Like a goblin - 1/3

 妻の帰ってくる時間だった。
 レーゲンは検品していた石炭の山間からすっくと立ち上がるとズボンで手を拭きポケットから懐中時計を探り出す。真鍮色の蓋を開くと海淵石の文字盤が穏やかに輝く。薄暗い炭鉱内でも時間が確認できるようにと妻が用立ててくれたものだった。
 時計の針はぴったり、終業の時刻を指していた。
 レーゲンは脱帽し、軽く俯いて口の中でぼそぼそと神への礼の言葉を呟く。今日も一日無事故で終わった事、そして妻も無事に家に帰してくれる事について。
 レーゲンという名は古マロード=ナイト語で“祈りによる恵み”という意味である。
 かつてすべての知ある生き物は古マロード=ナイト語によって通じていた。しかしヒトとそれ以外の者達は古の神、“六眸神”と“掠奪者の帝王にして女帝”のように袂を分かち、今となっては古マロード=ナイト語に端を発するマロード語を用いるのはレーゲンのようなゴブリン族やオーク族など、ヒトに敗北したヒトならざるもの、即ち亜人だけだ。
 それ故にヒトである妻とは言葉から文化から何から何まで相容れないとばかり思っていたが、まったくそんな懸念は杞憂も杞憂であった。
 妻は堪能とまではいかないがマロード語での日常会話程度なら可能であった。レーゲンとの婚姻を定められた時から習得に励んだという。
 時折雑談に混じる突拍子もない言い間違いは嘲笑しか知らないレーゲンを穏やかに笑わせた。夫がそうした拙事で笑うと知ると妻はわざと変な言い回しをするような時もあって、それがたまらなく愛おしかった。
 手が空いている時にはレーゲンの仕事の手助けになるようにと彼の図書を紐解き、お陰で検品や加工などの軽作業、渉外を任せられるようになっていた。特にヒトとの交渉の場に連れて行くと場が和らぎ、共通語を母語とする者同士円滑に話が進んだ。
 勤勉で、実直で、温厚。レーゲンの知るヒトとはまったく違う、そんな妻だった。
 レーゲンは頭上の符号管を規則正しく叩いて終業の合図を送る。内臓めいた坑道に神経のように張り巡らされた管が震え、各部門に配置された符号係に坑長からの時報を届ける。
『打爪符号は、便利』と、妻はレーゲンの掌に指で符号を刻んだ事があった。『だって、こうして、風邪で声が出ない時でも、話ができる。あなたと』そして、元は戦争に使っていたものが、こうして仕事や他愛ない会話に使えるようになるなんて素敵な事、と辿々しい動きで付け加えたのだった。
 かつてヒトに奴隷の如く使役されていた者たちが反旗を翻した解放戦争の折に生まれたのが打爪符号であった。地下や洞窟に潜って戦うゴブリン族がその長い爪で壁を叩き、離れた場所の仲間と意思の疎通を図ったのが始まりだ。マロード語を文字にしたものを振動に置き換えた簡素な暗号でしかなかったが、古の言葉を忘れ、ヒトならざる民を侮っていた人間共にとっては致命打だった。
 こうしてヒトからの支配を打破し、農地や鉱山、漁場、そして矜持を取り戻してから、はや幾星霜。エルフならまだしも、ゴブリンやヒトの身であれば何世代も前の話だ。しかし互いの禍根は未だ残されたまま。
 万物の長と奢ってきた者達はかつての奴隷と公正な取引をするつもりはないし、逆もまた然り。
 レーゲンが働き暮らす島も元はサンシール男爵領であったのだが、解放戦争後には正当な古来の所有者ゴブリン族の土地となり、再び古マロード=ナイト語のミアレ島という名で呼ばれるようになった。神は来れり、という意味だ。
