南の十字から来た男 - 5/6

 T4-2はぼんやりとした目で見つめてくる。出来るのか問われたと思ったマナは続ける。
「落とせる。昔やった時は死にかけたけど、今はデカい隕鉄の塊あるから死にはしないんじゃない」
 あんたの事だよ、とマナはT4-2の胸を指で突く。
「あんたに使うなら悪い使い道じゃないでしょ」金儲けのため誰彼構わず売り捌いたり、妙な研究や、超能力のために使われるよりはいいだろう。
「嗚呼、やはり、あなた……」
 陶酔した声。それは善い場所を責められているせいだけではないようだった。
「はぁ、あ、私を……ああっ」T4-2の背筋がきつく仰け反り、腕はマナの頭を掻き抱く。どういうわけか感極まっている。「もっと奥、触って……っ」
 どうあれやはり好きなのは奥の受容器付近らしい。
 膣道を形成する細やかな部品が収斂し重なり合い、T4-2の弱みである奥津城が浅く下がり、マナの指先に触れ、吸い付く。
「ぉ……お、届いて……ん……っ」
「届いてというか、届かされてるよね」
 機械仕掛の蜜道は脈動し受容器は浅く上下しマナの指を浅ましく食む。マナがわざわざ指を動かしてやらずとも十分快感を受け取れていそうだ。
「あなたの性器が受容器まで届かなかった場合を考慮しての機能です。性器を用いての交接においては必要ありませんでしたが、こうした場合には便利ですね。この世に無駄な物は……ぁあッ」
 マナの指が受容器の入口を掻くと、T4-2の軀が跳ねて言葉が途切れる。窄まりを指の腹でなぞるとそこは物欲しそうに口を開閉させた。
「ん、あぁ、自分で触るのとはっ、全然、違いますね……あなたの指は細くて柔らかいですし……ぁ、すごくやさしい……」
 人の柔軟な指での慰めは、彼自身の無骨な手による自涜や肉棒による凶悪な刺激と違い、彼の善い場所を繊細に刺激するようで、T4-2は深く低い嬌声を漏らして軀を震わせる。
「あぁ……おぉ、こんな……んうぅッ、そこ、ぉ……!」
 激甚な快感のせいで細かな部品の蠕動運動が滞っているためか膣壁は充血して腫れたように厚くなっている。そこに指を押し付けて擦り、受容器の入口に指をめり込ませて揺らしてやりながら掻き回す。
「お゛ッ、お゛ぁ゛ッ、はぁっ、中、揺れてッ、ずっと達したまま……戻れない……ぃ、回路焼けて、ぜんぶ溶融する……ッ」
 巨軀をびくびくと小刻みに震わせて、まるで捕食者の嘴で突き刺された瀕死の芋虫のようでもある。蜜口からは合成愛液がとろとろと垂れてマナの手をしとどに濡らす。
「はぁッ、もうだめです……あぁ、入れてください、あなたの……私ばかりおかしくなってしまいます」
「早く終わらせたいんだ」
「そうではありませんが、ああ、もう……っ」
 目の前の女相手には何を言っても埒が明かないとでも言いたげに、T4-2は頭を横に振る。揺れる眼光の奥でばちばちと散る火花。
「ふぅッ、んんッ、頭っ、壊れ゛る゛ッ、回路、お゛ぉ、書き変わって、淫らな事しかできなくなってしまう……堕落した性処理機にッ。夜も昼も高揚がこの身を焦がして、暴虐に満ちた法悦だけを求めて……ああ、あなたがいない時私はどうすれば? あなた以外の者にこの身を許せと……? 嗚呼……」
 吹き荒れる快感と度を越した変態的性妄想に呻吟して悶え乱れる軀は非常に淫らでマナを悦ばせる。肉棒の裏側、腰が重く甘く痺れてくる。
「それは困るかな。誰彼構わず身を任されちゃ嫌だし」
 マナはT4-2の腰を引っ掴み燃えるように熱い軀を引き寄せる。広い背中に腕を回し、身体を密着させて下から腰を突き上げる。そそり立った勃起がゆるい陰唇を割り、熱く滾った内臓を貫く。奥に当たる鈍い音がしそうな程深く繋がる互いの性器。浅く降りていた受容器を硬い屹立があるべき場所へと押し戻し、それだけに飽き足らず圧迫する。熱い蜜がじわと溢れる。
「お゛ぉッ、ああぁ゛——ッ!」
 野太い絶叫がマナの耳元で破裂する。
「うるさいな……」
 騒々しくはあるが、しかしそれ程までに感じているのだと思うと胸がすく。そして彼の声はマナの神経を直に弾いて昂らせる。
