敗北と価値 - 3/4

 振り返った娘の目と唇がいやらしく三日月形に歪む。
「そうじゃない」
 セジェルは慌てて否定した。あながち娘のからかいも的外れではなかったのだが。
 娘がセジェルの矜持を煽る様な対応をしてきさえしなければ、礼の一つくらい言おうと思っていたのだ。
「身体を動かした方がいいんだろう。少し付き合え」
 勿論セジェルは礼など言わずに娘の腕を取り、自分の方へ引き寄せた。
 娘は体勢を崩して倒れ込んできたが、セジェルの傷に体重をかける前に寝台に腕をつき、無礼な奴隷を見下ろした。
「わたしと一緒に居たいなら素直に言ったら。そうしたらわたしだってもうちょっと優しくしようかなという気になるのよ、将軍」
「お前だって滾らせているくせに」
 セジェルは硬い膝を娘の二本の足の間に差し込み、その昂ぶりの源を擦り上げた。
「仕方ないよ。あなたが血を流して土つけられた時、すっごく興奮した。それからずっと、臥せっている将軍を見てむらむらしていたんだから」
「俺は生死の境を彷徨ったんだぞ。そういう目で見るな、この変態性欲者」
「だから我慢していたんでしょ、健気に紳士的に」娘は唇を妖しく舐めた。「でももう、そんな事しなくていいってわけね。これは本人の許可が下りたと考えていいんでしょ」
「少し黙れ」
 セジェルは上体を起こして娘に顔を近づけると、その減らず口を自身の唇で塞いだ。
 娘の頭を鷲掴み、柔らかな唇をこじあげて乱暴に舌をねじ込む。突然の暴虐に凝っている舌を奪い、扱き、打擲する。
「ぷあ、いきなり……」
 突然の攻撃に娘は面食らっている様子で、攻めるならば今。セジェルは突撃の勢いを緩める事なく一気呵成と娘に挑みかかる。
 セジェルは娘の後頭部を片手で抑えつけ、口付けの嵐から逃れられないように追い詰める。もう片方の手はうなじから肩口、なだらかなカーブを描く背のくぼみを撫で下ろし、腰に巻きつく。そうするとぴくり、と娘の腰が震えた。
「あ、あ、やめ、だめよ、んう……」
 年頃の女らしい声をあげる娘の口内を一方的に犯し、決して自分の領地には侵入させない。
 音を立てて唾液を混ぜ合わせ、舌を突き、吸い上げる。
 そして舌を軽く噛まれ、涎を流し込まれ、歯列を検められ、薄い唇を舐められ……。
 セジェルの首の後ろが熱く痺れてくる。いつの間に攻守逆転していたのだろう。犯していたはずが逆に領地を犯され、はげしく凌辱されている。
 あまりの激甚な責めに、瞳孔は拡散してぼうっと濁った光をたたえ、顔は紅潮してしまう。息苦しさに打開を求めて鼻で息を吸えば、鼻孔までもが娘のかぐわしい香りに征服される。
「ん、え……ふへ」
 唇が解放されるなり、セジェルは娘の唾液に塗れた舌を突き出し喘いだ。股間はまた勢いを取戻しつつあった。
「すごおい、気分出てきた」
 娘は放心状態のセジェルの肩を両手で押し、寝台に倒す。
 重たい音を立てて寝台に倒れると肩にかかる娘の重さが胸の傷を引き攣らせ、セジェルに小さな苦痛を与える。
「怪我人だと言っているだろうが」
「痛かった? ごめんね。腕上がる? あげてみて」
 セジェルは仕方なく両の腕をあげて頭の裏で組んでやった。
「大丈夫そう?」
「ああ……」
 胸と腹が反った無防備な体勢はまるでどこからでも責めてくれと言わんばかりだ。
「よかったね。これで遜色なくグラディウスが振るえる。で、わたしは喜ぶ」
 娘の手がまるで労うかのように触れるか触れないかの絶妙な強さでセジェルの両の脇腹をさする。
「あ、ああ、あ」
 セジェルはせり上がってくる快感をどうにか逃がそうと身体を捩りながら息を吐いていく。そうすると幾分か娘の責め苦を和らげることができた。
「ちゃんと腕を上げていてよ」
 しかし娘の勢いはセジェルの予想を軽く凌駕する。その手が素早く腰骨から脇の下までを撫で上げた。
「はひぃい!」
 セジェルはぞくぞくとした悦楽に震えながら、情けない声でその善さを伝える。勝手に目尻から涙が垂れてきてしまう。
 涙の枯れる暇も与えては貰えず、娘の舌が上げた腕に這う。鋭い頂点を描く肘、筋張った上腕の裏をねっとりと舐め降ろす。
「んっ、くう……」
 セジェルは頭を娘が舐めているのとは反対の腕に埋め、色々な感情に歪むそれを押し隠す。
「顔見せてよ」
 腕に唇を埋めたまま娘が言う。弾ける空気が身体を焦らし、もどかしさを与えてくる。セジェルは顎に添えられた娘の手が導くままにそちらを向くしかなかった。
 娘は挑むような目でセジェルを捕えながらその腕に歯を立て、音を立てて唇で吸い、舐めまわす。
「んあ……ああ、もう、もう……」
 自分の肉体が責められるのをまざまざと見せつけられ、嫌でも中心に血が登ってゆく。一方で娘の舌は徐々に下に降りて来て、とうとう……。
「んお、おおおっ!」
 脇を縦横無尽に舐められ、掻痒やくすぐったさには至らない絶妙な境界を行き来する責め苦に陥落するセジェル。
「あ! ああああ! くはぁ!」
 ぞくぞくとする愉悦に喘ぎ身体を仰け反らせる度に屹立が腹を打つ。すでにセジェルのそれは娘の淫らな行いによって活力を取り戻していた。
