【旧版】The Pilot - 1/6

「私です」
 それが「あたしの事欲しいのは誰」という内藤マナの支配的な問いに対する答えであった。
 聞けば聴くほど不思議な声だった。
 平坦にして低い男声。金属的な反響とも、くぐもりとも取れる異質な効果で包まれている。まるでラジオ越しの声のように。
 しかし穏やかで、優しげで、マナの記憶に埋もれた郷愁を誘う。そしてこうした状況においては淫らに濡れ、する必要のない吐息の乱れすら滲む。
 加えてそこに、独特の狂気と偏執の色も含み、時にマナの精神を苛み縛り支配する。
 妙なる均衡と調和、完全無欠の狂った合成音。
 聞けば聴くほど不思議で、マナの琴線に触れる声だった。
 マナが組み敷き、意地悪く問い詰めてやっている“それ”は、自然の被造物ではない。
 その造物主は人間で、すなわち“それ”は人造の機械。
 一目見て誰もがそれを人ではないと断ずるだろう。そして人に対するのとは違う気安い好意か過ぎたる嫌悪を催すだろう。
「もし私に心があるのだとしたら、内藤マナさん、私は心からあなたを必要とする者の一人です」
 マナはといえば、それを一目見た時から、その金属の身の内に狂気と耽美と“完全無欠”の欠点を見出して、人に対するような、いや、それ以上の、好意と嫌悪の狂瀾に飲まれてどうにかなりそうだった。
「一人? まるで他にもいるかのような言い方するじゃない」
 マナが片眉を跳ね上げて切れ長の冷たい目でそれを見下ろせば、被虐趣味の気が多分にある機械の声とその内部が甘く蕩ける。機械の淫裂がひくつき、“人体には完全に無害”だかいう合成愛液と、手厳しく注ぎ込んだマナの精液が混ざり合った汚物がねっとりと畳に滴る。
 変態野郎、とマナは上擦った声で詰る。
「なにせあなたは完全無欠の被造物。無数の、大勢の者があなたを求めるでしょう」
 馴染みない横文字の合金でできた機械の外殻は光の加減によって青か翠に反射する濃い鈍色。鈍器で打っても響かず、銃器で撃てば弾く頑丈さ。
「しかしあなたは有象無象の中から、彷徨える私をその磁力で引き寄せてくださいました」
 マナがその硬い肌に触れれば複雑な線状模様がまるで血潮が沸き立つように輝き返す。そして敏感で、微かに触れれば震え、強かに責め苛めば艶めかしく身悶える。
 女に組み敷かれる鋼鉄の機械は標準的な日本人と比べると頭一つ二つ飛び抜けて、巨躯ともいえる体型。逆三角形の外骨格は人に準えた筋肉状の隆起を備えている。しかしそれはより大袈裟に強調されて雄々しく、野趣溢れる。
 人を模した筋肉状の部品の一つ一つに技術の粋が詰められているようで、その軀は人間以上に柔軟で機敏に動く。そのため粗野な印象はなく、むしろ洗練されて、優雅で……マナには色気すら感じられる。
 できればその色香に耽溺して、甘えて、思う様愛好したいが。
「事実誤認も甚だしいわ! あんたがしつこく付き纏って来たんだろうが!」
 マナはそう素直な性質ではない。可愛げというものは知らないし、捻くれている。たおやかな感情を表出する術を知らず、とりあえず怒りを露わにする。
「しつこく」一転平坦になった声は心底心外だとでも言いたげな色を纏う。「そのようなつもりはなかったのですが」そのように思わせてしまったのであれば謝罪を、と鷹揚な言葉は火に油。
 マナは怒りに任せて鋼鉄の脚を胸の方に強く折り畳む。
 金属製の軀は同じくらいの体躯の人間と比べると何倍もの目方になる。しかしマナの手にかかれば大人しいもので、されるがまま己から脚を上げて女に腰を捧げる。銀色の秘所はぬらりと妖しく輝きひくつき、マナを誘惑した。
「ほんとにあたしが欲しいみたい」
