「殺してやる、殺しては蘇生して再び……」
殺してやるのだ。何度も。それに飽いたら身体の末端から順番に骨を砕き、切断し、家畜の餌になる所を泣こうが喚こうがその目でしかと見せてやるのだ。時折回復魔法で死を引き伸ばし、楽に死なせてなどやるものか。最期はワームに脳味噌を啜られる音を聞きながらどうしようもない絶望と共に最後の死を味わえばよい。
……無理だけど。
魔王は今更ながら己の浅慮を悔いた。三日間はどんな大きな物音と悲鳴が響こうとも、王女の褥に入る事は罷り許さぬと部下共に命じていたのだ。これでは救出は望めそうにない。
「ひどいことをおっしゃるのですね。でも運よくわたしを殺せても、姉たちがあなたに復讐するでしょう」
「脅しは効かんぞ。何人もこの城に侵入する事能わぬ」
「現にもういますわ」
「どこに」
「いたるところに」
王女の視線を追えば、雨をしっとりと吸い込んだ絨毯やカーテン、水を湛えたアンフォラ、冷水の並々と入った水差しとグラス、それらから白い物体が生えてのたうっていた。それらが女の腕だと理解するのには少々時間がかかった。
次の瞬間その手に手にまるで水の滴るような武器が輝く。そのどれもこれもが水妖が英雄達に気まぐれに与えてきた伝説の武器であった。
魔王は初めて敗北の気配を感じた。
強者こそがすべてを得る。そして弱者は強者に屈服するのみ。
その美学の研ぎ澄まされた刃が翻って己を切り裂く日が来ようとは。
王女の手がしっとりと巌のような肌に滑らされる。
「んう……」
ひんやりとした女の手に堂々と張り出した胸やくっきりと割れた腹筋を撫でられ、魔王は思わず妙な声を上げてしまう。
「すごいのね、厚みがあって、硬くて。わたしもこんな身体になりたいわ」
魔王は目を閉じ、羞恥を忘れようと試みる。肌に這う手の感触に喘ぎを漏らすその口に、粘着質の何かが飛び込む。それは舌を擦りながら喉の奥へするりと流れ落ちた。
「ん……むっ、なんだ」
「あなたがくださったお水に、変なものが入っていましたよ」
それだけですべて合点がいった。王女は体内で水と媚薬を分離し、水は己の身体に吸収させ、媚薬は魔王の身体に与えたのだ。
「わたしあなたが欲しいわ」
欲しいというのは、いたずらに命を奪いたいという事だろうか、それとも。
「わたしあなたが欲しいの」
潤んだ瞳と熱っぽい吐息から、王女の真意はわかった。そうあからさまに好意を示す言葉を投げかけられると魔王は狼狽してしまう。
次の瞬間魔王の身体は寝台に腰かける王女の前に跪かされた。
王女は自らのドレスを捲り上げながら再び囁いた。
「大事な事だから三回言いますね、わたし、あなたが欲しい」
魔王は目の前に晒された王女のそれに慄いた。それはまごうかたなく、巨大な、男の……。
王女は半陰陽だったのだ。女らしい身体に男の性質を秘めた奇跡の者であった。
半陰陽の半水妖とか、韻を踏むにも程がある。魔王はそんな馬鹿みたいな事を思いながら、これはもう駄目だわ、敵わんわ、すきにされるしかないわ、と三段階の諦観の境地に達した。
「う! ううううッ!?」
だが顔に野太く勃起した陽根を擦り付けられれば流石に嫌悪に顔を歪めたくもなるというもの。表情で精一杯拒絶を示すが、そんな事をしても無駄だった。
「こほっ!?」
魔王の口が抉じ開けられるや、その中に王女の肉剣が突き入れられた。
「ぼ……おオぅッ!」
喉奥まで一気に貫かれ、魔王の意識が一瞬遠のく。逸物を噛み切ってやろうにも、顎は拘束具で固定されたかのように微動だにしなかった。
「えごっ、オ゛ッ、お、んぼお、おおぉ……」
王女の手が魔王の後頭部に添えられ、頭を無理矢理前後に動かされる。奥に肉の拷問器具を差し込まれる度に唇と鼻先に乙女の柔らかな恥毛が触れた。自分が女のそこを責めている時に触れるのならば昂りもするが、そうでないなら混乱するばかりだ。
舌に異な味を感じる。射精への備えの味だった。慣れない味に唾液の分泌が促され、しかしそれを嚥下する事は能わず、溢れたものが厳つい顎や頸を流れてゆく。
「ん゛……む゛、ぉっ、お゛――」
苦痛にえずけば締まる喉から悦楽を得たのか、王女は絶頂の気配を吐息に滲ませる。
「あ、あ、出ちゃう……」
「がぷっ!? ぉご、ごぶッ、え゛ぉおっ」
喉奥を擦っていたそれが震え、放出された粘ついた欲望が喉に絡まりながら滑り落ちる。蠕動運動など無視した暴虐に魔王は盛大にむせ返り、逆流した水妖の欲望に気道が荒らされ、口から鼻からそれが溢れる。
「ごぉっ、お゛……え゛ぶっ、お゛――」
頭を押さえつけられ、腰だけが情けなく退ける。息苦しさに身体が痙攣し、目が裏返る。
「興奮してしまいますね、なんだかこういうの」
魔王の情けない痴態を目にしてより昂ったのか、王女は一層深くへと己を突き刺し、再び欲望を注ぎこんだ。
「がばっ、オ゛、ぐべ……ぇォッ」