「そんなに大声で喘いだら、容体が急変したと思われる。そうしたら人が来ちゃうよ。脇舐められて悶絶している所、見られてもいいの?」
 そんな所を見られては、娘の家の奴隷の中でもまあまあ一目置かれている自分の立場という物が一瞬で崩壊してしまう。
「ん! んんん!? じゃあやめろっ!! やめ、やめてくれ、え……」
「やめてくれ、じゃないでしょ」
 言外に丁寧に懇願しろと命じられ、セジェルは快感と羞恥に顔を滅茶苦茶にしながらこういうしかなかった。
「や、やめてください……っ」
 それに対する主人の言葉は「ううん、やめないよ」最低なものだった。「それよりも誰かが来る前に逝っちゃえばいいと思わない?」
 娘の手が股間に伸び、セジェルの屹立の先端を激しく擦った。一方でその舌は執拗に脇を舐める。
 神経や血管が一挙に集中したそこは人体の急所だが鍛えて強化する事は能わない。だからこそ腕の下に隠されているというのに。
 そんな場所に軽く歯を立てられ、唇で吸われ、舐め回されると、甘美な敗北感が肉体を蝕んでゆく。急所を暴かれ、身を委ねるしかない状況はまさに隷属の享楽の極みといえよう。
「ほお……お、んお゛おおおお!」
 激しい快感が湧き上がり、セジェルのすべてを散らしてゆく。
 栄えある艦隊長としての己の誇りをすべて剥ぎ取って行った浅ましい奴らへの宿怨も、この生活を足掛かりとしながらそういう奴らに復讐しようと目論んでいる事も、ここに至るとすべてどうでもよくなってくる。
 そして絶頂の瞬間には身に降りかかった不幸な事も、気力も、まるで最初からなかったかのように消えてしまう。何度も絶頂に叩き上げられるうちにセジェルの中に甘えのような怠惰さが芽生えて来るのだ。
 それではいけない。
 セジェルは絶頂の寸前で己を取戻し、理性でそれを抑え込んだ。
「んぎ、い、ふひ、ふうぅ、んっ!」
 喘ぐものか、埒をあけるものかと硬く閉じた唇の端から涎が垂れる。
 だが……。
「ん……ふ、はう、っ」
 確かに射精こそ伴わなかったが、性器の裏側、腰の奥が痺れて陰の絶頂をしかと味わっていた。太腿が震え、腰が退けて、ぽってりと充血した尻の穴がきつく締まる。毎度毎度こちら側の絶頂を感じるように躾けられた賜物だろう。
「逝った?」
 脇に埋めた顔を上げて娘が問う。
「んあ、ぉ……い、いって、ない……ぃ!」
 セジェルはだらしなく歪んだ顔を引き締める事もないまま否定した。呂律の回らない舌を必死に操るだけで精一杯なのだ。頭の奥の一番理性的な部分が痺れたように利かず、絶頂したというのに重たい快感が身体を支配している。
「絶対逝ったでしょ。顔真っ赤で酷いよ。わかるんだから。ちゃんと見てればよかったあ」
「だ、だまれ、え……」
 陽根の絶頂とは違って、陰の絶頂はその瞬間が終わった後もゆるく続く快感が尾を引く。そのせいで娘を跳ね除ける気力が湧かない。というより、セジェルの肉欲は続きを欲していた。
「我慢した分だけ大っ嫌いな気持ちいいのが続くのに。それとも好きだから我慢して長引かせてるの? まあいいわ。じゃ、“運動”の続きしよう。今度は脚ね」
 それ以上言われなくてもセジェルは娘の求めるところは心得ており、脚を開き捧げるように腰を反らす。
「よかった、脚もちゃんと動かせるみたいね。まあ脚は無傷だから当たり前か。これで走り回って敵を翻弄できる。で、わたしは喜ぶ」
 娘の手がセジェルの尻を割り開き、その入り口をこりこりとほぐす。するとまるで欲しがるかのようにセジェルの肉穴が娘の指先を吸う。それを準備万端の合図と見たのか、娘はセジェルの胴を跨ぎ、その顔の前に怒張を差し出す。
「準備して」
 硬く閉じた唇に娘の怒張の先端が触れる。つるりとした先端からは淫らな汁が垂れ、セジェルの薄い唇を濡らした。
 セジェルはおずおずとその先端を舐め、これで勘弁してくれとばかりに上目遣いで娘を見上げた。
「だあめだってば。痛くていいならこれで終わってもいいけど」
 意を決してセジェルは娘の昂ぶりを口に含んだ。
「あ……ぶ、ぐぼっ」
 胸一杯に娘の怒張の雄の香りが充満する。娘の怒張が歯に当たらないように舌で守るように舐りながら、口の中すべてを使って相手をする。
「ふ、んー、んぼ、お……」
 背徳的な行いに鼻息は荒くなる。酸欠に喉が締まり、それが娘を喜ばせてしまう。
「ああ、すっごい、善くなって来ちゃった。一回出しちゃお」
 セジェルは急いで怒張を吐き出そうとするが、すんでの所で間に合わなかった。
 肉棒が脈打ち、先端から喉奥に向けて大量の精液が噴射された。
「お゛……んご、ごっ、お゛ご……ん」
 精液溜まりとなった口の中をなおも執拗に肉棒で弄られ、セジェルは仕方なく汚物を飲み込んだ。喉仏が大きく何度も上下し、喉に絡みつく精液を胃へと押し流す。
「半月溜めた濃厚精液、おいしい?」
 肉棒を引き抜きながら娘はいやらしくセジェルに聞いた。セジェルの唇とその肉棒の間に淫らな粘液の糸が引く。