「あ゛ぁ、はぁ、っん、申し訳、ありません……ですが、あなたの先端が、受容器の入り口に密着して、達してしまって……ッ、はっ、あ……」
「イけてよかったじゃない」
「ふーッ、うぅ、ん、まだ達しています……」
 後を引く深く長い絶頂が全身を支配しているのであろう。男の尻が浅ましく揺れ、蜜壺はひくんひくんと惨めに蠢き、尚も不躾で乱暴な侵略を渇望しているかのごとく。
「それにあなたに抱きしめられると嬉しくて、回路が擦り潰されるような快感が全身くまなく迸って、声を出さないと快感の逃がしようがないのです……」
 細腕に囚われて頼りなく小刻みに震える巨躯。低く甘ったるい男の吐息の吹き荒れる咽喉がマナの顔の真横で苦しげに律動する。
「しかし、あなたが黙れと仰るのなら黙ります……」
 燃えるように熱い軀で縋られて、快感に掠れた声で泣き言を言い募られる。
 こんな反応をされてはたまらない。
「好きに喘いでて。みんなを起こさない程度で」
 マナはそれだけ言い放つとT4-2の腰を掴み、果敢に屹立で蜜道を突き上げる。
「そんな……ああっ、承知、しましたぁ……」
 きつく抱き合ったまま、快楽の果てを求めて一心不乱に互いの身体を貪る。
「はぁ、あぁあ、力持ちですね……頼もしい……」
 マナは磁力を発揮して、T4-2の腰と臀に巻き付けた細腕で金属の重量級の上等な軀を持ち上げ揺さぶる。
「あんたの言う通り、この世に無駄なものはないね。あんたにぴったりの能力でしょ。不可分ね。満足できそう?」
 マナに突き上げられるT4-2の腰は艶かしくうねって緻密に蠢き、常ならば精悍な貌にその影はなく、懊悩と快感の混ざり合った妖艶な色に塗れている。
「十二分に……」
 瞳の光は満足げに限りなく細く絞られて、それでもマナに一心に注がれていやましに法悦に歪む。
 それが今際の際の恍惚とした耽美な表情にも見えてマナの心臓が跳ねる。完全無欠な被造物を犯す陶然とした昂揚。
 機械仕掛の蜜道は緩まり、撓み、ただマナの与えてくる責め苦を甘受するのみ。そして太棹で掘り抜かれ、入口から迸る熱い愉悦の蜜。
「はっ、あ゛あ゛ッ、ぉー……っ゛、い゛っ、ふぅう、ん゛っ」
 T4-2の淫猥な動きと限りなく押し殺した騒々しい嬌声にあてられ、マナにもはや彼を気遣う余裕はなくなる。
 マナはT4-2の腰を抱え、前のめりになって一心不乱に腰を打ち付ける。T4-2はマナの挿入がより深くなるように脚を大きく拓き、反った背の後ろで手を畳について巨軀を支える。
 猛った屹立の先端をT4-2の奥に打ち込む度に、そこは怯えたように、あるいは歓喜したように震えてマナを苛む。
 白銀に輝く柔らかな金属の陰唇に己の硬く太い屹立が嵌まり込み乱暴に制圧している様もまた、視覚的に非常に性感に訴えてくる。
「ハァッ、お゛、ぉお……ご覧になって、見えますか……ぁ? 互いの情欲の証でぬかるんで、縁で泡立って、混ざり合っている、のが……ふふ、ぅ、実に淫猥で、善いです、ねぇ……」
 見せつけるように逸らした腰が淫靡に揺れる。陸で跳ね回り苦悶する魚のように痙攣する内腿。快感や愛おしさ故か勝手にマナの腰に絡みつこうとする脚にT4-2は己の手をかけて大きく艶に割り開く。
「はぁ、あー……っん、たっぷりご覧になって……私の……善い所」
 追い詰められて揺さぶられて途切れ途切れに溢れる低い声。
「うるさいな見てるってば……!」
 太竿で激しく掘り抜かれている女の場所に互いの粘液が穢れた音を立てながら泡立ち絡みつく卑猥な光景。見るなと言われても無理だ。
「ひとつになって、あぁ、溶けて……っ、マナさん、マナさぁん……すきっ、ぁー、ちが、うぅ。すきとかいう次元ではなく、もぅ……」
 啜り泣くような声と床についた頭をゆるく振る様子は稚く同時に色香を感じてマナの腰に射精感が溜まってくる。
