「お口を開けて、愛らしい舌を出して」
どうか、などと言われずとも、マナは従順に舌を突き出す。薄く開けた口から、早鐘を打つ鼓動と呼応して、浅く早い吐息が漏れる。
器用な指がマナの舌を絡みとる。酒と愛液に濡れたそれがマナの脳天まで焼き尽くす。
「はっ、あ、はひゅ、う……」
二本の指で口内を掻き回されると、脳天までぐちゃぐちゃに掻き回されているように感じる。さぞ酷い顔になっている事だろう。
「乱れた表情もお綺麗ですよ、とても。視覚の暴力に完膚なきまでに打ちのめされてしまいます」
T4-2がちらと眼差しを向けた先、全身鏡の端に映る己の顔は虚で、しかしそれ故に艶めいて淫奔に見える。
性感に耐える眉は切なげに下がり、眦は朱が差し涙が滲んでいる。女らしい官能的な表情であった。
その上、唇は誘うように薄く開き、舌は男の指に誘う様に邪悪に絡む。
自分がこんな顔をするなんて、という驚愕と困惑に情緒と官能が滅茶苦茶になる。
成熟した吐息が漏れて、己の艶な痴態を受け入れる。
「ご自身でも艶やかだと、そうお思いになったでしょう。ですから、私以外にそのような顔を見せるような隙を作らないで下さい」
有無を言わせぬ支配的な声がマナの腰の奥、快感の中枢を脅かす。
「勿論こういった事も、私以外とはなさらないで。考えるだに胸が張り裂けそうになります。性的欲求を覚えられた時には、いつでも私がお相手いたしますから」
密着する腰。ぐりぐりと押しつけられ、全体をきつく絞られる。
「はぁ、あんっ、あぁん……っ」
熱い涙が零れ落ち、マナの快楽が極まった。あとは落ちるのみ。
堕とす者と堕ちる者の身体が馴染み果てて、終わりが近い。
「よくここまで我慢なさったものです」マナの涙を慰める様に掬う指。「もういいですよ、どうぞ、たっぷり出してくださいね、私の中に……」
場の支配者の軀がマナに覆いかぶさってくる。指と微笑で作り出される深い接吻。
「私を強く抱いて……どうか」
マナはT4-2の広い背に腕を回して縋り付く。制御不能の力が鋼鉄の背をぎしりと軋ませる。
「それはっ……強すぎます……ッ!」
痛みすらも愉悦と捉える機械が過ぎたる快楽に全身で慄き、その内部すらも激烈に軋む。
「もうっ、壊れろ、有害機械ぃっ……くぅ、んぁっ……!」
荒々しく唇を奪い合いながらの絶頂。
マナは腰を一心不乱にT4-2に密着させ、怒張を蠢動させながら、しとどに放出し、奥の奥まで白濁を染み渡らせる。それを受け入れる器は一滴残らず取り零すまいと、浅い方から奥へと細やかな蠕動を繰り返し、欲汁を呑み込む。
快感の極みから落ちた後は、ただ疲労の息を吐きながら、機械の腕に身を任せる。
「嗚呼……ふふ……」感じ入るような濡れた声。「沢山出ましたね。善かったですか?」
怒りが揮発し抜けかかった陰茎とマナを抱き締めたままT4-2が訊ねる。
これだけ我慢させて、大量に出させて、好くなかったわけがないのだから一々無粋に聞くなというもの。
「あんたはイってないね」
マナの陰茎を未だに物欲しげに、未練がましく啄むT4-2の媚壺。
「あなたより先に達しては、返礼にならないではありませんか。私の事は今宵ばかりはお気遣いなく」
「あたしの磁力はあんたのために使うと言ったでしょ」
マナは未だT4-2の中で脈打つ己に磁力をのせて、彼の泣き所の奥深くへ迸らせた。
「かはっ……あ゛——ッ!?」
回路が焼き切れたのであろうT4-2が身も世もない声を上げて果てた。痙攣するかのように震える男の泣き所。盛大に仰反る軀。
「お゛……ッ、ほぉ、ん……」
昼間の見せかけの品行方正さからは想像もつかないような、常ならぬ野太い下品な声が漏れる。
それだけで再びマナの性器が漲る。
「もう一回してくれる? 回路ぶっ飛んだあんたともやりたいんだけど」
言葉を発する余裕のないT4-2はただマナに縋りつき頷くと、再び腰を動かし始めた。
「ご返礼とやら、たっぷりしてよ、T4-2」
