娘の欲に濡れて滾った怒張が素肌を擦って、思わずみだりがましい吐息が漏れる。腹の中が疼いて切なく、欲しくて堪らなかった。そんな体にされてしまって憤懣やる方ない。許されるのならば尻を突き出し、早くしろと怒声を浴びせ、思うさま喘ぎ、腰を振りたくりたかった。
しかしそれは己の矜持が許さない。かつての敵国の、それも年端も行かぬ小娘にそんな媚態を示すなど。
「入れてもいい?」
「俺の試合の時に他の予定を入れるな」
だから素直に許可を出してはやれないのだ。しかし女の方はそんな態度をむしろ揶揄の種にする。
「そういう入れるじゃなくて。将軍て、わたしの事大好きだよね」
口の端から抜ける腑抜けた笑いがセジェルの首筋を逆撫でして情動を煽る。
「莫迦な事を、貴様なぞ」言葉で拒絶するのは簡単だ。しかし何故だか決定的な嫌悪、憎悪の語句は口の端まで上ってはこない。「好きではない」
はいはい、とあっけらかんと流してヴィットリアはセジェルの尻を鷲掴んで大きく開く。
「ああ……」
淡い喘ぎにどうしようもない悦びが滲みかけ、慌てて声色に拒絶と諦観を混ぜる。
複雑に組み上がった臓物の端に、硬く、しかし滑らかな肉槍の先端が触れて思わず欲が逸って腰が揺らめきそうになる。床に下腹を押し付け堪えるも、床と自身の腹に押し潰される陰茎は再び兆して圧迫を悦んだ。そして狙い定められた淫穴は脈動を抑えられない。
「っう、ぉ……」
肉槍はぬるりとセジェルの肉体を割って内部を侵す。腰骨に怖気が疾り、全身がぶるりと震えるが、それは愉悦の先駈であり不快さはない。その瞬間は己の矜持さえ忘れる。やっとだ、という気持ちが理性を駆逐する。
「お……っ、ほぉ゛……」
鋒が柔になった肉環をじわりと拡げ、熟した粘膜を擦り付けながらゆっくりと奥を求める感覚に頭の中が熱くなり、感嘆にも似た喘ぎが漏れる。まるで酩酊だ。
槍身がすべて収まり、とろりと溢れるヴィットリアの心地よさげな吐息。背にかかる柔らかな重み。肩口をくすぐる波打つ豊髪。女の気配というものはそれだけで男を昂らせる何かの魔性がある。その魔性に蝕まれ、セジェルの内側は必死に雄々しいそれを求めて締めつける。それどころか、更に奥へと誘うような動きすら示す。
「好きなくせに、こういう事」
それ故に尚更淫虐を加えられるとも知らず、いや薄々分かってはいるが、セジェルは首を否定の意に強く振る。
捧げ上げられた尻の下、睾丸の裏から続く筋を細い指が辿り、行き着いた会陰を手荒に捏ね回す。
「が、ぁっ」
快感の芽が無理矢理破裂させられ、陰茎から再び精液が飛沫く。床についた膝が情けなく震える。それでも手心が加えられる事はなく、あえなく始められる抜き差し。徹底して中を暴かれる。
「ひッ、い゛ッ、ぉ……っ、おぉ゛ぉ゛」
絶頂に狂ってきつく締まる肉環を太竿が無理矢理擦過し押し拡げる。時折手慰みとばかりに肉棒を扱かれ通り過ぎた快楽を無理矢理引きずり戻してくる。身体を捩れば手首に革紐が食い込む。不自由な身が今は酷く甘美に感じられる。狂気だ。
数度の浅い律動を経て触れ合う肌と肌。ヴィットリアのすべてを飲み込まされて濃厚な被制圧の悦びが満ちる。硬く重たい肉の柱によい場所を押し潰され、全身にじわりと快感が沁み渡る。先までの暴力的なそれとは違った、緩やかな絶頂だった。
セジェルは努めて息を細く吐き出す。そうしなければ吐息と共に充足感による鮮やかな喘ぎが漏れ出てしまいそうだったからだ。
