——of the day - 4/5

 朝には四本足、昼には二本足、夜は三本足……というなぞなぞがある。答えは“人間”なのだが、“斗南みるく”が答えだったならば、朝から二本足、昼は勿論、夜だって体力気力の許す限りは二本足だろう。つまり物心ついた時には既に自転車を乗りこなし、次は二輪車、そして老いても死の間際までバイクに乗り続ける。ミルとモーターバイクはまさに一心同体、半身であった。
 ミルに二輪の乗り物の操縦技術を仕込んだのは両親である。ミルの家族はオートバイの曲乗りを家業とし、日本全国津々浦々の祭りを渡り歩いて興行をしていた。していた、というか、おそらく今もまだしている事だろう。今更探す気はさらさらないが。
 ミルも長じると両親や兄弟に倣い興行に出演し、その身体機能と操縦技術の高さから一躍一番の稼ぎ頭に躍り出た。
 ありうべからざるカーヴを描く籠目の道をかっ飛ばし、錐揉み降下するように底を目指す。天を目指しては地獄へ一直線。
 球体に編まれた巨大な籠の中を人馬一体とばかりに縦横無尽と駆け巡るのがミルの十八番。時折隙間から差し出される客のおひねりを猛禽のように掠め取る。受け取った額の三割がミルの小遣いだった。
 ミルの両親は小金の匂いに敏感だった。自分達の子供が希少な両性具有で、そして鉄馬を駆るその姿に秋波を送る観客がそれなりにいると気付いたからには、遅かれ早かれそういう商売を始めるのは自明だった。
 こうしてミルは昼と同じように夜もそこそこの金を生むようになった。
 夜の仕事は嫌というほど嫌なわけでもなかった。老若男女、乗ったり乗られたりするのは興行の延長程度に捉えていたし、何より自由に使える小遣いが増えるならそれでよかった。そんな事で稼げるのも若いうちだけだとも思っていたし。
 しかし容色が衰えるよりも先に、ミルの商売の道は断たれた。昼の興行も、夜のそれも。
 ちょっとした心の隙だった。油断とは少し違う。目が眩んだとでもいうか。
 それは現在暮らしているこの地方都市で興行していた時の事。
 いつも決まって同じ金額の札を籠に差し入れて来る観客がいた。二千円札だったから印象に残った。日陰で生まれ育ったような色白痩躯で、猫背のせいで自信なさげな印象を与える男だった。
 彼もまた夜の客として一度だけミルの元を訪れた事があった。彼は花束を手にやって来て、おずおずぼそぼそとミルを褒めそやすような、容姿の印象に違わずまだるっこしい人物だった。金だけ払ってさっさとやりたい事をやればいいだけなのに。
 こういう事に慣れていないのだろうとミルが予想した通り、男は性的な接触を試みるのは初めてだと自分から白状した。
 厄介な客だと思った。
 ミルで初物を喪失した事を後悔されたり、もしくは変に気を持たれたりされても困る。
 なので、最初は本当に好きな相手とした方がいいと雑な説得をしてお帰りいただく事にした。もちろん金は取らなかった。両親と違ってそこまで守銭奴ではない。ただ花束はありがたくいただいた。そんなささやかな気持ちの籠った物を渡されるのは初めてで、純粋に嬉しかったから。
 そういうわけでちょっと妙な昂揚に突き動かされて、キスはしてしまった。まさかいい歳してキスさえも初めてという事はないだろうからミル的にはセーフだ。今でも覚えているが、男だてらに大変柔らかく心地よい唇だった。こっちが金を払わないといけないかもな、と感じてしまう程。
 別れ際に、明日でこの街最後の日だから明日の興行も絶対見に来て、と言ったのだが、まさかその“明日”が本当にミルの最後の舞台になるとは想像だにしなかった。
