「あがっ、あ゛っ、ひい、いきたくないぃっ」
「ほんとう?」と、王女。
表情も絞り出す声も苦悩に満ちていたが、この暗澹たる放出に少しの安堵も期待もないと言えば嘘になる。
「ほんとう?」
王女は責め苦を止める事もせずに再びそう問うてくる。魔王の言葉を疑っているような声色や表情ではなかった。
「い、いやだ。いきたくない……」
腰の奥が重くなり、絶頂の兆候が現れる。とうとうその時が来た。王女の手に捕らえられた虜囚が震え、膨張が増す。分厚く重たい腰が王女の手を追いせり上がり、亀頭が痺れ、奔流が駆け出そうとする。
「おっ、んおぉ、いきたくないぃ……」暗い快感に蕩けた低い喘ぎが漏れる。だがその甘ったれた声はすぐに予期せぬ感触に失墜した。「オ゛……ッ!?」浮き上がっていた腰が有り得ない衝撃にずっしりと寝台に沈む。
全身が小刻みに震え、唇の端から一筋涎が垂れる。「おッ、あ゛……あ゛――」その瞳が捉えたものは、未だ王女の手の中でみっともなく震える己の勃起しきった肉棒だった。つまり先の衝撃は射精のそれではなかったのだ。
「な゛、にを゛……」
確かに絶頂の予感はあったというのに。切先まで迫っていた精髄の感触さえ消失している。
「だって、いきたくないとおっしゃるから。三度もそうおっしゃるという事は、本当の事なのでしょう?」
何が起こったのか理解できず狼狽えるしかない魔王の身体がまたもや勢い良く仰け反る。肉棒が焼き切れるかのような鮮烈な快感が神経に駆け巡ったのだ。
「がああぁっ、お゛、お゛……んっ」
精液が射精寸前の場所まで勢い良く迫り上がってくる。だがその奔流の勢いに乗って放出される事はない。なぜなら今度は登りきっていたはずのそれが勢い良く引きずり降ろされ、睾丸に叩き落とされたからだ。
魔王はここまでされてやっと、己に与えられている拷問が何なのか分かった。
「やめ……やめろ、やめろやめろぉぉ……」再び王女の妖力によって魔王の精液がじわりじわりと肉塔を登ってゆく。おそらくその先に待っているのは解放ではなく「やめ――おンンンンッ」落下だった。逆流する精液に睾丸が震える。
「ふう、ふうぅ……」
未知の暴虐の合間に魔王は情けない泣き声を上げた。己の精液まで意のままにされて肉棒の中を犯されるなんて、こんな屈辱あるだろうか。いくら敗北を喫したからといって、ここまでの辱めを受けなければならない事があろうか。
いや、ある。
とでも言いたげに、水妖は魔王の肉剣を手に天性の蠱惑的な笑みをこぼした。
肉棒の中を昂ぶりが激しく行き来する。
「オぅンっ! ん――ッ!」
魔王の腰がかくかくと上下に揺れる。精液が登りつめる度に天を仰ぐ怒張が空を指し、駆け下りる度に巨大な尻が床を叩く。まるで淫らな行為を誘っているかのようだ。
「んうううっ! むうんっ!」
腰が暴れ、王女の手を振り切ってもなお、その支配から逃れる事は能わない。今や魔王の理性というものは消失して、先端まで充填された精液を解放させたいという原始的な欲望しかなかった。
「お゛あっ、ンぉ、オオオッ、も、勘弁、してくれええぇッ」
巨木のようにがっしりとした腰が床の上を情けなく逃げ回るが、問題は解決には至らない。
とうとう魔王は恥も外聞もかなぐり捨てて手淫を始めた。他人の眼前でこんな事をするのは初めてだった。先走りで濡れた肉棒を乱暴に扱く度にぐしゅぐしゅと汚れた音が響く。だが、盛大に響くその音とは裏腹に、操られた精液は迸る事はない。それどころか、脈打つ巨根ごしに精液の動きをよりはっきりと感じてしまって逆効果だ。
「ぐぎゃっ、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! んぎぃ、ごぼぁ、んおおぉ!」
己の精液の塊で前立腺をぶん殴られ、魔王の腰と腹が内側から寄生虫に食い破られる芋虫のように蠢く。身体の筋肉が隆起し色濃く影を作る。
「ああ……すてき」
王女は魔王の身体をゆっくりと撫で上げる。厳つく隆起する肉の隅から隅まで、余すところなく。それは魔王を慰めるというよりは焦燥を煽り立てる効果しかなく、より激しく彼を責め立てた。
「ふごっ、おっご、ぶおぉっん!」
壊れたような悲鳴を上げる魔王の身体に王女の舌がぴたりと張り付く。その小さな舌が肉の迷路を這い進む。
「わかります、これは快感の味」
王女は滲み出す魔王の汗を舐めているのだ。汚れなど触れた事のないようなそれで、雄の老廃物を味わっていた。
「ばかなっ、そんな」快感をおぼえているなんて認めたくはなかった。しかしかわいらしい音を立てて首筋の汗を啜られると「うぉ、おっ……」善がり声をあげずにはいられない。
耳の下から首筋を通って髭の生えた顎を舐めた舌は、次に胸にたどり着く。
「わかります、これは羞恥の味」
筋肉と脂肪で膨らんだ柔らかな胸を王女の両手で揉まれ、その縮こまった先端を解すように舐められる。存在意義のない乳頭はその舌の愛撫によって覚醒し、快感を溜めこむ。そこを吸われ、甘噛みされる度に肉棒が痙攣し、精液を迸らせたがってしまう。確かにこんな場所を愛撫されて善がるなど、羞恥以外の何を感じろというのだろう。
