青髭公の盾 - 5/6

 ふわりと柔らかい胸を乱暴に揉み、白亜のような腹に手を這わせる。滑らかな皮膚に導かれ、バランタンの手は下腹部に落ちる。触れた妻の肉棒は昂ってはおらず、バランタンはそれを乱暴に扱き上げる。
「あんっ、あぁ……」
 バランタンの耳元で微かな吐息が弾ける。それは快感の喘ぎにも呻吟にも聞こえた。
 けれど遠慮するつもりなど青髭公にはない。手中にあるのはいつも大の男を啼かせる使い込まれた淫らな槍。穢れなき処女の蜜壺というわけではないのだ。優しく扱ってやる必要がどこにあるだろう。
「乱暴にしないで……壊れてしまうわ」
 しかし幽き声でそう言われれば、己がとても酷い事をしているように思わされる。
 バランタンは手を止め、クロードの上から身を起こした。
 妻の白い首筋にはいくつもの鬱血が花開き、とても痛々しい。それらは健気な野の花ではなく、荒れ果てた沼地で毒素を吸って淫らな花弁を怠惰に拡げる毒の花だった。
 一方で無理矢理精を通した肉槍は雄々しくそそり立ち、今にも弾けそうだった。
 解放された妻の毒々しく赤い唇はふう、と一つ安堵の息を吐く。
「野蛮だと思うか」
 バランタンは険しい狼の表情のままクロードに問いかける。
「ふふ、そうですね、女の返事も聞かずにこうして押し倒して引き裂くなんて、野蛮と言わずしてなんと言うのでしょう」と、クロードはバランタンを見上げて答える。「それにあなた、一瞬野生の獣のような目をしていました。まるで狼のような。わたくし首を食いちぎられる所を想像してしまいました。そんな事あなたがなさるはずないのに」
「怖かったか」
「いいえ」
 クロードは蠱惑的に笑った。歪む眦、歪む唇。時に似つかわしくないその表情はバランタンの肉欲を打つ。
「とても素敵だわ」
「つまり私の獣性を受け入れるというのか。私は野蛮で、時にお前にだって残酷な空想を抱くというのに」
「ええ。わたくしの夫ですし、それよりなにより、あいしておりますから」
 伸びて来たクロードの手がバランタンの頬を撫でる。そうされると不思議なもので、バランタンは処女の前では従順な一角獣かなにかのようになってしまう。
 途端にバランタンの焦燥や浅ましい肉欲は失せ、妻と入れ替わるように卓にぐったりと臥せる。
 後ろから触れてくる手は羽のように軽やかで心地よく、それは確かに処女の穢れない手のようにバランタンには思われた。このまま性的でない法悦に身を委ねてみるのも時にはいいかもしれない。衝動だとか欲望だとかは捨て置いて。
「それにわたくしだって……隣人と同程度には野蛮な獣ですもの」
 だが突然に背後の声は剣呑な気配を含み、バランタンの背を粟立たせた。
「クロード……!?」
 下衣が引きずりおろされ、心の準備もままならぬうちにバランタンの内にそれが突き込まれる。
「お゛……ッ!?」
 その衝撃にバランタンは舌を突き出して無様に喘いだ。
 梨で慣れきった緩い肉穴は、ぬぷ、と容易くクロードを受け入れてしまう。常ならば思い切り抵抗するはずの尻は、情けなくぐずぐずと蕩けきっていたのだ。
「ほふ、うぅ……」
 バランタン自身も情けない声を上げ、卓に縋りながら小さく震えた。やはり金属の物に比べると例えようもないくらいの善さがある。適度な硬さと適度な熱、そして何よりそれがクロードのものだという事が一番だった。
「ちょっとゆるくなってしまいましたね。でもあなたの中はいつもきついから、これくらいでもまだ随分と締め付けてきますわ」
 奥まで突き入れた所で腰を止めたクロードがバランタンの背に覆いかぶさって囁いた。
 酷く屈辱的な言葉はバランタンを責め苛むが、しかしそれでもいつもの締め付けは戻らず、まるで媚びるようにねっとりとクロードに縋るだけ。
