洗濯日和 | 食べて、呪って、変をして、
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洗濯日和
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 愛しているなどと言葉にするのは容易く、安っぽい。
 この気持ちの落としどころはどこなのか、星の心が望むのは何なのか……柄にもなくそのような事を思いながら目覚める。
 カーテンの隙間からは隕鉄の表面に奔るような青い光。まだ太陽も登り切っていないような時刻。
 もう一度目を閉じてもいいかなと思うが、そろそろ目覚ましが来る時間だろう。
 耳を澄ます。しんと静まり返った家の中で、向かいの部屋の襖が引かれる音がはっきりと聞こえる。そしてゆっくりと廊下を踏み締める足音。本人は極めて静かに歩いているつもりなのだろうが、重量級の目方を支える足は古い家屋の床を軋ませる。
 微睡は近づく重たい足音に蹴散らされ、身体は期待に満ちる。
 ただ待つのも焦ったく、音を立てぬよう布団から抜け出し、部屋の入り口で待ち構える。
 部屋の襖がゆっくり開き、廊下の闇を背負った巨躯が窮屈そうに身を屈め戸口をくぐる。男は眼前で怠惰に壁に寄り掛かって立つ部屋の主に気づいて微笑みを向ける。
「もうお目覚めだったのですね、マナさん。起こしに伺う必要はありませんでしたか」
 穏やかで、ラジオ越しのように少しがさついて、よく響くが耳元に辿り着くと途端に蕩けてしまうような声。
 朝の挨拶の代わりに、マナは背伸びしてT4-2の微笑を奪った。鋼鉄の腕が後ろ手に襖を閉める。
 互いに顔の角度を変えながら、何度も唇を啄む。
 マナは唇で音を立てながら金属の肌に吸い付き、精密機械を煽る。
「嗚呼」
 動かぬ唇故に接吻に叶わぬ憧憬を募らせている汎用亜人型自律特殊人形は、歓喜の吐息を漏らす。低く滑らかな合成音声に悦びが混じった音はとても好い。
 マナは彼の声が狂おしい程に好きだ。乱れていようが、いまいが。死ぬその瞬間まで聞いていたい。
 重たい腕がマナの背に回り、無骨な見た目と裏腹に器用な指が乱れた髪を梳く。
「朝から随分と積極的でいらっしゃいますね」
 二つの光学鏡の灯りが嬉しそうに絞られる。
「朝から随分と決まった格好ね」
 裸でも何ら困る事のない軀はきっちりと衣服で覆われている。どうせこれから脱ぐか、皺だらけにされるというのに。
 単なる白シャツに、いつも通りのベストと斜め縞のネクタイだが、手入れがよく行き届いてシミも皺もなく、無駄なくしっかりした軀付きの彼が着ていると様になる。
「女性の部屋を訪問するのに身嗜みを疎かにするわけにはまいりません」
 機械仕掛の保安官はマナをまるで淑女のように取り扱う。いつだって誰にだって礼儀正しく紳士的。褥でさえも狼藉など働かない。初めての交わりこそ無理矢理奪われるようで最悪に思いもしたが、その事はもう忘れてやる事にしている。彼は今となってはマナを悦ばせる事に終始して、十分報いてくれている。
 マナは男の張り出した胸元をつん、と突く。
「出勤前に汚してあげようか」
「悪い人ですね」
 マナは片眉を跳ね上げて笑む。自分では意地悪な笑いのつもりだったが、寝覚めの表情筋は子供っぽい悪意というよりも熟した妖艶さを醸し出してしまったようだった。
「あなたのその嫣然とした表情。一日の始まりに見るにはあまりにも鮮烈です」目が眩みます、とT4-2の双眸がちかちか瞬く。
 甲殻類のような手が寝間着の合わせから侵入してマナの素肌に触れる。その首元の艶やかな痣に。
 マナは身体をぴくりと震わせる。
 明け方の指はとても冷たい。
「つめたっ。ほんとに目が覚めた」
「申し訳ありません。軀が冷えていました。すぐ温めます」
 金属の外骨格の下で電熱線が唸る様な音がする。
「それよりも、布団に入ろ」
 すでに温かくなりつつあるT4-2の手を引き、マナは彼を床に誘う。
「そんな、まるで昵懇の間柄のような……」
「実際そうでしょうよ」こんな事して昵懇じゃないなら一体なんなのか。単なる友人とでも?
