その後も排出される水が透明になるまで、器具で直腸内への水の注入を繰り返された。それは我慢する必要はなくて、肛門が内側から自然に押し広げられ、腹が空っぽになる心地よさだけがあった。全部出し切れるよう、マッサージするように臍の周りや下腹部を乱暴に揉み込まれて、水だけでなく、また精液まで垂らしてしまっていた。
洗浄が終わると僕は涙と鼻水、涎を垂れ流しながら呆けた声を上げて、尻だけ掲げて床に倒れ伏した。そしてタイルの冷たさを求めて床に顔を擦り付けた。そうして意識朦朧としている間にも彼女は処理を続けていて、僕の局部を清めてタオルで拭き取り、肛門にワセリンかなにか、軟膏を優しく塗りつけてくれていた。丁寧で細やか。僕はまるで売られる前の商品にでもなったかのような気分だった。
肛門の襞を指の腹で円を描くようになぞられて、くすぐったいような不思議な感覚が湧いていた。
「おしり、ひくひく動いてかわいい。気持ちよさそう」
そこでやっと、気持ちいいのだとわかった。僕は熱っぽい息を吐き、腰をより高く上げて彼女に捧げた。肛門に潤滑剤がとろっと垂らされた。腰がびくびく震えた。潤滑剤は冷たかったがすぐに僕の熱で温かく蕩けて谷間を伝った。揮発する匂いからしてオリーブオイルのようだ。
「これからたくさん使いましょうね」
ちゅ、という場違いな可愛らしい音を立てて僕の中に指が浅く沈んだ。浅い所をくぽくぽ、指を出し入れされて、腰が砕けそうだった。よくない事をされている感じがとてもよかった。それも、好きな子の指で。
「ふぅっ、あぁっ、うぁあ……ぉお」僕はもっと欲しくて上下に尻を振り、自分から指に内部を犯させる。そんな所を弄られて早々に快感を得るなんて、なんだかよくない事のようにも思えたけれど。
「そんなに性急にしないでいいのよ。ゆっくりね」とは言いながらも、彼女は指をぬるりと滑らせてより奥へと侵入させてきた。強すぎる刺激に身体がかあっと熱くなって、筋が強く引き締まった。肛門がきつく閉じてまるで女の指を食い千切ろうとする飢えた獣のよう。僕は恥ずかしくてたまらなくて、なんとか身体を拓こうとするが、そうしようとすればするほど肛門はぎゅうぎゅうと絞られて彼女の指を喰み、強烈な快感が脳を焼いた。
「あ、あ……! きつ、い……ふぅ、う、ごめ……なさ、はぁ、ゆるして……」
僕は泣いて謝りながら、腰を落として彼女の指を解放しようと必死に努めた。でも無我夢中になればなる程、筋肉は激烈に締まって指ごと持って行こうとしてしまう。心と裏腹に肉体は彼女の指を欲してやまないのだろう。いや、心も……。
「無理に動かないで、大丈夫よ」
肛門に嵌まり込んだ指はそのままに、彼女の親指がオイルに濡れた会陰をくすぐるように撫でた。ゆるやかな心地よさで全身の硬さが綻んできて、また性器が芯を持ってゆるく立ち上がった。快感の汗が滲み出て苦痛の脂汗を押し流した。
肛門がこなれてきて、快感の元を離すまいとしていた必死の様相から、それを歓待する媚態へと移り変わった。しなやかな指が中で軽く曲げられて直腸壁の腹側を撫でた。腰から全身に響く肉悦に僕の喉から鋭く短い喘ぎ声が押し出されて、緩い尿意が意識された。
「あぅ……もっ、もれ、る……」
「違うから大丈夫」
彼女の言う通り肉棒の先から迸ったのは尿ではなく透明な粘っこい汁で、床に淫らな糸を引いた。しつこく垂れて、かなりの量だった。
「ここ、あなたのいい所だから覚えておいてね」
僕は床に顔を擦り付けながらうんうん頷いた。
指が去り、名残惜しさに腰が指を追って上に跳ねる。
「入れるわね」
喪失感に慄く尻を新たな刺激が充たした。とうとうこの淫辱の目的が果たされたのだ。嵌め込まれたそれは弾力があり、僕の腹圧に負けずにしっかりといい所とやらを圧迫して刺激した。肛門の部分は細く、自然に閉じた状態を阻まない。底は扁平な蓋状で内部に完全に飲み込まれないようになっている。