 トロッコに揺られて坑道の出口に近づくに連れて耳を掠める空気が潮風を含んでくる。島の地下、海底は石炭の宝庫だった。海底坑道は今も現代技術で機能的に掘り進められ、拡張し続けている。まるで生きているかのように。
 そんな石炭の一大産地を失った男爵家はゴブリンからの買い付けにも失敗し、ゆるやかに没落した。そしてついに現男爵はかつての栄華を夢見て末の娘をゴブリンの有力者に嫁がせるに至ったのである。そうすればどこぞの外国や他の商会ではなく、自らが運営する汽船会社に便宜が図られると当て込んでの事だ。
 島議会議員を始めとする有力者達はゴブリンのご多聞に漏れず執念深く強欲で、こちらに然程の利のない人間と縁を結ぶなどもってのほかとの総意。
 だが“偶の必要はゴブリンの巣の中”というヒトの諺にもあるように、貧乏性で溜め込む性質もまたゴブリンの特徴で、僅かでも使える可能性のある物は手中に収めておくべきと議会は判断した。
 そこで白羽の矢が立ったのが海底炭鉱の坑長、レーゲンであった。
 到底迷惑な話だったが、議会の決定となると無碍に切り捨てる事もできずに頭を抱えた。島内は民主主義体制ではあるが、対外的実利を追い求める際にはどうにも個の権利が無視されがちな嫌いがあった。
 突然振って湧いた伴侶にレーゲンも最初は随分冷たくした。音を上げて実家に逃げ帰ればいいと思った。当たり前だが同衾などせず、それどころか心のある言葉をかけることもしなかった。名ばかりの妻が陽気に細やかに振る舞う様が阿っているようにも見えて嫌悪すらした。
 だがそれでも彼の妻は優しく、慈愛に満ちて、レーゲンとの関係の積み重ねを諦めなかった。今更だが、もっと早く歩み寄っていればと悔悟してもしきれない。
 これからの時間を無駄にしないためにも、レーゲンの帰途の歩は機敏だ。
「坑長、これから一杯、どうだろう」
 副抗長の誘いにもレーゲンは首を縦には振らない。婚前はこの男とはよく飲み明かし仕事や議会の愚痴など言い散らかしたものだ。結婚したとはいえ少々薄情かもしれないが、自分を待っているだろう妻が恋しい。
「もうあれから二年だ。少しくらい息抜きをしてもバチは当たらんだろうよ」
 などと副抗長は食い下がってくるが、レーゲンは背中越しに手をひらひらと振って、暗い坑道からより広く、より暗い屋外へと出る。
 レーゲンは炭鉱のすぐ外に構えられた公衆浴場で手早く汚れを落として、庁舎の時計塔を見上げながら市場で買い物を済ませると、住宅ひしめく高台を背に街灯もまばらな人気のない道を急ぐ。
 レーゲンの家は島のぐるりを囲む護岸堤防の外、埋め立て計画が頓挫して半端に飛び出た場所にあった。
 結婚を押し付けられた際に文字通り一朝一夕でこしらえた、荒削りな高床住居だった。
 高台の集合住宅には二人住まい用の部屋もあるのだが、当然平均的なヒトの身の丈の半分程度しかないゴブリン仕様の設計だ。小柄な女とはいえヒトと住むのはあまりにも窮屈に思えた。レーゲンも気の長い方ではないので、早晩発狂しかねないのは目に見えていた。
 そして打ち捨てられた土地に居を構えたのは異種族の妻を他人に見られたくなかったからだ。
 そうした利己的な打算からの行為だったが、夫がわざわざ海を望む眺めの良い場所に新居を用意してくれたと勘違いした妻は大層喜んだ。今となっては勘違いでも喜ばせられた事にレーゲンは胸を撫で下ろす他ない。
