大司教のいとも絢爛なる妙愛 - 3/5

「ほおぉおぉ、おごっ、んおおお……!」
 無理矢理壁に注ぎ口をぶつけられ、擦られ、酒の効果と相まって大司教の中は徐々にほぐれてゆく。
「くほ、お、ぉぉ……」
 とうとう一瓶空けると、大司教はぐったりと卓に身体を預けてゆるく目を閉じた。熱い息を吐きながら、意識を半分飛ばす。
「猊下、やっと落ち着かれましたか」
 ぎゅぽ、と瓶を抜かれ、腰骨まで持っていかれそうな強烈な感覚に腰が踊る。
 そしてその勢いで大司教の下の口から勢いよくワインが迸った。
「おごっ、っご、ふおお、っお」
 失禁とはまた違った開放的な感覚に大司教は酔い痴れ、腰を強張らせた。
「まるでワイン樽ですね。栓が必要みたい」
 タベルナはコルクを大司教の尻に突っ込んだ。
「んおぉ」
 大司教は一瞬尻を掲げて身体を震わせたが、力なく喘ぐとすぐにまた卓に沈んだ。
 こうなってしまっては立派な体躯もただの肉塊である。タベルナは慣れた手つきで肉を仰向けに引っくり返した。毎朝肉屋から届く何十キロもの肉を担いで貯蔵庫にぶちこんだり俎板に載せたりしているのだ。コツの分かっている彼女にとっては造作もない行為だった。
「タベルナ、頼む、話を、話せばわかる……!」
 絶対に他人の弁解や謝罪を聞き入れない自分を棚に上げて、大司教は息も絶え絶えタベルナに哀願した。
 タベルナが想いを遂げるという事はすなわち、そういう事なのだろう。
 大司教とてうぶではない。男同士が――果たしてこれが男同士と言えるのであればだが――どうやって交合するのかくらい知っていた。はっきり言って憂鬱だった。
「話。わたしを甘言で宥めたり賺したりなさるのですね。でも全部おためごかしなのでしょう」
 卓に乗ったタベルナの澄んだ瞳が大司教を見下ろす。交渉ですらなかったが交渉は決裂だった。
「いや違うそうじゃない」
 タベルナは大司教の腰を跨いで膝立ちになると、ポケットからペティナイフを取り出して彼の首元に当てた。
「やめろタベルナっ」
 大司教は自分の頸動脈から真っ赤な血潮が噴き出すのではと慄いた。そうさながらユディットに寝首をかかれるホロフェルネスのように。
 しかしそれが切り裂いたのは真っ赤な法衣だった。大してうるさい音でもないのに、悲鳴のようなビロードを裂く音が耳をつんざく。
 緋色のそれの下から現れたのは屈強な巨躯であった。
 首は筋張って太く、そこから連なる筋は鎖骨に繋がり豊かな胸筋を吊り下げていた。肩もがっしりと張り、息をつく度に胸と一緒にゆるやかに震えた。腹筋は見事に六つに割れ、深い溝をたたえている。脚は巨木のようにがっしりと太く、犀でさえ絞め殺せてしまえそうだった。
 それらすべての分厚い筋肉の上にうっすらと脂肪がのり、この上もなく男性的で性的であった。
 そして脚の間の男性器はゆるく勃ちあがり、次の快感を待ち望んでいた。
 大司教が荒々しく酔った息を吐く度にしっとりと汗ばんだ頑健な胸と腹が上下し、そして胸に一つ残された十字架が妖しく輝く。
 引き裂かれた法衣と裸体に輝く十字架、そして背景のゲヘナフレイムの業火の赤はなんとも背徳的で淫靡な印象をタベルナに与えた。
 タベルナはそれらを見つめて顔を紅潮させ、息を飲んだ。
 同室の兄弟子の身体はもう見慣れたもので何の感慨も覚えないが、やはり愛する者の肉体を目にすると、少しの羞恥と、それを上回る愛おしさがこみあげてくる。
「猊下、わたし男性の身体が……いいえ猊下がこんなにご立派だとは思いませんでした」
「こんな事をして……いみじくも聖職者に罰あたりだな」
 うまく回らない舌で大司教はいつもの覇気なく罵倒した。
 いみじくも、とは言え酒のせいでぼんやり身体中が赤く、下ごしらえの完了した俎上の肉という体たらくは聖職者などとは口が裂けても言えないような有様だった。
 いや俎上の肉というよりも、大司教はもはやゲヘナフレイムに供された生贄であった。あとはタベルナに平らげられるのを待つだけの。
「ああ、猊下、猊下あ」
 タベルナは大司教の肉づきのいい身体をめいっぱい愛撫した。
 豊かな胸に顔を埋め、たっぷりとワインの注ぎこまれた腹を揉む。
「んぐ、ぐあ、やめ、んふうぅ」
 常ならば自分が愛撫されるのを嫌う大司教だが、身体の中から酒に溺れ、じんじんと浸み入るように酒に冒され酒樽状態となった今、タベルナの一挙手一投足が彼にとっては心地よい。
「タベルナっ、ああ、くああ、おお……」
 タベルナに首筋や胸を甘く食まれ、いやがおうにも性感が高まる。勝手に腰がゆるく動き、肉棒は浅ましく出来上がっていた。
「猊下、お慕いしてます」
 一人の娘は切なげな表情と声でそう言った。
 今まで夜を、あるいは昼を共にした女達の中の誰か一人でもこんな顔をした事があっただろうか。いや、ない!
