留守番する彼 - 3/8

「あ……ん、そんなこと……」
「それとも、そんなに警視総監殿に言い辛いなら、あの子にしてもらう?」
 伯爵夫人の淫蕩な視線の先には、顔を床に向けて落としたテーブル付きの給仕がいた。表情はうかがえなかったが、しかし婦人二人の間の秘め事を遠くから眺めていたのは確かなようで、誠実そうな若い顔をこれ以上ないくらい紅潮させていた。イザドラの痴態を目にして欲望には逆らえなかったようで、伯爵夫人が手招きすれば給仕はおずおずと淫魔の魔窟へと吸い寄せられた。
 イザドラはドレスの裾を捲り上げ、給仕にねだった。
「おねが……はぁ、ん……おねがい、かき出して、わたくしの、きたない、だめな子のお汁……」
 瞳に一瞬差した希望は消え去り、今は劣情にどろりと濁っていた。
 生唾を飲み込んだ給仕がしどけなくソファに沈んだイザドラにのしかかり……。

 ああっ! なんて不埒な娘だろう! 夫がある身でありながら、名も知らぬ男に身体を許すなど!
 ドゥーベ氏は毛布の下で猛る己を慰めながら脳裏で叫んだ。
 ドゥーベ氏の予定では、席で給仕に犯され子宮にたっぷり注ぎ込まれたイザドラは、喫茶店の客の男達にも次々と寄ってたかって輪姦され、場末の小汚い宿に押し込まれて夜が明けるまでどこの誰ともわからないならず者達にまで種付けされ、やっと開放されて辻馬車を拾って家まで帰って来られたかと思いきや蜜壺から垂れる白濁に目を付けた御者に不倫を亭主にばらすと脅されて家の前で強姦され、家に帰ったら帰ったで自室の風呂で女中に優しく慰められながら細い指で蜜壺を清められて絶頂し、寝台でこれまでの事を回想しながら何度も何度も自慰に耽って女の絶頂を迎え、最後は結局長年の勘のようなものですべて夫にばれて三日三晩飲まず食わずで尻をひっぱたかれ言葉で責められながら激烈に嬲られ胤をつけられるのだ。
 うわっ、最低! 本当になんて淫らな、いやらしい、好き者な、不埒な娘だろう!
 とは言え、それよりなにより不埒なのは自分なのだが。
 というのも、説明するまでもないだろうがこれは予言でもなんでもなくドゥーベ氏の劣情がなせる妄想なのだった。
 イザドラが出かけてすぐ、ドゥーベ氏はこっそりとモルドワインを手酌し舐め始めた。頭痛に赤ワインは厳禁なのだが、人間とは不健康なものと不道徳なものを嗜むのを熱望する狂った生き物なのだ。まずグラスを一杯空けると、程よい浮遊感と頭痛がこめかみを支配し、股間がむずむずと疼き始めた。
 ドゥーベ氏は性欲には淡白な方であったが、たまに一人で手淫に耽りたい時だってある。一人のそれはイザドラとの行為とは違う善さがあるのだ。激しく求められ絶頂させられるそれはお互いの熱を感じられてよいものだが、時にじっくり自分のペースで快感を求めるのも悪くない。というか、いい。
 だから時折、イザドラを材料にこうした劣なる想像に一人で遊ぶのである。そしてこうした妄想には覗き見的かつ自分のものを奪われる屈辱的な疚しい背徳感がある。それがドゥーベ氏の雄を昂らせてやまないのだ。
 今やドゥーベ氏の脳裏の妻は大勢の男達に穴という穴を塞がれ滅茶苦茶に輪姦されていた。しかし眉根を寄せた苦しげな表情の中にはどこか悦びが見て取れて……。
 ああ! 最悪だ、私は最悪の、唾棄すべき……ああ!
 イザドラの肉体も精神もいいように空想の上で弄ぶ自分が情けない。こんな事になど興味はない、寧ろ忌むべきものだと思っている品行方正な己が眉を顰める。
 しかしいつも自分をいいように弄んでくるイザドラが、雌の快楽にか細くすすり泣きながら小さな身体を揺さぶられる所を思い描くとたまらないものがある。そうだ、いつもの意趣返しなのだからこれくらいは許されてしかるべきだ。
 昂ぶって硬くそそり立つ雄を手で絶頂してしまわない程度にゆっくりと擦り上げる。まだその時ではない。その瞬間は最後の最後、鬼のような夫がイザドラを滅茶苦茶に蹂躙して埒をあける時と決めているのだ。
 だがしかし自分はなんてひどい男だろう! イザドラが薄汚れた雄共に無理矢理引き裂かれる所を想像しながら手淫に没入し埒をあげようとするなんて!