 戸を開けると、ただいまと言うより先に潮風に腐食され始めた蝶番が音を立てて、キッチンに立つ妻が振り返る。
 慣れる事なく毎晩、レーゲンはその姿が眩しく目を細める。いかな異種族とはいえ、美しさの前には感覚を隔てるものなど何もなかった。
 朗らかな澄んだ面差し、堤防に打ち寄せて弾ける波飛沫色の髪。夫の姿を捉えるや、蕩ける瞳に妙なる角度で微笑む唇。まったく人里離れた場所に家を建ててよかったと思う。誰彼構わず披露していいものではない。
『おかえりなさい』と唇が動いて、声の代わりに指先が調理台を叩く。
 レーゲンの妻は炭鉱の事故に巻き込まれて以来声を失った。あの涼やかな声が永遠に打爪符号に変容してしまったと思うとひどく切ない。すべては己の至らなさのせいだとレーゲンは夜毎のこの瞬間、いつも悔やむ。しかしそんな感傷は叩き潰して心の奥底に閉じ込める。
「ただいま。弁当うまかったよ」
 レーゲンが共通語でそう言って金属の弁当箱を差し出すと、女の微笑はいやましに深まる。たまらずレーゲンは妻の下肢に長い腕を巻きつけて軽々抱きかかえる。
 妻の腰丈程しかないとはいえ、ヒトより筋肉の密度が高い肉体だ。同じ背丈の人間の何倍も重く何倍も強靭にできており、小柄な人間の女など片手でも持ち上げられる。
『弁当箱、洗ってない。それに、夕飯、まだ』
 ソファに横たえられた妻が覆いかぶさるレーゲンの肩をつつく。
「後ででいいんだ、そういう事は」
 レーゲンはほっそりした指のはえた手を絡め取り、符号を打つために伸ばされた人差し指を口に含む。鼻に抜ける女の香り。どことなく水底の坑道にも似た。
 妻は困ったように笑んで、しかし行為を受け入れる。愛し合っているわけだから、何も拒む理由はないのだ。
 そしてヒトもゴブリンも、奇しくも発情期というものがない。つまり心の波長さえ合えばいつでもそうした行為に耽溺できるという事だ。
 レーゲンは妻の指を飲み込まんばかりに口内深くに迎え入れ、舌を巻き付け舐めしゃぶる。尖らせた先端で爪と皮膚の間や付け根を突いたりなぞったりすると下敷きにした女体がふるりと震える。その表情は艶やかな愉悦に染まっている。うら若く美しい女の敏感な反応はレーゲン自身をも昂りの深みへ誘う。遺伝子の奥底に埋め込まれた原始の征服欲のようなものが満たされるとでも言えばいいだろうか。
 重く怠くなってきた股座を妻にゆるく押し付け前後に動かし、もどかしく些細な慰めを得る。自身の腹部に当たる夫の陰茎に気づいた妻は気恥ずかしいのか頬を染めて、それでも健気にそれに触れる。
 掬い上げるように睾丸を下から撫でられ、腰の神経に快感が響く。触れられた箇所が緊張し強張る。植物織の荒い衣類の感触が鋭敏な皮膚を擦り否応もなく怒張が漲る。
「ッ、ふゥ、い、い……ぞ、だが、あぁ、今日は疲れすぎてる、もう、出そうだ……」
『出して、見たい、あなたの、果てる、姿』
 そう紡ぐ指先が突くのはレーゲンの膨らみの先端。鋭くも甘い刺激が先端から腰の奥の神経までを痺れさせる。
 返事の代わりにレーゲンは己の服を性急に毟り取る。積年捨て置かれて苔むした巌のような肌が露わになって、そして局部に絡みつき追い上げる動きを呈する妻の手。間髪入れずに張り詰めた睾丸が引き締まり、太く凶悪な肉柱から精虫が迸る。年波も寄る一方な上、その種族にあっては淡白な方だが、それでも打ち出される精液の量は多い。
「んっ、む、……ッ、っく……」