 いつものように、彼はおっかなびっくり札を差し出してきて、ああ、来てくれたんだなと柄にもなく嬉しく思って手を伸ばし、触れかけた札の値段はいつもの五倍で——万札じゃねえかッ!——ミルは完全に心の隙に落ちた。
 気づけば籠の底に背を強か叩きつけられていて、遅れて落ちてくる慣れ親しんだ商売道具が見えた。こうしてミルは主人を失ったバイクに粉々に轢き潰されたmillのだった。
 複数回の手術と長いリハビリをもってしても元の商売に返り咲く事が能わないと知った親兄弟は、ミルが入院している間にさっさと次の土地へ行ってしまった。ミルに行き先も告げずに。ミルの自室であるトレーラーも持ち逃げされた。お陰でミルは一文無しの宿無しになり、マスターに拾われるまで暫く苦労する羽目になった。
 死にかけて曲乗りのできない身体になり、やっとあの鳥籠の名前の意味が心に沁みる。
 上り詰めて果てるがごとく、死と隣り合わせの、その名もケージオブデス。

————and then what?————

 深い眠りの途切れたその時に、布団が捲れて少しばかり冷たい空気が身を浚う。
 軽く震えた身体をすぐに温もりが包んで、同居人が布団に入ってきたのだとわかる。
 もう朝なのか、とミルはなんとか眠気を振り払って起きようとするが、定休日ですよ、という声に安堵してまた壁の方を向いて微睡む。
 触ってもいいですか、と後ろからゆるく抱き締められて、断る理由もないので頷いた。
 オーバーサイズのTシャツの裾からこっそり入り込んでくる手。下半身は下着しか身につけておらず、剥き出しの太腿から脇腹をつう、となぞられる。くすぐったく感じる手前のゾクゾクした怖気が肌を襲う。触り方もミルの身体の流れに慣れたのか、いやましに上手くていやらしい。
 項に触れる唇と口髭の感触は流石にくすぐったくて身を捩る。脳も完全に靄が晴れて覚醒した。
「首の後ろ、また日焼けしてますよ。ここだけ焦げ焦げです」刈り上げた襟足を手の甲がなぞる。「ベリーショートですから気をつけないとですね」
 自分は毎日のように日焼けサロンに通って肌を痛めつけているくせに、他人のそれには煩い。白い肌に何か物凄い執着とか妄念でも抱いているのだろうか。ミルが彼の褐色の肌に淫らな香りを覚えるのと同じように。
 ミルは男の腕の中でぐるりと身体の向きを変えて唇から後ろ首を取り上げて代わりに額を押し付ける。
「歯磨いてくる」
 そう言ってもマスターは構わず口付けてくる。食後のキスならまだしも、これだけはちょっと嫌だった。相手の口の中は桃の歯磨き粉の味がするのに。
「待って、一回だけ、してから……」
 暑いとか、苦しいとか、そういう時のようにマスターは自身のパジャマのボタンをもどかしげに外して胸元を大きく寛げる。カーテンの隙間から細く差し込む薄明かりが均整のとれた肉体をぼんやりと照らす様がなんとも絵画的。
 目尻は下がって、口角はその逆で、熱望に蕩けた表情がミルを誘う。
「いいですよね?」
 よくないなんて言いっこないのがわかっているのかいないのか、とにかくやり口があざとい。
「そういう風に誘われたらさあ、やだとかだめとは言えないじゃん」
 ミルは上体を起こしてマスターにのしかかる。朝だし、肉体の方のやる気は満ちている。それに彼の洗って乾かしただけの黒髪が枕にふんわり散っている様子は気怠げで淫らな感じがして気持ちの上でも昂ってくる。
「その気になってもらえて嬉しいです」けど……、と溢してマスターはミルをふんわりとベッドに押し戻して覆いかぶさる。「私が動くからいいですよ」
「マスター疲れてないの」惰眠を貪っていた自分と違って、ついさっきまで働いていたのだから。
