「ぐがあ、あ゛、あ゛、クロードおおおッ!?」
バランタンが肉穴を震わせて、怒張に詰まりに詰まった白い気を噴き上げんとするが、その欲望の脈打つ出口はクロードの爪によって塞がれていた。
慎ましやかに喘いで放出したのは暴虐な妻だけ。
「あ」
バランタンの穢れた傷だらけの背に清い白濁が降り注ぐ。
「んぶお、おぐぅ、いぎぃ、い゛、い゛――」
上り詰めたままの状態で押しとどめられているバランタンは、白目を剥きながら涎と鼻水をだらだらと垂らした情けない顔でがくがくと壊れたように震えた。
「久しぶりに外に出しましたわ」
落書きするかのように人差し指で広い背に精液を塗り広げられる。
「おごっ、ぐがああ、頼む、出した、い……」
バランタンがクロードの手をどかせようと股間をまさぐるが、震える手ではそれも叶わない。
「もうすぐよ、もうすぐ」
雨に濡れた硬い黒髪を慈母にされるように撫でられると、バランタンの心が張り裂けんばかりにざわめく。
「おねが、お願いします、ああ、ああ、クロード。私の中に種を、つけて、たっぷり、孕ませて……孕ませてくれッ」
バランタンの雌の部分がクロードの雄を求める。
「尻が、尻がせつないんだっ! 私は堕落して……君に堕とされて浅ましい女……雌にっ。だから早く」
「女はお厭?」
「いいから早く……入れろッ!」
バランタンは泣き叫んで腰を振り、妻を求めた。
「はい旦那さま。青髭の、残忍で冷酷な公爵さま」
クロードがバランタンの客観的呼称を舌に乗せながら腰を彼の尻に押し付けた。
ばちゅんっ!
肉を打つ淫らな音が響き、バランタンの顔に愉悦と充足が広がる。
「ふほ、くおおおっ!」
そして間髪入れずの律動。
ぶちゅっ、ぐちゅぷ、ぶぼっ。
「えぉ、おぉおおぉ……」
あまりの善さに、バランタンは上体を支えられずに藁山にへたり込む。
下半身は快感と突き上げに敏感に反応し、締まったり緩んだりを繰り返しているが、上半身はだらりと弛緩し死に体だった。
「あ、あっ、あ」
藁に頬を押し付け、夢でも見ているような遠い目をしながらとろりとろりと涎を垂らし続ける。張りつめた怒張は凝り固まったままだが覚えこんだ絶頂の味を思い出しながら震え、クロードの爪の隙間からどぷどぷと先走りを疑似精液として垂らしていた。
「……んんあ、あう、うっ」
喘ぎ声に覇気はなく、ただ人形のように揺さぶられて反射で喘いでいるかのようだった。終わりない絶頂寸前の愉悦に飲み込まれ、すべての気を根こそぎ持っていかれたせいだ。
「まあ、お元気ありませんね。善すぎるせいかしら」
「んあ、んん、ぁ……」
ぼんやりとした顔でクロードを見たバランタンの表情はまるで屈託のない幼子だった。
そんな表情に感じるものがあったのか、クロードの聖母のような顔が切なく様変わりし、腰が速まる。
「ああっ! バランタンさん、バランタン!」
バランタンの瞳が揺れる。また忘却の地底に死んで堆積した記憶が鮮烈に浮かびかけた。
記憶の中でその幼い少年は、醜い人あらざるものの手を取ってこう言った。
「……く、くろーどにげ、逃げようクロード」
バランタンは泣きながら一生懸命に腰をよじり、背後のクロードに手を伸ばした。
「お、おとうさまに、こ、ころされ、る!」
「バランタン、ああ、思い出さなくていいのっ、そんな……そんなどうでもいい事!」
叱責するようにクロードは楔を奥にねじ込み、バランタンが手繰り寄せた記憶の糸をぶつりと切り離す。
「あ、あああ……」
行き場を失ったバランタンの腕がどさりと落ち、少年はそのまま忘却の地底へと沈んだ。
「あ、あ、ごめんねバランタン、ごめんね」
クロードが咄嗟にバランタンの腰を支えていた手で腕を取った。そして今となってはとても広くなった背に、そのまま身体を預ける。
「クロード、私は……」
背に感じる冷たさにバランタンが正気を取り戻し、まだ少しぼんやりとした目でクロードを見た。
「少し失神なさっていたの。バランタンさん、わたくしあなたに少し無理をさせすぎましたのね」
「だろうな」
「でもわたくしあなたの中で果てたいんですの。それにあなたもきちんと出さなくてはね」
クロードはその手の中で未だ野太く脈打っているバランタンを擦り上げた。
「いいかしら」
「んんっ……さっき、許可は与えたっ」
許可ではなく懇願だったのだが、バランタンは都合よく歪曲してクロードに続きを促した。
「わかりました」
クロードは怖気が立つほど穢れ無く清らかで、この世にありうべからざる微笑みを浮かべた。
ばちゅっ、ぐちゅっ、ぐぽっ!
