冥婚 - 3/4

「なぜ、何故こんな事」
 事後の荒い息を吐きながら、紅潮したバランタンは見下ろしてくるクロードの視線から逃げるように顔を背ける。けれどその程度では高みの眼差しからは逃れられない。
「あなたが望んだ事だわ」
 クロードが引き千切られたドレスでバランタンの身体を拭きながら言う。
「あなたが望んだからわたくしが現れたのと同じ」
「望んで、私が、そんな……こんな事を」
 バランタンの顎が捕らえられ、唇と吐息を奪われる。
 舌を擦られ、唾液を流し込まれ、バランタンは酩酊し始める。まるで強力な媚薬でも飲まされたかのように身体がぼんやりと痺れてくる。
「ふう、ん、んん……」
 細めた眼の奥で彼の深淵のような瞳は大きく膨れ、歓喜に潤んで誘うように妖しく煌き、鼻に抜けるような甘い息が漏れる。
 その先など知らないのに、その先を求めて彼は腰を持ち上げてそれの腰に脚を絡ませた。
「きれ、い、奇麗だ……」
 クロードの顔を見てバランタンはとても優しい吐息を漏らした。
 かつてそれは自身をとても醜いと卑下して、その朽ち果てた紫色の肥大した顔を長い枯れ枝のような髪で覆っていた。
 しかしバランタンは少しもクロードを醜いと思った事はなかった。
 今は大分様変わりしてしまっているが、かつての面影は残っている。そして以前よりいやましに美しい。
「そうね、ここすごく綺麗だわ。少し直してくれたのね」
 百合をモチーフにしたレリーフの彫られたドーム状の天井や、教会の荘厳な窓のようなアーチを描く窓辺に目をやり、クロードは感嘆した。
「嬉しいわ、気にかけてくれていたような気がして」
「違うあなたの事だ」
「同じ事だわ。あなたが城を修繕して都市を整理してくれたから」
 綺麗になったの、と彼女は言うが、愛おしさに爆ぜたバランタンの思考は朝靄に蕩けてただ煙に巻かれただけだった。
「わたくしの力はあなたによってすべて取り戻された」
「ああ、ああ、私はあなたとこのまま一緒にいたい。欲しいのだ、妻として。あなた以外は考えられない」
 バランタンはクロードに縋りついた。
「あなたがそうしたいと望むなら」
 クロードはバランタンを冷たい手で熱い床に押しつける。
「わたくしあなたの妻になります」
 その指が彼の尻たぶを割り、ひくつく穴を晒す。
「だから必要だわ、夫婦の契りが。あなたはお厭かもしれないけれど」
 バランタンの股の間に割り込んだクロードが腰を反らした。そこには逞しく屹立する雄蕊があって、彼の萎えかけた性器を鼓舞するように擦っていた。
 驚きはしたが、バランタンはそれを拒むつもりはなかった。
「私はあなたの夫となりたい。そのためなら何でもする」
 その証明として彼が腰を振ると、逞しい肉同士が絡み合い互いの体液を交換し合う。
「嬉しいわ、そうおっしゃってくださるなんて」
「もう一度私を孤独から救ってほしい。いつでも私を気にかけて寄り添ってくれていたのはあなただけだった」
 クロードの指がバランタンの雌蘂の入り口を広げる。
「逃げるのでなく父と対峙しろと叱咤してくれたのも」
 女としてクロードを受け入れなければならないという恐怖を紛らわせるように、バランタンは言葉を垂れ流す。
「情けない事に止めを刺すには至らなかった私の代わりに、窓を崩して父を落としてくれたのも」
 クロードの雄蕊の先端がバランタンの雌蘂に沿わされる。
「あなただけだ。あなただけ」
「あなたが先にわたくしを救ってくださったの。そしてまたわたくしの番ね」
 クロードが腰を矯める。
「ただ優しく情け深くするだけでなかったあなたに私の……!」
 唯一のつがいとなって欲しい。
 ぬじゅ、と濡れた音を立てながらクロードのそれが堅牢な入口を破る。
「あぐ、く、んお、きつ、い……」
 攻撃を防ごうとバランタンの身体が全力で力んで強張る。
「はぅ、うう、こわい、ぼく、ぁ、クロード、クロードこわい、たすけて、たすけ、てぇ」
 すべて委ねようと決めたというのに、意識が退行し精神的にも防衛を果たそうと試みてしまう。
「そうね、これ大きすぎるわ。でもわたくしが決めた事ではないから仕方ないの。ね、ゆっくり息を吐いて力を緩めて」
 クロードは伸ばされた幼子の手を取って自身の胸に当てた。
「んっ、ふうぅ、ふほ、あ、んくぅう……」
 バランタンの吐息が漏れるに従って壊れんばかりに痙攣していた腹筋が自然な蠢きを取り戻す。
「ふふ、いい子、いい子」
 そして徐々にクロードの雄蘂をはらわたに呑み込んでいき、とうとうお互いの腰が触れあった。
 むじゅ……つぷ。
「全部入ったわ。見て」
「あぅ、あ」
 あまりに大きくて、喉元まで串刺しにされているかのような苦痛にバランタンは喘いだ。
 汗で鎧のような肉体は輝き、浅い息にひくひくと震えている。
 バランタンは頭を持ち上げて蕩けた目で己の下半身を見た。
「んっ、うそだ、こんな、なぜ……っ」
 彼は驚き生唾を飲む。
 野太い肉の雄蘂は彼の肉雌蘂をぐっぽりと広げ、根本までしかと埋まっていた。