 機械仕掛の軀は頗る使い勝手が良く、いい意味でマナに悪い。先程から性感を煽られ翻弄されっぱなしで、マナの本能は射精のみを求めている。しかしそれでは男……女か、いや、半陰陽の身が廃る。
「ですからそう申し上げておりますよ」
 その従順さ慇懃さにすら苛立ち、マナは鋼鉄にのし掛かり、一気に貫く。
「はぁッ……」
 仰け反り押し出される機械の深く低い吐息。肺どころか心臓も内臓もないだろうに、とても人間じみている。
 女の薄く柔らかな腰がどっしりと硬い機械の腰を打つ。凝り固まった陽根は柔らかな金属の陰部を深く鋭く穿った。
 間を置かずの二度目の交わりにして尚、マナを求めて貪りつく耽美な秘部。幾重にもなる金属の環が作り出す妙なる女の……そう、女の性器を模した器。
 マナを籠絡するためだけに開発し、その身を改造し設えたという狂気と驚異の逸品。雄々しい軀に秘められた倒錯的な女陰。それを思うだけでマナの性的な敵愾心が燃え盛る。
 挿入してやれば、入り口はその形を検め歓待するかのように男根の先端から根元までを締め付け、中程はもっと奥へと誘うように淫蕩に動き、奥は辿り着いた先兵を労うかのように吸い付く。
 これが一度奥まで入れてやると様相ががらっと変わり、入り口は離すまいと肉棒の根元をきつく締め付け、竿を咥える部分は家畜の搾乳でもするかのように下から上へきつく動き、最奥は激烈に先端を貪る。
 互いに腰など振らずとも機械仕掛の淫部は緻密に動き、マナの欲望満載の怒張を苛む。しかし相手から与えられるばかりでは情けなく、マナは簡単には射精しないよう気を張り腰を振る。
 緊密した交接により、これまでに出したマナの白濁が溢れ、男の尻を伝って流れ落ちる。暗い鈍色を割るように伝う白い穢れ。小刻みに震える巨体。
「嗚呼……ッ、折角あなたに注いでいただいたのに……ですが、マナさん、大変に善いですよ。怒りに満ちて、力強く、あなたはとても……」
 生温い吐息が交錯する声をあげながら、男は一心に腰を振るマナの乱れた髪に指を巻き付けたり、猛って血の巡りの良い唇を撫でたりする。
「美しい」
 甲殻類の外骨格めいた部品の連なる手指の動きは表現力に富み、なんとも肉感的。白い手袋に包まれている時でさえ、その怜悧な神経の通った指の蠢きからは淫らな気が滲み出ているように感じてしまう。
 硬く冷たい金属なのに、マナを触る時にはどこまでも柔らかく繊細で、温かい。ガラス細工でも触るかのような、工芸品の目利きをしているかのような、崇拝しているかのような。
 誰かにそんな風に触られた事はない。そこまで他人に身体を許した事もない。
「ん……」堪らずマナも健康的なすらりとした肢体を反らせ、喘ぎ声を漏らしかける。一瞬気をやりそうになり、腰が甘く震えた。
「我慢なさる必要はありません。私を高みに押し上げてくださる心づもりでしたら、大変嬉しく思いますが。あなたの気が済むまでお使いになって、不要になったら捨て置いていただいて構わないのですよ」それに私に限界はありません、と鋼鉄の男は自信たっぷり宣う。
「上等な機械だわ」憎まれ口でもあるし、逸品という意味も兼ねている。
 益々腹立たしくなったマナは巨躯の上に精一杯覆いかぶさり、張り出した胸部やら堅牢な大腿やらを荒々しく撫でまわしながら、その喉に噛み付くように唇を落とす。触れれば痺れるように心地よいその表面。互いの肌が引き寄せ合うような不思議な感触。
「そのように愛撫し接吻していただけるなんて、道具の冥利に尽きるというものです」
 喉に吸い付くマナの唇を震わせるその音声。背筋を駆け抜け上は脳髄から、下は腰の奥を懊悩させる。犯しているのに、骨の髄まで支配されて犯されているかのように感じてしまう。
「私はそれだけで、浅ましく果ててしまいそうです」
 耳元で低く囁かれる。
「ああ、もうっ、そんな声出さないでよ……!」