 レーゲンは食いしばった乱杭歯を剥き出しにして凶悪な顔貌を更に残虐な様相に歪めて苦悶にも似た射精の刹那的な快楽に打ちのめされる。
 額から垂れ落ちた汗が眉間に寄った深い渓谷を流れ、鉤鼻の先端から滴り落ちる。
 妻の優しい掌がレーゲンの禿頭を撫でる。項を突く指は、夫の浅ましい吐精を見られた悦びを語っていた。
 沈黙した指がレーゲンの薄く尖った耳をなぞる。性汁と共に撒き散らした性感が再び集まってくる。
「くぁ、あッ、ァ……耳はっ、感じ、すぎる、やめ、ろ……」
 レーゲンはそのまま月のように青白く滑らかな妻の首筋に倒れ込みたかったが、まだその時ではない。甘えられるのはすべてが終わった後。
 果てに至ったが、しかしここからが本番だった。
 レーゲンは荒い息を整えながら妻のエプロンに散った大量の精液を指で掬う。黄味がかって粘度の高いゴブリンの精液はそれが異種族だろうと排卵を誘発して必ず受精させる。それ程までに強烈な種汁を纏った指をレーゲンは己の排泄穴に突き入れ塗りつける。雌なら孕んでいるだろうな、という考えがふと浮かび、実際のところ器質は別として、こんな事をしている自分は雌のようなものだろう、と妙に湿った気持ちになる。
 もう一方の手は妻の胸や脇腹を撫でさすりながら徐々に下へと均整のとれた肢体を辿る。ヒトの女らしい、滑らかで華奢な肉体を。そして最後に至るのは下腹部の膨らみ。女にはありうべからざる器官。
 レーゲンは妻のエプロンを剥がし、前開きのワンピースのボタンを外して露わになった下着をずらしてそれを露出させる。そうすると雄の象徴、逸物と呼んで何ら遜色のない性器が聳り立つ。生物学的に雄なのかというと、そこは複雑で、女の生殖器も持ち合わせているし、見た目は完全に女以外の何者でもない。その香りや所作だけでレーゲンの官能が刺激される程に。
 つまり女のなりをした半陰陽というわけだ。
 結婚によって他家と繋がりを結び後継を設ける事が一大事業である貴族階級にとって、その令嬢が半陰陽とあらば一大事業どころではなく一大事である。つまり業にはならない。嫁としての引き取り手は皆無に等しい。だからこそ絶海の孤島に巣喰うゴブリンに下げ渡されたのだ。
 幸せな生い立ちでもなかったのだろうに、妻は歪む事なく真っ直ぐに、レーゲンや他の島民に対しても誠実に真摯に向き合っていた。
 そうした経歴や自分達との接し方を知るにつれ、嫌悪は同情になり、そして愛情と尊敬になった。
 好きだ、愛している、とレーゲンの尖った爪が妻の肩を叩く。直裁な感情を声に乗せるのはまだ羞恥が勝る。
 夫から送られた真心に妻の顔が喜びに染まり、ふわりと笑顔の花がほころぶ。
 レーゲンは己の尻の中を慣らしながら妻の屹立を弄る。爪を立てないように指の腹で隆起を撫であげ、亀頭の付け根を握って小刻みに動かす。
 凝った喉から掠れきった声にならない声が漏れてレーゲンの耳を擽る。女らしく脂肪のついた柔らかな腕が硬く小柄な身体を捉えて胸に閉じ込める。上がった息に揺れる豊かな胸に包まれて、そろそろ頃合いであると知る。
 レーゲンは脚を大きく広げて妻の下腹部に肉感的な尻を下ろしてゆく。元は筋肉質で無駄のない肉体だったというのに、こういう行為に耽溺するようになってから妙に色香のある肉付きに変容しつつあった。色香といえば聞こえはいいが、つまり好き者という事だ。それは本人も否めない。
「ア……、ォお……ッ、く、ふゥう」
