自宅の玄関に雪崩れ込む二つの影。
「誰かいる?」
後ろ手に引き戸を閉める。
「誰もいません」
機械仕掛の腕が矢も盾も堪らずといった風にマナを掻き抱く。
「T4-2赤外線視覚」
求めに応じるように汎用亜人型自律特殊人形に身体を添わせるマナ。
「オールクリア」
言葉の合間に唇を奪い合う。
「その目便利」
マナは手も使わずに玄関の鍵を閉める。
「汚名が返上できて」T4-2はマナの首筋に顔を埋める。「何よりです」
三和土に家人の靴が無いのを確認するだけで済むということなど頭にない程に切羽詰まっている二人は、T4-2の持てる高機能を駆使して自宅内に自分達以外の誰もいないことを確認すると、事に及び始める。
交錯する吐息。縺れ合う脚。
頬を支え、唇を吸い合う。
浅い接吻はどこまでも甘く、清い。
マナの手がT4-2の頬から硬い顎を撫で下ろし、襟元までの間の狭い首筋を撫でて、滑らかな冷たさを堪能する。
マナの温かみある色合いの肌にT4-2の白い手が触れようとしたところで、彼はまだ己が手が素肌でないことに気づき、焦れて煩わしそうに革手袋を脱ぎ捨てる。
互いの手が相手の服に伸びる。
マナのブラウスのボタンが片手で器用に外されてゆく。機敏で、精確で、初めての行為のときのあのもたつきはなんだったのかと思う程。緊張していたとでもいうのか、精密機械が。
ブラウスが丸みを帯びた肩を伝って滑り落ちる。首筋の痣にかぶり付くように宛てがわれるT4-2の唇。
金属の手はマナの素肌を撫でて、既にその背に回って下着の留め金を外そうとしているのに、T4-2の軀を被う衣服はまだ外套すらも剥かれてはいない。
不器用なマナに、男物のかっちりした趣深い服を脱がせるのは至難の業。
性感は高まって、その裸体を早く拝み弄りたいのに、それ故に尚指先が震えて上手く行かない。
磁力でボタンというボタンをぶっ飛ばしてやろうかと、一筋の苛つきがマナの脳を過ったとき、T4-2が自ら服に手をかける。やはり服を破られるのは嫌なのかと思われたが。
力強い腕は上衣の合わせすべてを一度に引き裂き、悩ましく、しかし荒々しく脱ぎ捨てた。
「服破るなんてどうかしちゃった?」どうかしているのは元からなのだが、輪をかけてというやつだ。
「元より刃傷があったのですから、破れが一つや二つ増えたところでどうということはありません」
玄関に倒れ込む二人。
マナを見下ろすT4-2の目は狂気に爛々と赫き、諸肌脱ぎの軀はなんとも豊潤。
焦れたように野蛮に服を破り捨てた彼の行為はマナの性感を徒に煽る。堪らずに彼女はT4-2の形のよい後頭部に手を当て引き寄せ、唇を重ねた。そしてその軀に自分の熱を伝播させるように愛撫する。広い肩を、胸を、脇腹を。
「あなたの唇は潤いがあってとても心地よいです。およそ皮膚という皮膚が、柔らかく、瑞々しく、そして幽かな磁力を纏って……」
T4-2の肉感的な指がマナの胸を這う。まるで月夜の砂浜か深海を這う甲殻類。
「吸い付くようで……」
マナは両腕で胸を寄せて強調してやる。雫のような胸が深い谷間を造り、先端がつんと主張する。
「豊かでいらっしゃる。自信がおありなのですね」
「まあね」自慢げに跳ね上がる片眉。「数少ない女らしい部分もたまには触ってよ」
T4-2の手が胸を揉むように包み込み、指の腹や関節が胸の先端を掠める。顔が谷間に埋められ、冷たい唇が火照った胸を舐める。
「そうやって私を焚き付けて、悪い人です」
文字通りの胸中の声。肌のみならず、骨の髄、内臓——心臓まで響く。
「T4-2……」
マナは堪えきれずに男の名を呼び、親しげに頭を撫でる。互いの肌にびんと迸る心地よい磁力。
「私の名を呼ぶ声のなんと妙なる……愛して……いいえ、これでは単なる馬鹿げた性愛です」
T4-2は胸から顔を上げ、マナをじっと見つめる。蕩けた目ではなく、大層真摯な光で。