「っう、ふぅ……っ、は、ぁっ」
セジェルの逸る肉体は自身に深く突き立てられ所有を主張する肉杭に屈服しすぐにでも淫らに貪りつこうとするが、かけらほど残った理性でそれを押し留める。
「さっきみたいにきつく締め付けてくれてもいいけど、今みたいに耐えている声と体も結構好きなのよね」
「趣味の悪い……品性下劣な……ッ、ローマ人めが……ぁ」
そんな悪態も、堪え難い悦びに小刻みに震えていては形無しだ。
「ほら、もっと頑張って」
矯められた腰が勢いよく放たれた矢のように打ち付けられて奥深くを穿つ。
「何を……ぉ、おお゛——ッ」罵倒のために吐き出した言葉は途中で潰えて情けない嬌声に塗り変わる。陰茎の裏側を太竿で擦り潰される快感もさることながら、腑の果てを亀頭で打擲されるのもまた甚大な快感を植え付ける。「ン……っ、あぁ、あ……ぅ」精悍な顔は淫らに蕩ける。
「弱いわねえ。闘技場では強いのに」
毒のように体内を巡る快感に伸びたり縮んだりするセジェルの背を撫でながらヴィットリアが笑う。まるで飼い猫を弄うような軽い愛撫には娘がセジェルをどう思っているかが如実に滲み出ている。
「自分の上官がこんなだって、ルシャリオくん、知っているの?」
知っているわけがないし知られたくもなかった。年端もいかぬ半陰陽にいいように物にされ、それだけならまだしも肉体はそれを望んでいるなどと。
実際、硬い尻に細い腰を強く打ちつけられ、臓腑を怒張で掻き回されるのは悦楽以外の何物でもなかった。そして堂々たる体躯を窮屈に歪ませる拘束からもたらされるのは甘美な被支配の歓喜だ。
本気を出さずとも目にも止まらぬ早さで易々と捻り潰せるような女に組み敷かれ、委ねるしかない状況には矜持を焼灼されるような燦然とした暗い悦びがある。
もはや体は調伏され、心は隷属しきっていた。
「知ったら彼、卒倒しそうよね」言っちゃおうか、と耳元で囁く声は稚い悪戯心に跳ねて軽やかだが、その動きは重く執拗だ。ルシャリオがどうとか言う前にセジェル自身が卒倒しそうだった。
「好きにしろ……ッ、そうやってふざけて、人の気を弄んで、くだらない一生を送ればいい……」
セジェルの表情と声が切なく歪むのは過ぎたる快楽のせいだけではなかった。
対するヴィットリアの声色は唐突に冴え冴えと冷たく、今までの砕けた態度はなりをひそめる。
「いつも自分ばかりが泥を被っている風な言動するけれどね、将軍、あなたは傲慢で勝手だわ」
セジェルの憤懣満ちたる返答など聞くつもりはないようで、ヴィットリアは男の太い腰に腕を回して猛攻を叩き込む。
浅黒い肌と白い肌がぶつかり合い、軟弱な肉環を強靭な楔が押し広げ奥津城を制圧する毎に、セジェルの喉から低く濡れた悲鳴が押し出される。
「ぉっ、が、ぁ゛……ッ、うぁ、おぉ゛ッ!」
悲鳴の名残に開け放たれたままの唇からは嚥下を忘れた唾液が滴る。ともすれば拷問にも似た肉悦に瞳は眼裏に逃げて視界は歪む。
「ちょっと順を追ってよく考えてみてよ。あなたが出たいと言うからわたしは馬車を用立てた。そのためにわたしはくだらない取引に絡め取られて試合を見られなかった。それをあなたは不当に咎めた。ね、誰がどうおかしいかわかった?」
不機嫌か、不愉快か、とにかく昼間に耐えなければならなかった不満をすべてぶつけてきているかのような苛烈な肛虐が襲い来る。