 バランタンの雌蘂の入り口はひくひくと震えて貞操を守りきれなかった事を悔いているようでもあり、一方でその陵辱に屈服し悦んでいるようでもあった。
「あ、くおお……お」
 みっちりとはまった雄蘂が脈動し、本当にすべて受け入れてしまったのだと知る。
「すごくきつくわたくしを包んでくれるのね」
 背徳の愉悦にうねる身体に唇を寄せてクロードは囁いた。
 どうしてそんなに逞しい男性器があるのか、どうして自分がそれを尻に受け入れているのか、そしてどうしてそれがこんなにも心地いいのか。
 バランタンは見上げてそれに聞こうとしたが、口を開けば漏れるのは手負いの獣のような荒い息ばかり。
 そんなバランタンの心を知ってか、クロードは凄絶な笑みを浮かべながら答えた。
「あなたがそう望んだから。わたくしあなたの望む通りの姿で、望む通りの事をするの」
 クロードに逞しい男性器があるのも、彼の尻の中を犯すのも、彼が心地いいのも、すべてバランタンの望んだ事。
 クロードはバランタンの腰をしかと掴み、律動を始めた。
 まだ慣れきっていない柔らかな肉襞をぐちゅぐちゅと擦られ、性器の裏側を殴るように叩かれて、またバランタンの男根が漲ってくる。
 バランタンは腰を振りたくるクロードをかき抱いた。
「あ、ああ、クロード、クロード愛している……っ」
 雌蘂からとろりと滴った処女血が床の純白の花弁に斑をつけた。
 それを切掛けとして辺りのマドンナリリーが一斉に花開き、震える黄色い蕊を晒す。
 噎せ返る程に濃い香りが辺りに充満し、いやましにバランタンを狂わせた。
「ん、すきよ、すき」
 ぐちゅ、ぐぽっ、ぐぽっ……。
 淫らな音を立ててまぐわいは激しくなる。
「くほおぉ、おお、あむ、んん」
 若く逞しい雄蘂に不慣れな戸惑う肉襞を優しく懐柔されてゆく事の心地よさといったら、この上のないものだった。
「ねえ、すごくいやらしく動いているの、わかるかしら」
 善い場所を捏ねられ擦られ嬲り倒され、性の悦びを知らない無垢なはらわたが淫らな肉壺に変えられてゆく。
 入れられる時には一心に拒み、抜かれる時にはしどけなく必死に縋り付く。そんなあまりにも卑猥な己を恥じてどうにか止めようと下腹部に力を入れるが、一層自分の肉壺の動きとクロードを感じてしまい無意味どころか逆効果だった。
 今となっては性器の裏側ばかりではなく竿で擦られる肉襞すべてが性感帯だった。
「ふほ、嗚呼、ああ、ぁはあぁ、くろーど、ぉ……」
 バランタンは唾液に塗れた肉厚な舌を突き出し、どろどろとだらしなく涎を垂らす。言葉は舌っ足らずでまるで幼子だった。
 常ならば冷酷な光を帯びた双眸は止め処なく流れる清らかな涙で濡れて純朴に輝く。
「痛いの? どうして泣いているの」
 クロードが動きを止めて顔を覗き込むと、バランタンはすべて捧げるかのように瞑目した。
「違……ぁ、あ、嬉し、くてっ」
「なにが」
「こうして、一つに、なれた事が……」
「うふ、かわいい」
 閉じられた震える瞼にそれは口づけを落とした。
 そして腰の動きを再開させる。
「うあ、あ、むううっ、ぅ」
 バランタンの脚がクロードの腰を抱え込み、肉体は快感を求めて淫らに律動する。
 肉壺に雄蘂の潤滑液を擦り込まれ、しとどに濡らされ奥まで突かれる。
 性器の裏側を小突かれる度に先走りが弾けて互いの肌を汚した。
 バランタンの絶頂は近く、堅く目を閉じて顔を顰める。
 肉襞はやっと自らクロードを歓迎し、貪欲に邪淫に耽るようになっていた。
「ああ! ああッ! 善い、クロードっ、善いぃッ! くあ、いく、あ、あああ!」
 彼の腰にぎゅうとクロードの指が沈み、より一層奥に雄蘂を押し込まれる。
 ぐちゅぷ。
 性感帯をぬるついた先端で押し上げられ、竿で擦りあげられ、根本で広げられ、バランタンはとうとう気をやった。
「んご、お゛、おおおほおおぉッ!」
 低い慟哭が地を這う。
 肉襞が精を搾り取るかのように痙攣し、性器が勢いよく欲液を吐き出した。
 本当は暴走する快感を抑えるためにクロードを力一杯抱きしめたかったが、そうすれば壊してしまいそうだった。
 その代わりに爪が床を引っかく。
 柔らかな大理石は浅く傷つき、同じ軌跡がクロードの背に浮かぶ。まるで聖痕のように。
「ああっ」
 甘美な痛みにクロードがバランタンの上で背を反らすと、六本の激しい情交の証から血が一筋ゆっくりと垂れ、白い肌にしかと生を刻みつけた。
「あ、ん、バランタン、あ……」
 絶頂の瞬間のバランタンの締め付けが善かったのか、それとも彼を気遣い合わせたのか、クロードも小さく喘いで彼の中で遂情した。
 どぷっ……。
「んあ゛、っあ、ふほお……」
 クロードの契りの証がバランタンの肉壺に吹きかけられる。それは奥の奥まで彼を犯し、独占し、支配し尽くす。
 狂ったように咲いている百合は、天空のアーチのように撓んだ花弁からとろりと朝露を垂らし、床をしっとりと濡らした。まるでクロードの絶頂と共鳴するかのように。
 どちらからともなく唇を合わせて浅く接吻をすると、二人はぐったりと全身の力を抜いた。