 マナは堪らず腰を乱暴にふりたくり、金属の腰を打擲する。腰骨が頑健すぎる腰部に当たると痛いがそれもまた機械を陵辱しているのだという倒錯をより一層突き付けてきて昂る。
「あなたは出してください、私の中に」その手がマナの後頭部から背を撫で、己に押し付けるように腰をゆるく抱く。
「ああー、最悪っ、いやらしすぎる」
 マナはたっぷりと埒をあけながらも腰の動きは止めず、不毛の種を蠢く鋼環に塗り込みながら、その堅く軟らかな機械の器に撒き散らす。
「あぁ、随分とまた、んん……動きながらですか。お若いですね……」機械の軀がゆるく仰け反り、声はうっとりと蕩ける。「はい、大変善ろしいですね、浅い所から深い所まで、はぁ……余す所なくあなたの物になっていくようです」
 心の底から感じ入るようにゆるく明滅する光学視覚装置の輝き。
 文字通りの眼光は丸く、大統領の名を冠した米国車の前照灯のよう。しかしその眼差しは決して不躾なぎらついた光ではなく、たおやかで紳士的でとても欧州的。拡散したり細められたり瞬いたり、注意深く観察すれば、その光には豊かな表情がある。そしてマナを見つめる際には真っ直ぐ真摯かつ、細められて淫蕩。
 一方で顔の中心を通る鼻梁の下にある唇は、どんな時でもアルカイックスマイルを張り付けたまま動かない。発声器官としてではなく、敵意のない事と柔和な印象を与えるためだけに存在するのだろう。
 しかしその微笑は時に、見る者によっては自己の感情が投影される事もあるようで、マナにはしばしば残忍で淫奔な影が差すように見える。こと、この安電灯の下においては、惻隠に満ちた唇の影は濃く、薄橙に照らされた部分もどことなく淫靡。
 機械の爛れて堕ち切った穴に埋めたままの陰茎が再び反応しかかる。自分も随分な好き物で淫乱じゃないか、と自嘲するマナ。
 再びゆるく勃ったそれをずるりと引き抜き、天を仰ぐ会陰に擦り付ける。粘液で濡れる秘所や、精液の垂れ落ちる尻の谷間に。
 秘所を擦ればその入り口は情けを乞うようにマナの太竿に縋り付く。垂れ落ちた残滓を肉棒で擦り付けてやれば貪欲に呑み込む。
 機械の腰が女の勃起を追い、艶かしくゆるゆると動く。頑健な軀は美徳を重んじ巨悪を挫くために造られたというのに、その神経は閨事にうってつけの堕落したそれ。
 淫乱に過ぎて、まったくこの機械はマナの手に余る!
「嗚呼、この世の終わりまでこうしていたいくらいです。あなたに壊さんばかりに犯されて、許容を超えんばかりに中に遂情されて、狂わんばかりに愛好されて……」
 巨躯がその半身を起こし、マナを腕の中に閉じ込める。
 張り付いた硬い柔らかな微笑がマナの小麦色の首筋を這う。機械の身の上ながら、彼は人間の、それもマナの首筋に魅了され、出来る事なら所有の痕を付けたいくらいだと言っていた。そういった劣情を向けられるのは悪い気はしない。寧ろ、激烈に求められるのは仄暗い悦びすらある。
「私はあなただけの、なくてはならない物になりたいのです」
 そう懇願されても、二本の腕の檻に閉じ込められているマナには物にされるのは自分の方な気がしてならない。肉体的にも、精神的にも。その感覚は怖ろしくもあり、腰の奥を焦らし、そして心地よい。
 偏執的な冷たい唇は快感と焦燥と恐怖に震える喉を徐々に降り、マナの首元へ。そこには焼き付いたような濃い痣があった。両の鎖骨にまでかかるほどの大きさの、歯列を上から覗き込んだような刻印が、細く滑らかな首元のぐるりを囲っている。
「本当にあなたはお綺麗です、とても」
 あなたが好きです、とじっと目を見て言われる。
 マナの表情がふと困惑に翳る。
 貧弱な付き合いしか知らないマナは、継続的な関係を感じさせる言葉を吐かれると、忌避感を抱いてしまう。
