自らこんな事を言うようになるなんて、イザドラと結婚する前は想像だにしなかった。そして、こんな淫らな行為を悦ぶようになるなんて。厳格で冷酷で通っている警視総監の自分が。彼は己の男の象徴がまた持ち上がってきているのを感じていた。
「私は君に甚振られて……」
その言葉はイザドラの唇の中に消えた。深く深く接吻を繰り返し、ドゥーベ氏の思考に靄がかかる。このままイザドラと溶け合って、一つになって、消滅してしまうのではないかと思われた。イザドラの冷たい手が、首を、胸を、脇腹を、下腹部を、尻を這いまわって、そして……。
「い、っぐ!?」
ドゥーベ氏の精液を絡めた指が彼の尻の穴に潜り込んだ。人差し指と薬指で尻たぶを掻き分け、穴を広げ、中指が突き刺さる。全身の筋肉が強張り、こむら返りが起こりそうな程に脚が引き攣る。
「はひ、あ、あ゛、イザドラっ……おぁ、あ」
何度挿入されても、その瞬間はなかなか慣れるものではない。異物を押しだそうと腸壁が急激にうねるが、それはイザドラを悦ばせるだけであった。
「今日はチュベローズ油はいりませんわね。精液で慣らしてさしあげればいいのだわ。自分の出したものを入れられるのはどんなお気持ち?」
ずぷ、ずぷ、と指を奥にこじ入れられ、ごつごつした壁を指の腹で扱かれる。
「きひっ、ふぅっ、あ、あ、……厭だ、いやだ、ぁ……!」
舌ったらずな様子で、ドゥーベ氏は泣き喚き、かぶりを振った。
以前は中が傷つかないようにもっと慎重に、例えば出どころの怪しい媚薬を絡ませたり――こうなると彼は理性を無くして大変だった――、蜂蜜やシロップを垂らしたり――こうなると彼は食べ物で犯される背徳感に理性をなくして大変だった――していたのだが、最近は慣れてきたものでさらっとした香油――香りに催淫効果のあるチュベローズをイザドラは好んだ――や、リキュール――香り高いブレズグラナータを彼は好んだ――、唾液――イザドラのもの、自分のもの問わず――でもすんなりと受け入れられるようになってきた。これもイザドラの躾の賜物である。
「うそよ」
本日二度目のうそよ、である。
「だって、もう二度目ができそうですもの」
「うあ、ぁ、そんな」
ドゥーベ氏のそれは再び硬く、大きく起ち上がり、完全に次の射精に備えていた。イザドラはそれを空いた手で乱暴に扱きながら、尻の穴を犯すのをやめない。
「い――っぎ、あ、だめだっ、イザドラ、だ、ぁっ」
徐々に指が増やされ、今では三本も飲み込んでドゥーベ氏の肉壁は貪欲に蠢いた。
期待の蜜でしとどに濡れた茎をごしゅごしゅと扱かれ、時折くびれを押し上げられる。中では指が縦横無尽に動かされ、自身の穢れた精液を、淫らに蕩けて熟れかかった壁に擦りつけられる。
「ふ、う、いくっ、イザドラ、イザドラ私は、もう……」
ドゥーベ氏の先端が痙攣し、すべてぶちまけそうになる。もう尻の中が善いのか、男根を扱かれるのが善いのか、あるいは両方善いのかわからない。そしてイザドラは残酷な事に追い打ちをかける。
「どうぞ」
「くひっ、い――――!!??」
鈴口を爪で抉られ、指の腹でごしごしと擦られながらの射精。
「あ゛、あ゛―――」
彼はだらしなく舌と涎を口の端から垂らし、快感の涙に濡れた目を細めて、精液を自らの腹や胸にぶちまけた。
「とろとろだわ、顔もいやらしく歪めて」
尻から指を抜いたイザドラはドゥーベ氏の身体に精液を塗り拡げる。勿論、調教のお陰で女のようにふっくらとなってしまった乳首にも。
「んー……っふー……」
達したばかりの敏感な身体は、びくびくと震えながら快楽としてそれを受け入れる。目は虚ろで、そのまま気を失ってしまいそうだった。
「もう疲れてしまったの?」
イザドラがドゥーベ氏の顔を自分の方に向けて優しく問う。
「ああ……もう、できない……」
「そう」
イザドラが頷く。ふわふわとした髪が彼の頬に当たり、芳しい蜂蜜の匂いを放つ。優しく頭を撫でられ、彼はやっと終わった、と大きく息をつく。
「でも大丈夫、わたくしが満足するまで何度でも絶頂させてあげますからね」
そう言って微笑むイザドラの顔が、ドゥーベ氏には凄みのある形相に見えたのは言うまでもない。
「え」
と、言うか言わないかのうちに、彼の片方の太腿が寝台に立てられ、尻に硬い何かが当たる。イザドラの物だとは分かっているのだが、それを簡単には認めたくはなかった。
「ゆ、許してくれ、もうだめだ、頼むゆるし……」
ばちっ、と渇いた音が響く。それは鞭で肉を打ちすえる音に似ていた。
「あひっ!?」
「最初に欲情したのはだあれ」
ばちっ。
「んひっ」
「頭の軽そうなお馬鹿さん達に、わたくしを奪われる所を想像して興奮したのはだあれ」
ばちっ。
「はひっ」
「わたくしがそんなお馬鹿さん達にのこのこついて行って、彼等を犯す所まで想像したのはだあれ」
べちっ。
「ひぐっ」
平手で叩かれる度にドゥーベ氏の尻たぶが赤く染まる。はっきり言って、イザドラが略奪されたり、他の男を凌辱したりする所を想像して興奮などはしていないのだが、反論する暇は与えられない。
「わたくしの気持ちも知らないで」
べちっ!
