大司教のいとも絢爛なる幸運 - 8/9

 タベルナのその表情に切ないものが浮かぶ。大司教のせいで変な事を覚えてしまった。
 彼と会えない夜には切なくて、胸だけでなく腰の髄から震える。そして寒い部屋で独り昂ぶり熱くなり、自身の手で慰めている始末だというのに。
 なのに相手は女(男?)に不自由していないときている。誰とでもするんだ、この人。世に言う淫乱なんだ。多淫なんだ。聖職者のくせに。小悪魔なんて可愛いものじゃない。生あるものを手玉に取って弄ぶ大悪魔だ。
 タベルナは涙を堪え唇を噛んだ。
「おお、おおお……す、するわけないだろ気持ち悪い! おれは……んお、ほ……お、男……だっ」
「男だからなんだっていうんです。男だったら男としないって事ですか。じゃあ女とはするんですね」
 陰茎を使って、とタベルナは言外に滲ませる。本当ならさっきのように扱いてやりたかったが、生憎両手は石の柱のように重たい大司教の脚を胸に抱えるので精一杯だ。その代わりに熊が獲物を絞め殺すように脚をぎゅうっときつく胸に抱き、下半身を激突させる運動のための支柱とする。
 ジャガイモを潰すようにがつんがつんと腰骨を尻に叩きつけているとなんだか嗜虐心のようなものが芽生えてくる。このまま減らず口ばかりの大司教を滅茶苦茶にしてやりたい。女なんて抱けなくしてやりたい。
 大司教のせいで自分は嫉妬まで覚えてしまった。タベルナは溜息のような憤怒のような悲しみのような溜息をついた。
 しかし横から盛大に突きまわされている大司教は「こうしてお前に女にされてるってのに、何が女とはするんですねだよおおっ!」そう慟哭するなりしおらしく目を伏せて階に額を置いた。
「お前としか、しない……」
 その情けないか細い呟きは大理石に反響し、きちんとタベルナの耳に届いていた。
 そんな恥じらうかのような物珍しい姿はタベルナを感極まらせた。たまにこうなるから油断できない。いつも大上段に振舞う癖に、不意打ちのように弱弱しくもなる。それも人心を掌握する作戦のうちなのだろうか。そうじゃないといいのだが。
「じゃあいいですねっ! このままゆるくしちゃってっ!」
「なんでそうなる! おれが嫌だって言ってんだろ! 締まりが悪くなるのは!」
 一転、大司教はがばっと勢いよく上体を起こして叫ぶ。やはりさっきのしおらしさは演技だったのかもしれない。
「だからもぉ、お、んん、やめろおぉ」
 しかし小突いてやれば内側も外側もすぐに根をあげかける。熱く熟れて吸い付いてくる肉壺も、のたうち乱れて悶える身体も実にいやらしい。
「やですっ!」
 そんな物をまざまざ感じさせられ見せられて止められるわけがない。やめろという言葉などやめる理由にはならない。この状況下では言葉よりも肉体の反応の方が何倍も信頼に値するだろう。
 タベルナの射精の気配が下腹に色濃く溜まる。焦燥と欲望がないまぜになった本能の奔流が脳も神経も支配する。つまり理性よりも本能が優位に立ったのだ。
「あん、ああ、ふあぁ、でるうっ」
 タベルナは抱えた脚に胸を押し付け取り縋り、がっつりと奥に突き入れて欲望を喰らわせる。
 食いしばるような肉襞の締め付けをものともせず激しく解放されるそれは、肉槍では犯せない奥の方まで流れ込んでいきそうな勢いだ。何度も射精したというのにもかかわらず、その勢いも量も粘度も衰えない。
 突き落とされるその瞬間には全身が強張り、しかし一度先兵が顔を出してしまえばあとは放尿のようなゆるやかな快感が訪れる。それと共に持てる力も心地よく減衰してゆく。
「はう、あぅ……ああ」
 細い身体と青い胸を震わせて射精を終え、タベルナは茹でたほうれん草のようにくたっと大司教の脇腹に倒れた。
「ふ、は。これで終わり、か……。所詮は寝る前の軽い運動だったな」
 タベルナの髪に指を絡ませながら大司教は嗤う。
 嘲笑われてそこで終わるなんて。
 タベルナのそれがまたむくむくと力を取り戻してくる。貶されて力を増すなんてどうかとは思うが、とにかく萎えきったそれは再び反り返った異教徒の野蛮な刀身と化した。
「おわりません、ねかせません!」
 タベルナはまた大司教を伏せさせ、その広い肩に手をついて体重のすべてを乗せる。まるで獲物を引き倒し捕らえた肉食動物だ。
 そしてその態勢のまま自分の精液をかき出しながら、腰を大胆に振りたくり、追撃を与える。
「くそっ、なんっ、動く、なあぁあ゛っ」
 本当に予期せぬ行為だったのか、大司教の中が面白い程にうねる。一突きごとにどっしりとした腰が強張り、均等に割れた腹筋が戦慄く。これまで何人もの女を泣かせてきたであろう巨根が泣き濡れ、腰を落とされる度に腹にぶち当たって先走りを塗り付けている。