 その具合がよかったのか、クロードも応酬として腰を大きく使ってくる。狭ければただ突き込むだけしかできないが、程よく広がった今は腰をゆるく回したり、善い場所を直に笠で押し潰したりと確実にバランタンの気を削ごうとしてくる。
 表皮と違って吹きすさぶ風や刺激で鍛えられる事のない内側は唯一彼の弱い部分で、肉槍で執拗にねちねち突きまわされると堪えられない。
「んんんん……! おおぉ、ん……っ」
 バランタンはされるがまま、卓に着いた腕に頭をもたせてぐったりとするしかない。もう善いだの嫌だだのの言葉は出てこず、野太く燻るような咆哮が肺から押し出されるのみ。
「まるで獣だわ、わたくし達は」と、広い背に覆いかぶさるクロード。「獣の体勢で交わって、獣のような声を上げて……」
 クロードも珍しく息が荒っぽい。常ならば行為の真っ最中でも石のようにしっとりと冷たい身体が、今は服越しにもわかるくらいに熱が溜まっている様子だ。
 乱れに乱れたクロードの吐息は、ともすればその突き上げよりもバランタンの下半身に効いた。腰がじわりと痺れ、骨の髄まで力強く叩きのめされているようだ。
「んぐううぅ……、ふ、ふほ、お……」
「もっと鳴いて下さいな、バランタンさん。獣みたいに」
「ん、ん゛っ……豚みたいにしろと、いうのか……ッ!」
「狼よ、狼」
 とはいえ、今の状況を鑑みるに狼なのはクロードの方で、バランタンは捕まり無様に引き裂かれ、生きながらにその血肉を貪られている羊だった。
 いつもなら従順で羊のような妻であるが、しかし一度欲情したならばその油脂たっぷりの手触りいい毛皮を脱ぎ捨てて、鋭く尖った鈍色の毛皮を身に纏った飢えた狼となるのだ。
 そしてバランタンはその逆だった。いつもは雄々しく残虐性をまとっているが、こうなると無力な一匹の草食動物だった。
「素敵よ、うねる背、暴れる腰……」
 広い肩を卓に押さえつけられ、いよいよとクロードの突き込みの一撃一撃が重たくなってくる。
「お前の、お前の方が獣……じみてるっ」
「あなたのせいだわ、あなたがわたくしを野蛮な獣にさせるのです」
 ぐちゅ、がちゅ、ぶちゅ……。
 汚らしい交わりの音が地下室に響く。
 弱い肉粘膜という急所を猛々しい肉槍で果敢に擦られ抉られ、絶頂は近い。
 緩み切った肉門はクロードの攻めを防ぐに能わず、それどころか侵略を悦んで震えている。
「鳴いて、鳴いてくださいな、それともあなた捕まった子羊なの」
「へふっ、お゛……お゛ぉッ」
 バランタンは咆哮には程遠い情けない声を出し、浅ましい陰茎からちょろちょろと透明な涎を垂らす。
 先までは絶頂の直後のために緩くしか立ち上がっていなかったその肉棒は、今や全身の血をくまなく寄せ集め、滾らせ、精液を迸らせんとしている。
 だが今この行為においては何の役にも立たない。ただの血袋、つまり……。
「羊……というよりは、あなたまるで……」
 クロードの言外の示唆にバランタンの目が存在を忘れかけていた豚を捉えた。
 つまりバランタンの肉棒は豚の血入りソーセージのようなもの。ただクロードの食欲を満たすだけの。
「ああ……」
 バランタンは己の情けなさの極みに哀れっぽく鳴いた。
 どす! とクロードの肉槍がバランタンの泣き所をどつき、引導を渡す。
 確固とした己の身体という感覚が瓦解し、クロードと混ざり合うような、あるいはすべて吸収されてしまうような過ぎたる快感。体毛の一本一本が焦げ付き、寒気のするような、あるいは馬から突き落されるような。
「あ゛ッ、がああ! あ!」バランタンは絶頂に汚らしい声を上げる。「ごおっ……おお゛、んおおお、えぐ……ッ」白目を剥き、涎だの汗だのが飛び散り、お世辞にも綺麗な遂情とは言えなかった。