槍試合 - 3/4

 天を仰いでいたそれを無理矢理に地へ俯けられる衝撃はまるで突き落されるような快感となる。その逆位と化した肉塔の中を荒々しい欲望が駆け降りては駆け上りを繰り返す。
 その乱雑な動きはバランタンの劣悪で低俗な被虐願望を煽った。
 バランタンは手淫される善さに濡れた息を吐き、快感が溜まって重たい腰を揺すった。与えられる淫虐は彼に適度に気を持たせ、焦燥さえも甘い痺れに変えてしまう。その愛撫は円熟した炎だった。消える事もなく、かといって激しく燃え上がる事もない。このまま止む事のない漫然とした快感に耽溺するのも悪くはないと、生殺しの快感にバランタンが順応しかけた時だった。
「があっ、おおお……ッ!?」
 突如、肉体を支配していた責め苦が一層燃え立つ。股間から伝播した堪えようのない衝撃に腰が跳ね、頭が打たれたように痺れる。何と苛め抜かれた肉棒の先端がクロードの口腔に吸い込まれたのだ。それは生殺しどころの話ではなく、本気で殺しにかかってきていた。
 快感が溜まりきって熟した敏感な先端を舌で舐り倒され、柔らかな唇で吸いつかれる。止め処なく溢れる先走りまで丁寧に舐めとられ腰が引ける。
「ふぉ、おー、んおぉぉ……」
 性器が大きすぎる故かこれまでバランタンが自涜によって得られた性感は鈍いものだった。それに最近は専ら尻を性器のごとくに酷使していたせいでそちらの快感には疎く縁遠い。だからこそこんな狂い果てそうな快感が怒張からこみ上げてくるという事に彼は動揺していた。おそらくクロードによって触れられ、慰められているせいであろう。
「んふ、ふふふ……」
 尻の方から聞こえてくる息遣いは楽しげだ。それはそれは楽しい事だろう。舌先三寸どころかたったの一寸で大の男をひいひい泣かせているのだから。そう思うと多少の憎々しい気持ちも湧いて来るが、そんな感情も快感の炎に焼かれ淫らな激流に押し流される。
 先端を小さな唇で吸い付かれ、割れ目を尖らせた舌でなぞられ、先走りの滴る口を塞がれる。逆流する熱い唾液が尿道を荒らし回り、そのあまりの善さにバランタンは涎やら涙やらを垂らして悦んでしまう。
 生暖かくぬめる粘膜に包まれ揉みしだかれながら、門歯に筋を甘噛みされれば竿は脈打ち睾丸が緊張し快感が迸りそうになる。
 だが流れに身を任せてしまうには早すぎる。今はまだその時ではない。なにせ妻の挿入もまだなのだ。こんな所で己だけがそう安安と気をやっては廃るものがある。
「もう、もういい、やめろぉ……ッ」
 壁にすがりつき、バランタンは悲鳴のような声を上げた。
「あなたがそうおっしゃるのなら、そうね、もうやめます」
 手放された肉棒が勢い良く前に反り返り腹にぶち当たる。どちらの粘液ともしれないぬめりが腹を汚すが、不快ではない。
 バランタンは達する前に行為を引き上げられる事に少々の名残惜しさを感じたが、やめるというのは行為そのものという事ではなく、手淫を、という事のようだ。
「代わりにこれ」クロードの硬い肉棒が尻に触れる。「入れてもいいかしら」甘えてくるようなクロードの声にバランタンは挿入を許さんと壁に頭を擦りつけたまま浅く頷いた。
 するとクロードの指が尻の肉をかきわけ、穴を露出させた。そして重ねられる腰。
「おお、おおお……」
 挿入の感触に濡れた深い息を吐けば身体中に快感が伝播してゆく。
 細君の凶悪なまでの巨根がじわりじわりと卑猥に熟した肉穴を広げてゆく。その肥えて卑猥に発達した先端さえ中に入れられてしまえば後は何者にもこの挿入を阻まれることはない。淫らな女の肉棒によって閉じた粘膜を押し広げられ嵌め込まれる。軟な肉襞の一枚一枚が雄の隆起に吸い付き、その異形の素晴らしさを貪り味わう。
 そんな熱烈な歓待でクロードを迎える従順な肉壷が彼女の挿入に慣れる前に、バランタンは堪え性もなく腰を無理矢理振りたくった。「あら……あら。本当に性急ですのね」肉襞が引き攣れ少々痛んだが、被虐の気に支配されている彼には望むところであった。
 クロードの腰に尻を激しくぶつける度に、奥の窄まりをぬるついた性器で突かれる生々しい感触をまざまざと刻みつけられる。
「はふッ、か、くあぁ」
 喘ぎの漏れる大口からは涎が垂れ、鬱蒼と茂る髭を濡らす。白亜の壁を捉える視界はぼやけ、目が虚ろになっているのが自分でも分かる。さぞしまりに欠けるだらしない表情で腰を振っているだろうと思うと羞恥心になお血がたぎる。特に腰回りの血の巡りの良さといったら。今この瞬間に急所をぶった切られたなら噴水のように血潮が噴き上がるだろう。
「うふ、あん、あなた、あん……すごい」
 背後から届く声は悦びに浮ついて淫らな色を含んでいた。妻がこんな声を出すのは血を見た時か閨事の時くらいだ。今は間違えようもなく後者の愉しみに声をあげている。槍で突かれ落馬して瀕死の重症を負う騎士よりも己の方が妻の嗜好と欲求を満たすに値するのだとバランタンは自惚れる。