 だから無駄な事とは知りつつも、機械の心に自分の瑕疵を訴えかける。
「絞首刑か首を絞められたような痣だってよく言われる」
 期せずしてそういう関係になりかけた者だとか、職場の更衣室でそれを見た者だとか。大抵の人間は見なかったふりをするが、そうでない者はマナに聞こえるように影でこう言う。
「前世だとか、親類縁者の因果だろうとか」
 少しでも相手の気を削いでやろうとマナは意地を張る。口角の片方だけを上げて生意気に笑ってみせる。
「だとしたら、あなたにそう言った方々は随分と物知らずです」
 精密な思考回路と言葉は合理的で時に直接的過ぎて無礼で粗雑に感じる。
 心無い機械は、前世や因果については勉強不足ですので、そちらについての言及は避けますが、との文言に続けてこう言い切る。
「絞首刑や自他殺による縊死の痕はそのような低い位置にはつきませんし」正確な情報を示すように、雄弁な指は己の顎の下辺りと喉仏の辺りを真一文字に掻き切るように機敏に横切る。「そうした環状の優美な弧を描く事もありませんよ!」そして機械は淫蕩に目を細め、喉の奥でくつくつと妖しく笑った。
 己の首を掻き切る真似をしてみせた指がマナの痣を慈しむようになぞる。安寧に沈むような法悦と、よくわからない感情にマナの目が熱を帯びる。
「私には燦然と輝く壮麗な首飾りに見えます。ですから、それも含めてあなたは完全無欠です」
 精密かつ“完全無欠”の思考設計故に、彼——もはやマナにはその粗雑な機械は一人の男にしか見えない——は行き過ぎる程に考え、無闇に喋り、激しく乱れる。
 危険で魅力的。
 まったくこの男はマナの手に余る!
「最悪。こういう事してる時に縊死とか言わないでしょ」
 言葉とは裏腹にマナは男に素直にしなだれかかり、冷たい肩に火照った頬を当てる。
「お言葉ですが、あなたが発端の会話ではありませんか」
 彼の手はマナのうねる長い髪の一房一房を解し、弄ったり、馴れ馴れしく接吻したり。
「生々しい死体の話したのはあんた」
 マナは目を覆い、悟られないよう頬に伝いそうになる雫を手に押し付ける。
「これは失礼」男の掌がマナに向けられる。「失言でしたか。ついうっかり」この男の“ついうっかり”はひどく曲者だ。
「先程も申し上げたとおり、あなたがいくらご自分の瑕疵を並べ立てたところで無駄な努力です。いかな瑕疵も含めて私はあなたを好ましく思っておりますから」
 眼光が細められる。責め立てるようなものではなく、しょうもない子供の悪戯を見るような愛おしげなそれ。
「そして、完全無欠」
「本当に無駄か確かめただけ」
 そうつまらなそうな顔で言うマナの顎がそっと捉えられる。
「それだけのためにあんなにご自身を貶めるような事を」
 唇同士が触れ合う。動かぬ唇ゆえに、その接吻は拙くもあり、清くもある。
「あなたは悪い人です」
 接吻していても、男の合成音声が阻まれる事はない。
 彼に、悪い人、と言われるとゾクゾクする。そして、唇を塞がれながらの甘い声もマナを悦ばせる。
 キスしながら喋れるなんて普通じゃない。
「しかし、そこが善いのです」
 そう、とても好い。
 蠢く金属の手がマナの滑らかな肩や、細い腰を崇めるように触れる。まるで古の邪悪な神像にそうするかのように。
 首飾りに情熱的な接吻やら愛撫やらを施しながら、鋼鉄の男は幽かな、吐息のような声で呟く。「我らが大いなる掠奪者の皇帝にして女帝」と。マナが、何、と聞き返す前に男は続ける。
「では仕切り直して」男は己の指で秘裂を広げ、煽るように鈍重な腰を反らす。「今一度お使いになりませんか。あなたの性器はまた漲っていらっしゃいます」そしてマナの怒張を人差し指が撫で上げる。
「ん……変態っ」
 この束の間のひととき、その声で、その姿で、その行為で、何度昂った事だろう。そしてまた繰り返してしまう。