「がんばったわね。とても上手だったわ」
彼女に褒められキスされ撫でられて、僕はそれだけで肉棒の先端から悦びの濁った汁を垂らした。
それが僕が彼女に初めて躾を施された時の事。
それからも僕は素直に貪欲に彼女の指示を守り、身体を自分自身で拓いた。
毎日少なくとも一時間は装着し、括約筋を動かして内部を刺激した。お陰で今では前立腺の刺激だけで快感を得て射精できるまでになった。
彼女の持ってきてくれた荷物に新しい物が入っていた場合は臆せず使った。徐々に物は大きくなっていき、時にペニスを模った淫具で入り口を広げ奥深くを穿ち慣らした。
深い快感に身体は熟れて、無駄な力は削げ落ちて、頑なだった関節も筋も柔軟に仕上がった。背を逸らし大きく脚を広げれば、僕の淫らな部分を余す事なく晒す事ができるだろう。
淫らな自己鍛錬に没頭した後には心身共に心地よく疲れ切って、悪夢も見ずに泥のように眠り健康になった気もする。
今となっては腸の洗浄さえ大好きになってしまった。僕の排泄器官は完全に性器としての用も成すようになっていた。
僕は彼女が配達に来る前には必ず道具を仕込み、彼女の足元に跪き効用の程を照覧あれと曝け出す。まるで彼女の飼い犬である。むしろ飼い犬にして欲しいくらい。僕が尻を引き締めて放出を伴わない絶頂を見せつけると、彼女は肛虐を悦んで行なう僕をいたく褒めて射精を誘ってくれる。
僕は疼きを頭と身体の隅に追いやるとガラス窓に張り付き、進行方向に背を向けて小舟を漕ぐ彼女の背をじっと見守る。何かあったら港の砦に急いで彼女を助けるよう打電をしつこく素早く轟かせないとならないから。
こうして夕の終わりの海を渡って来てくれるのはとても有り難い。大抵の人間は真昼の海さえ恐れる。なにせ船が多すぎる。このところ特に増える一方だ。
ここみたいな海岸沿いの田舎は船が専らの関心事だが、内陸や都会もそれはそれで大変らしい。そちらの方は列車や、車や、娯楽施設と……最近は減ったらしいが、たまに空を飛ぶもの。この辺では船くらいに気をつけていればいいから気楽なものだった。
この辺りの人々の灯台への評価は真っ二つに別れる。灯台の灯りが町を守っているというものと、その灯りこそが船を引き寄せているというもの。年寄りは前者の考えを持った者が多いけれど、若者はその逆だった。彼女は十分若者の部類だが、雑貨屋の老女に育てられたからか、僕の仕事を必要不可欠のものと思ってくれている。
あとはこのご時世、公僕は目の敵にされやすい。戦勝側とはいえ、得る物もなかった戦争の後。退役した傷痍軍人とはいえ、灯台をちかちかさせているだけの安穏な仕事に易々とありついたと思われがちのようだった。
実際のところは、昼夜逆転の生活だし、設備の点検に不自由な脚を引きずって上へ下への垂直移動はかなり堪える。買い物に町まで行く余裕なんてない。ただ、給与と生活設備の点では恵まれているのは確かだろう。
とはいえこの仕事に必要なのは肉体的な頑健さではない。船を間近に見て、その存在を肌で感じて、平然とこの閉鎖空間で暮らせるかどうかが一番重要だと思う。
前任は一月、その前は半年で辞めたところを僕は五年続いているから、なかなかの適正じゃないだろうか。
彼女が島に到着し船から荷物を下ろした所で僕は塔室を出る。床板を跳ね上げて杖を投げ込み梯子を一段一段のろのろ降りる。もどかしいが仕方ない。右の大腿には未だ鉛の弾丸が散ったまま眠っていて、たまに機嫌悪く目覚めては暴れる事さえある程で、自分の身体なのにおよそ自由にはならない。その上に右膝から下は失われて、頼りになるのは反対側の脚か杖だけなのだから。
塔室の下の居住スペースは寝室もバスルームもキッチンも汚れ一つないくらいピカピカに磨き上げた。彼女が泊まっていくお決まりの日の前日には居住区の隅々まで掃除する。