「それとこれとは別です」
「エロいことになるとほんとすごいね。本業くらい熱心」
「あなたを歓ばせるのが本業です」
「お客さん相手みたいに、あんまり調子いい事ばっかり言わないでよ。みんなにそう言ってんだろうなーと思っちゃって逆にビミョーな気分になるじゃん」
「みんな?」
「今まで付き合ってきた人誰にでも」
 うーん、とマスターは首を傾げてからにっこり笑って頷く。
「うん、ええ、そうですね」
「やっぱりな」
 今時風というわけではないが大変に整った容姿だし、落ち着きがあって優しい。客商売で出会いも多かろうし引く手数多だろう。
「ただしお付き合いした事があるのはみるくさんだけですけどね」
「はいー、うそー、あと名前で呼ぶなー」
 ミルはマスターの下でじたばたと手足をでたらめに動かして子供のように暴れる。
「本当なのに」褐色の長い指が白い指に這い寄り密に絡む。「いやらしい事をしたのもするのもあなたとだけですよ」そしてミルを跨いで寝台に膝立ちになっていたマスターの脚がじわりと開かれて降りてきて、互いの服越しに密着する秘部。「こんな風に」蠱惑的な蕩然とした笑みと揺らめくマスターのしなやかな腰。「ね……」吐息と共に漏れる声はなんとも妖艶にミルの性感を蝕む。
 こんなにエロいんじゃあ絶対どこかのエロい奴に色々仕込まれたとしか思えない。羨ましくもけしからん、とミルは眉間に皺を寄せる。しかし今となっては彼は自分のモノ、とでも思って溜飲を下げるしかない。
「はいはい、嬉しいよ、ありがとね」
 ミルがおざなりな礼を返すと、マスターは眉尻を下げて、その笑顔に困惑あるいは不満を滲ませる。そんな顔さえ綺麗で見惚れてしまう。
「そんなしょうもない嘘をつく人間に見えるんですか」
「おぉ? うぅーん」
 ミルはしばし沈黙してごくごく浅い思索に脳を委ねる。確かにマスターは口八丁手八丁な人間ではないし、少なくともミルには誠実だ。そしてつまり彼が本当の事を言っているというのなら……。
「えっじゃあっうそっ」「だから嘘じゃないんです」「あたししか知らないって事じゃん!」
 マスターはこくこくと何度も頷く。
「みるくさんだけですよ」
 ミルはがばりと起き上がりマスターの肩を鷲掴んで思い切り揺さぶる。マスターはされるがまま、がくがく揺れる。
「は、しんじらんない」「信じてもらうしかないですね」「まじかこんな」エロいのに。「じゃっ、つまり、あの時っ、処女だったのォ!?」
 あんなに熟れた媚態を示してきたというのに。末恐ろしい男だ。世も末だ。
「処“女”と言っていいのかはわかりませんが、性行為は初めてでしたよ」
 それがどうしたんです、とでも言いたげな雰囲気だがミルとしては穏やかではない。どうせ今までヤリまくってきたんだろうと決めつけて遠慮も何もなしに処女を食い散らかしてしまった。それも相手が誘ってきたのをいい事に何度も何度も荒っぽく犯して、乞われたからとあまつさえ中で射精した。雄を知らない初々しい粘膜にしていい事ではなかったような気がする。というか明らかにダメだろう。
「もー、初めてって言ってよォ。そしたらさ……」もっと丁寧にしたのに、と言いたいところ。
「そうしたらミルさん、私とはしなかったでしょう」
 ね、と同意を求める風にマスターは小首を傾げる。
「いやそんなこと」ふと思い起こしてみれば、初めてだという客を適当言ってやらずに帰した事が「あるな」
「でしょう」と、目を細めて笑み、得意げに言うマスター。
 流石は客商売をしているだけある。ミルはその観察眼には舌を巻く他ない。
「キスもあの時が初めてだった?」
「いえ、それは……」