「内藤マナさん。私は誰あろう、あなたの物で構いません」
心が揺さぶられる。
自分のものだと胸を張って言えるような物は大して持っていない。追われる身の上では自分自身さえ誰のものだか分からない。それなのに、こんな、大きく、重たい物が……。
決定的な答えを聞くのは畏れ多いとでもいうかのように、あるいは、互いの関係が変容するのを恐れるかのように、T4-2は再びマナへの胸に顔を埋める。
マナの唇が愛らしく薄く開かれ、愛らしい吐息が漏れる。
「は……あっ、ん……」
「善いですか?」
とても好い。だが、それ故に怖い。よくないことだが誠実さを試したくなる。
「やめて」
貪婪に光っていたT4-2の眼光が瞬時に穏やかなものに切り替わり、その動きが止まる。
「仰せのままに、陛下」
口調も声色も淫らな色は差さずいつも通り、寧ろそれ以上に機械的で平坦。
「ほんとにやめるんだ」
信じられない。言った本人が一番驚く。
「あなたの命令に従うようになっております」
マナから身を退け、胸に手を当て一言。
「続けられなくて残念?」
マナは唇の片方だけ上げて意地悪そうに笑う。
「美徳回路と中枢回路は命令に従えと強く私に訴えます」だが、それ以外の部分はそうではないと言いたいのだろうか。
「ごめん、本当に言えばやめるのか確かめたかっただけ」
マナは起き上がり、珍しく素直に謝る。
「構いません。検証は大切です」それに、言葉でなく行動で示すことができました、と少々誇らしげな汎用亜人型自律特殊人形。
「部屋に行こう。そういえばここ玄関だし」
T4-2は頷くように吐息を漏らすと、その剛腕で軽々とマナと散らばった服をまとめて抱える。
後には三和土に落ちた白い革手袋だけが腐った葉のように残されていた。
「寝具がなく大変申し訳ないのですが」
そう言って横たえられたのはT4-2の部屋の床だった。壁際に整然と並ぶ衣装箪笥やら書棚は日本家屋には大きすぎて、部屋の主ととてもよく似た圧迫感がある。
マナの身体の下にはT4-2の引き裂かれた外套が敷かれている。肌に触れるのは心地よい裏地。
「あたしの万年床よりずっといいよ」
指で滑らかな裏地を撫で、摘み、唇を寄せる。その姿に艶かしさでも感じたか、彼女に注がれていた眼差しが乱れる。
「明日からは、起床を促した後は布団も上げるようにいたしましょう」
言葉だけは硬く恭しい。
「布団持ってないなら、あたしの部屋で夜も一緒に寝れば。部屋まで起こしに来る手間が省ける」
「その奔放な言動、教育的指導に値します」
我慢ならないといった風にマナに覆いかぶさってきた部屋の主が問う。
「あなたへの不埒な行いを続けてもよろしいですか」
マナは満ちかけの漲りをT4-2の軀に擦り付けて答えとした。
下敷きにされたマナのしなやかな脚がT4-2の脚をすう、となぞる。捲り上がるスカート。T4-2の顔がそちらに向けられ、目が細められる。
「はしたないですよ、脚をそのように露わにして」
嗜めるというよりは、堕落した喜悦に満ちた光に声色。
T4-2は乱れた女の脚をスカートを捲るように撫で上げ、その局部を晒す。
男物の下着に収められた腰と尻は細く引き締まり、布地は随分と余っている。
「男物で、萎えちゃった?」
目の前の倒錯した変態に限ってそんなことはないとわかっていて、悪戯っぽく聞いてみる。
「いいえ、細腰に男性用下着というのも、アンバランスで健康的な妖艶さがあります」
「女物は窮屈だから」
マナの下腹で息づく雄々しい勃起だけがその下着の形と大きさにそぐわしい。
「確かに、あなたの逸物は女性のものには収まりきらないでしょうね」
T4-2の手が下着越しにマナ自身に宛てがわれる。彼の掌の付け根から中指の先までと同等の長さのそれ。太さも悍ましく、いきり勃つと言うに相応しい筋の滾りがある。これでもまだ興奮の道半ばだ。