「ほぉおお! くほ、おおんっ、んおおおッ!」
その微笑に捕らわれ陥落する前に、バランタンは肉壺の突き抜けるような快感に絡め取られる。
怒張の裏側をクロードの槍の先端で荒々しく突かれ、貫かれ、引き抜かれる。そしてまた角度を変えての再挑戦の繰り返し。
ずぱんっ! ばちんっ! どちゅ、ぐっちゅ。
「んぐおおお、クロード、おっ、おおぉ!」
待望の快感にバランタンの全身から汗が吹き出し、てらてらと淫靡に輝く。
その悦びが肉壺の淫らな動きを呼び起し、妻の射精を促す動きをとった。
「あ、んふ、悦んで下さっているのね、うれしい。うれしいわ」
「ぐ、あ、クロード、クロードぉおっ!!」
バランタンが厳つい眉を切ない昂りに顰め、求めるように激しく腰を振る。
「奥にくれ、一番、最も奥に」
夫の懇願にクロードはその行為で応えた。
どちゅ!
「おおおっ!」
バランタンの慣れきった穴にクロードがすべて埋められ、満たされる。尾てい骨から背骨に鈍く苛烈な快感が爆ぜ、絶頂への予感に精神が飛びかけた。
震える浅ましい怒張からクロードの手が離れ、藁山を掴んでいたバランタンの手に添えられる。
「出していいのよ」
その許可の声が終わるか終らないかのうちに、バランタンは欲を藁山にどっぷりと放出してしまう。が、絶頂は根強く肉体を支配し、もう出るものがないというのにまた怒張が執拗な絶頂に震える。愛欲が極まり、クロードへの愛おしさで胸苦しささえ感じてしまう。
「んぎい、あ゛、あぐうぅ、クロード、あ、あい……」
「んっ、なあに」
「あい、して……」
呂律の回らない舌では自分の想いを伝えられないと知るや、バランタンは一心にクロードの腰に自分の尻を押し付けた。
「あっ、あ、や、んん」
より奥に導かれたクロードはその感覚に感じ入り、バランタンの背に取り縋り、彼の手を取ったまま、バランタンの身体を抱きしめた。
そして夫の熱く滾る肉壺の奥にどろりと精液を注ぎこんだ。
「くおお、あ、んあ」
肉壁に吹きかけられる熱い妻の子種に感じ入り、バランタンの中がこれ以上ないというくらい狭まる。
「あん、ああ、バランタンさんっ」
きゅんと締め付けられ、クロードは再び欲望を吸い上げられた。
「んむううぅっ、くお、がっ、ぐああああッ!」
バランタンは猟犬のような鋭い八重歯を剥きだし、背を反らして欲液を振り撒きながら絶頂に唸った。
法悦の荒波が過ぎ去り、クロードがバランタンから性器を抜き去ると、己を支えていた確固たる柱を失ったバランタンはぐったりと藁山に倒れ伏した。
その背にはクロードが横たわり、バランタンの古傷を優しく撫でていた。
「天気、どんどん悪くなりますね」
バランタンがふと外の事に意識を向けると、雨がばちばちと雨戸を叩いている音がやっと耳に飛び込んできた。
「お城に帰れませんわ」
「ずっとここに居ればいい」
「ずっと」
クロードが背から降り、バランタンの顔を覗き込むように隣に横たわった。
「それはいつまで」
「人の世が終わるまで」
バランタンは寝返りを打ち、クロードに背を向けた。事後の蕩けた顔を見られるのが嫌だったのだ。しかしそれよりなにより、もっと傷跡を労って欲しかった。
「あなたにはそんな事無理だわ。なさる事が沢山ありますもの」
クロードが背に張り付き、唇を寄せた。
「どうでもいい。もう収穫は終わった」
背を啄まれる感覚に満たされながら、バランタンは深く息をついて目を閉じた。少し眠りたかった。
だが安堵と心地よさに閉じた瞼はすぐに驚きに痙攣しながら見開かれた。
「あら、終わったなんて言いましたかしら」
「終わっただろう、確かに報告があった」
「それはワインにして市場に出す分でしょう。農家の人が個人でワインにする分はまだ」
バランタンはがばっと身体を起こし、鷹揚に彼を見上げているクロードを睨みつけた。
「残念だわ、雨が降っては今年の分は台無しね」
夫が起き上がり、眉間に皺を、こめかみには青筋を浮き立たせている事など目に入らないかのように、下着姿で藁山に横たわるクロードは残念がった。
「謀ったな」
地底から響くような地獄の声で凄まれても、クロードは慣れたものである。
「何です」
やはり鷹揚に首を傾げた。
「君は言ったな、雨が降る前に“すべての”葡萄の収穫が終わらなかったら私の勝ちだと」
「言いました」
暖簾に腕押しといった体に、バランタンは声を荒げた。
「私は賭けに勝っていた!」
「ええ、あなたは賭けに勝っていた」
「何故そう言わない!」
「分かっていると思ったのです。だってあなたは雨が降るやわたくしを追いかけてきて、ここに連れ込んで、抱こうとなさったわ」
「だがそうしなかった。君が……」
「わたくしは何も言ってはいません。最初はあなたに捧げるつもりでした。けれど途中からバランタンさん、あなたがわたくしを欲しがったのだわ。だからあれが、わたくしを好きにする、という事なのだと」
バランタンはぐっと奥歯を噛みしめた。そして甘い怒りに任せてクロードに圧し掛かり藁山に縫いとめた。言い負かすより先に手が出るのがバランタンの悪い癖だった。
「約束を果たせ。賭けの配当をいただく」
「あら……あら」
陰った顔の中でぎらつく目に射抜かれながらも、クロードは怖気づく事無くバランタンを見つめ返す。
まっすぐに見据えられて羞恥心が精神に広がり、バランタンは視線を外す手段としてクロードに噛みつくような接吻をした。