 大司教は心の中で一人ごちた。
 タベルナは自分を愛している。自分も恐らくタベルナを愛している。ならば、こうなる事は悪くはないのではないだろうか。
 そんな奇妙な気分に陥りながらも、しかしタベルナの男の部分を見るや大司教の決断も鈍る。
 いつの間にかタベルナはズボンの前を寛げており、張りつめたそれを露出させていた。下手をすれば自分のそれよりも大きいのではないかという凶悪なまでの逞しさに、さすがに大司教も気分が滅入った。
 実のところ衆道の経験がないわけでもなかったが、喜んで受け入れる程の感性もなかった。それこそ今の地位と名声と少しばかりの興味のために齧った事だった。
「どうかわたしに情けをかけてください。これが最初で最後です」
 それは切望であった。
 大司教はにべもなく断ろうとしたがやめた。本当にこれが最初で最後なのだ。
 タベルナは大司教の沈黙を了解と受け止めたのか、それともはなから了解など取る気はなかったのか、彼に覆いかぶさり接吻した。
 それはとても清いものだった。まるで幼い恋人同士が遠慮がちにするような、あるいは小鳥が木の実を啄むような。
 タベルナは身体を起こし大司教の太い右足を持ち上げて自身の薄い肩にかけると、尻の穴を穿っていたコルクを抜いた。そしてワインが垂れる前に大司教の腰に自身の腰を押しあてた。
「ぐがっ、っく、おおっ!?」
 野太いそれに穴を広げられ、大司教は身悶えた。
 タベルナの男根はすんなりと大司教の中に飲み込まれ、コルクの代わりを果たすのには十分すぎた。
「あ、あ、猊下……」
 まるで自分を受け入れるために誂えたような身体、とタベルナは常ならぬ自惚れた気持ちを抱く。大司教の内部はタベルナを優しく包みこみ、しかしそれでいて緩慢に締め付けては離しての繰り返し、そして温かい。そう考えてしまうのもうぶな娘であれば栓ない事だった。
 一方大司教はというと、柔軟性に欠ける足をタベルナの肩にかけられているせいと、その楔が大きすぎるせいで少々の窮屈さはあったが、概ね不満はなかった。
「オクタビウスさま……」
 タベルナは大司教の頬を撫でながら、潤んだ瞳と濡れた声でその名を呼んだ。
 大司教は身体を震わせた。自分の意志とは裏腹にタベルナを思い切り締め上げてしまう。いや、意志はなくともタベルナを愛おしいと思う気持ちはあったのではあるが。
「くおっ!?」
 まざまざとタベルナの形を感じてしまい、大司教が遂情しそうになった時だった。
「や、うそっ、あ、あ、猊下……!」
 まだ動かしてすらいないというのに、タベルナは目を固く閉じて大司教の中に吐精した。
「ん、んぐうっ」
 生温い精子に壁を叩かれる感触に大司教は背を反らして身悶えた。とうとう女にされてしまった。目の前の娘に。
「ふあ、あ、んん……」
 タベルナは可愛らしく吐息を洩らしながら大司教の上に倒れ伏した。
「はあ、ああ、この……小娘が……! なんだかんだ言ってこの程度か……」
 タベルナの痴態に余裕を取り戻してきた大司教は、荒い息を吐きながらも厭味ったらしく顔を歪めて挑みかかるように言い放った。
「ひどい……」
「余はまったく満足してはいないぞ」
 大司教は挑発するようにタベルナの滑らかな腹部に自身の脈打つ男根を擦りつけてやった。
 しかし大司教は厭というほど分かっていた。自身の中で、未だタベルナの性器は精力の衰えを見せていない事。そして硬さも大きさも少しも損なわれてはいない事。
 タベルナは顔を上げて大司教をきっと見つめると、彼に取り縋ってがむしゃらに腰を振った。
「くお、おお、あがっ」
 不躾に先端で開拓され、無遠慮にどすどすと奥に打ちつけられる度に大司教は野太い声で喘いだ。
 腰骨の辺りを小さな手でがっしりと掴まれ、荒々しく腰がぶつかり合う。
 大司教は先の挑発を後悔したが、しかし、ずこずこと中を抉られ、ワインと精液が攪拌され肉壁に擦りこまれると、痺れるような快感の波が襲いかかってきてそんな考えはすぐに流されてしまう。ただせめてタベルナだけに主導権は渡すまいと必死に丹田に力を入れて肉穴を締め付ける事しか出来ない。
 一方のタベルナも、腰を振りたくりながら愛らしく喘ぐ。
「あう、はあ、んん、猊下あぁっ」
 さっきは大司教を眼光鋭く見据えたものの、やはり初めての交接の快感と相手の猛攻の前では、どうしても声が漏れてしまう。
「まったくっ、情けない声をっ、あげて……」
 そうは言ってもタベルナの愛欲に濡れた声は大司教の腰に響く。
「あっ、ああ、ふあ、あ」
 またもタベルナの絶頂は近いようで、最初から無いにも等しかった動きの余裕がいよいよ完全に失われる。
「ふ、ふは、下手糞、もう終わりか……っ!」
「あ、あああ、オクタビウスさまぁ」
「ん、んんっ!?」
 大司教は犯されている身の上で大上段にタベルナに檄を飛ばすが、耳下で名前を呼ばれるとどうにも弱い。先端からびゅくりと先走りを涙のように垂らしてしまう。
 切なくなって果ててしまいそうになるのをぐっと堪え、両足でタベルナの腰を抱えて引きよせ、自身の奥に導き、早く埒をあけさせるために肉穴を狭めた。
「やっ、ああっ、もうだめ、わたしもう……んう、ああ……!」
 タベルナはまたもや身体を震わせて先に果てた。
「はあ、くは、は……こ、この早漏が。こんな事、どうせ余とが初めてでやり方もよく知らんのだろう。もう諦めろ」
 額に汗を浮かべ、息を上げながらも、大司教はタベルナを精一杯小馬鹿にする。