嫉妬と献身 A - 1/5

折角の遮光性の高い、洒落た柄のカーテンは開け放たれて、淫らな弧を描く三日月が室内を青白く照らす。
 クローゼットや箪笥、書物机や作業台で所狭しな八畳間。それだけならまだしも寝具はベッド。買いたてほやほや、新品のセミダブル。足の踏み場もない部屋とはこの事。
 部屋の中心に置かれたベッドが軋む。その上でゆるやかに蠢く影は二つ。すらりとしなやかで健康的な体型の女と、それに組み敷かれる屈強な鋼鉄の男。内藤マナと、内藤丁ことT4-2である。
 寝台に二人で乗っていては底が抜けるのではないか、しかも片や重量級、と初めマナは心配もしたが、今はそんな些事は忘れて閨事に耽るのみ。
 時折漏れる互いの快感混じりの吐息、衣擦れ、性質の違う身体を重ねる音が部屋に幽かに響いては沈んでいく。
 開発され尽くした機械仕掛の淫らな場所はとても好い。マナは快感に飲み込まれそうになりながらも、微かに手繰り寄せた理性で組み敷いた男を突き上げ責め立てる。
 T4-2も最近では心得たもので、マナが動いている分には金属の器の動きは控えめだ。むしろマナが与えてくる責め苦そのものを堪能しているともいえる。
 互いに厳かに静謐に触れ合い掻き立てあった愉悦を推進力に身体を重ねる感覚は、陵辱めいた野蛮な交歓とはまた違う良さがある。
 肌蹴たガウンから覗く金属の素肌が月明かりを反射し妖しく鈍く燦く。迸る直線が複雑に組み合わさった反射光はこの世のものとは思えない程に美しい。
 マナはそれに唇を寄せ、軽く音を立てながら口付ける。冷たく滑らかな肌は熱い唇に吸い付いてくるよう。磁力か、情の為せる業か、肌が触れるだけで痺れる様に心地よい。T4-2も同じ様子で、マナの唇が触れる度に幽かな低音をたてて震える。マナの聴覚から脳髄まで犯してくるひどく淫らな音だ。
 月光を背負うマナの青白い裸体には星の様な汗が散り、まるで夜そのもの。
 マナの首筋に血潮の様に張り付く一筋の長い髪をT4-2が弄い、感嘆の吐息に塗れた低い声で問う。
「マナさん……すごく綺麗です。写真を撮っても?」
「駄目に決まってるだろうが!」
 マナは動きを止め、密やかな怒声を送る。汎用亜人型自律特殊人形の便利な耳目を通して家人が皆寝静まっているのは確認しているが、だからこそ大声で起きて欲しくはない。
「ですが、嗚呼、あなたは今、この瞬間、まるで永遠の様に非常に美しいので……写真を警察手帳に入れておきたいのです」
 その姿を見ているだけで達してしまいそうです、とT4-2はうっとり金属の秘部を蠢かせる。二つの満月のような瞳はゆったりと明滅。
「余計駄目だろうが! 公的なものに行為中の写真を入れるな! 変態家電!」
 詰るのもまた突き抜けるように心地好い。マナはT4-2の広く分厚い胸に手を置き、最後の快感を追い立てにかかる。
 金属のどっしりとした腰に、柔らかな細い腰を激しく打ち付ける。銃弾でさえ弾き返す難攻不落なT4-2の軀の最も弱い奥の奥を抉じ開け、中に決め打ちを仕掛けんとする。
「接吻を、お願いします、唇に……どうか」
 T4-2が上体を起こし、唇同士の接吻を強請る。マナは再びT4-2をゆったり押し倒しながら彼の唇に自身のそれを重ねて慰める。輪郭を愛撫しながら動かぬ微笑を食み、舌でなぞる。
 機械の唇の端から唾液が滴り、顎を伝う。まるで彼が垂らした涎かのように。零れ落ちる滴りを小さな舌と唇が舐め上げ、再び硬い唇に戻る。
 マナの腰にT4-2の重たい脚が艶かしく絡みつき、自らマナを奥に招くように細い腰を引き寄せる。
 導かれるまま、ずしりという擬態語が似合うような体で、マナはT4-2の善い場所を突いてしまう。
「あ゛……ッ、そこ、善ぃ、です……」
 法悦に打ちのめされて絶頂したT4-2の内部が激しくマナを苛む。迸りをただの一滴も逃すまいと根本は逃れようのない程に締め付けられ、竿は搾り取るように揉まれ、先端は接吻されるかのように吸い付かれて、彼女はとうとう雄の本懐を果たす。
「嗚呼っ……マナさぁん、あ゛ぁ、はァ、ん゛……っ」
 男の濁った甘い声。ぴくりぴくりと、事きれる間際かのごとく痙攣する彫像の様に上等な巨躯。
「最高……T4-2あんたは……完全無欠の変態警官」
 機械仕掛の奥津城を己で染めながらマナは譫言のように呟く。それを聞いたT4-2は愛しい悪徳回路の背に腕を回して抱き寄せると、喉の奥で満足そうな笑いを漏らした。まるで悪党のような、低く、蕩けるような。