冥婚 - 2/4

 柔らかなそれで唇を食まれ、そして小さな舌でちろちろと舐められ、徐々にバランタンの硬く閉ざされた花弁が開いてゆく。彼は無骨な両の手をクロードの細い輪郭に沿え、拙く必死にその唇を吸い返した。
「クロード、クロード愛しているっ。ずっと、ずっと、前から……」
 蘇ったのは記憶だけではなく思慕の情もまたそうだった。バランタンは吐息の挟間に涙を零しながら何度も何度も狂おしくその唇を奪う。
 クロードはというと拒むでも嫌がるでもなく、目を微笑みに細めていた。
 バランタンのすべてを包容する嫌悪も欲望も感じさせないその母性的な微笑みは、彼に更なる焦燥感を与え、劣情という獰猛な手負いの獣に火を点けて暴走させるのには十分だった。
 バランタンは接吻したままクロードを押し倒すと、鮮血のように赤く軽やかなドレスを引き裂いた。
 そして華奢で滑らかな肌に荒々しく手を這わせる。手をかければすぐにでもへし折れてしまいそうな首、かすかに浮き出た鎖骨、小ぶりな胸、ほっそりした腰、そして秘められた下腹部に。
 また光と消えるというのならば、穢して堕落させて自分という陰に縫い付けてやろうというのだった。
 バランタンは真っ白で未だ誰にも犯された事のないような首筋に顔を埋め、熱で炙られ垂れた赤い封蝋のような所有の印を散らす。
「こわいわ」
 本当に恐れているのか甚だ疑問に思えるような抑揚のない声に、少しばかりの恐怖と後悔が去来する。しかしもう手をかけてしまったからには最後までやり遂げなければならないのだ。
 バランタンはアーミン毛皮の裏地のついた青い外套と仕立てのよい上衣を脱ぎ棄て、クロードに覆いかぶさる。
 クロードの白亜のようなしっとりと冷たい肌は、彼の燃える巌のような肌に吸い着くかのよう。
 バランタンは感極まり、下衣を寛げそれに挑みかかった。
「こわいわ」
 先と寸分変わらぬ調子で発せられたその声は、男との激しい交接に呑まれて消えた。
 
 
 バランタンは何度も荒々しくクロードを犯し、引き裂き、その神性を己の穢れで塗りつぶした。
 それでもクロードはただの女にすらならない。勿論彼を残して消えた無知蒙昧な妻達にさえ。彼を忌み嫌って拒んだ母親にさえ。そうバランタンには思えたのだ。
「すまないクロード。すまない……」
 バランタンは男の欲望に塗れ、自分の隣にぐったりと横たわっているそれを抱きよせて、心からの謝罪を吐き出した。
 精神的な法悦感などはなく、ただ計り知れない虚無感と後悔だけがあった。
「いいの。あなたが望んだ事ですもの」
 クロードはバランタンの頬に手を置いて微笑んだ。
 そして背に回されたバランタンの手をゆっくりと解くと、引き裂かれたドレスを手繰り寄せて立ち上がった。
「あなたが打ちひしがれた時にまた来るわ」
 バランタンはおぼろげに思いだす。妻を失う度にその悲しみと怒りをクロードにぶつけて凌辱した事を。
 そして事後の余韻のうちにそれが消えてしまう事を。
「行かないでくれ」
 バランタンはクロードの手を取って唇を押しあてた。そして足下に縋り付き跼る。
「こんな酷い事をして懇願するなどおかしいと思うだろうが」
「これだけではだめなの?」
「私は寂しいのだ。あなた以外を唯一の伴侶としたくない。だから」
 クロードがバランタンの横に座り、落涙しながら請い続ける彼を優しく押し倒す。
 彼の大きな身体はいともたやすく床に倒れ、辺りの白百合が舞った。
「クロード」
 それは微笑を浮かべたまま何も言わず、バランタンの悍馬のような太い脚を広げた。そしてその間に割って入り、彼を見下ろす。
 息絶えた珊瑚のように白くほっそりとした指がバランタンの唇をなぞる。彼は誘うように口を開き、それを舐めた。
 ぴちゃぴちゃと浅ましい音が立ちバランタンは羞恥心を抱くが、クロードが嬉しそうに目を細めている事に気づくや、彼はクロードを悦ばせるためにもっと深くまで指を受け入れて唾液を絡めた。
 桜貝のような小さな爪の間に舌を差し入れ、指の腹を包みこみ、尖らせた先端で股を突く。時折長い中指に舌の付け根を弄られてえずくが、それでも指を吐き出す事無くバランタンは奉仕を続けた。
 指がバランタンの唾液でどろどろになると、クロードは彼の口内から指を引き抜いた。
 てらてらとてり光る指はバランタンの身体の中心をなぞって下に降りてゆく。欝蒼とした鬚に包まれた顎、震える喉、切り立った鎖骨と鎖骨の間、盛り上がった胸筋の谷間、腹筋の溝、先程までクロードの中に埋められて暴虐の限りを尽した雄々しい屹立、跡継ぎを孕ませんとする子種の詰まった睾丸、そして。
「ああ、そんな所っ」
 バランタンの身体が震えるのに呼応するように、花弁を閉じた百合が震える。
 肛門の入口をクロードの指が掠めねっとりとした唾液を塗りつけていた。
「は、くうぁっ」
 窄まりを中指の腹で優しく広げられ、浅い部分の皺に自身の欲情した涎を塗りつけられる。その唾液の滑りを借りて中指が徐々に奥へと侵入してくる。
「ふうぅ、んお、むう」
