返事は言葉でなく身体でする事となる。法悦に蕩けきった肉壺は王女の逞しい肉棒を揉みこんでしまう。
「わたしは気持ちいいわ」
肉を打つ乾いた音が耳を弄る。細く生白い腰に尻を叩かれていると思うと頭の血管が破裂しそうになる。怒りではなく、どうやら完全な敗北からくる被虐の喜びでそうなるようだった。
絶対的な力の前に彼は無力だった。弱者は勝者に服従するしかない。己の美学が身に染みて否応もなく自分は敗北したのだと突きつけられる。
上体を寝台に押し付けられ、魔王は涙と涎を枕に垂らす。
「はあぁっ、ああっ、うああ、あ、んあ゛――」
喘ぎ声を撒き散らす魔王の尻の穴はしっかりと王女の肉棒を受け止めていた。魔王のそこはまるで剣と揃いに誂えられた鞘のようにぴたりと王女に沿うようになっていた。精神的な服従の後に肉の服従が訪れたのだ。
「あなた負けたのね」
魔王の広い背がうねり、腰が婀娜に踊った。寝台に魔王の精液がどぷりと零れた。
肉剣を奥に差し入れられる度に腰骨とそれに囲まれた内臓がじんわりと痺れる。雷に打たれるようだった快感は、今や円熟したゆるやかなものに変容していた。
「あうっ、んぉ、おォ……」
何度放出されたか、したか、もうわからない。喘ぎも吐息に混じって温く目は虚ろで、しかししっかりと快感は受け止めて咀嚼していた。
魔王は寝台に仰臥させられて犯されており、その腹は自分が垂らした駄汁で白く汚れていた。奥を突かれる度にゆるく立ち上がった魔王の肉棒は腹に向けて白濁を垂れ流し、六つに隆起する山の頂から、白い奔流が深い渓谷へ向けて流れ落ちてゆく。
こうして汗と精汁に塗れた肉体のなんと淫らで堕落した事だろう。敗北と服従は魔王をただただ惨めにさせるかと思われたが、その雄々しい肉体に艶を与え一段と魅惑的に彩っていた。
「あぁっ……」
王女はしなやかな身体をこわばらせ、か細い声を上げると、魔王の中へ射精した。何度出してもその量は衰えず、魔王は密やかな羨望を抱いてしまう。無尽蔵なその胆力は男であれば誰でも一度は手に入れたいと願うものだ。それを男とも女ともつかない半陰陽の、それもほぼ女と言ってもいいような半水妖が、非力で小賢しい人間ごときが、持ち合わせていようとは。
そんな奴に自分は……。
「あ゛ーっ、あ、あはぁ……」
魔王は諦観の混じった快感の息を吐いた。顔は憂いとまろやかな昂ぶりに蕩けて、これで魔族の長であるなどと言えば一笑に付されてしまいそうだ。
肉襞は水妖の精液でふやけていたが、新鮮なそれをかけられ、また丹念に中に塗り込められると初々しく震えた。
王女は魔王の適度に脂の乗った腹に手をつき、揺れる胸も露わに一心に腰を振っている。堕ちきった魔王にはもはや脅威と調教の余地はないとでも思っているのか、後は己の快感のみを追求せんとしているようだ。
そんな、険しい山の道半ばを駆け足で登っているような王女の切なげな表情を見ていると、魔王もなんというか、王女に対して情のようなものが湧いてきたような気もしないでもない。というか、どうも水妖の天性の色香に魅了されつつあるらしい。水妖は髪の靡き一つで男を堕落させるが、その力は人間の血によっていささか薄まって、実に丁度いい塩梅だ。ありうべからざる者の魔性に溺れて見境を無くし一瞬で命を落とす程ではないが、王女のそれは徐々に身体を冒す毒だった。王女を手に入れたいと、いや、このまま気絶するまで犯され王女の手中に落ちたいと思ってしまう。
思わず魔王は半身を起こし王女の唇に己のそれを重ねた。最初はゆっくりと互いの唇を触れ合わせ、舌で果物のように瑞々しくふっくらとした唇を舐める。相手のそれが緩んできた所で舌を差し入れる。水妖の舌はさぞ手練れであろうと思ったが、しかしよくよく考えてみれば相手はまだ経験のない小娘なのだ、魔王の熟れきった舌の動きに動揺と興奮の様相を見せてくる。
魔王の中で王女の肉剣が一段と鋭さを増し、凌辱が激しくなる事を魔王に期待させるが「結婚してくださるの?」王女の動きはぴたりと止まった。
「何故そんな事を訊く」
「だって、接吻は結婚する相手としかしてはいけないって、お父様が……」