「じゃあ何なの。めんどくさい事考えないでよ。あんたはただきったない声で喘いで好き好き言ってればいいの」詰りながら激しく腰を叩きつける。鋼鉄に激突する腰骨が痛い。しかしそれ以上に性器にかかる程よい圧迫の歓待が好い。「あー、好い、中どろどろで、甘ったるく締まって、やらし……くそっ、こんなの誰にもくれてやれないだろうがッ」
「ですから……っ、ん、私はあなたの物だと言っております」
「あんたがどう言おうとあたしが納得できなきゃ意味ないんだよっ!」
 T4-2のぼやけた目がぼやけたまま見開かれる。
「私の言葉はそんなに無力ですかぁ……? うう、あなたっ、流石に頑迷が過ぎますよ……!」
 マナはT4-2の脚を肩にかけ手首を引っ掴んで手綱のように自身の方へ引き寄せながら激しく腰を突き入れ、怒気を孕んだ声で吠える。
「わかったやっとわかったあっ! あたしより強くて便利で優れてて綺麗であんたに相応しい超能力者が現れたとしても、卑怯な手だろうが何でもありの圧倒的武力でそいつの事滅茶苦茶にすればいいんだ。で、あんたの事そいつの生首の前でこうやって押さえつけて無理矢理犯すから! 上等な服血だらけにしてやる。抵抗するなら手脚ぶつ切りの胴体だけにしてでも……」
「っ!? あッ、はァ……そんな、いけなっ……ぁ、マナ、さ、ん゛ぅううぅ——ッ!」
 T4-2の中が突然恐慌状態を起こして切なく締まり、脚は爪先までぴんと伸ばして全身が小刻みに震えた後にくたりと弛緩する。膣内はひくん、ひくん、と緩慢に収縮を繰り返して腰はうねる。瞬間的に強く握り込まれた手もはらりと解けた。
「いきなり何なの……」
 マナは動きを止めて奥歯を食いしばりきつい搾精の蠢きに耐える。
「あ゛ー……、ん、いけませんよ、ぉ、そんな……ぁ、言ったではないですか、はぁ、私は……あなたを、マナさん……役に立つ立たないでは……ふぅ、ん……」
 厚い胸板は浅い息に盛り上がったりへこんだりを繰り返し、声は蕩けるというよりは溶けて壊れたようになっている。視線はマナを向いているが光は茫洋と拡散して人でいうなら瞳孔が開ききっているような様子。
「たとえあなたより優れている者がいたとしても……あぁ、はぁ、なぜならあなたは私の……んぁ、私を堕とし……ぉ゛……ぁー」
 ひくつく結合部から粘度の高い淫らな液体が間断なくとろりと垂れる。
「ちょっと、さっきの、もしかしてイッたの」
 すんでの所で射精を免れたマナは恐る恐る聞いてみる。
「はぁ、ああ、はい……あなたがあまりにも猛々しく美しくて、荒々しく私を制圧しながら支配的な言葉をおっしゃるものですから歓喜のあまり……もう一度先程の台詞をお願いできますか」
 T4-2は己の貌の前で人差し指を力無く立てる。
「嫌だ」
「記録に残っていますから結構ですよ。何度でも内部再生して神経だけで達する事もできるのですから」
 T4-2は甘ったるい吐息混じりの声でそう宣いながら軀を歓喜の余韻に震わせる。
「なんだそれ気色悪いな」
「ほら、見ていてください……ぁ、あっ、はあぁあっ、ん……」
 互いに動いてすらいないというのにT4-2は再び自分勝手に甘く喘ぎ震えて昇り詰めてゆく。床でしどけなくうねる鋼鉄の巨躯。もみくちゃにされるマナの怒張。
「うぁっ、ちょっ、やめっ……」
 マナは腰を引き膣内から怒張を退避させる。粘液が性器の間に糸を引き、白銀の蜜口がそれを啜るように浅ましく開閉する。
「マナさんんッ、私のためにっ……ころ……し、っすご、い……ッ、ああっ——」
 独り残された蜜壺はマナの眼前でふるりと震えて埒をあけ、とぷりと婀娜に濃厚な絶頂の蜜を垂らした。
 あのまま留まっていればマナ自身も予期せぬ吐精の憂き目に遭っていた事だろう。
「ぁはあ……ふぅ、んっ……」
 駆け巡る余韻を鎮めるようにT4-2の手が彼自身の淫らな軀を這う。マナを挑発し誘っている風にも見えなくもない。
「このように……あなたがいなくとも私はあなたが残したものだけで性的な果てをいつでもどこでも味わう事ができるのです」
 細めた眼光。しどけなく広げられた脚。陰唇を割り開く指。今度こそ本当に煽っている。