腹の底を混ぜ返され、練り込むような動きを繰り返されると快感というには鮮烈すぎる感覚が神経を焼き払いにかかる。
女の柔らかい胸が背に密着して、きつく抱きしめられる身体。互いの果ての兆候を察知しても、身構えるどころか服従が全身を貫くだけだ。
「ふ……ッ、う、あぁ……!」
悶えと懊悩が打ち寄せて性感を打ちのめす。
吹きかけられる白濁が肉粘膜を灼き、内側から侵された屈強な肉体は悩ましく蠢き、果てる。
「あ゛、っ、はへぁッ、ぐっ、ぅん……」
上半身の力は抜けて、だらりと地に延びる。尻だけが浅ましく揺らめきながら愉悦を追ってヴィットリアの腰に密着する。
「はぁッ、んぉ、あ゛……ッ」
溢れる吐息は生ぬるく、嬌声ではないと偽る気力も余裕もない。
「もう、やめろ……っ」
腹の底を浚う粘つきに矜持まで塗り潰されて情けなく哀願するしかない。
「将軍は言ってる事とやってる事がちぐはぐなのよ。やめて欲しい態度には見えないからやめないからね」
腰の打ち付けは速く激しく、濡れた肌が打たれる度に淫らな肉の音が響く。
床に押し付けられた身体に逃げ場はなく、縛り付けられた腕では何かに縋る事もできず、ただただ快楽に追い詰められてゆく。
「やっぱり楽しいのは、将軍とこういう事してる時と」あなたが戦ってる姿を見てる時だな、と独り言のように言うヴィットリア。
「あ……」セジェルは思わず甘言を吐きそうになる唇を噛み締める。「……ッ、う」
今日はどういうわけか身も心も不思議に蕩けやすい。油断すれば心にもない甘い言葉を吐いてしまいそうだ。
「愛してると言ってくれたらお金あげる」
セジェルの気を知ってか知らずか、おそらく薄々は分かっていての言葉。何から何まで気に入らなかった。
「品性下劣な、女……ッ、あ、いして……る、愛しているっ、好きだ、ネイト……」
「他人の名前を呼ぶのは流石にマナー違反でしょ」
「人ではない」神である。戦と勝利の荒ぶる女神だ。「……ヴィットリア」
「わたしの名前初めて呼んだね。そういうのって興奮する」あげる、お金、いっぱい、と言われるが、まったくそんな物が欲しいわけではない。
力の萎えた腰を唐突に引き寄せられ、押し寄せるのは全身が瓦解せんばかりの激甚な快楽。暴かんばかりに奥津城を殴られ、狙いを定めるかのように捏ね回される。
「お゛っ、ぉ、お……あぁ……っ」
孕まされる。
愚かな想像が灯り、そして燃え上がる。
肉壁を引き摺られ、腑が奇妙にうねる。
「孕む……ぅっ」
「そうなっちゃえ」
いつもなら、そんなわけない、と笑い飛ばされる所だが、今回に限っては何故かヴィットリアも妙な気を起こしてくる。
「はっ、やめ……っろ、ぉ゛、も、出すな……ッ」
密着したまま中を掻き回すように動かれると覿面に効く。切ない疼きが爆発的に快感に置き換わる。お陰で言葉に抵抗と拒絶を含めるいとまもない。というか、まともな言葉にならない。
「くっ、ん゛ォ゛ぉ……ッ、お、ほォお」
セジェルは床に額を擦り付けてただ穢れた啼き声を漏らすだけの低俗な生き物に成り果てる。
汗ばんだ後頭部と頸を舐められ、肌身の神経が戦慄し、腰に甘い衝撃が差し込む。尻の穴が堪えようもなくぎゅうと締まり、相手を悦ばせてしまう。耳元で、出すよ、妊娠してね、と囁かれて脳髄が卑猥な色一色に塗れる。
「はー……ッ、ぁ゛、あぁぁ……、い゛っ、ぉ゛」
ヴィットリアの怒張が吐精に脈打つ度に肉環が拡げられ愉悦が奔る。情けなく痙攣する腰の奥深くに精液を浴びせかけられて粘膜がふやけていくような感覚に陥る。