バスルームに入り、壁に取り付けられたバルブを回して浴槽に湯を張る。銅管から沸騰寸前の熱さで保温されていた湯が滝のように流れ出て蒸気が濛々と立ち込める。この時期なら食事の後には丁度いい温度になっているはずだ。
洗面台には二組の洗面用具。コップ、歯ブラシ、歯磨き粉、タオル……などなど。僕と彼女の分。週に一度は必ず泊まりに来るのだから、荷物はなるべく少ない方がいいと思って、彼女の日用品はすべて揃えて置いてある。
顔の角度をゆっくり変えながら、洗面台の鏡に視線を注ぐ。自惚れているわけではなく、髭の剃り残しがないか確認しているだけ。そうでなければ何度も見たい顔ではない。
線路のように顔を縦横無尽に錯綜する傷口は下手な縫合のせいで引き攣れて尾根のようにでこぼこ隆起している。右の瞼は腫れぼったく垂れ下がって、その下に微かに覗く眼球は濁ってまるで死んだ魚。縫合痕は先の戦争で負った傷によるものだが、目の方は灯台と官職を目の敵にする者たちにやられた時のものだった。
彼らはある日突然灯室の扉を叩き、無防備に応対した僕を襲撃した。片脚が使い物にならない中年男一人に対して働き盛りの若い男四人がかりで、あまりにも数と力の差がありすぎた。僕の風采を見て一瞬奴らが怯えた隙を突き、僕は果敢に応戦し善戦し光源を破壊しようとする彼らを追い返したが、もちろんこちらも無傷では済まなかった。興奮冷めやらないせいで痛みはなかったが血だらけだったし、右目は潰れていた。その上よってたかって打ちのめされたせいで厭な出来事まで思い出させられ、陰鬱な谷に陥っていた。そういうわけで僕は自分を救済する気持ちにはなれなくて、床に倒れてそのまま意識が薄れるに任せた。
そのうち寒気がしてうっすら目覚めて、膝を抱えて震えているうちにまた気絶して、次に目覚めた時には燃えるように身体が熱かった。特に右目が重く熱く、膿んでいるとわかった。
誰かが扉を叩いて、しばらくしてそれがゆっくりと開く音がした。入りますね、という彼女の声。
この頃彼女は雑貨屋の老女から灯台への配達の仕事を引き継いだばかりで、前任のやり方に則って品物は扉の外に起き、僕にその旨声だけかけてすぐに立ち去っていた。他人と対面するのと会話をするのが致命的に得意ではないので、そうするように頼んだのは僕自身だ。だから分厚い扉に阻まれない彼女の声を聞くのも、気配を感じるのも、それが初めての事だった。
「怪我をしていらっしゃるのでは。手当が必要ではありませんか」
今ならその気遣いをとてもありがたく受け取れるが、その時は彼女の事をよく知らなかったから、自分の顔も、情けなく屈まる姿も見られたくなかった。僕の貧弱な想像力と経験では後で笑い物にされるとしか思えなかったから。
「来るな」そういうわけで、珍しく澱みなくまともに話せたのに出たのはつっけんどんな言葉だった。「見るな」そして僕は目を固く閉じて、彼女の気配が消えるのを待った。しかし足音は静かに近づいて来て「帰ってくれ」かなり強い口調で拒絶したつもりだったがそれでも物怖じする事なく彼女はぺたぺたと僕の身体と顔に触れて怪我の程度を検め始めた。
「膿んでいる。触らない方がいい」
熱のせいか切羽詰まり過ぎているせいか言葉は滑らかで、以前の僕に束の間戻ったかのようだった。折角まともに喋っているというのに、彼女は忠告など聞き入れたりはせず、僕の服を剥いて手当を始めてくれていた。身体の自由は効かないし、怠いし、厭でも推定善意の人に身を任せるしかなかった。どんな表情で見られているか知りたくなくて、目だけは固く閉じたままでいた。
視覚を封じている分、触覚は鋭敏で発熱した身体に彼女の手はひんやりと冷たく感じられてとても心地よかった事を今でも覚えている。