「愛しているか、クロード、私を。私が必要だな、そうだろう」
 無粋な事を問うバランタンの声色は暗く地の底を這っていたが、それには恫喝というよりかは哀願の響きがあった。その通りだと、どうか妻に言ってもらいたいのだ。それが舌先三寸であっても。
「あ……ん、そうよ、あなたが必要だし、すきよ。んふ、あいしています、あいしているわ、あなた……バランタン」
 柔らかな妻の喘ぎが耳に飛び込んでくる快感に酔いしれてバランタンは腰を果敢に動かし続けた。
「ああ゛、ああー……」
 バランタンの喘ぎは徐々に切羽詰まって、終わりに向けて腰の動きも徐々に小刻みに激しくなり始める。腹の底から熱が湧き上がり、しかし同時に寒気が背筋に奔る。股間の怒張が腹を叩き、そして……。
「お゛っ、お、んおっ」
 腰の奥に孕んでいた欲望の塊が爆ぜ、石の床に精髄の先兵が垂れる。その瞬間、脚は地を陥没させんほどに突っ張り、身体中が強張る。肉襞が痙攣しクロードをもみくちゃにする。
 絶頂だった。
 高い塔から突き落とされるような、いや、落馬するような、下腹部と大腿に氷を押し付けられるかのような感触。そしてその後の軟着陸。体中の腱という腱を切り裂かれたかのように身体は頼りなく揺れてぼんやりと霞の中だ。こうして当然腰の動きは止まるが、だがしかし背後の女の動きはまた別だ。
「なんてかわいらしいのかしら。一生懸命腰を振って、震えて、気をやって。わたくし感極まってしまうわ」
 絶頂の最中で引き締まっている肉襞が強引に掘り込まれ、身体が痙攣する。
「が、あぉ、おぉっ!?」
 クロードはバランタンの下着を引っ掴み、まるで戦場で馬でも駆るかのように激しく腰を振りたくってくる。馬など一人では到底乗れない癖に。馬に乗せてやるときにはいつだって、手綱を引く夫の巨躯に隠れるように寄り添って大人しくしているというのに。
 だが今回ばかりは下から突き上げるようなその猛攻に乗られてしまうしかない。絶頂にぼやけた彼の身体は女の力さえ振り切ることは能わないからだ。
「ふん゛っ、おお、んおおッ!」
 バランタンは断末魔の獣のような声で善がる。尻たぶを乱雑に開かれ、一層奥に肉槍を叩きつけられる。一度落馬した敗者にわざわざ追い打ちをかけるような倫理に欠ける行為だ。だが絶頂に甘んじていた根性の無い肉を蹂躙される事の何と善い事か。
 バランタンは主の与えてくる享楽に従順に身を委ねた。しかしその下半身の乱れ具合から見るに、委ねるというよりは狂喜していると言った方がいいかもしれない。肉棒が媚肉に出し入れされる度に腰が浮き、妻の滑らかな腰に尻を擦り付けてしまう。
 その背は汗みずくだったが、肉壺を奥へ貫かれる度に喉元まで串刺しにされているような感覚を植え付けられ、抜かれる時にはその肉槍に神経ごとごっそり引き抜かれていくような、肉体の深部から底冷えする寒気を抱いていた。
「お゛……っ、ほお、んオ、むおぉ」
 善い場所を長く野太い槍身で殴り擦り潰され思わず野太い悲鳴が漏れる。
 弾けるような責め苦の中で大柄な身体を支えるのは辛く、壁についた上半身は融けるようにずり下がり、腰ばかりがその存在を主張する。
 肉を打擲する乾いた音を立てて互いの腰が触れては離れを繰り返す。尻を打たれる度に背が撓り肉体が脈打つ。そして奥へ肉槍を突き込まれる毎に肉棒の先端から断続的に白い粘液が飛び散る。
「あ゛っ、おおおっ、ぐぅ、んぉー……お」
 肉を打つ音が高らかに響くほどの激しい責めの合間に、時折緩慢かつ深々とした突き入れを挟まれると覿面に効いた。息を乱され、バランタンはもはやただ弄ばれるのみだ。
 女の怒張に貫かれる度に幽かな絶頂が腰の中で弾けて矮小な射精が断続的に沸き起こる。
 そんな大恐慌の中でも慣れきった尻の粘膜の感度は大したもので、尻の中で相手の逸物の射精感が高まっているのがありありと分かる。それと同時に己の絶頂も近い。まだ先の絶頂の波が引ききってはいないのに、また打ち上げられたならばどうなってしまうというのだろうか。おそらく……。
「嗚呼、ああ、駄目だ、駄目だ、死ぬ……っ」
「あら……あら。そんな事になったらわたくし」出だしこそ鷹揚であったクロードの声も限界に幽かに張りつめる。「わたくしも死んでしまうわ!」
 木の幹のように太い胴にクロードの腕が回され抱きすくめられ、刹那の抱擁が贈られる。そして最期に奥深くへ肉棒を差し込まれ、肉壺全体で妻の存在を味わわされる。
 引導を渡されたというわけだ。
「ぐっ……おおお゛ッ」
 絶頂の冷めやらぬ間の再びのそれにバランタンは慟哭し、精髄を滔々と垂れ流した。
 重ねられた絶頂の中でやはり肉襞が切なく震えてクロードをきつく食み、射精を促すが、肉の哀願に応える事なくはまり込んでいた怒張は非情にも引き抜かれてしまった。それにつられて尻が女の肉槍を追い、無様に腰を掲げながら最後の一滴まで余す所なく放出してしまう。