値踏みするようにマナの肉棒に当てられていた手を己の下腹部に重ね合わせ、ふむ、というような声を漏らすT4-2。
「私の中には十分収まるでしょうけれど」
そして妖しく喉の奥で笑う。
その嫌味がましい言い草、閨房の外では決して見せない暗い笑い、マナの敵愾心が煽られる。
「やってみようか」
マナはT4-2の胸を押して身を起こし、床に座ったT4-2の下衣の前を寛げる。
「穏やかではないですね」
そう言う本人の声が一番穏やかではなく、荒い吐息と焦燥と甘い予感に満ちていた。
陰部を守る上蓋を開けてやり、既にしとどに濡れている金属の淫穴に中指をずっぷりと埋める。そこは指の一本でさえ貪欲に頬張る。指を通じて掌に滴る淫液。温く、ひどく粘着質。いやらしい水音を立てるように艶めく金属を掻きまわす。
「ぁはあっ……」機械の発する音は吐息だけでも究極に色艶満ちて淫らでマナを苛む。
耳元で甘ったるく堕ちた声を出されるととても好い。耳から脳天を犯され、そこから迸る信号が雄の性器を漲らせる。
「中、ゆるくしてあげる。窮屈なのは嫌だから」
「私は下着ではないのですから、ある程度締まりのあるほうが善いでしょう」マナの下腹を覆っていた下着が引き下ろされる。威勢よく飛び出す肉棒。「違いますか?」
不意の快感に止まっていた金属の手が再び始動する。
輪にした指で肉棒の根元をきゅっと絞められ、マナの腰がびくんと固まる。そこを締め付けられると弱い。肉欲に従順になり支配されてしまう。指を性器と見立てて腰を振りたくり、勃起を極めたくなる。
「震えて、一段と大きくなりましたね」
「一々言わないで」
機械の与えてくる快感に流されまいと、マナも奮起する。
中で指を曲げ、金属の壁を削り取らんばかりに強くなぞる。屈強な軀に情けは無用である。寧ろきつく仕置きをしてやった方が悦ぶ。
指の腹で解された金属部品は生身の肉のように蠢き縋りついてくる。それは酷く悍ましく、愛好に足る。
精密機械は色っぽく喘ぎながらもその手の動きは止めず、ゆるやかに動く軀とは正反対の荒々しさをもって続ける。
筒状にした手全体を使って竿を強く扱かれる。根元にかかると締め付けられ、先端に達すると握りこんだ手を捻られる。悪辣なやり口だ。
もう片方の掌には卑猥に膨らむ笠をねっとりと包み込まれ擦りぬかれる。先端から透明な雫が滲んで流れ落ち、擦りぬく手の助けとなってしまう。
金属の武骨な手がマナの先走りでてらてらと濡れ、視覚的にもなんともいやらしい。
「その触り方っ」「最悪ですか」最高だった。「そうっ!」
自身にない器官だというのに、その触れ方は熟れている。どれほど経験豊富なのかと訝しんでしまう。聞いてみてもおそらく上手くはぐらかされ、悦ばれて終わりだろうから直接尋ねるような愚行はすまいが。
「自涜をなさっていたときのあなたの手の動きはとても粗野で、およそ女性らしくありませんでしたから、こうした方が悦んでいただけるとばかり」
「覗き魔が」
マナはT4-2の中に入れた指を一気に引き抜き、今度は三本まとめて一際奥まで突き入れる。
「あぁー……っ」
合成音声は蕩けるが、軀は壊れんばかりに引き締まる。
濡れ堕ちて蠢く金属の輪を指の腹で押しながら磨くように触れてやると、目地からとろりと染み出る愛液。鈍重な腰が淫らに躍ってマナの性感に障る。
指先を入り得る限りの奥まで突き入れ、金属の精緻な襞に密着させて手を揺らしてやれば、尚感じるらしく噴き出すように蜜が垂れる。マナの手に溜まりきらない分は零れてスラックスに穢れた濃い染みをつくる。
「はぁ、あぁ、あなたの触り方、とても円熟して……あなたの過去に存在する誰かに嫉妬を覚えてしまいます。あなたにそのような愛の手解きをしたのは、そして愛撫させ善がったのは、一体どこの誰なのか……」