まるで口から入れた槍で脳天まで貫かれたかのようだ。水妖の精汁の生臭さを鼻と口一杯に満たされて、その匂いの泡沫が弾ける度に脳裏で火花が散る。まるで脳の神経と回路が焼き切られていくかのように。どうやら媚薬が効きつつあるようだ。
含まされていた肉剣がここにきてやっと引き抜かれ、魔王の口は自由になった。
「全部飲んで」
だが口内に溢れる精汁を吐き出す前に、王女の小さな手が魔王の唇を封じた。
「嫌と思ってもだめですよ。言う事を聞き入れていただけないなら、無理矢理押し流しますから」
魔王は仕方なく舌の上で渦巻くそれらを飲み下した。
水妖の精液は喉をゆっくりと滑り落ちた後、執拗に胃に落ちていった。
「はっ……はほっ、ほうぅ」
胃の腑に精液の溜まる感覚が情けなく辛い。だがどうしてか身体がカッと熱くなった。
「さっさと殺せ、ひとおもいに」
魔王は王女の体液に濡れた唇を引き結んだ。
「殺さないわ、どうしてそんな……殺しませんよ」
不殺のなんという無慈悲な事だろう。この辱めが続くくらいならば、苦しんで死んだほうがまだましだ。自尊心は死なずに済むのだから。
「父はいつも言っていました。いのちだいじにと」
余計なこと教えるなよ。言葉通りに受け取る阿呆に。
魔王は一層人間への怨みを深めた。
「それにわたし、あなたをあいしているもの。どうして殺すことがありますか」
「えっ」
さすがは水妖といったところか。情の湧く速さは他に類を見ない。
「そうなの、あいしているから、だから……」
魔王の下腹部に王女のほっそりとした指が絡み、萎えきっているそれが優しく、しかし程よい荒っぽさで駆り立てられる。両手で根本から先端まで包み込むように扱きあげられ、適度な締め付けを与えてくる。
さすがは王女自身にも同じものがついているだけはあるといったところか。雄の弱みを知り尽くした責め苦、いや愛撫をよく知っている。
親指で肉筒の裏にある隆起を押し上げられれば、奥底から迫る甘い痺れに腰が撓み内腿が震える。吐息は路地裏の野犬のようにあさましくなってしまう。
「気持ちいい? なかなか上手でしょう」
「塔に閉じ込められている間、どうせ自涜ばかりしていたのだろう」
魔王は強がってみせるが、その気がなくとも機械的な刺激を与えられれば肉塔は雄々しくそそり立ち、その中を睾丸から放たれた欲望が稲妻のように駆け上る。先ほどとは逆に、及び腰が反り返り王女の手を追いかける。
「確かに」魔王を弄り倒しながら王女は実に遠い目をして言った。「そうです。わたし、こうしてあなたのような方に攫われて、閨事に耽る事を夢見て、いつもひとりで……」
そこまで言うと王女は片手で己の陽根を扱きだした。女の身体に付いているのだから、もう少し小ざっぱりした見た目ならばいいのに、その肉の突起は少し弄っただけでサテュロスのそれよりも醜悪に大きく勃ち上がる。
「どうしてこんなものついてるのかしら。おんなのこなのに」
王女は悲しげに眉を寄せ、唇を噛んだ。しかしその双眸は潤み頬は紅潮し、陽根の刺激をまんざらでもないと思っている風でもあった。哀と欲がせめぎ合うその表情は実に蠱惑的で、魔王の劣情を誘った。押し倒せるものなら押し倒して我が物にしてやりたいくらいだ。
そんな魔王の心情は如実に肉体へ反映される。王女の暴虐で萎えきっていた肉棒は今や完全に意欲を取り戻し、硬い腹に張り付かんばかりに反り返っていた。表面には荒々しい隆起が奔り、怒張と呼ぶに相応しい。王女と比べても見劣りしない、それどころか、王女のそれよりも頼り甲斐がありそうだ。
「あなたの、とってもご立派ですね。わたしのよりも。どれくらい出るのか、見せてくださいね」
「く、くそっ、そんな、い、嫌に決まって………」
数多の女を雌にしてきたその怒張も、しかしこのようにいいように弄ばれると形無しだ。
「おっ……ん、ほぉ」
ぎゅっ、ぎゅっ、と女の指で扱かれれば、それに呼応するように睾丸が震え、精汁が迫る。いくらなんでも早すぎる、と魔王もそれを耐えるしかない。
「は、はひ、んんん」
快感でだが羞恥でだか屈辱でだかよくわからないが、眼窩の奥が熱くなり、目の周りが朱に染まる。
「や、やめっ、お、んおほ、こぉ、ころすぅ、っん……この、人間のぶんざ、あ゛あ゛ー……っ」
恫喝も今や善がり声にしかならない。
先端から滲み出した忍耐の涙が王女の指でまるで気遣わしげに掬われ、先端に塗りつけられる。直に無遠慮にそこを撫でつけられれば、いかな魔族の王とて敵わない。
「ま、待て、おああッ!」
登りつめた精液が迸りそうになり、魔王は悲鳴を上げた。ここまで来たならいくら待ったところで吐精という結末はかわらないが、陵辱してやろうと思っていた女の手によっていいようにされるのは屈辱の極みであった。
睾丸はすべての精を一時に放たんと肉の筒に精を通し、痛みを覚えるくらい張り詰める。
肉体は既に理性の制御下から逸脱していた。頭で欲求を抑えようとしても、身体は最期へ向けての準備を怠らない。
こうしていよいよ堪えが限界に近づいている肉棒を力任せに擦られ、箍を打ち砕かれる。