「ぉ゛ふ、ぅッ、ん゛——」
地についた膝から下をピンと伸ばし、絶頂に漲る筋肉。萎えきっているはずの肉棒から何かが力無く漏れる。失禁の感覚とは違う。ただ腰から何かが抜けてゆく開放感だけがある。
「すっごい、潮吹いてる。女の子みたい」
セジェルの雄の象徴は今やその役目を放棄して、子種ではなく快楽の証を垂れ流していた。
「う、ぁ、そんな……いゃ、だ、ぁ……」
雌に堕とされ、子供のように嘆くしかない。そんなセジェルの痴態が半陰陽の欲を掻き立てて淫らな懲罰は終わらじ。
後ろから肩を押さえつけられ無様に地に縫い止められ、容赦なく腰を打ちつけ掘り抜かれる。
「お゛ぉォ゛お、ッ、ぐっ、あっ、あぁ゛ああ」
肉粘膜に先に出された粘液を擦り込まれ、腑に味を刻まれる。もはや膝を地に突き立てる精根は尽き果て屈する。床に無様に延びた男にかけられる慈悲はなく、女の薄い腰が筋肉質な尻を叩きつける。
床に額を擦り付けるが痛みはない。熱と快感だけが神経を走り去る。
女の、しかも年端もいかぬ小娘のくせに行為は執拗で重たい。そして有り余る精力、濃さ。
奥を殴りつけられる度に眼裏に火花が散り脳の奥深くまで焼け爛れる。雌にされただとか、孕んでしまうだとか、もはやそんな妄念さえも燃え尽きた。残るはただ刹那の肉悦だけ。
注がれた精液を激しく攪拌され、その動きに追い出された精液が腑抜けた肛門を逆流し、会陰を伝って流れ落ちる。そしてセジェルが吐きに吐いた駄汁と混ざり合う。
肌が隙間なく密着し、一際強くなる打ち付け。余裕のなさそうな吐息がセジェルの首筋を撫で、次いで唇が押しつけられる。限界だった。
身に湧くそれが、もはや愛おしさなのか憎悪なのか快感なのか、なにも分かりはしなかった。
「は、う、ぐっ、ぅ、お゛ッッ、お——」
凄絶なまでに追い上げられた絶頂の先。内臓が腐り果てて溶け落ちるかのようなグロテスクな後快楽がセジェルの意識を押し流した。
怒涛が去って、鎮静が肌身に満ちる。
セジェルは縛を己が純粋な力だけで引き千切り身を起こす。ヴィットリアの方はだらだらと寝そべったままで、髪で土気の多い床を掃く。
「今日はつまらなかったけど、最後は将軍と遊べてよかった」
「遊びでこんな仕打ちを受けてたまるか」
「わたしのやる事なんてほとんど遊びだよ」
こましゃくれた表情が憎い。もう少し慈愛に満ちて慎ましやかだったなら、と思わない事もないが。
「将軍はルシャリオ君と一緒に戦車乗れて楽しかった?」
この忌まわしき守銭奴ではなくば、セジェルを奴隷市場より取り立てて、親兄弟に頭を下げてまで戦車に乗せられはしなかっただろう。
「ああ、まあ……楽しくなかったと言えば嘘だろうな」
おそらく——やっとセジェルは認める——ヴィットリアに抱く複雑怪奇な感情は好意であろう。小癪でもあり甘美だ。これからはこの感情にも対処していかなければならない。
「じゃあ、頑張ってレテラウスお兄様にお金返してね」
「自分で返せ」好意があってもそこまでしてやる謂れはない。
「借用書の名義、将軍の名前になってる」
なってるんじゃなくて、したんだろ! そう叫ぶより早く手が出て、セジェルはヴィットリアを投げ飛ばしていた。
潰れた蛙のような声をあげて床に延びる娘を冷淡に見下ろし、セジェルは吠える。
「認めん!」
やはり好意など幻想であろう。
呪禍と幻想 終