大体同じようなことを考えているのが癪でもあり、嬉しい気もする。
マナにだって興味が無いことはない。その機械仕掛の硬い軀を拓き、男の欲求を慰める手腕を授け、快感を追求したのはどこのどいつなのか。
「ああぁ……なるほど、そうですか……まさか、あの青白い女吸血鬼?」
しかし男の性妄想は雲行きが怪しくなってくる。眼は爛々と狂気に赫き声は暗く低く地を這う。
「そんな……ッ、厭ですが、善い……絡み合う二つの肌のコントラストが美しく……女同士柔らかい唇を触れ合わせて、甘い舌を絡ませて……」
マナの指を喰む淫壺の動きが、ときめくように甘く、しかし強かに、小刻みになる。鈍重な腰が緩やかに下りてきて、内部がねっとりと指先を喰む。浅ましい妄想に自分で中てられているのだ。どうしようもない下劣な男。
「嗚呼、羨ましいッ、私も、あなたと深い接吻がしたいのに……っ」
金属の顔が近づいてきて、マナの唇を奪う。虎挟みのような手がその顎を掴み、浅いはずの接吻が深く淫猥なものに感じられる。女の息が上気し、唇の端を嚥下する暇のない唾液が伝う。そして唇を重ね合わせながらも、男は言い募る。
「吸血鬼はあなたの首飾りに牙を立てて……」
唇を離れて首筋を伝う冷たい唇。マナの火照った身体がびくっと震える。
「あなたは野生の獣、狼のように月の如き青白い肌を貪る」
マナの先走りで濡れた手が荒々しく彼女の身体を這い回り、胸を強かに揉む。先端は指を埋めるように潰され、そのまま円を描くように動かされて苛め抜かれる。女はきつい快感に甲高い声を上げる。もう男の秘部を乱している余裕はない。
「それで最後は、あなたはあの女を押し倒して思う様に乱暴狼藉を働くのでしょうっ!? 細い腰同士を打ちつけて! なんと罪作りな……」
マナは男の堅い胸を叩いて叫ぶ。
「なに考えてんのそんなわけないでしょ変態野郎! あたしはあんたとしかしたことない……」そこまで言って、謀られたと気付く。遅きに失した。
男は心底嬉しそうに自身を掻き抱きながら、喉を晒し、悪党のような高笑いと淫らな情婦のような喘ぎ声を混ぜ合わせたような、けたたましい声を上げた。
「あははぁ……あっ、はあ……ふふ、はぁ、あなたは……っ! 善いですね、あなたはとても素直で純粋な方だ!」つまり御しやすいとでも思っているのか。
「最悪! あんたに乱暴狼藉してやるから!」
マナは男を押し倒し、残る布地をひん剥くと、泣き濡れた場所に煽られた激情を一気に挿入した。
「ああ゛——ッ!」
T4-2は軀を仰け反らせて絶叫する。信じられないくらいうるさい。向こう三軒隣まで聞こえるのではないかと言う程の嬌声。黙れと思わないでもないが、自分がそうさせてやったのだと思うと胸がすくものもある。
「きっつ、あんなにぐちゃぐちゃだったのになんなの、ほんと……」
重なり合う身体、触れあう腰、交わる吐息、密着する繊細な器官……これが最高でないとしたら何を好いと言うべきか。
「んぅ゛、あ……あなたが硬く、そそり立って、完全に出来上がっているせいですよ……それ程までに私の迷妄が善ろしかったですか……?」
妄想の内容がというよりも、女同士の甘い交わりを想像する堕落しきった精密機械に欲情していた。そんなことが二度と再び未来永劫脳裏にも過らぬように、自分の与える逸楽で躾けてやりたいと思うほど。
「あーもう折角いい雰囲気だったのに台無しだよ! あんたの変な妄想で!」
どちらかが主導権を握るような手荒な交わりも好いものだが、いかな嗜虐趣味のマナとて情の通じ合うような、互いに慈しみ合うようなそれに憧れる。そんな機会は巡っては来るまいと思っていたからこそ、彼とそのような関係に陥ってからは期待もしてしまうというもの。
「しかしあなたはこういう猛るような情交がお好きでしょう」