 どうやら大司教自身もなんだかんだとタベルナを煽りながらも割と限界に近かったようだ。
「お゛ぐっ、お゛……!」
 濡れた善がり声は地を震わせ、まるで今際の際の呪われた獣だった。
 大司教の浅黒い肌に焦りと快感の汗が一瞬にして噴き出し、まるでサラマンドルで焼き目をつけたかのように淫らに美しく照る。
 夜に誇り夜に生きる肉体は今やタベルナに生かされて、活かされているのだ。
 この世の悪徳を掌握しかかっている。その事がタベルナに自信を与える。
 襞の一つ一つを先端で執拗に伸ばしながら精液を塗り付けてやれば、その悪徳は鬣を振り乱しながら狼狽える。
「も、うぅ、かき混ぜるなあぁっ。お前の青臭い精液が、こびりつく、だろぉぉっ」
 確かに大司教の尻の穴はぐちょぐちょで、一目で必要以上に犯し尽くされたとわかる。肉の入り口は溺れそうな程に白い粘ついた糸が引き、何人もの絶倫に手酷く輪姦された後のようだ。まるで空気を求めるかのように肉穴の入り口が充血してめくれ上がっていたが、そこにも構わず濃厚な白濁が押し寄せ染み込み、媚肉という粘膜すべてを犯しにかかる。
 きっと中の惨状は外の比ではないだろう。無遠慮に縦横無尽に吹きつけられた精液の糸があちこちにべたついた蜘蛛の巣のように張り巡らされているばずだ。
 だがやるなと言われてやめるわけがない。哀願ならまだしも。大司教だってタベルナが泣こうが喚こうが胸を触りまくったのだ。
 男の癖に快感に弱い粘膜をタベルナは抜き身の剣で擦りつけまくる。
「ほひっ、んい、おお、んほ、ぉ、やめ、眠くない、からもうやめろばかっ」
 大柄で重たそうな身体を盛大に仰け反らせつつも大司教は肉穴を締め上げて抵抗を試みてくる。
 だが粘膜それ自体のぬめりと精液の粘性が相まって激しく動かすのに不自由はない。
 しとどに濡れたそこはいくら締め付けてこようとタベルナにとっては自分を歓迎しているようにしか感じられない。肉棒にまといつき、歓待し、別れを惜しむ。そんな動きなのだ。
「眠いとかそんなの、もう関係ないってわかっていらっしゃるでしょ、猊下!」腰を打つ速度が増す。「それに気持ちよくてもう、腰、止まりませんっ!」
「んな、あ……」
 大司教は顔を真っ青にしたり真っ赤にしたりした後、その苛烈な突きに耐えられなかったようで上体を地に落とした。つき出すのはタベルナが開拓に勤しんでいる腰のみ。
「退屈させるなとおっしゃったのは猊下です。自分の言葉を恨んでください。だからほんとに寝かせませんから。寝かせませんよ!」
 しばらくぐっちゅぐっちゅと中をこね回して精液を塗りつけてやれば、大司教はその味にようやく屈服して抵抗の意志を完全に失ったようだ。
「お゛お゛っ……んお、ほ」
 大司教は処女を無理矢理に散らされている生娘のように弱弱しく震え、しかし一方で肉の道は手練のように程よくタベルナを締め付けて来る。
「お゛、お――」
 大司教の肉体はタベルナの動きに乗るようにうねる。抵抗を手放した事で彼女の動きに順応したのだろう。
 珍しく意識朦朧としているようで、もう減らず口の一つすらない。思ったより酒が効いているのもあるのかもしれない。
「さっきのようにわたしを罵倒してはくださらないのですか」
 そう問いかけてみても返ってくるのは浅い瀕死の吐息と深く低い呻き声のみ。それはタベルナの欲望に悪い影響を与えて尚更気力を与える。
 タベルナは遠慮なしに激しく腰を突き入れて大司教の敗北を堪能する。乱れきった男というものを。
「寝ちゃ、だめです、よっ」
 大司教の筋肉質な臀を潰さんばかりに腰骨で叩きつけて喝を入れる。
 泣き所を貫いてやりながら、自分の怒張への締め付けも堪能し、追い上げにかかる。
 相手も最期が近いようで、肉襞が震えて胤を受ける準備を始める。まったく嫌がる素振りも見せず、すべて呑み込もうとしてくる成熟したその味わいにタベルナもまた震える。
「あ! あ、ぅ……すご、い」
 タベルナは大司教の具合を讃嘆しながら、とうとう埒をあけた。
何度も出したというのにその勢いも量も濃さも損なわれる事はない。
 腰と頭の奥で弾け飛ぶ火花と同時に溢れんばかりの愛おしさもまた膨らむ。
「すき……オクタビウス、さま」
 軟肉に精を放ちながらタベルナは大司教の背に身を重ねて耳を優しく食み、そう接吻に乗せた。
「く、お……ふ、それは、反則だろお前……っえ、おぉ……っ」
 再び精液を放出した大司教はそう断末魔の声をあげ、どうと地に倒れ込んだ。
「ああ……」
 タベルナは満足げに息を吐き、大司教の広い背に横たわった。
ここにきてやっとタベルナは邪悪な蛇を調伏したのであった。