「私です」
満月を背負った偉丈夫の声が夜に蕩ける。
平坦にして低い男声。金属的な反響とも、くぐもりとも取れる異質な効果で包まれている。まるでラジオ越しの声のように。
しかし穏やかで、優しげで、マナの記憶に埋もれた郷愁を誘う。加えてそこに、独特の狂気と偏執の色も含み、ときにマナの精神を苛み縛り支配する。
妙なる均衡と調和、完全無欠の狂った合成音。マナの琴線を掻き乱す声。好意と嫌悪の狂瀾。
彼の超高性能の光学鏡が雑踏の中からマナの姿を拾い上げる。
文字通りの眼光は丸く、大統領の名を冠した米国車の前照灯のよう。しかしその眼差しは決して不躾なぎらついた光ではなく、たおやかで紳士的でとても欧州的。マナを見つめる際には真っ直ぐ真摯かつ、ときに細められて淫蕩。
そこが一世一代の大舞台だとでも思っているのか、男は大仰な仕草で胸に手をやり、優美に腰を折る。
「私が——」
The Pilot