違いますか? と見透かすように細められる淫蕩な目に苛つく。全然違う。
「よく知りもしないくせに! 心の底まで鉄屑だな!」
「いいえ、私におよそ心というものはありません」
打とうが撃とうが響かない鈍い男だ。
ならば叩きのめして服従させてやるまで。
マナはT4-2の厚い胸板に手を置き、手加減なしに性器の抜き差しを開始する。金属製の硬い腰部に激突する肉の音。腰は痛むがそれ以上に征服感が満ちる。女を、ましてや男を抱いたこともないが、組み敷き乱雑に犯すのがこれ程までに心地よいとは。
目の前の物体は姿形こそ雄々しく彫像のようではあるが、マナからの性的な暴虐に晒されれば、淫らな雌の性質までも揮発させて混然となり、甚だしく猥りがわしい。痴態と形容するに相応しい。
先の手淫が与えた過ぎたる快感のためか機械の最奥はいつもより甘えて、突き入れる度に彼女の怒張の先端を縋りつくように吸い寄せる。
「あ゛っ、マナさんんッ、はあぁ、奥ぅ、届いて、善いっ、です。あなたのその、乱暴な腰遣い、凌辱じみて……ですが、私、抗えませんっ……ふぅ、んッ……」
男の低い声が色に耽溺し滑らかな喘ぎになる。
自ら脚を大きく広げ、それどころか膝頭が胸につかんばかりに腰を丸め、急所をマナに捧げさえしてくる。
抗えないというよりは積極的に凌辱を受け入れているとしか思えない。
「警官が出していい声と恰好じゃないでしょそんなの!」
保安官というより娼婦だ。とにかく淫乱。
警察なんかやめてしまえと言いたい。
喘ぎの合間の力の抜けた瞬間に腰を入り得る最奥まで突っ込む。絶望的に弱い泣き所に漬け入り、腰を回して堕としにかかる。
「あぁッ、うああ゛ぁ、好き物でっ申し訳ッ……ん゛ぁっ……ぉお゛ッ、奥、硬いのでなぞられて——ッ」
大腿が痙攣するように震え、それと同期して声も汚らしく堕ちて謝る気があるようには到底感じられない。
「ですが、声ッ出すの……ぉ゛、好きで……酷いことをされていると実感できて、善いのです」
柔軟に折り曲げられ縮んで押し潰された腹部は暴虐への歓喜のあまりまるで甲虫のそれのように蠢いている。
はあはあ、と漏れる荒い吐息のような声はまるで病人だ。
「重度の変態」
マナは怒張をぎりぎりまで引き抜く。作り物の淫壺は名残惜しそうに縋りつくが、いつものような激烈な締め付けはない。マナから搾り取ろうという気はなく、行為に耽溺したいのだろう。
「あっ、それっ、堕ちる、駄目ですっ、いけません゛っ」
次の責め苦の予兆に慄く巨体。
どうせ期待しているくせに。
マナは勢いよく腰を打ち下ろした。
「完全に回路堕ちますからあぁああああ゛……ッ!?」
T4-2は後頭部を床に擦り付け、喉を反らして喘ぐ。手は背に敷かれて捩れて皴くちゃの外套を掴み、引き千切らんばかりに縋る。上半身は逃げをうっているが、下半身だけは婀娜っぽく上向いて、支配者のために従順に捧げられている。
「弱すぎ! そんなんでよく正義の味方やってるな」
怒張を引き抜き、一気に奥まで擦りぬく責めを繰り返す。自分にもなかなか効くが、目の前の男の覿面な乱れぶりには及ばない。
「お゛ッ、お言葉一々ご尤もっ、ですが、正義とは脆く弱々しく……ひっ、あぁ……!」
自身の最も弱い部分をぐちゃぐちゃに踏み躙られ穢され啜り泣く男。
ちょっとやそっとでは疵付かないせいで、手荒な真似をされるとどぎつく官能が揺さぶられてしまうのかもしれない。
「あなたがっ、強過ぎるから……」性的にも、能力的にもだろう。「私はあなたには絶対勝てないのです、負けてしまう……ッ」
泣き濡れているかのように明滅し、ぼんやりと霞む瞳。実際に性器は手酷い扱いに濡れ堕ちて、夥しい量の合成愛液を分泌していた。お蔭でマナの怒張は溺れんばかり。奥に差し込めば結合部からとろりと愛液が溢れる。
「あたし以外に無様に負けないでよ」
