なんとめでたくない日だろう。
背中に幸せな重みを感じながらも、騎士長は暗澹たる気持ちに蝕まれていた。
こんな日は雲一つない空さえも恨めしい。天さえもこの門出を祝っているようで。
「騎士長殿」背の重みが鷹揚な声を発する。「あなたの息に暗雲垂れこめさせているものはなんですか」しなやかな手が鎧ごしに騎士長の肩を撫でた。「わたくしで何か助けになることができますでしょうか」厳つい顔を覆っている兜にさえ、その透き通った声をくぐもらせる事はできない。「と、言いましても、解決に十分な時間があるとはもう言えないかもしれませんが」
騎士長は手にしたランスを握りしめ、四本の脚を止めた。そして上半身だけを軽く捩って背後を見遣った。
鋼の鎧に覆われた自らの背には豪奢な漆の鞍。その上には人間の女が品よく横座りしていた。
魔法の織機で織られた豪奢な布を贅沢に使った緑の婚礼衣装は、女の雪のような肌の白さをより際立たせていた。色素の薄い絹糸のような精緻な毛髪はエスコフィヨンの下に押し隠されてしまっていて、実にもったいない。あの美しい髪を見て喜ばぬ男はいないだろう。
何度もあの流星の尻尾のような髪を結ってやったものだった。柘植の木を削って作った櫛で梳ってやれば、まるで流れる水に櫛を通しているかのようだった。そのお返しにと、彼女は騎士長の尻尾をよく編んでくれた。それもこの何年か――彼女が慎みと恥じらいを兼ね備える歳になってから――は、そんな事もなくなってしまったが。
いささか残念ではあったが、お互い身分も出自も異なる者、節度を保った付き合いをするべきなのだ。なにせ彼女は姫君なのだから。騎士長がこの世で最も忠誠を誓う者の娘。
王女の年齢それ自体は騎士長よりもずっと若かったが、そのかんばせには思慮と慎みの深さが滲み出て、実際の年齢よりは幾分か上に見せていた。だからこそ、彼女の父親は自分の娘が隣国のダークエルフの国へ嫁ぐのに十分な性質を兼ね備えていると思ったのだろう。
婚礼なんて、早すぎる。
騎士長は砕け散りそうなほどに奥歯を噛み締めた。
それも同盟の為の婚礼とはいえ、侍女さえ連れて来てはならぬとの大上段な命令にこちらが易々と従わなければならないなんて。侍女が駄目ならば、いわんや騎士をや。姫君を一人で味方のいない場所に行かせる事を思うと。あの排他的で選民思考で邪な術に精通したダークエルフ共め。ああ、おいたわしや我が姫君!
騎士長は背に乗せたそれとの今生の別れに涙を流さんばかりだった。いや、もう流す涙は尽き果てていた。涙は王女の婚礼が決まってからの数週の間と、先ほど城門を出た時にとうに流れきっていたからだ。
感傷的な所が玉に瑕と、かつて族長にはよく言われたものだ。だからこそ、自分を人間の王に仕えるようにと命じたのだろう。感傷は時に忠誠や愛となるのだ。だがこんな時には途端に弱点となってしまう。
「いいえ、何も貴女様が心配なさる事はございません」
騎士長は顔を覆い隠してしまう兜に感謝していた。情けない涙の跡と自分の表情を王女に見られずに済むのだ。自分よりも王女の方が何倍も心細いというのに、騎士たる自分がこの体たらくでは。
「まあ、そう」
それに対する王女の声はどこか消沈していた。騎士長の悩みを解消してやる術が自分にはない事を残念に思っているかのようだった。
所在なげに、ほっそりとした指を胸元の首飾りの鎖に絡めて弄う様子は幼いころと少しも変わらない。
初めて会った時も、王女はそうしていた。
ケンタウロスを見るのは初めてか、と問う騎士長――その時はまだ騎士長ではなく、森に棲むケンタウロス族の一介の戦士であったが――に、小さな王女は小さな声で、はい、と答えたのだった。そうして頬を緊張の朱に染め、俯いた。
その時からかもしれない。騎士長が人間の娘を、王女を慕うようになったのは。
だからこそ、ずっと傍で守り続けようと思ったのに。
「少し眠られてはいかがです」
国境の中立地帯まではまだ少しかかりそうだった。自分一人ならば一刻とかからず駆け抜ける事もできるが、今速馬をかければ王女はたちどころに振り落とされてしまうだろう。
「いやよ、いやだわ。あなたの背中はとても乗り心地がよくて昔はよく眠ったものだけれど、今日はいや」
王女は騎士長の肩に取りすがった。柔らかい頬が触れると鎧越しとはいえ温もりが素肌まで伝播してきそうだ。
「だって、今日でお別れなのに」
再び歩を進めていた騎士長は、王女の涙混じりの吐息にまた歩を止める事になってしまった。
「こんな事になるのならば、あなたともっと一緒に居ればよかった。年頃になったのだから殿方と二人きりになるのはよくないなどという言葉、守らなければよかった」
とうとう王女の声が涙に濡れる。自分がその涙の責任の一端を担っているようで、騎士長は随分と居心地の悪い気分になる。
「騎士長殿は、わたくしが嫁ぐ事、どうお思いなのですか」
どうもこうもねーわ! やだわ!
