯切れは悪いがつまるところはそういう事である。
「うわあ……なんかえろい。やっともとが取れた気分」
 やっとかよ! この盛りのついた糞餓鬼が! とセジェルが悪態をつく間もなく、娘の律動が一層激しくなる。
 セジェルの無駄な肉のない尻を娘の柔らかな下腹が叩く打擲音が部屋に響く。
 その音に追随するようにセジェルの奥深くで肉悦の波が増幅する。睾丸が張り詰めせり上がり、最期の時が近い。
「あ、あああっ、おお、んおッ、ひ、死ぬ、ん、ぐがあっ!」
「死ぬわけないじゃんイくだけだよ! いっつも大げさ! 大げさに言うのはそういう事じゃなくってお礼にしてよねっ。いって、ほらっ」
 言ってなのかイってなのかわからないが、娘が怒りをぶつけるかのようにどすんと腰を打ち付ける。いきり立つ怒張がしかとセジェルの肉道を制圧する。
「あ゛、ぐうっ……い、いっ、て、いってたまるか、ぁ……ッ」
 往生際悪く堪え受け流そうとするが、そんな事をしても焼け石に水だった。
 突きこまれた怒張が奥を刺す。肉道の曲がり角、堅く閉じた肉の関門にその先端が触れる。その絆すような緩慢な力を拒む事は容易ではなく、徐々に守りは失われてゆく。広げられ、焦らすように嵌められてゆく感触が永遠に続くかと思われた瞬間。緩んだ関の防御を縫って一気呵成と肥大した先端がずっぽりと埋まった。押し広げられ、肉槍を嵌められたまま何度か緩く動かされて癖をつけられ、はらわたが沸騰する。
「ぐあっ!? 腹が……ッ、溶けるぅ、ッオぉ」
 殴っても、ともすれば斧を叩きつけても傷一つつかなそうな屈強な身体が、内を犯される物理的な責め苦と物にされたという心理的なそれに壊れんばかりに痙攣する。筋張った首が、棍棒のような腕が、筋肉質な胸が、割れた腹が、木の幹のように太い脚が、陸に打ち上げられた瀕死の魚のように震える。
「お゛あっ……お゛、お゛……」
 断末魔の声とともにセジェルは呆気なく果て、どうと地に伏した。
 同様に遂情した娘は荒い息を吐きながらほぼ意識を飛ばしているセジェルに寄り添い横たわり「どういたしましてって言った方がいいかもね」と、あっけらかんと言い放った。

 開け放たれた窓から吹き込んでくる夜の風が汗みずくの身体を優しく撫でる。その心地よさはそろそろ娘の部屋から退却しようと思っていたセジェルの決断をすごぶる鈍らせた。
「帰るに帰れないって感じだね。このままここで寝てもいいよ。それとも、話し相手でもしようか」
 欲望のままに放出しただけの娘はいたって元気で、さっぱりした様子が憎々しい。そして、なにがなんでもセジェルから何かを聞き出そうとするその姿勢も。
「俺はお前に身の上話するつもりはない。助けもいらん。今まで通りでいい。剣闘奴隷扱いでな」
 セジェルは横たわっていた寝台に半身を起こし、不躾に見下ろしてくる娘を睥睨する。
「そう望むなら、そうするとしましょう。わたしは人間できてるから、人の意思は尊重するんだよね、将軍。それにしたって秘密主義なんだから。えっちした後くらい口が軽くなればいいのに。それってなんだか信頼されてないようで寂しいんだけど」
「金で人を買っておいて何が信頼だ」
「まっ、それもそっかあ」
 娘はふわりとセジェルの横に腰を下ろす。
「何もかも言葉でつまびらかにすることが信頼ではない、だろう」
 つまり、何も言わないから娘を信頼していないのかというと、そういう訳ではないのだ。面倒な性質である。
「ねえ、今日楽しかった?」と、セジェルの顔を覗きこんでくる娘。
「別に」
 セジェルは娘に背を向ける。案外鋭い女だ、僅かな表情の変化くらい読み取るのは造作ないだろう。心を読まれるのは癪だった。
「そっかあ、楽しかったんだあ。よかった」
 だが娘はそんなセジェルの態度から、彼の気持ちをほぼ正確に推し量ったようだった。
「今日はいい夢見られるね。わたしもしばらく楽しめそう。剣闘士が二人になった。しかも一人はイケメンだし」
 娘が言う一人、というのはルシャリオの事だろう。セジェルのなんとはなくつまらない気持ちも知らず、娘は言葉を続ける事なく身体を崩し、穏やかな息をたて始める。そろそろ眠る準備に入るのだろう。言いたい事だけ言って寝る、なんと自分勝手な人間だろうか。
「故郷に妻がいたわけではない。ただ、そういう女とは経験がある」
 セジェルは娘の顔の横に両手をつき、覆いかぶさるように見下ろす。
「いきなりなに」
「聞きたかったんじゃないのか、俺のそういう遍歴」
 どうしてキスがうまいの、というくだりを受けての事だ。それくらいの話ならしてやっても大勢に影響はないだろうし、なにより少しばかり気を引きたかったのだ。
「やだやだ、別に本当に聞きたかったわけじゃないよ。あれはそういうプレイだよ。実際に聞くとなると生々しい、他人の性的な遍歴は。で、なに、そういう娼婦を切り刻んで楽しんだとか、そういう話でしょ。やだエグい」
 セジェルは相も変わらず気分を萎えさせる事にかけては右に出るものなしの娘の服の胸元を掴み、寝台から引き剥がす。
「話そうとすればそういう態度をとるのか貴様は!」
 答えによってはそのまま部屋の隅まで投げ飛ばす心積もりだった。
「まあほら、さっき自分で言ってたじゃん、何でも言葉でなんとかがなんたらって。何も言わなくても、わたしは将軍の事信頼してるから」
 取り繕ったような言葉ではあるが、まあ及第点だ。セジェルは娘の服から手を離し、寝台に軟着陸させてやった。
 そして「今回の報酬は……」辞退してやる、と言いかけた時だった。
「ああ、ないよ。見てたじゃん、さっき使ったとこ。しかも将軍のために。がめついね、それでも貰うつもりだったわけ? 守銭奴だね」
 セジェルはやはり娘を投げ飛ばす事にした。

戦友と報酬 終