汎用亜人型自律特殊人形は深く頷く。
「負けません」その瞳に刹那宿った真摯な理性の光は、しかしマナの責め苦によって一瞬にして淫奔に乱れる。「あ゛っ、でもっ、嗚呼ッ、敗北も甘やかで好きです、こうして乱暴にされて、惨めに喘ぐしかなく……」
「舌の根も乾かないうちに何言ってんだ変態」
マナは浅く腰を動かし、奥だけを執拗に責めてやる。
「ッ、はッ、はぁッ、善いです、奥に腺液塗りつけられてッ、あなたの性器が離れる度に糸を引いて……」
想像するだにいやらしい。まるで深い接吻でもしているかのごとく。
マナの下でT4-2は彫像のような均整の取れた巨躯を柔らかくうねらせ、乱れる。腕は自らの軀を悶絶して掻き抱き、広げた脚は痙攣したり、力強く張ったり。
双眸の光は蕩けて何も映してはいない。目の前の女さえも。
声は熱にうかされて己を打ち砕く女の名を呼ぶ。
朝はマナをいいようにしてくれた機械が、今は彼女の手中でいいようにされている。
「すっごい背徳感。気分いいわ」
平和だとか自由だとか、美徳だとか倫理だとかを重んじるロボット警官のこんなあられもない姿を見られるのは自分くらいのものだと思うと、滅茶苦茶滾る。
「好いね、いきそう、T4-2……さっさといってよ」
マナは腰の動きを緩慢にし、急いた声で命じる。
「私に性的極まりは必要ぉ゛っ……あり、ま……せんから、どうぞお好きなときに……」
言葉は途切れ途切れで、必要あるのかないのかよくわからない。
「馬鹿! 言わせないで! 一緒に! いくんだよ!」
互いの絶頂が重なり合ったのならば、どれだけ好いだろう。折角交わっているのだから、強い快感を求めるのは当然のこと。好き合う者同士一緒に、というような軟弱な情からではない。
「あは、はぁ、ふふ……」
一方男の方はマナの言葉から何か良い意味を感じた様子で笑みの深まったような声を出す。
「方向音痴で申し訳ない……では連れて行ってください」
金属の脚がマナの素肌をなぞりあげ、細い腰を抱え込み導く。
マナはT4-2にしなやかな身体を押し付け、その唇を吸いながら一心に腰を動かす。
互いの両の手はいつの間にか引き合い、重ねられ、きつく繋がれている。
「ん゛っ」
T4-2の内部が一際狭まり、ひくんひくんと可愛らしい断続的な痙攣が疾る。
「出すよ、T4-2……」
登り詰めつつある締め付けを受けて、マナも怒張を奥に押し付ける。
「ふぅ、んんッ、ここに……奥で、出して……ください」腰に絡むT4-2の脚による拘束がより一層きつくなる。「マナさん、どうか……」
意図せずなのか、わざとなのか、マナの耳元で流れる好い音。
「よくない声!」
マナは遂に男の中で埒をあけた。
中にじっくり、たっぷりと白濁を注ぎ込み塗りつけてやる。
「っ……ほ、お゛ッ……おお゛……っん」
内を穢す雄汁を味わい感じ入るような声。
ダメ押しに緩く腰を振り最後の一滴まで馴染ませる。
全身に回る酔いにも似た多幸感。相手も同様なのか、満ち足りたような深い息。
マナは本懐を遂げた性器を抜き、精液塗れの秘所の入り口を指で弄う。
「嗚呼……達したばかりで、回路が焼き切れかかって敏感なのですから、そんな風にされては、またよくない声が……」
「あんたの声はいつだってよくないよ」
マナはT4-2の軀に艶めかしく手を這わせる。事後の愛撫というよりかは、再びの始まりの気配を多分に含んでいた。
「絶頂されたのではありませんでしたか」
憮然としている様子のT4-2にマナは仏頂面で言う。
「いったら終わるとは言ってない。あんたに篭絡された肉体とやらをちゃんと最後まで面倒みて。責任取って」
出会って間もないがこれだけ身体を重ねれば情も沸く。次はもう少し優しくしてやろうとマナは思う。
淫らな微笑が一層堕落する。
「嗚呼……私は罪作りですね」
マナの指がT4-2の指に絡んだ。