「あたしが必要なんだものね」
 目の前の精巧な機械を……容貌魁偉な男を気が済むまで使い潰したい。しかし自分からすすんでそうするのは癪なもの。
「はい。あなたは完全無欠。私は不完全で惨めで弱い。ですからあなたが必要なのです。平和と自由のために」
 この爛れた行為の始まりに、男はマナを「肉体的に籠絡する」と宣った。
「作戦は大成功ね、保安官さん」もはや離れ難い。
 マナは細腕で男を伏せに押し倒し、腰を鷲掴みにし後ろから貫く。使い込まれた秘所は互いの粘液で濡れて、酷く穢れて心地よい。
「あぁッ! はっ、あ……っ!」
 男の盛大な喘ぎが響く。金属の指が褪せた畳を掻きむしる。
 保安官呼ばわりされた男は切羽詰まったような声で言う。
「私の名を呼んで欲しいのです。初めて会った時のように」
「長いやつ?」は、覚えていない。「中くらいのやつ?」発音しにくい。「短いやつ?」あまり趣味がいいとは言えない。「どれ」どれも面倒。それよりさっさと快楽の極みを追求したい。
「中くらいの、略称を。あなたがその名を口に出せばまるで歌です。単なる個体識別名称などではなく」
 口早に要求を述べる声に時折苦しそうな吐息が混じる。機械仕掛の軀に絶頂があるというのだろうか。
「嫌だよ言いにくいもの。大体、名前なんてどうでもよかったんじゃ?」
「どうでもよいとは言っては……いいえ、あれは間違いでした。大変な間違いです! ですから、あぁ……」
 マナは無視して腰を打ち付ける。憐れっぽく締まる局部の感触がとても好い。泣き言のように自分の名を呼ぶ声もそそられる。
「マナさん……」しかし、この声で「どうか……」と哀願されると弱い。あやされた首元がゾクゾクとする。何でも言う事を聞いてやりたくなる。「私の名を呼んではいただけませんか。そうしてくださったのならば、私はどんな事でも……」
「犯罪行為でも?」仕様上絶対に出来ないとわかっていても、苛めてしまう。
「嗚呼ッ、酷い事を仰る! あなたはっ、悪い人です!」
「もうそれ褒め言葉でしょ」
 こんな機械に心までは籠絡されまいと、マナはそれを使い潰しにかかる。
 奥に突き込む度に掲げられた尻と大腿がビクビクと痙攣する。そしてその淫らな器自体も。
 マナの呼吸が浅く早く詰まる。眉根を寄せ、唇を噛み、ほっそりとした首を反らし、全身で快感を受け取る。
「出すからね、悪党が、あんたの中に、ねえ、保安官さん」
 マナは男の腕を掴み、後ろに引き、その逞しい背をきりきりと反らさせる。まるで野生の馬でも調伏するような、暴力的な交わり。
 性処理と支配のためだけの行為めいて陵辱感が増し、背徳的な状況は互いの性感を苛み昂らせる。
 被虐趣味の気が多分にあるのか、男の性器ががっつりと締まる。
「締まる……ぅ。もう、中ぐっちゃぐちゃに犯して、汚して、壊してやるからっ……んっ、ああっ、出るっ」
 暴行するかの如き雄々しい打ちつけの後、マナは男の奥深くに熱い迸りを放った。
「はあぁッ、あっ、あぁ、あー……嗚呼っ、マナさんっ……ん」
 男が泣き声にも似た感極まった声を出し、頭を振り悶える。
 許容を超えて出された結合部からは清廉な愛蜜と、穢れた白濁の混じった淫液が金属の内腿を伝い、垂れ落ちた。
「……っは、ぁ……」
 男は一際大きく震え、今際の際のような吐息を漏らして瞑目した。
 床に落ちてつきっぱなしだったラジオが、いつの間にかしっとりとした洋楽を歌っている。
《……夢で終わらせないで欲しいのです。嗚呼愛しい人。想像してください、私の膝の上に座っているあなたを。二人でお茶を、お茶を二人で。私はあなたのために、あなたは私のために。ただ二人だけ……》
 行為の果ての果て、マナは男の名を呼び、最後の一滴まで欲望を注ぎ込んだ。