(好きって言うかわりに、嫌いって言わないようにするのは違うでしょうよ〜)
アキは座卓に突っ伏したまま、心の中で呟いた。
姉の心の中を覗いたのは故意ではないし本意でもない。
目覚めた瞬間の能力を抑制できないその時に、たまたまマナの我の強い思念が流れ込んで来ただけだ。
魂がいつもどこか別の所に囚われているかのような、暗い目をした姉が最近、今を生きている風になって、びっくりするほどきれいになったのは、あの丁のお陰だったのか。
秀と薫も居間で眠りこけている。秀は座布団を枕に横たわり、酔い果てた大イビキ。薫は死んだように床に倒れている。
丁のお陰でよく眠らされた。あんなに煽てられ、酌をされ、呑まされては、姉が風呂から上がる頃には皆気分よく昇天するというもの。
薫においてはジュースに酒を混ぜられたのだろう。姉とえっちな事したいがために未成年にそういう事をするなんて……。
(丁くんコワすぎ〜)
とは思うが、そこまでしてもらえる姉が羨ましくもある。それも、半陰陽である事を受け入れられて、性行為までしているようなのだから本当に本当に羨ましい。
今も時折聞こえる信じられないくらい下品でうるさい喘ぎ声は丁のものだろう。姉に性的に虐められているのだろうか……そうか、あの日の教育的指導と言うのは……。
(っていうか自宅でやらないでよねぇ)
どちらが何をどうしているのかまでは能力で探りはしないが、そのうち姉に直接問い詰めてやる事にしよう。後は、家でやるなと言っておこう。潔癖な薫は吐くだろうし、秀は発狂して二人まとめて家から追い出すに違いない。
すべての感覚が聡い汎用亜人型自律特殊人形に、自分が目覚めていると気付かれないよう、アキは再び目を閉じた。
寝入る寸前、姉の爆発するような強い情念を受信する。
食べられなかった寿司だとか、チョコやビールの味わいだとか……洋楽だったり、丁が姉を讃嘆する声だったり、T4-2T4-2T4-2T4-2……と歌うような姉の声。彼女の心象官能は味覚と聴覚がとても鮮烈。
そして丁のそれも、ぼんやりとアキの脳裏を過ってゆく。
彼の心象官能は……官能といってよいのか……燦く六芒星、暗闇、星々の輝き、落ちて砕けた、悍ましい図像の……ノイズがかかったような、幽世に揺蕩う、この世ならざる亡霊達の軍勢の囁きのような、鬨の声の轟きのような、途切れ途切れの、マナを讃えるような、ともすれば、命さえ奪い取るかのような、混沌として激烈な——
THE END of The Dirty Laundry