「D……伯爵は王弟殿下ですのよ、無碍にできますかしら。いみじくも警視総監の妻が」
ばちん!
「わたくしだってあなた以外に愛嬌をふりまきたくはありません」
びしっ!
「あ、ぁ―――」
いわれなき暴虐に、ドゥーベ氏の思考力が徐々に奪われてゆく。
「重たいわ、脚をちゃんとご自分で上げてくださいな」
「は、い……」
ドゥーベ氏は素直に力のうまく入らない腹筋に力を入れ、両脚を上げる。こうやって軽く虐められながら命令されると彼は抗えないという事をイザドラはよく知っていた。
「あなた警察でもどこでも、いつだってみなさんに命令してらっしゃるのに、それに捜査方針に関しては国王陛下の命令だって聞きはしないのに、ここではわたくしの言うなりですのね」
少し持ち上がった脚を手助けするように押し上げられる。そして、赤くなった尻とだらしなくひくつくその孔を晒される。
すっかりほぐされた穴は、イザドラを欲しているようだった。
「わたくしを独占させてあげます」
その言葉にドゥーベ氏の瞳が小さく収縮して揺れる。
イザドラの肥大した先端が入口に当たる。ぬるりとした彼女の先走りがそこに塗りつけられる。煽るように、逞しいそれで谷間をなぞられる。
「求めて頂戴。わたくしをほしいって」
「ん、あ、イザドラ、して、欲しい。私に情けを、くれ」
イザドラの瞳に射ぬかれて彼の心臓が縮みあがるが、すぐにじわりと熱く広がる。
「大の男なのに、女のペニスに犯されたいって」
「男、なのにっ、少女の、君の、肉棒で、私のよりも男らしいその、ペニスで犯して……滅茶苦茶に、無理矢理、して、くださ……」
「そこまで言えとは言っていませんのに」
イザドラは呆れたように、子供を窘める母のような声色でいいつつも、唇は笑みの形を崩さず腰を進めた。
ぬち、と先端が入口を押し広げ、先陣を切る。そして徐々に竿を埋めていく。
「ほ、お……大き……あ゛、苦し、腹が、ぁ」
ドゥーベ氏は腹の圧迫感と、周りの媚肉を巻き込んで内部を進む竿に喘ぐ。排出する器官をそれとは逆の使い方をされているのだから仕方のない事だった。
「は、ぁ、あなたの中はいつでもきついですのね。ずうっと使っていたらこなれてくるって聞いていましたのに。いつになったらわたくしのカタチを覚えるというの。それに、そのお歳ならもっと緩い筈だわ。あら、それともこれが名器というものなのかしら……」
「そんな事っ、ど、どこで、ぇっ」
「こっちの話よ、気にしないで。それより力を抜く事に集中してくださいな。でないと全部入れられませんわ」
「んっ、ひんっ、んん」
ドゥーベ氏は噎び泣いた。
あんまりな言われようだ。いつもこんなに頑張っているのに、褒められているのか貶されているのか分からないような言葉を浴びせかけられる。
ずっ、ずっ、と、イザドラの肉柱が奥に打ち込まれていく。こつ、と一番狭い場所に引っかかる。ドゥーベ氏の前立腺であった。
「――っあ!」
脊柱に電撃が奔る。今からここを何度も笠でぶっ叩かれるのだという凶悪な快楽の予感に、彼は狂いそうになる。
「んー、いつもこの先にはなかなか行けませんの。わたくしのは全部入っていませんのに。ほら」
ドゥーベ氏がぼんやりと下を見ると、自身の肉穴はおぞましい肉色の棒にずっぷりと抉られ、見るも無残に広がっていた。一方で、野太く脈打つイザドラのペニスはまだ根元まで埋まってはいなかった。
「今日はあなたにわたくしを独占していただきたいのに」
そんな事はもう忘れろ! ドゥーベ氏は叫びたかったが、声は赤ん坊の喃語のように意味を成さない。
「あ、そうですわ」
イザドラの顔が輝く。それはドゥーベ氏が詩集を贈ったり、彼女の為だけにコントラバスを弾いたりした時にする表情にとても似ていた。
ドゥーベ氏の胸に、嫌な予感と幸福がないまぜになったわけのわからない気持ちが去来する。
イザドラがドゥーベ氏の脚に体重をかけ、彼を折りたたんで覆いかぶさる。それでも大柄な彼は彼女の身体からはみ出るのではあるが。
そして彼女はゆっくりと肉柱を引き抜いてゆく。彼のあずかり知らぬ所で排出されようとされるのを防ごうと身体が勝手にそれに絡みつき、それが二人を責め苛む。
「ああすごく絞め付けて絡みつく……」
ドゥーベ氏の腰をがっちりと掴みながらイザドラがうっとりと囁く。
「むう……はあ、ああ、イザドラ、まだ動かないでくれ、お願いだ頼む」
ドゥーベ氏がうわ言のように哀願する。肉柱がぎりぎりまで抜けた所で動きが止まるが……。
「それは無理だわ」
残酷な囁き。イザドラは行為の最中にドゥーベ氏の哀願なんて素直に聞いた事はなかった。
どちゅ、ばちんっ。
イザドラが勢いよく細い腰を叩きつけた。ドゥーベ氏が目を見開き、声にならない悲鳴を上げる。
相手を気遣わない突きあげのお陰で、イザドラの男根は前立腺の窄まりをぶち破り、すべて埋没する。お陰でお互いの肌が密着する。