騎士長はそう喚き返したいのをぐっと堪えた。黙して語らぬのが男である。そう思っているからだ。
そして自分が忠誠を誓うのは国王陛下と王国に対してである。同盟が王国のためになるのであれば、自分は王女を無事に中立地帯まで送り届けるのみだ。湿っぽいやり取りはその妨げにしかならない。
それに、一言でも喋れば本音が出そうだった。国王の太鼓持ちである遊楽師や、うまいこと他人の金を引き出す必要がある錬金術士のように口八丁手八丁ではない。ケンタウロス族の大半がそうであるように、彼も不器用な男だった。酒が入ればまた別の話ではあるが。
「国のためです」
「と、いうお答えは質問に対する適切な返答ではないように思われます」
女は妙に言葉尻を捉えて鋭くて執拗だ。騎士長は思った。
「わたくしはこう聞きましたの」王女は騎士長の馬体からふわりと降り立ち、彼の目の前に進み出た。騎士長もそうされるといつもの癖で、身体を屈めて王女と視線を合わせてしまう。すると濡れた青い瞳が兜の奥の騎士長の瞳を鋭く射抜く。「あなたはどうお思いになるの、と」
「私の想いなど、大義の前には関係ありません」
騎士長は視線を外してそう絞り出すだけで精一杯だった。
「はぐらかさないで下さい。あなたはわたくしをどう思っているのです」
そう問いかけながらも王女の双眸からは大粒の涙が溢れ続ける。
「姫君、私は、私めは」
騎士長の狭い視界が突如として開けた。王女が彼の兜を取ったのだ。そしてふわりと触れ合う唇。
「これがわたくしの気持ちです」
ただ唇が触れ合っただけだというのに騎士長は感極まった。体中に愛欲が満ち、雄々しく厳つい顔が蕩ける。
「ああ、姫……」
生身の女に不慣れな身体が正直な反応を始める。つまり、下半身についた逸物がむくりと起き上がる。こうなっては理性では抑えられない。というより、駄目だと思う程に勃起はいやましに高まる。
「はっ、は、姫、姫君、どうかお涙を、お、んん……」
騎士長は慰めるように王女の涙を指で掬い、唇を触れ合わせるだけの清い接吻を繰り返しながら、後ろ脚を折り畳んで浅ましい穢れた勃起を地面に擦りつけた。
馬体に纏った鎧ががしゃがしゃと鳴り、背から臀にかけて被せられている、王家の威光と彼の所属を示すための――その実は局部を隠すためのものであるが――紋章織のタッセルが揺れる。
彼はいつも無駄に巨大な馬並みの――半身はまごうかたなく馬なのだが――肉竿を床に擦り付けて自涜に耽っていた。そして人間とよく似た、しかしヒトにはなかなか見られない程に恵まれた体躯の上半身は荒々しく壁に擦り付けるのだ。筋肉がこれでもかというほど詰まった火照った肉体と胸の先を壁の冷たさと凹凸で慰めるためだ。
性妄想の中では、騎士長はいつだって王女を無理矢理組み敷いて激しく陵辱していた。その始まりはとある夜、見張りの任務の途中で寝室に忍び込むだとか、午後の散歩の途中に木陰に引きずり込むだとか。
「いやっ、その穢れた手で触らないで、お父様に言いつけますよ! あなたのような駄馬がわたくしの身体に触れていいとでも……ン、お゛――ッ!?」
最初は一心に抵抗していた王女も、腰を高く上げさせて挿入すれば直ぐに従順になる。
「か……ッ、へ、ぁ……入って……」
騎士長の極太肉棒を鎮めようとでもするかのように、王女は自身の歪んだ腹を撫でる。壷首から壷底まで一気に雄の昂ぶる欲望を埋められ、王女はか弱く震えながら涙を流す。突然の陵辱に慄き、その壷首はひくんひくんと騎士長を絞め上げる。
「はッ……んはー、フうぅ、ッん、おと、さま、おとうさまぁあん、たすけ、へ……きたな、い、軍馬のが、わたくしの……」
なんと可哀想な我が姫君! 大事にされるべき初めてを童貞馬魔羅に喰い散らかされ、それどころかこれからもっと酷いことをされるのだ。妄想とはいえ騎士長は王女の惨めな受難に昂ぶる。
「姫君、姫君、今から私めの魔羅でたっぷりと十二年ごしの愛を刻みつけますゆえ……」
つまり、射精。それも膨大な種馬汁を。
「やめ、て、お願いですそれだけは……ッンお゛っ、あ゛んんんっ!?」
そして間髪入れずの調教。王女の柔らかく形の良い尻が歪むほどに硬い腰をパツンパツンバシバシと打ちつけながら王女の初々しく澄ました清らかな胤壷を力づくで躾ける。壷口と壷首は竿で素早く擦り込み痺れさせ、壷底は先端で先走りを塗りつけながらどすんどすんと殴るように突く。完全に暴行以外の何物でもない行為だ。
だが徐々に王女の肉体は騎士長に馴染んできて……。
「な、ん、なに、ああ、おかしいっ、気持ちい、乱暴されて感じて、ひゃあんッ、乱暴気持ちいいぃ!」王女は自分からも腰を振りながら喘ぐ。「はあ、あんっ、奥殴って、もっと乱暴してッ、わたくしの事えっちなおんなのこにして、軍馬ペニスで、おうまさんちんぽでぇぇっ!」
いつも静かに澄ましている王女の淫語と痴態に騎士長は暗い劣情を昂ぶらせる。