「か、はっ、こふっ、ふ、あがっ、ぐが」
未踏の場所を無理矢理こじ開けられ、大きなものを突きこまれ、広げられる感覚。閉じようと身体はもがくが、しっかりとした杭はそれを許さない。その行為はあまりにも性急で、ドゥーベ氏にとってはまだ快感と捉えるには難しかった。予期せず陸に打ち上げられた魚のように、口を開閉させるだけだ。
「大丈夫よ、ゆっくり息して、ね。そうしたら楽になるわ」
イザドラは自身の胸をドゥーベ氏の胸にぴったりと沿わせ、呼吸を伝播させる。
「は、ふ……っふ、ふー、くふ……ふー」
虚ろな顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃで、いつもの厳つさは消え去り、肛虐に完全に屈していた。
「そうよ、いい子、いい子だわ」
優しく身体を撫でられると、徐々に呼吸が落ち着いてくる。
「わたくしの全部が入ってしまいましたわね。ご気分はいかが、わたくしを独占した気分は」
ドゥーベ氏はかくかくと頭を前後に振った。身体の中心を串刺しにされているような苦痛はあったが、これがイザドラのものなのだと思うと彼女に征服されつくされたのだという背徳的で退廃的な快感が精神に湧きあがる。
「善いの? 嬉しいわ。わたくしもね、あなたを全身で感じているの。だからね、もっと善くなりたいんですの。動いてもいいかしら」
「それは、それはまだ……」
「ん、わかりました」
イザドラは珍しく夫を気遣い、唇に優しいキスを落とす。そして身体をゆっくりとなぞる。無理矢理に快楽を引き出す愛撫ではなく、徐々にせり上がる法悦を与える為のものだった。
「嗚呼、イザドラ、イザドラ……」
「あなたの深くて低い声が好き。装飾写本の金箔の頭文字のように鈍く輝く瞳が好き。貝紫で染めた羊皮紙のような色の凛々しい眉も好き。本を閉じる革ベルトのように固い意志を感じさせるような唇も好き。最近ちょっとだらしなくなってきたお身体も好き。時々馬鹿な事をするわたくしを窘めてくださる所が好き」
そう言えば彼女はかつて、この顔が嫌ではないのか、と尋ねた彼にこう答えた。
どうしてそうお思いになるの? ローマ人的で精悍なお顔立ちだわ、ローマ人を見た事はありませんけれど。
そうだ、私を受け入れてくれるのは彼女だけなのだ。彼女だけが私の心の深淵の臆病な部分に触れてくれる。ドゥーベ氏の胸に、急激に愛おしさが膨れ上がる。
わたくし、あなたの容姿好きだわ。だって熊さんみたいですもの。熊さんは賢いの。猟師を撒いて後ろから襲いかかったり、足跡がつかないように歩いたり。それに強靭な肉体を持っているわ。銃で撃たれても、あの輝く獣毛と厚い脂肪は弾を通さないのですって。それで、少し前足で触れただけで、人間なら肉をこそげ落とされて持っていかれてしまうの。すごいわ、かっこいいわ。
イザドラは先の発言に狼狽する彼に、確かにそう言ったのだ。
「イザドラ……嗚呼、君に触れたい」
イザドラはドゥーベ氏の拘束を解く。どこで覚えたのか、船乗りがするような硬い結び目は彼の手頸に赤い索状痕を残していた。だが彼はそんな事など気にもせず、片手をイザドラの腰に当て、他方で彼女の髪をかきあげ頬を撫でる。
「あなたの大きい手が好き」
ドゥーベ氏の指が、器用にイザドラのコルセットの飾り紐を解いてゆく。きついコルセットから彼女を解放してやると、次は下着を捲り上げる。イザドラは大人しく両手を上にあげて、それを脱がされるがままにする。今やイザドラの身体を覆っているのは、絹の靴下と、海老茶色のリボンの靴下留め、そしてサテン刺繍の靴だけだった。だが、今の体勢でそれらを脱がせるのは至難の技だった。
「いつも思いますけれど、器用ですのね。楽器を弾くのがお上手なの、よく分かるわ」
その器用な手が、まろび出たイザドラの小さいが形の良い胸を包みこみ、やわやわと揉む。
「可愛いイザドラ、愛しいイザドラ」
いつも私がどんな言葉で君の美しさを形容しているか、君は知らない。と、ドゥーベ氏は胸の中で思う。
イザドラをきつく絞め付け動かすまいとするだけだったドゥーベ氏の内部が、淫靡に蠢き始める。彼女を奥に誘うように、あるいは外に排出するように。彼の腹がひくひくと求めるように動き、外からでもその様子は見て取れた。
「おしりの中がこんなにいやらしく動くなんて、あなたとして初めて知ったんですの」
「あんまり私に追い打ちをかけるような事を言わないでくれ……もう恥ずかしくて死にそうなんだ。確かに、善いのは認める。だから君にも一緒に善くなってもらいたい」
イザドラはフレスコ画の聖母のように微笑んだ。こんな淫らな行いの最中でも、その笑みは堕落さえしない。
それを合図に、イザドラの杭が浅く前後に動かされる。
ちゅ、くちゅ、くちゅ。
厭らしい音が結合部から漏れる。
「は、んあ、あ」
喘がされるのはいつもドゥーベ氏の方だった。たまにこちらが主導権を握ってやろうとしても、彼女はそれ以上の快楽で応酬してくる。今日はずっと負けっぱなしで悔しいので、胸の小さな飾りを摘み、押し上げる。