 薄汚れた宿に押し込まれたイザドラは迎え腰にさせられ、男の肉棒に狙いを定められている。嫌がるイザドラに男は下品な笑みを浮かべて言うのだ。孕みたくないならやるしかないと。男達の精液をかき出して欲しいなら受け入れろと。そしてイザドラはとうとう男達に懇願するのだ、入れてくれと。すっかり女にさせられたイザドラの蜜壺に男の巨根がずっぽりと埋まり……。
 自身の肉棒を扱き上げる度にドゥーベ氏の肉壺がひくひくと喘ぐ。こうした快感を得ている時にはいつもイザドラのものを咥えさせられているせいで、肉環の一つ一つがイザドラのそれを恋しがってしまっているのだ。
内部の肉襞がイザドラを締め上げるようにきゅうんと収縮するが、なにせ確固たる芯が通っていないのだ。欲情し濡れそぼった肉襞は自分自身を抱きしめ絡みつき、イザドラにくれてやるはずの熱を自分の中で滾らせる。
「ああっ! もう!」
 快感に汗ばんだドゥーベ氏は毛布を剥ぎ取り、ガウンの前を肌蹴させて脚を開く。そして妄想の中のイザドラと同じように膝を畳み、尻穴を曝け出す。そして焦らしまくっているせいでしとどに垂れている先走りを指にたっぷりと塗り付け、雄を待ち受ける穴に近づける。
 強張った太い陰毛が指を拒む。疎らな長さのそれらは陰気に黒黒と輝き、人体の要所を守るというよりは、その場所を価値のなさそうな掃き溜めのように見せる役割しか果たしていない。
 実に汚らしい。視覚的不潔の極みだ。こんな下劣な場所を妻は、あんなに大事なもののように扱うのか。傷めぬように丁寧に慣らし、時に唇で吸い付き、事後には労うように優しく清めてくれるのか。普通妙齢の女というものは――というより、女は――こうしたものを気色が悪いと忌避し嘲笑うものだと相場が決まっているのに。それをイザドラは、かわいいおしりと言うのだ!
 ドゥーべ氏は妻の悪趣味、いや、愛情の深さに慟哭した。
 指が触れると肉穴の入口は初々しく震える。イザドラとしている時もこんな風なのだろうか、とドゥーベ氏は羞恥に一層顔を赤らめる。
 壊してしまわないように――いつもイザドラに躾けられているのだから、そんな心配は無用なのだが――ドゥーベ氏はゆっくりと入口をほぐしながら指を埋め込んでいく。
 きつくて入るまいと思っていた指であったが何の事はない、飢えていた肉環が指にしゃぶりまとわりつき、奥へ奥へと誘われるがまま。本来ならば排出するはずの器官なのに。
「おっふ、おお、ぉ……」
 ドゥーベ氏は自身の肉穴が異物を欲しがり吸い付く様子に心底驚きながらも、待ちわびた確固たる芯が己の中心に通された事をどこかで悦んでいた。
 温かな肉襞は垂涎して硬く節くれだった太い指を締め付け、扱き上げる。指にぞわぞわと粘膜の欲を感じてしまう。
 こんな風にイザドラに身体でねだりまくっていたのか。なのに上の口ではいつも嫌だ嫌だと言っているなんて、見え透いた嘘八百もいいところだ。ドゥーベ氏は腰をくねらせながら情けなくて仕方がなかった。だからイザドラに言葉で責められても尻を叩かれても仕方ない。こんないやらしい自分が悪い。イザドラは悪くない。そう思えた。
 今や両手で股間を弄り回しながらドゥーベ氏は一人での行為をしかと愉しんでいた。常ならば厳つい顔を快感に蕩けさせ、張り出した胸や腹を震わせながら荒い息を吐き、腰を踊らせる所など、誰にも見せられない。
 窓の外はまだ大風吹。あと二、三時間はイザドラも帰っては来るまい。使用人達だって頭痛の時の主人は触らぬ神に祟りなし状態であると知っている。
今こそ自分だけの時間。自分だけの、背徳の時間。愉しみ方はよく知っている。
「んお、お、はあ、んん」
 イザドラが御者に脅され、家の前に停められた馬車の中で蹂躙される情景がドゥーベ氏をより一層興奮へ導く。
 車窓からは屋敷が見えて、その中には彼女を心配する夫が待っている。だが細い身体は荒っぽい羆のように大柄な御者に後ろから抱きすくめられ、激しく後ろから揺さぶられる。
 どちゅ、どちゅ、と神聖な子宮の入り口を穢れた肉棒で叩き潰されてあまりの快感に泣きわめくイザドラ。肉柱がそこを打つ度にひしゃげる子宮の門扉は蜜とこれまでにたっぷりと注がれた雄共の穢れた欲を吹き出し、埋め込まれた肉柱をしとどに濡らす。
 御者はこれまでの雄の残滓をすべて消し去らんとするかのように、そして子宮の中へ肉の楔を打ち立てようとするかのように腰をうちつけてくる。
 ドゥーベ氏も自分にないそれを求めて指を奥へと突っ込む。節くれだった関節がごりごりと愉悦をえぐり、仮初の膣快感を味わう。イザドラが肉棒でかき回される所を想像しながら、余す所なく肉穴をかき回し、肉襞にねだらせる。いつの間にか埋め込んだ指は三本に増えていて、男の太棹を夢想するに不足はなかった。
「は……なんていやらしい女だ、何人にやられたか知らんがまだこんなに……こんなに締め付けて、女の汁を垂らして……っ!」
 その一方で肉襞の指への締め付けを手の肉棒への締め付けに仮託して、手で扱きながら男の快感も同時に追い求める。
 ここまで来るとドゥーベ氏には自分がイザドラなのか、彼女を欲のはけ口扱いする男なのかよくわからなくなってくる。っていうかもうどっちでもいい!
犯し犯される男と女の両方の快感が溶け合って一気に押し寄せる。倒錯的な絶頂の予感にドゥーベ氏は慄いた。
 まだ当初に決めた埒をあけるべき時ではなかったが、ここまで来てしまったらもう手を緩める事はできない。
「出すぞ、中に、お前の子宮にっ」
 ドゥーベ氏は肉棒に絡めていた手を外し、空いたグラスを引き寄せ股座に置いた。それ以外は手元に自分の精を処理するようなものはなかったし、それに精を注ぎ込む事自体が何かの暗喩のようで背徳感が増す。