彼女は丁寧に傷口を洗浄して包帯を巻いて、打撲には氷嚢をあてがってくれた。そして血と排泄物で汚れた身体を清めて、最後は臀部に抗生剤の注射まで刺してくれた。その辺りになると心身の調子の悪さよりも羞恥の方が勝っていた。
処置が終わると僕は毛布で巻かれた。繭に包まれているようで、ひどく落ち着いた。
「あとはお休みになって」彼女は毛布の上から僕をあやすように撫でながら言った。独り言のようでもあった。「ゆっくり」
落ち着いて聴くと、彼女はとても穏やかな優しい声をしているとわかった。手当の所作から気遣いというものも感じられて、僕の頑なな猜疑心と警戒がほどけた。
そうなると、僕に関わった事で今度は彼女が酷い目に遭うのではないかと心配になってきた。
「大丈夫」
まるで僕の心の中を読んだかのような言葉が返ってくる。
僕はそこでやっと目を開けた。霞んだ視界で揺蕩い結ばれる乙女の像は大層美しかった。折角の止血を台無しにしそうな程、僕の心臓が強く脈打ってすごい圧で全身に血を巡らせた。
「灯台もあなたも、どれだけ大事か、この夜でみんなよくわかったでしょう」
僕が鬱々として不貞寝している間に日は暮れて、灯台に明かりが灯される事はなく、町の近くを船が横切りかなりの人数が乗せられたり乗ったりしたらしい。
灯台は不要と嘯く若者らが不審な負傷をしていた事から、彼女は何事があったか薄々察して様子を見に来てくれたのだった。大して親しくもないのに、それどころか無愛想な対応しかしてこなかったのに、船の往来する海を渡って来てくれるなんて、と僕は感謝しきりだった。
「彼らの方が酷い怪我だったくらい。あなた強いのね。だからもう大丈夫」と彼女は蕩けるような笑顔を浮かべた。疑いようもなく僕は彼女を好きになってしまっていた。
「ちがう……きみのこと、が、し、心配、で……」
彼女は少し驚いた顔をして「あなた、やさしいひとね」困ったような顔で笑い、僕の顔を撫でた。
次の日から彼女は配達の時には室まで来て、僕の様子を見ていってくれるようになった。「おしりを出して」と言われた時には驚いたが、何も淫らな意味ではなく——期待したわけではない。念のため——抗生剤の注射を打つだけだった。抗生剤の継続投与が終わったら彼女はもう来てくれないのかと思い患ったが、僕がすっかり元気になっても彼女は相変わらず顔を出してくれて嬉しかった。
だからといって僕も気の利いた何かができるわけでもなく、挨拶に続く言葉を頭から口に必死に押し出そうと僕がおろおろしている間に「お元気そうでよかった。明日も来ます」と彼女はさっさと引き上げてしまうのだ。
彼女が僕の無愛想ぶりをさして気に留めていない様子なのは有り難かったが、僕は自分の薄鈍ぶりが本当に厭になった。
そんな劣等感や愛欲や何やらを紛らわすために、僕は就寝の前には必ず彼女を想って自慰に耽った。
かなり悪逆な妄想だった。嫌がる彼女を押し倒し、巨躯に閉じ込め唇を吸い、恐怖に凍りつく舌を啜りながら劣情に粘る唾液を無理やり流し込み、口を手で抑えつけて飲み込ませる。嫌悪の涙が頬を伝い、震えながら蠕動する細く白い喉。口を開けさせ、飲み干した事を確認して再び口内を舌で犯す。滑らかで整然とした歯列の、縮こまる舌の、上顎の、その隅々まで。鼻から抜ける苦悶の悲鳴が心地よく、昂る。
力任せに服を剝き、形の良い乳房を貪り乱暴に愛撫の痕を遺す。滑らかな白い肌に散る痛々しい鬱血の花。肌に歯を立てる度に肢体が跳ね、さながら生きたまま獣に捕食されている哀れな小動物。
すらりと細い脚を開いて秘所を暴き、慈悲もなく一思いに貫く。慣らされず暴虐に晒されて、彼女の秘所がきつく締まる。泣こうが喚こうが肉棒で思うさま中を擦り付け、行き止まりを痛めつけ、擦り込み、愛する者の証で染められるべき子宮に醜い男の穢れた種汁を執拗に流し込む。やり場のない怒りと恐怖をぶつけるかのように。