そして胸の先から再び舌の遠征が始まり、脇腹を上から下へと舐め降ろされる。その影と日向の場所を検めるかのように。熱望する玩具を手に入れたばかりの子供のように、矯めつ眇めつ。
魔王の肉体はどこもかしこも敏感で、すべてが一つの性器になってしまったかのようだった。
最後は汗で蒸れた股間に顔を寄せ、王女は囁く。
「わかります、これは敗北の味」
「んごぉっ……ぼ……」
とうとう魔王の意識は焼き切れ、白目を剥き、痙攣していた肉体は糸の切れた操り人形のように絨毯に沈んだ。
「あ、ちょっとやりすぎてしまったかも」
そこでやっと王女は魔王の精髄を手放し、気絶した魔王に気をやらせたのだった。失神しながらも肉体の反応は激しく、腰を頂点に身体が撓り、天を突く怒張から滴った大量の精髄はひくつく腹をべっとりと汚した。それは魔王が生きてきた中で、初めての不遇な絶頂であった。
不快な目覚めが訪れるや否や、魔王はまるでイモでも転がすかのように易々と寝台の上に臥せられた。腕は自由にならず、肩で身体を支えるはめになり、巨大な尻を天に付き出す体勢になってしまう。
「ぐ、うぅ……」
寝台に頬を押し付け、魔王は重々しい息を吐く。
その尻に重量感のある何かが触れる。それは自分でもよくよく知った感触だった。ここまでくれば、後はどうされるのか予想もつくというもの。
「や、やめろ、そんな場所……した事ないんだ、頼む……」
魔王は情けなく哀願してみせた。そうすれば初心な娘が同情心から方針を変えるのではと考えたのと、まあ実際哀願するほど勘弁願いたかったからだ。
「あなた初めてなの? 実はわたしもなの。奇遇ですね」
王女の勃起しきった陽根が魔王の陰に触れる。王女の分泌したぬめった先走りが陰の縁を濡らして――。
「やめろおおおおおおおッ!」
その叫びも虚しく、魔王の尻穴はひとおもいに肉剣に貫かれた。
「んぎい、いぎっ」
慣らされていない肉穴は突然の暴虐に裂け、血の涙を流す。魔王の内腿を一筋流れる血は真新しい純白のリネンに赤い染みをつけた。
本来ならばそこに滴るべきは王女の純潔の証であったはずなのに、散らされたのは己のそれであった。
性器でない場所を性器扱いで凌辱されるなんて、性器を性器扱いして凌辱する事の数倍凶悪だ。
「んご、あ゛、ぐうぅ……」
痛みと情けなさに魔王の目に涙が浮かぶ。自分には氷のように冷たい血が流れていると思っていたのに、傷口も流れる血も火口とそこから流れ出る溶岩のように熱い。
「まあ、血! 血だわ! ごめんなさいね、痛いでしょう」そう言いながらも王女は腰を盛大に動かし始める。「でも、やだ、あん、腰が持っていかれてしまって抜けないわ」
「んひいいいい」
傷口に塩を塗り込まれるような苦痛が襲い掛かる。
「いだっ、おお゛ぉ、やめ、ろ、やめてくれ……ぇ」
ようやっと魔王の情けない泣き声に心動かされたのか、今更ながら王女は言う。「なんだかかわいそうになってきてしまったわ」
寝台脇のサイドチェストの中でネズミでも騒ぐかのような音が響き、内からの衝撃で引き出しが開く。
「何かないかしら」
引き出しに体当たりを食らわせていたのは媚薬やら潤滑油やら、何やら怪しい大振りの瓶で、それらは引き出しを開ける役割を果たした後、無造作に床に投げ出されてしまった。どうやら王女のお眼鏡には敵わなかったらしい。
サイドチェストの中に残ったのは透明の小瓶に入った青い液体だった。
「ポーションね。これを使えばきっと傷も癒えますよ」
それは王女が暴虐に耐えきれなかった時のために用意しておいたものだった。よもや自分が王女の暴虐に耐え切れずに使われる事になろうとは。魔王はとうとう涙で褥を濡らした。
王女はそれを手元に引き寄せると蓋を開け、肉の楔にたらたらと垂らした。そしてポーションに濡れたそれを再び魔王の奥へと突っ込んだ。
「おひっ、ふひい……」
肉棒が魔王の粘膜の傷口に薬液をなすりつける。するとたちどころに傷口が盛り上がり、合わさり、癒えてゆく。その感覚のなんと甘美な事だろう。回復薬で中毒になる者がいるのも頷ける。この快感を知ってしまえば、わざと己を傷つけては回復薬を煽る、そんな正気の沙汰とは思えない事もやる価値はある。
「治ったみたいですね、よかった」
魔王が回復したと見るや、王女はまた遠慮なしに腰を動かし始める。それによってまた肉粘膜のところどころが幽かに傷つく。だがしかしその傷はすぐに肉棒に塗られたポーションによって回復する。
「お゛っ、おんっ、お、ほおぉっ、ォ゛」
傷つけられては治癒する。はらわたの奥底から湧き上がるその快感に魔王は尻を震わせて感じ入る。手を強く握りしめ、耐えきれない快楽を封じ込めようとする。まったく意味をなしてはいなかったが。
「気持ちいいのですか?」
「ふんぅ、おうぅっ、ふおおお」