「んっ、や、ブリュノさんのへんたい」
「どっちがだ、君は私のを舐めさえしたじゃないか……!」
構わず愛撫を続けると、イザドラが突然挿入の幅を大きくする。今までは前立腺の奥での動きだったが、前立腺を擦過するものに変わる。笠でこつこつと前立腺を擦り、押しつぶし、押し上げ、押し下げ、舐められ、ドゥーベ氏の手の動きが止まる。
「あ、っつあ、あ」
「あなたこのコリコリだいすきですものね」
「ん、んんっ、っく」
「うふ、声にならないくらいすき?」
イザドラの出し入れが激しくなる。ギリギリまで抜いて、入り得る最も奥まで突き入れる。前立腺を笠と竿で押しつぶし、さっき開発されたばかりの奥地を乱暴にこじ開ける。
ドゥーベ氏は悲鳴を上げかけるが、それはイザドラとの接吻に消えた。
「ふっ、んん、んっふ、ふぐ、ぐ」
鼻から苦しげな息を漏らしながら、イザドラの深い接吻を受け入れる。小さな舌に口の中を蹂躙されながら、下の口も凌辱の限りを尽くされる。
肉を打つ渇いた音が響く。酸欠と激しい挿入に意識が朦朧としてきた頃、やっとイザドラの唇が離れる。
「はふ、あ゛がっ、んん、んー、はげし、イザドラ、ああっ! あ! かはっ」
息を吸うのをわざと邪魔しているのかと思うほど激しい行為に喘がされる。男なのに大きな声で喘いでいることが厭で、ドゥーベ氏は手で口を塞いだ。
「ふっ、ん、ん……」
「そんなことしなくてもいいのに。わたくし、あなたの声聞くのすきだわ。すごくいやらしい気分になるんですもの」
そう言ってドゥーベ氏の手を外し、がつがつと突き上げる。
「はおぉっ、ほおっ、くほ、おぉ、ふ、むうう」
途端に部屋中に野太い声が反響する。これに興奮する妻の事がいささか心配になるドゥーベ氏だったが、声を押しとどめる事は出来ない。
どすっ、どすっ、と肉の楔が穿たれる度に勝手に声が押し出される。声を出すと、腹の中で凝っていた快楽が突き抜けて行くような爽快感があった。
「くほぉ、んほお、おぁ、あぎっ、あ、んぐっ――!?」
が、突然イザドラの手がドゥーベ氏の口を塞いだ。さっきは喘げと言ったのにも関わらずだ。
「ん、んんん!? んっ」
「ね、面白い方達が来ますわ。少し静かにして」
じゃあ腰の動きを止めろと言うんだ、とドゥーベ氏は訴えたかった。口を塞ぎながらも、イザドラはしっかりと腰を動かしていた。
静かな室内に廊下の音はよく響いた。いくつかの靴音と、ひそひそとした話声。
「……今頃大変なんだろうな、ドゥーベ夫人は」
「はは、あの巨体に圧し掛かられて、人形が子供に弄ばれるように滅茶苦茶に」
「ブリュノ・ドゥーベ。嫉妬深いのは怖いな」
「まったくだ。彼女は全然外出しない。きっと奴に軟禁されているんだ」
「あんな美しい女性……いや少女を夜毎凌辱かあ」
「夜毎とは限らんよ、朝な夕なにかも。彼女はきっとかわいらしい声で、やめてくださいと哀願するんだろうなあ」
「それくらいでやめるような男にも見えんが」
「しっ、そろそろ声を落とせ、聞こえたらどうする」
扉の前で足音が止まる。声を聞けば、どうやらD……伯爵とその悪友達らしい。ドゥーベ氏の顔が青ざめる。首を横に振り、イザドラに行為を止めるように哀願するが、それくらいでやめるような女ではない。
「うふ、ちょっと遊んであげましょうよ。あなたの名誉を守る事にもなるんですのよ。そんな必要ないなら、わたくしに滅茶苦茶に凌辱される声を聞かせてあげてもいいですけれど」
女は哀れなドゥーベ氏の耳元で囁いた。
「んう、んん、ん!」
彼は今度は顔を真っ赤にして厭だと示す。そんなことがバレたら、かたなしだ。
イザドラは眉を顰めて小さな唇を開くと、押し殺したような切なげな声を上げる。
「あ、やあ、あ……ブリュノ、さ……もうやめて、ごめ、なさ、ああっ、おねが、おねがい、あぁ……」
ぼちゅっ、どちゅっ、ぬぽっ。
楔を力強く抜き差ししながらのイザドラの哀願。ドゥーベ氏はイザドラの幽けき鳴き声に更に欲情する。たまにこんな妻もいいものだ。犯されているのはまごうかたなき自分だが。
「こわれちゃう、の……わたくしもう、だめぇ……」
そこまで言うと、イザドラはドゥーベ氏の耳元で言う。
「ね、次はあなたの番。情けない声を出してはいけませんのよ」
そして唇から手を離す。だが突き上げはやめない。というよりももっと激しくされる。
ぼごっ、どぼっ、ぶちゅっ!
「あ、けふ……う、だ、めだ許さぬ……教えてやらなければっ、ならん。お前に、男がどれほどっ……恐ろしいか、私の身体で、躾てやらねばっ、あ、ぁ……」
「やっ、わたくしを、信じてください、わたくし、あなた以外の殿方とはこんなことしませんのに……」
「にわかには、信じられん、な。私のモノを打ち込まれて……こんなにも淫靡にっ、淫ら、にっ、狂い咲きしているというのに!」
甘い喘ぎの混じる怒号は彼のされている行為が見えていなければ、妻を手酷く犯しながらもその具合の善さを揶揄している声に聞こえるだろう。