留守番する彼 - 6/8

 出し切って虚ろな性器は勃起するには至らないが、今や彼の性の器は一つだけではない。陽の性器の奥にある、陰の性器。妻によって創造された新たな源が鈍く疼く。尻たぶが勝手に締まり、谷間で狂い咲く陰気な徒花が陽根を求めて生々しく蠢く。入り口から連綿と深淵へ続く肉襞の環達は物欲しさに野蛮に暴れて互いを滅多やたらに打擲し、その刺激で自慰を始める始末だ。
 これではまるで自分は――。
「酷い、女……だっ!」
 膣や子宮ではないのだ、そこは確かに排泄のための不浄な場所のはずなのに、淫らな行為を思うと昂る。陸に打ち上げられた魚のようにびちびちと醜悪に跳ね回るのだ。
「そうよ、わたくしひどい女ですの。毒婦なの」イザドラはドゥーベ氏の言葉が自分に向けられたものだと思ったようだった。「それにしたってそんな劣情に濡れた低いお声をお出しにならないで。わたくしがまんできなくなってしまうわ」
 我慢なんて、いつした事がある!
 ドゥーべ氏は胸の内で大いに叫びながら、尻の奥からせり上がってくる快感に身体を弓なりに反らした。
「次は本物のわたくしで欲情して」
 冷たい手がドゥーベ氏の尻にかかり、重たい尻たぶを割り開く。ドゥーべ氏は従順に脚を開き腰を浮かせた。拒んだところでどうなるというのだろう。そうした諦観の気持ちからであった。
 ほっそりとした人差し指と薬指が雑然と生え散る尻の陰毛をかき分け、ぽってりと咲く柔らかな媚肉を開いた。
 くちゅ、と粘ついた淫らな音を立ててドゥーベ氏の穴がされるがままに大口を開ける。恥じらって閉じる素振りなど少しも見せず、それどころか奥へ行くに従ってイザドラを誘うように緩慢に蠢いている。
「あなたご自分のおしりの中がどうなっているかごぞんじ? とっても破廉恥よ」
「ああ……言わないでくれ」
 他ならぬ自分の事なのだからよくわかっている。淫らに勝手にきゅんきゅんと食いしばる自分の尻の状況くらい。悔しいまでに恥ずかしいのは自分の意志でそれを止められない事だ。
「あなたの妄想の中のわたくしもこんな風にされたのかしら」
 イザドラの中指がつぷ、とドゥーベ氏の中に埋まる。遅れてしなやかな人差し指も。それらは焦らすように徐々に奥をめざし、中をしっかりと余す所なく検めてゆく。桜貝のような小さく滑らかな爪は襞を押し潰し、指の腹は伸ばしにかかる。さっきのような無理矢理快楽に臨まされるそれとは違い、それはゆっくりと法悦を高めてくる動きだった。
 緩慢に、しかし煽るように動く細い指が激しい締め付けを行う肉襞を慰めほぐしてゆく。二本の指が中で開かれたり閉じられたりするのに呼応して肉襞がちゅぷちゅぷといやらしい音を立てて吸い付いたり離れたりを繰り返す。まるで埋め込まれた肉棒に絶頂を促すかのような動きだ。
 放出するものがない肉棒は怒張してこないが、ただ尻の奥をじんわりと温めるような心地よさは感じていた。その証拠に腰が戦慄き、勝手に情けない声が漏れる。
「はう、ん……」
「あなたおんなのこみたい。勃起はしていないのにおしりはひくひくして、裏返った声を出して」
「う、うー……っ、ち、ちがうっ、私は……」間違ってもこんなおじさんに対して女の子なんて言うものじゃない、と窘めたい所だったが、尻から指を引き抜かれると同時に声と覇気まで奪われてしまう。「お゛っ……お、う……ぅ」
「ちがわないわ」イザドラの唇がドゥーベ氏の耳に触れる。「あなたのこと、わたくしのおんなのこにしてあげる」
 ぞわ、と耳が粟立つのと同時に尻穴に再び指を突っ込まれた。
「は……あひ、い――」
 しかしその感触は先の挿入とは違って粘ついた、妙なものだった。その滑りを借りて肉襞の締め付けを粘液で誤魔化しながら指は勢いよく奥の窄まりにぶち当たった。
肉襞に絡む粘つきの正体はすぐにわかった。
「これね、あなたのだめなお汁なの」
 ドゥーベ氏の目の前にグラス一杯の無駄汁が掲げられる。透明な容器の中で不潔感を覚える濁った白さが凝って、渦巻いて、目を犯しにかかってくる。こうまじまじと己の精液を見る羽目になるなど考えた事もなかった。
「う、うう……」
 顔を一層紅潮させながらドゥーベ氏は唇を噛みしめ、情けなさに涙が滲む。なんでこんな子供のような女に唯々諾々と辱められているのか。自分自身でそうされるのを愛好しているからに他ならないのではあるが。
「これからあなたのお汁で種付けしちゃうのよ」
 イザドラがたっぷりと精液が溜められたグラスを手の内で揺らす。不浄の汁が小波を立ててざわめく。
「そうしたらブリュノさんも、わたくしのおんなのこだってちゃあんと自覚してくれるはず」
「あ、ああ……いやだ、そんな……あ、謝るから、もう想像で自慰はしないから……」
 ドゥーベ氏はか弱い小娘のように震える。自分の肉壺に自分の雑汁が入れられるなんて、変態行為も過ぎる。
「うふ。そんな事言って、でも待ち望んでいらっしゃるのでしょ」