 マナは寝間着代わりの浴衣をはだけさせ、明け透けに丸裸になる。
「あっためてあげる。あんたも脱いで」
 何度かの朝課の伽を経て、男のネクタイを外してやるマナの所作も多少は様になってきた。
「温めあいましょう」
 折角かっちり着込んできた服を脱ぎ、暗い鈍色の外殻を晒すT4-2。
 布団を被り、抱き合う。
 機械と人の肌は果たしてまったく性質が違う。しかしよく馴染み、混ざり合って溶けゆくよう。
「とても滑らかで温かいです」
「あんたもね」
 マナは金属の軀にのしかかり、身を擦り付ける。
 滑らかで確かな凹凸のある軀に擦れる、マナの敏感な性感帯。相手のつるりとした胸部を磨く桃色の胸の先端には芯が通り、腹部の隆起に揉まれた性器は硬く聳り立つ。
 唇を重ねながら祈るように互いの手を繋げば、心までも炙られ溶け合うよう。
 密着する素肌に疾る磁力が淡い痺れと快感をもたらす。
「嗚呼……善いです、マナさん……磁力がとても……」
 T4-2は低く喘ぎ、目を細める。うねる軀が下からマナを圧迫する。
「超能力は大変素晴らしいものです。それは忌むべきものなどではなく、世のため人のため……」
 濡れた吐息交じりの声は激しくマナの心身の愉悦を切なく揺さぶる。
「はいはい、あんたのために使うよ。磁力も悪徳とやらも」
「そういう意味で言ったのではないのですが……しかし冥利に尽きます」
 言葉を尽くしても動かぬ唇を舌でなぞる。硬い唇の端から流れ落ちる、女の甘い唾液。それを追うように男の顔が傾ぐ。
「あなたは私を懊悩させる事にひどく長けています」
 重たい軀が揺れて、マナの肉体を擦り慰める。
 睦み合うと言うに相応しい穏やかでしっとりとした触れ合い。
 マナの肉棒から欲望の先走りが漏れてT4-2の硬い腹筋を汚す。
「善いですか?」
「滅茶苦茶気持ちいい」
 マナの言葉にT4-2は深く息を吐き肯首する。
「マナさん、私はあなたの部屋に入った時から準備は出来ているのですよ。毎朝……いいえ、いつでもそうです」
 淫らに大きく開かれた脚の間には、言葉と違わず、既に開放されている秘所。薄暗い部屋で焼け付くように輝く金属の花弁。そこは息づくかのように緩慢にひくつき、褥にとろりと清純な蜜を垂らす。
「一日の始まりに見ていい場所じゃないわ。仕事行きたくなくなる」
「五月病にはまだ一月ほど早くはありませんか」
「違う。あんたを使い潰したくなるって事。一日中」
 この淫乱機械はマナの手に余る。
「この身に余る光栄です」
 使うというより使わされていると言った方がいいかもしれない。
「ではどうぞ、私で朝の一仕事をお果たしください……どうか」
 乞われるままにマナはT4-2の性器に自身のそれをゆっくりと挿入する。一気呵成と突き入れればその勢いのまま激しく掘り抜いて、叫ばれたり詰ったり、汚い交合になってしまう気がした。
「はー……っ、ふぅッ、ああぁ、ゆっくり、されると……あなたの形をまざまざと感じて……」
 ひくんひくんと可愛らしく胎動する大の男の膣。一気に入れた方がマシだったかもしれないと思う程強烈に感じる。
 やっと深い所まで到達し、がっちり組み合わさり、触れ合う腰。
「あっつ、うわ、うそでしょ、すごい、溶けそう……」
 温かいというより、熱い。欲望に滾っているかのようだ。
「あぁ、マナさん、あなたを全身で感じます……」
 締め付けは円熟して、キツすぎず、しかし緩すぎず、マナの怒張に合わせて作られた特注品かのよう。粘性の合成液も相まって、マナを待ち受けていたかのように歓待する。
「それはこっちの台詞なんだけど」
 そう言う息は上がり、言葉尻は怠惰に伸びて蕩ける。
 マナは緩慢にじっくりと腰を動かす。一つ一つの金属の部品を検め、解すように。
 勃起で刺激された淫環は、それを甘ったるく味わいながらも柔らかく締め付ける。性交のためだけに作られた百何個だかの部品はまったくよくできていた。
「あっ……、は、ん、ぁあ……ッ」
 T4-2のすすり泣くような密やかな喘ぎ。同居人達に己のあられもない声を聞かれまいとする、残り僅かな理性が彼をそうさせるのだろう。
 偉丈夫の耐えるような苦し気な掠れた喘ぎは非常に好い。
 マナは鈍色の仰反る喉やら、唇やらをうっとりと撫でる。
 マナの熱が伝播したのか、悦びによる産熱のためなのか、その体表面は随分と熱い。
 そしてT4-2が愛好してやまない最奥の快感を呼び覚ますために、浅く出し入れして奥を間髪入れずに刺激してやる。
「あっ、ふ、んっ、あっ、ぁ、善いッ、好き、ですっ……」
 奥を小突かれる度に揺れる声。
「奥突かれるのが好きなの、それともあたしが好きなの」
 ぎりぎりまで引き抜いた後、意地悪く動きを止め、問う。
「そんな事……」T4-2の二つの灯りが惑うように瞬いた後、真っ暗に落ちる。「どちらもです……」
「正直者」
 マナはがっつりとT4-2を貫いた。
「——ッッ!」
 T4-2は電流を流されたかのように断続的に背を反らして絶頂の兆候を示す。マナを飲み込む金属の器にも苦しむ様な痙攣が迸る。
「朝からやらしすぎるよ、T4-2……!」
 マナも苦しげな息を吐き、夜の夢の中で溜まった欲望を注ぐ。
 機械の重たい腕がマナの背と項に巻き付き、素肌が一層密着する
 囚われた腕の中で最後の一滴まで絞り出しながら、マナはその鋼鉄の胸に口づけを落とした。
 憎からず想う者との、目覚めてすぐの情交は涙が出そうなほど好かった。
「おはよう、保安官さん」
 ここでやっと朝の挨拶。男を抱きしめ、余韻に浸る。
 が、男の方は「水曜は洗濯の日です」と、マナごと勢いよく上体を起こす。
「情緒!」マナは不満に唇を尖らせる。教育的指導のために二回戦目をおっ始めてやろうかとすら考えていた。
 しかし平坦な合成音声はマナに抗いがたい魅力的な提案をする。
「あなたの布団のシーツも洗ってさしあげます」

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