軟禁して半刻もせずに肉の交接に至っているのだ、今更接吻がなんだというのかという話ではあるが「ああ、ああ、結婚する」魔王は快感欲しさに適当にその言葉を受け流した。
「本当? 血痕でなくて、結婚よ」
王女は幼く首を傾げる。流れるように零れる黒髪。
「ああ、結婚したい」
「本当に本当? 血痕死体じゃなくて、結婚したいの?」
「結婚する」
三度目の誓いの後、ねっとりとした、しかし清廉な接吻が降って来た。
「ああ、うれしい……」
魔王の左手の薬指を水が取り巻き、環状になったそれはぴったりと指に吸い付いた。薬指の付け根で薄く細い水流が循環する。
「なんだこれは!」
「結婚指環です」
言質を取られたというわけだ。
「死ぬまで外れませんよ。それでね、あのね、あなたがわたしを裏切る事をなさったら、その指環……」
「大体想像はつくから、それ以上言わなくていい」
魔王は己の薬指が流水の指環によって捩じ切られ、流れ星のようにすっ飛んでいく所を想像しながら王女を制した。相手の口からあまり仔細に語られると萎えそうだった。
「わたし達、これで夫婦ですよ。死ぬまで一緒」
王女は自分の指にも揃いの指環がはまっている所を魔王に見せつけると、行為を再開した。
王女に唇を吸われると肉鞘がぎゅうっと締まり、肉剣をしっかりと感じてしまう。相手もそれを心地よく思っているようで、鼻にかかった声を上げながら一層唇に吸い付いてくる。「ん、あ……すき、あふ、ふぅ、ん……」お世辞にも上手いとは言い難い、子供が母親にするような接吻であったが、その行為をされているという事自体が魔王を悦ばせてしまうのだ。
魔王は太い脚を王女の細い腰に絡ませた。夫婦である事を受け入れ、妻の種付けを快く受け入れるという事を行為で示すために。
それで弾みがついたのか王女は一層深く腰を落として魔王を責め立てる。
「ん、ん゛……んんんん……ッ! ぉお゛――」
ぴたりと閉じた奥の奥をぬるつき淫らな丸みを帯びた先端でこじ開けられ、初々しい場所を荒らされる。それに伴い先までに注ぎ込まれた王女の精髄が奥の奥へと流れ込む。
「あぐ、うぅ、はあぁっ」
引導を渡され、魔王はしっかりと最後の最後まで気をやった。後には肉の充足があった。
強者こそがすべてを得る。そして弱者は強者に屈服するのみ。
この美学は敗北を喫する事のないように己を奮い立たせるためのものでもあったが、こうして甘美な形で強者に支配され服従する事になるのであれば……水妖と人間の混血の半陰陽に手籠めにされて関係を続けていくのも、まあ悪くないのではないかと思うのだった。
こうして魔王は半水妖と契りを交わした。半水妖は王女から王妃へとクラスチェンジし、尽くすべき相手も得てその力は格段に増した。雨季には子供のように庭園を駆けまわり、乾季には雨を呼び、王国軍が攻めて来たとあらばその大軍を濃霧に巻いた。
これ以降、魔王軍は破竹の勢いで人間の軍勢を駆逐してゆくのだが、人間の勇者と湖の水妖が愛し合い、共闘をはじめた事で戦況は大きく揺れ動いた。半水妖はどう逆立ちしたって神通力において水妖に勝てやしないのだ。そして魔王も勇者には敗れる定め。そういうものだ、主人公ではないのだから。そして魔王は己の美学に忠実に、その敗北を受け入れた。
魔王が勇者に心臓を貫かれ、その薬指の指環が水に戻った時、王妃は持てる力のすべてでこの世の破滅を願った。地の底から轟く雷鳴は大水を呼び、この世は水没した。世界には限られた陸地しか残らず、それまでだってさほど発達しているとは言い難かった文明もほぼ断絶し、生き残ったわずかな人間は細々と倹しく生きて行くしかなくなった。だが、それはまた別の話。
水に沈みゆく城の中で、王妃は魔王にその神の永遠の命の半分を与えた。永遠の半分はやはり永遠で、魔王は永久の命を手に入れて生まれ変わった。二人は再び夫婦となり、そして……。
そして魔王と王妃は波の下に沈んだ城で互いの肉体を貪り合ってはうたた寝し、流れる時の尽きるまで共に幸せに暮らしたのだった。
それも結局勝利の一種 完