 バランタンは不快感に眉を顰めて息むが、不思議と拒もうという気にはならない。
 それどころか中で指を腹側に曲げられるや、かっとはらわたが熱くなり、下半身が甘く痺れて妙な声を上げてしまう始末。
「むあ、あああっ、あぐ、んあぁ」
「はじめてなのに、とっても善さそう」
 低く野太い喘ぎの中に愉悦を見て取ったクロードは、含み笑いを漏らしながらバランタンの性器の裏側を擦りあげ刺激する。
「あ゛っ、おお、っお゛……な、あ、むぅ、そ、んな……っ!?」
 バランタンは情けなく喘ぎながら目を白黒させる。
 尻の未知の刺激が性器に芯を通して持ち上げていく事が信じられないのだ。
 しかし善いのは確かだった。ともすれば自分で女を責め抜くよりも。
 ねちっ、ねちゅ……。
 その上わざと音をたてられると覿面だった。
「はああ、んあ、おっ……んむうう、ふぅう」
 女のような、あまりにも淫らな声が漏れる事が恥ずかしくてバランタンは指を噛んで声を封じる。もう一方の腕は暴れる己の腹に回してそれを鎮めんと抑え付けていた。
「敏感だし、感度もいいのね。思ったとおり」
 胸を辿り、クロードの指がバランタンの噛みしめられた指に触れる。
「声を出してもいいのよ、聞いているのはわたくしだけ。他には誰も」
「くあ、ああ……」
 バランタンの唇が緩慢に開き、力が抜けきったように両の手がだらりと床に垂れた。
「すきよ、バランタン。すき」
 耳元で囁かれ、バランタンの鼓動が一層激しくなる。
 いつの間にか指は三本に増やされて、凝り固まった入口を緩め、震える襞を解して中をしっかりと慰めていた。
「あなたのよだれ、たくさん塗っておくわ」
 ちゅぽ、くぽぽ、ぬぽっ。
 指がゆっくりと抜き差しされ、中がこなれてゆく。
 中を責められながら、空いている手では肉体を愛撫される。
「立派になったのね。あんなに頼りなげで小さかったのに」
 唇で胸や腹を啄まれ、バランタンがそうしたように痕をつけられる。けれど彼がしたように暴力的なものではなく、絡め取るような、性感を高めるためのようなそれだった。
「はあ、ぁ、んああ」
 苦痛と紛うような快感に引き攣っていた目がとろんと緩み、唇の端から粘度の高い唾液がたらたらと垂れる。男性器が凝り固まって透明な粘液を流すのとは対照的に、四肢は次第に弛緩してきて法悦の訪れが近かった。
 思慕するものの手によって登り詰めさせられる事のなんと善い事だろう。
「ん、んん、クロード、私はもう……っは、はぁあ」
「最後まで来たのね。わかったわ」
 そして突然、先ほど凶悪な快楽をもたらした部分をクロードの指に激しく押し上げられる。
「っひ、くおおぉっ!?」
 予期せぬ凶暴な奔流にバランタンは身体中の筋肉を痙攣させ絶頂した。
 しかしそれは吐精を伴わず、男性器は震えて透明な汁をまき散らすだけだった。確かに登り詰めたはずだというのに。
「ふ、う、なに、何が……?」
 バランタンは未だ痛い程の射精感を訴える性器を持て余しながら半身を起こした。虚ろな目に映るのは未だに浅ましく汁を吐き出す怒張だった。
「慣れ親しんだ絶頂がなかったのね、可哀そうに」
 そう言うクロードの表情には憐れみというよりも悦びが広がっていた。
「今度はきちんと男性的な絶頂を迎えましょう。前もきちんと出さないと殿方は辛いものね」
 ごつっ、ごしゅっ、ぐぽ、ぐぽぉ!
 埋められた指が熱い鉄を打つ鎚のように、熟れて熱い性器の裏側を苛烈に叩く。
 頭の中で激しく火花が飛び、狂ったように腰が跳ねる。
「ぐぎ、いぎ、ぎいいいッ!?」
 折れんばかりに背を反らして歯を食いしばり、半ば白目をむく。垂れた涎は髭を浅ましく濡らして輝かせる。まるで返り血を浴びた時のように。
 ごりゅっ!
 これで最後とばかりに指でその場所を堀りこまれ、バランタンはとうとう二度目の絶頂を遂げた。
「おごっ、ぎ――ッ!」
 ぶしゅっ!
 バランタンの性器の先端から勢いよく液体が迸る。
「あら……あら。子供のようだわ」
 しかしそれは精液ではなく黄色く濁った不浄の物で、腹につかんばかりに勃起した性器の先端から震える腹筋にたっぷりと注がれていく。
「ひ、止まらな、っあ、むあああ、見るな、見ないでくれぇッ!」
 バランタンは眉根を寄せ、目を堅く瞑りながら真っ赤な頭を激しく横に振る。
 一度出てしまったものを堰き止める事など不可能で、不浄の汁がぶちゃぶちゃと肉体を穢す。
「ああ、あ、なんて、なんて事を……」
 やっと勢いが弱まりその奔流が収まると、バランタンはあまりの情けなさと羞恥に涙を流しながらうわ言のように呟いた。
「気にしないで、あなた本当に昔と変わらないのね。おもらしだなんて」
「言うな……っあぐ、ふおぉ」
 クロードの言葉は新たな甘美な責め苦となって、バランタンはやっと射精した。勢いも弱く、そして申し分程度の量を。
「よかった、出たのね」
 バランタンの尻からクロードの指が引き抜かれるが、別れを惜しむかのように勝手に肉襞が指に縋ってしまう。
「んむぅっ」
 その動きはまたバランタンの射精を促し、萎えかかった性器がとろりと白い涙を流す。