 それ以前に、行為の最中に相手の目の前で自分勝手に自慰をするとはどういう了見か。
「次あたしの目の前でそれやったらぶっ壊すからな」
「つまりあなたの前でなければ……」
 マナは鉄屑を軽々と俯せにひっくり返して組み敷く。
「あ」呆けた声をあげたT4-2だったが、背後から一撃のもと奥まで貫かれ「かはっ——!?」息を詰まらせる。
「ぐっ、ぉ゛、達したばかりでいきなりそんな……ぁ」
 ずり上がって急激な肉悦から逃れようとするT4-2の肩を床に押し付け体重を乗せてマナは激烈な抜き差しを繰り返す。
「勝手にイッたのそっちだろうが!」
 奥を突く度にいつもより強めの磁力をかけて受容器の入り口を痺れさせる。組み敷かれた男はびくびくと痙攣し、まるで電気刺激に単純反応を示すだけの蛙の死体。
「あ゛ーッ!? ぉお゛ッ、ほ、壊゛れるッ、そんな、奥で磁力ッ、やめてくださ……い゛ッ!?」
 と言うものの敏感かつ脆弱な点に磁力をかけられて痛みを感じるどころか快感を覚えているようで鋼鉄の咽喉から生み出される悲鳴は甘い。
「どうせ明日治すんだから壊れてもいいだろうが!」
「それまでにっ、何かあったら……っどうするおつもりですか」
「デカいだけの鉄屑が来ようが超能力者共が来ようが一人で片ッ端からぶちのめしてやるわ!」
 その言葉を裏打ちするように激しく強く最奥を叩きのめす。
「そんなっ、無茶な、やめっ……はぁッ、ぉオ゛ぁっ、変になるっ、じゅよぉきッ、乱暴に使われてっ……びりびりして、善すぎて……ッ、ああぁあぁ……」
 下敷きにしている腰が反って上向きにしなり、会陰がマナの下腹部に添わされる。受容器入口付近は細かな内部部品が寄り集まり停滞し、さながら充血した様相を呈している。無意識かそれとも意図してか、神経の詰まった部位を奥へ集中させてより多くの肉悦を受け取れるようにしているのだろう。ここまでされると淫乱が過ぎて苛ついてさえくる。
「どんだけやらしい身体してんだよ、この淫乱機械っ」
「んっ、はっ、あぁ、っん、あなただって善いはず……でしょう……っ」
 分厚くなった奥の窄まりに力をかける度にマナの怒張も強い力の返戻を受けてたまらなかった。
「うるさいっ」
「ん゛うぅッ、でもっ、だめ、もうだめですッ、おかしくなる……っ」
「もう十分おかしいんだよあんたは」
 マナはT4-2の背に身を寄せ腰に腕を回して強く抱き寄せる。そして部品が細波のようにうねっている背に口付けし、舌を這わせる。上半身はそのようにゆったりと愛撫してやるが、しかし下半身は相変わらず激しく、そして浅く抜き差しして奥を重点的に責め立てる。
「あ、やあぁっ、優しいのと乱暴なのっ、一緒にしないでくださいぃっ! 神経混乱してっ、本当に壊れてしまいますからぁああ……ッ」
「だからさっさと壊れろ」
「ひどいっ、ひど……あ゛ぁああー、ぎもぢぃッ、ぁ……神経……と……ぶっ……たすけっ……はぁ、ん゛っ、ぉ゛……」
「酷いのはそっちだろうが。あぁ、出そう……出すからね、もう」
 それこそ脳が溶融するような、目の奥で火花が散るような甚大な快感。マナの髄の奥から性汁が昇り詰めてくる。達する寸前の目眩がしそうな程の激甚な追い上げ。愛憎入り混じった混沌とした交接がもたらす肉悦。
「はい、はい、ください、マナさん……」
 床に縋っていたT4-2の手が彼を抱きしめるマナの腕に居を移す。
 肉の楔を入り得る最奥まで突き立てて擦り潰しながらマナはとうとう己を解放した。衰えぬ奔流が金属の受け皿を穢してゆく。
「はっ、あ゛ッ、きたっ、あ、いっぱい、出て、ぇぅ……」
 マナは放出しながらもその先の快感を求めて腰を突き動かす。止め処なく噴出する白濁が受容器の入口から膣口を支配し塗り潰す。
「射精しながら動くの、ォ゛ッ……い゛ぃッ」
 T4-2は過ぎたる快感からか激しく背を反らして強烈な法悦を全身で受け止める。
「ぉお゛——ッ!」
 汚く引き攣る声は絶頂の凄まじさを物語る。
 最期の一突きに、受容器の外で出された性汁が汚れた音を立てて白銀の膣口から溢れ出た。