 マスターは得意げな調子から一転、苦しげに言い淀む。
「ほうほう。そんじゃ誰と」
 この顔のよさなら、クラスメイトとか、先輩後輩とか、その辺の年頃で済ませていそうな気がする。あるいは奪われている。そう考えると少し興奮する。
「あの、説明難しくて、言えない……です。色々あって……」
 視線が逸らされて、ぱあっと一瞬にして血色がよくなる顔。
「おぉん、じゃあ不倫かぁ。全然いいよ、なんか淫靡? っていうの? マスターっぽい」
 道ならぬ恋に身をやつし、別離のキスだけが残った、みたいな感じだろうか。がさつなミルにしてはしっとりした想像だった。
「違いますよ! 不名誉なのでそれだけは否定しますから」
 ふぅ〜ん、と尖らせたミルの唇が、かわいいですね、と軽く啄まれる。そんなのでは誤魔化されないぞ、と思いつつもマスターの唇の感触は何か高級な布みたいで、まあいっか、と簡単に流される。
 このまま朝の“日課”を始めよう、とマスターの腰に腕を巻きつけるが、一方のマスターの方はまだ先程までの話題を引きずる。
「どうして初めてに拘るんですか」
「だって、もっと大事にしたかったんだもん。好きな人の初めてだから」
 もぞもぞ腰を蠢かせながらマスターは俯きはにかむ。
「ええと……初めての時も、十分大事に優しくしてもらいましたよ」
 殺し文句が心臓に刺さる。
 もしかしてこれは今際の際の一瞬に見る夢なのかもしれない。そう思ってしまうほど完璧な状況だった。そして実際そうだとしても構わなかった。ミルは昔から後先考えず、ただその一瞬だけを生きているような節がある。まるで曲乗りをしている時のように。でなければ二つ返事で知りもしない人間と住まいと職を分かち合って働こうなどとは思わない。
「どうしました?」
 目の前の現実味のない綺麗な顔がミルを現に呼び戻す。
「死んでもいいと思っただけ」ミルのおざなりな言葉にマスターが不安げに眉を顰めるので付け加える。「いい意味で」
「気持ちわかります」
 マスターをそうした気分にさせたのは何なのか、あるいは誰なのか、ほんの一瞬気をとられるが、しかしコーヒー色の艶然とした微笑みにそんな過去の出来事はどうでもよくなる。今この瞬間にあるのはマスターと自分との関係のみ。
 ミルは肌蹴たマスターのパジャマを肩から落とす。柔らかな生地は流れるように身体を伝ってベッドに広がる。自分もシャツを脱ぎ捨てて、真正面から褐色の上裸を抱いて肌を擦り寄せる。
 シャワーを浴びたばかりの身体はいつもよりほんのり温かく、そして艶めいて滑らか。背を撫で、混ぜ合わせるように胸と腹を擦り合わせると心地よさが肌身の芯から湧き出てくる。マスターも概ねミルと同じ快感を得ているようで、喉から震えた熱い吐息が漏れる。
「あぁ、みるくさんと混ざり合って……気持ちよくて……カフェオレになっちゃいます……」
「もぉ、この流れでそういう変な事言わないで」
「それじゃ、口塞いでください」
 大きく開かれる口の様子からしてミルの怒張を乱暴に捩じ込まれる事を期待しているようだが、今はそれに応えるつもりはない。
 言葉を堰き止めるのは唇。彼の薄いが柔らかな唇の肌触りがミルは一等好きだった。薄く開けた唇で相手のそれを軽く喰んで、擦り合わせて舌で舐める。
 思った通りの行為が返ってこなかったとはいえ唇同士の接触も悪くはないようで、マスターの方もミルのキスに身を委ねてくる。唇が吸い合う軽く愛らしい音が響いて、その音すらも心地よいのかマスターは鼻にかかった息を吐く。
「ん、ふぅ……みる、さん」
 マスターはミルの首の後ろに腕を回して長い指を組み合わせ、身をくねらせて甘えてくる。肉悦を追ってのめり込んでくるのが堪らない。歳上の男をこう称するのもなんだが、可愛いとすら思う。