 埋め込まれた指を動かされると腰が悦びに踊る。最初はある一点しか感じる事のなかった肉壺であったが、イザドラの調教のお蔭で今や穴全体が愉悦を覚え込んで、どこをどう弄られようとすぐに快感を受け取ってしまうようになっていた。
「ひ、ちが、あ、うお、お」
 顔はだらしなく蕩け、呂律も回らない。
「違わないわ、だってこんなに指をきゅんきゅん締め付けてきているのだもの。拒絶のそれじゃない事くらいわかるわ」
 二本の指できつく食いしばる穴をがっぽりと開かれる。
「うふ、こんなにだらしなく開くおしりになってしまいましたのね。ほおら、もうちょっとで中にあなたが撒き散らしたいやらしいお汁を入れられちゃうのよ」
「んあ、あー、頼む、止めてくれ」
 弱弱しく拒絶しつつも腰はより一層浮き上がる。そのお蔭で淫らな穴がイザドラの眼前に晒されてしまう。イザドラにいいだけ使い込まれて熟れきった肉穴が。
「おしり掲げて、そんなにお汁が欲しいの? ブリュノさんたら本当にお淫らなのね」
 尻穴の上でグラスが傾けられ、粘度の高いそれがどろりと滴る。
「あ! 待って、やめてくれ……」
「ほおら、自分のお汁で孕んじゃって」
 ひくつく肉色の穴の際にどろりとした汚濁が垂れ、挿しこまれたイザドラの指を伝って肉壺へ攻め落ちて来る。もうここまで来たなら拒んでも押し返す事はできない。ドゥーベ氏の目尻から絶望の熱い涙が滴る。
「んはぁあああ……」
 しかしそんな絶望に震える声色も身体も、どこか甘美な色を含んでいる。
「自業自得なのよ」
 最初の一滴がとろりと粘膜に張り付く。発情して熱っぽい肉壺に、種汁は冷たい刺激として絡みつく。
「んおっ」
 その刺激にドゥーベ氏の肉襞が狂ったように色めき立つ。イザドラの指などお構いなしに自分の精汁を求めて口を閉じたり開いたり、襞の一つ一つがねっとりと貪欲に精液に喰らいつき味わう。そして次々と流し込まれる粘液をうまそうに飲み干してゆく。
「ああああっ、違うぅっ! これはイザドラのじゃ、ない……のにぃ……」
 ドゥーベ氏は見境なく欲望を受け入れていく自分の肉体を恥じ、情けない声をあげる。
 そんなあんまりにも淫乱な肉穴を見て興奮したのか、イザドラの声もひどく昂って震える。
「どうしましょう、ブリュノさんが妊娠しちゃったら。わたくし父親になるのね!」
「んなっ……な――」
 ならねーよ! とにかくどこから訂正していいのやら分からないが、イザドラは父親にはならない事はまず確かだ。乱心にも程が過ぎる。
「安心して赤ちゃん産んで! わたくしいい父親になりますわ!」
 肉壺へ注がれた白濁がぶちゅぶちゅと汚い音を立てながら指で奥へ押し込まれる。
「な、ならなくて、い……おお、ほひ、いぃ」
 溢れたものも丁寧に指で掬われて中へ戻される。かき混ぜられ、そして物欲しげに震える襞に優しく塗りつけられる。
「みて、グラスもう空っぽ。飲みっぷりがよろしいのね。自分のお汁で孕まされた感想はどうかしら」
「ひぐっ、んおっ、お……」
 ドゥーべ氏は鼻を鳴らして咽び泣いた。
 腰の奥がずうんと重い。そして燃えるように熱い。注ぎこまれた欲液は奥で滾り、まるで自分こそがそこの主であると主張しているかのようだ。
「あ、ああ……いやだ、自分ので孕みたくない、ぃ……たすけて、くれ……」
 自分のもので支配されているなど、間違っている。イザドラの物ならまだしも。
「どうやって?」
 イザドラは自分の怒張をこしゅこしゅと扱きながら首を傾げる。自分がどうすればいいか、夫がどうしてほしいか、十分すぎる程わかっているのだろうに白々しい。
「きちんと言ってくださらないとわかりませんわ。わたくし超能力者じゃありませんもの」
 イザドラはくいっと腰を反らし、黒光りする蛮刀を誇示する。
 その卑猥な女体を思わせるカーヴを描く、照り輝く淫らな笠で肉穴を余すところなくほじくり回して欲しいのだ。そして駄汁をすべて、掻き出して欲しいのだ。
「ああ……んあ……君ので、綺麗にしてくれないか」
「どこを? ここ?」イザドラの得物がドゥーべ氏の太腿の裏から内腿をなぞる。
 それはそれで心地よいのだが、求めているものはそれではない。
「ああ、あぁ……ちがう、私の……私の堕落した情けない……」羞恥からくる快感にドゥーべ氏の腹が引き攣る。無骨な指が泥濘んだ肉穴の入り口を広げる。「女の場所を」
 そこは穢れた精の糸を引きながら口を開けた。
 なまなましい想像が肉を得て、その場所は雌へと墜ちきっていた。
「私の駄目な悪い汁を、かき出してくれ……」
「ん、わかったわ。じゃあ、おそうじしてあげる。あなたのおんなのこの場所」
 ちゅ、と軽い音を立てて唇を啄まれるや否や、掲げた尻に柔らかい重圧が乗る。
「んォおおお゛お゛……ッ!」
 慣らされきった雄膣にがっつりと野太い一物が嵌まる。一瞬で深淵まで貫かれ、先程まで内部を支配していた精液もその執拗さはどこへやら、その覇権をすべて女の怒張に持って行かれてしまう。追い出された白濁は肉穴の縁で恨みがましく泡立つか、あるいはすべてうっちゃって流れ落ちるか、どちらにせよ支配権を猛々しい肉棒に明け渡す。