 肌を重ねた分だけぷくりと熟れて柔軟になった肛門が悦んで妻を受け入れる。肉厚で濃厚な締め付けが精悍な肉柱を歓待しながら奥へと飲み込んでゆく。完全に性器と化した内臓を奥へ奥へと掘り進めさせていくにつれて羞恥も矜持も掘り尽くされて、最奥にはただ甚大な肉悦だけがあった。
 腹奥にずしりと響く屹立の先端。しかしヒトに比べて小柄が故に未だ妻のそれはすべて収まりきってはいなかった。
 自重を乗せて腰を落とし自らその先を明け渡す事も出来なくもないが、レーゲンは妻の手を取り震える腰に導く。
「入れて、くれ……頼む」
 レーゲンは甘美な心持ちで妻にその時と身を委ねる。肉悦に砕けかけて気の抜けた腰を引きずり下ろすなど赤子にも容易い事。たゆまぬ労働で厚みを増した腰にほっそりした指が沈む。
「がッ、ァ゛——!」
 鉱床を叩きつけるのに似た手応えが腹の奥で湧いて骨肉を反響する。奥深くまで挿入された妻の肉杭はゴブリンの浅いはらわたを容易に制圧してその雄々しい形を腹に浮き立たせる。
 ぼこりと内側から圧され突き出た腹に心配そうに添えられる妻の手。
「ハ……ッ、ォ゛ぐぁ……だ、いじょうぶ、だ、いつも……こうだろう」
 ハッ、ハッ、と獣のように浅ましい息を吐きながらレーゲンは言う。そして弱々しく震える脚に今日の最後の力を漲らせる。
 大腿の筋肉がぼこりと隆起して、持ち上がる暗緑の腰。ゆるゆると抜けてゆく屹立に敏感な肉粘膜をこそげ落とされ、神経がぞくりぞくりと振れる。
 抜け落ちる寸前まで腰を引き上げたなら、後は落とすのみだ。激甚な刺激を予見して思い切れずにいると、妻の手が腰を撫でて、そして絡みつく。いつの間にかきつく閉じていた目を開けて視線を下ろせば、心地よさそうに微笑むそれと目が合う。
 レーゲンの緊張が解けて、妻の手に身をもたせかけながら腰を沈める。
「ン゛ー……、んっ、ふ、ゥ……」
 再び腹を破らんばかりに奥を穿つ衝撃に濡れた吐息が漏れる。そこを何度も打擲され、密着して遂情されると堪らないのだ。
 何度かじっくりと腰の上げ下げを繰り返し、中を徐々に慣らして追い上げてゆく。
 妻の滑らかな腰に尻を打ち下ろす度に、粘質で耳障りな、しかしそれ故に淫猥な音が弾ける。
 女のように鳴くのは忌んでいたが、声を押しとどめる事は不可能だった。
「ア゛……ッ、ォ、お゛ッ、ン゛ォッ、ぅ……ん」
 しかし女とてこう情けなく穢れた声では啼くまいと思えば最後に欠片ほど残った羞恥が増幅して爆発的に燃え上がり、そして潰える。
 レーゲンは妻の胸の横に手をついて自ら激しく腰を揺り動かす。
 ゴブリンは他種族の雌を掠奪陵辱するとよく謗られる。そんなのは迫害され文化を奪われていた遠い時代の話で、そうした野蛮な個体はどの種族にも存在するはずなのに、殊更ゴブリンだけがそう言われるのは偏に粗野に見える強靭な肉体や、眼光鋭い獣じみた容貌のせいであろう。
 そんな偏見を持たれる程に被虐や陵辱とは一番縁遠そうな立場にいる種族の、それも雄であるというのに、一等被虐の的になりそうな者に犯され啼き声を撒き散らしていると思うと余計に滾る。妻と交わるようになってからかなり被虐の気が嗜好に滲んでしまった。
 敏腕な技師にして厳格な海底炭鉱の長がこのような惨めな偏執を持っているなど、妻以外の誰が知り得るだろうか。こんな素質があったなど、自分でも知らなかった程なのに。
 被虐を愉悦と受け取る臓物を自ら犯させ互いの果てを追う。十分熟れた肉粘膜は肉の杭を喜んで受け入れて種を乞う。その動きの浅ましさといったらない。