 淫らに揺れる腰に手を這わせて引き締まった筋の流れを味わう。浅い凹凸に指を添わせて手をゆっくり滑らせると、ますます肌と吐息が熱を帯びてくる。
 そのままズボンの中に不躾に手を突っ込んで下着の上から尻を弄る。薄いが弾力があって揉めばミルの指をしっかりと押し返してくる。彼の身体には無駄な肉というものがなく、どこを見てもどこに触れても完璧だった。
「いい尻だねえ」
「あなただって、スケベなおじさんみたいな言い方やめてくださいよ。まだ若いんですから」
「だってほんとにいいんだよ」
 さわさわ、と触れるか触れないかで表面を撫でれば低い喘ぎ声が響く。仰け反って突き出された喉に口付けて舐め上げると、溶けた喘ぎが一転甲高くなって身体がびくりと震える。
「はぁ、うぅ……あぁッ……!」
 もどかしげに擦り寄せられる内腿。尻を堪能していた手を前に回してそこに触れる。男だてらに滑らかな手触りを堪能しながらじわりじわりと上へ忍ばせてゆく。
 つるりとした手触りが布のそれに変わって、下着に触れたとわかる。オーソドックスな綿のボクサーだ。
 男性器のない身には男物の下着は布が余る。余って浮いた部分に指をあてがい布越しに淫核を刺激してやると面白い程に身体が跳ねてミルの項にかかる力が強まる。
「っあ、ぅ……」
 男物の下着に包まれた女の性器に倒錯を覚える。恥じらいと快感に目を伏せたマスターのしっとりした表情も相まってミルも身体の奥からじんわり炙られるような興奮が湧いてくる。
「きれいだねえ」
「えぇ?」
 潤んだ目がミルを見つめて、傾げられる首。そういうところも精緻で綺麗だった。
「ぜんぶ、いろいろだよ」
 触れている手を奥へ滑らせると陰裂に行き当たる。そこは既にしっとりと濡れてふんわり柔らかくミルの指を包み込む。
「ここだけ女の子みたいに柔らかいね。他の場所はがっちりしてるのに」
「うぅ、それはミルさんがいつも丁寧に触るからで……」
「じゃ、今日も丁寧にする。初めてのつもりで」
 ミルはマスターを寝台に横たわらせ、下半身も剥き身にする。されるがままに全裸になった彼は、恥ずかしいです……と呟いて白いシーツの上でゆるゆる身動ぐ。内股に脚を擦り合わせ、両手は胸を撫で、腰をさすり、恥ずかしいと言う割にその彫刻のような肉体を誇示して誘うような艶かしい動きだった。本人にそのつもりはないであろう所が始末に負えない。
 ミルはマスターの長い脚を割りその間に身を置いて閉じられないようにすると、寝台に屈まり脚の間の秘部に唇を寄せる。
「ええっ、や、それは、あの、本当に恥ずかしい……」
 何をされるか予想がついたらしいマスターは今更慌てて上体を起こしてミルの肩を掴む。しかしミルは構わず陰核に吸い付いた。感電したようにマスターの全身が震える。
「あ゛ッ……」
 可愛らしい小さな肉の芽を唇で撫で、唾液を絡めて舌で突くと、内腿が激しく震えて上体はきつく反り返る。そしてこの世の終わりかのような細く尾を引く悲鳴。
「んぁ、ぁ……っ、はぁ、あぁー、だめ……っ」
 だめと言う割に声色には隠しきれない快感の切ない片鱗が滲んでいる。
「やだ?」
 ミルが顔を上げて見つめると、マスターは小刻みに首を横に振る。困ったような、泣きそうな真っ赤な顔の中、目は潤んでいる。
「ちがいます……でも、はずかし……です」
 俯き濡れた目を伏せ恥じらう様子は初々しい。演技ではなさそうだし、すごくいい。
 再び彼の脚の間に顔を埋め、陰唇に口付け綻ばせる。マスターの奥深くからとろりと蜜が溢れてシーツに滴る。