甘美な命令にT4-2がうっとりと喘いだ。
真夜中に近づき満ちた月は南天に。
窓からの明かりは室の中を二分する。
影の中、気怠げに背を反らして床に座すマナの目だけがぎらつき、己の大腿の上で躍るように蠢く男を見上げる。
うねる男の裸体は青白い光を浴びて鮮烈。汗をかいているでもなしに、金属光沢が眩しい。
マナに眷恋する汎用亜人型自律特殊人形は、己の脆弱な性器を彼女の性衝動の解消のために一心不乱に用いる。
その重たい腰が落ち、金属の器を屈強な肉柱で殴りつけられる度に濁った無様な喘ぎが漏れる。
「お゛っ、お゛ッ、あ゛ぁッ……!」
弓形に反る胸や腹は憐れで惨めな死にかけの芋虫のように震え、俯く顔の中に光はない。
「この声聞いても、みんなあんたがあたしを犯してると思うかな」思うわけないよね、とマナは影の中で嗤う。熱狂に赤く染まった唇を舌でゆっくりと舐める。
「思わっ……あ゛っ、ぐう゛……っ」
もはや言葉になっていない。過ぎたる快感はT4-2の回路を打ち抜き、感度を狂わせる。
「キスして」乞うというよりは命令。
巨躯を窮屈そうに屈めて硬い唇が影に迫る。
「ふ……ぅ゛っ」
張り付いた微笑とは裏腹に苦しそうな息遣い。触れ合う唇はほのかにアルコールの香り。
そして接吻しながらも腰の動きはなおざりにはならない。
元よりマナに従順なT4-2であるが、こういう状況でさえも必死に恭順の意を示されると極上の気分だった。
嗜虐心が沸き上がり、唇を重ねたままマナはT4-2を下から突き上げる。
「ん゛うぅう——ッ、回路っ……響くうッ、壊れますっ、んぁっ」
T4-2の頭が勢いよく仰け反り唇が離れる。床についた膝から先、脚の末端が、ピンと反るように伸びる。
「狂った機械は壊していいんでしょ」
マナは鋼鉄の胸を揉むように手で包み込む。漣の様に外骨格に浮き立つ隕鉄の輝き。迸る磁力。
「オ゛ぉぁッッ!? あああっ! 効ぐッ、善い゛ぃんっ」
うるさいくらいの雄々しい嬌声。
機械仕掛の性器がきつく締まる。立て続けに叩き込まれる過ぎたる快感に異常をきたしたのか、充血した粘膜の様に腫れぼったくなったそこ。
「やらしいな、よくできてる……」
もはやT4-2の内部はマナから搾り取ろうとするような随意の動きはなく、狂瀾に飲まれて快楽の徒。それでも腰だけは振りたくる。
「よく……い゛ッ、光栄で……っ、ん、かはっ、あ゛っ、ン゛ぉッ、は、おぉ……ッ」
自分自身から弱い部分を媚びる様に差し出し犯させている眼前の機械。屈強な男が酷い声を出しながら乱れて、行為に耽溺しているのは大変に刺激的。
「たまんない……ご奉仕すごいね。好き」
T4-2の双眸が火花か星が散るかのごとく激甚に瞬く。生身の人間だったら感激に落涙しているといったところか。眩しすぎてマナは眩惑されてしまう。
「好きっ!? 嗚呼ッ、そんなにっ! 私の事が!?」
先走った感激故か締め付けが一層強くなる。
「ちがっ、あんたの身体っ! 行為が!」
しかし彼にとってはどちらでも悦ばしい事に変わりはない。T4-2は嘆息の深い息に一つ震える。
「ふふ……はァ、嗚呼、どちらでもいい事ですよ、マナさん……っ」
法悦によりT4-2の快感が極まりかける。マナを抱きしめる熱い金属の腕。
柔らかな頬を押し付けられた硬い胸郭で確かに脈打つ星の心臓。
快感と切なさがマナを同時に打ちのめす。
「T4-2っ……!」
マナはT4-2の腰骨様の稜線を鷲掴み、奥まで突き込み粘っこく長い射精を見舞う。
「精液熱いっ、んあっ、煮え滾ってッ……あっ、イきますっ、お願いしますっ、もう一度、磁力っください、私の奥痺れさせて……どうかッ」切羽詰まって跳ぶ声。痛い程に押し付けられる重たい腰。
「ああー、変態! 変態家電、ほんとに壊れろ!」
マナは指と奥に捩じ込んだ陰茎から内に向けて甘い磁力を迸らせる。
「ひっ、深ッ、お゛っ、ほぉ——ッッ……!」
深く絶え果てたT4-2の媚肉に貪られながら、マナは彼の中を余す所なく汚染した。