大司教のいとも絢爛なる幸運 - 7/9

「構わんよ、出せよ早漏」
 腰に回された脚をぐいっと引き寄せられ、タベルナの肉棒が奥へと導かれる。根元から先端まで一時に締め付けられ、こうなると白旗を揚げるしかない。
 大司教の踵がタベルナの尾てい骨を力強く押し、硬い膝が肋骨を砕かんばかりに閉じられる。まるで蛇に絞め殺される兎か小鹿か。あとは丸呑みされる運命。
「はう、うう、ん……!」
 哀れな獲物は無理矢理埒をあけさせられた。急激に迸る精が抜けていく感覚は震えてしまうほどに善い。まるで熱病にかかったばかりの時の寒気に似た恍惚だった。
 放出を終えたタベルナは熱っぽく白んだ頭を持て余して大司教に身体を預ける。
 大量に放った精は大司教の肉襞の淫靡な動きによって飲み干されてゆく。奥へ送り込むように、肉襞の一つ一つが精液を手渡す。その動きたるやまるで喉の蠕動運動だ。そのせいでタベルナの肉棒はいまだ執拗に締められたり開放されたりを味わわせられていて、次の興奮の始まりを植え付けられるのもそう遠くなさそうだ。
 出すための場所なのに、この人なんていやらしいんだろう。タベルナはぼうっとした頭でそう思った。
「ああ……この、量が多い、んだよ……節操なしが。そういう所ばかり一人前なんだな」
 肉壺の中はタベルナのそれでもうぐちゃぐちゃで、確かに詰られるだけはあった。
「あ、あう……すみません……」
 大司教の胸の内でタベルナは小さくなって謝る。
 タベルナの腰を咥え込みトラバサミのように固く閉じられていた拘束が緩む。大司教の腰が沈み、精液のぬめりを借りてタベルナの肉棒が抜け落ちる。
「お前だけ善くなりやがって」
 再び謝罪しようとタベルナが上体を起こしてみれば、そう吐き捨てる大司教も頬が赤い。吐息も胸を押し上げる程に熱くて荒く、その上、目はとろんと蕩けてまるで……。
「え、と……でも猊下も感じてらっしゃったのでは」
 埒をあけてはいないようだが、とがっしりした腹の上でその存在を主張している怒張を見下ろしながらタベルナは言う。
「ちがう、ばか。本当に酔いが回って来たんだ。くそっ、萎えてきた」
 大司教の身体がぐったりと階段にへたばる。その怒張も確かに、その主と同じように力を失いつつあるようだった。
「んー……」
 目を閉じた大司教は眠そうに低く呻いた。
「ここで寝たら凍死しちゃいますよ」
「じゃあ寝かせるな」大司教は片目だけ開け、タベルナを見た。その眼差しは眠たげではあるがどこか挑発的だった。「退屈させたら、寝るぞ」
「まるでわたしがいつも退屈させているような言い方ですね」タベルナはむっと唇を引き結ぶ。「寝かせませんよ」
「勇ましいものだ」
 まんまと挑発に乗せられ、タベルナは力任せに大司教の腰を抱き、挑みかかった。

「ん゛……は、あ、ああ。お、お゛ぉ」
 石造りの廊下を低いがしかしよく通る喘ぎが貫く。
 大理石の階が孕んだ真冬の冷たさは二人の生み出す熱に侵され、今や熱の塊でしかない。
「そんな大きい声を出したら、人が来てしまいます」
 熱っぽい大司教の声とは対照的に、タベルナの声は幾分か落ち着いたものだった。
 それもそのはず、もう随分たっぷりと大司教の中に放出していたのだから。俯せにしてタベルナが組み敷いた大司教の腰の下は彼女の欲液でぐちゃぐちゃだった。
 その様子から窺い知れるように、中も大した惨状で、タベルナが腰を打ち込む度に尻の粘膜と精液が絡み合うごちゅごちゅという嫌らしい粘着質な音が響く。肉襞は精液に溺れ、大司教の泣き所を守るどころではなく、必死に藻掻いている。そんな混乱した場所を蹂躙するのは実にいい気分だった。
「猊下の中、ぐちゃぐちゃで、温かくて、はあ、また出そうです」
「どんだけ、溜まってたんだ、よ……。まさかお前が欲求不満だったとは。いつも澄まして愛の穢れなど知らなさそうな顔をして、その裏では悶々と即物的な欲を……溜め込んでいたんだ。お前も余と同じ、神聖なものを思う心なんて、欠片もないんだ」
「猊下とは違いますっ」
 ぱんっ、と腰を叩きつけ、タベルナは何度目かの雄汁を見舞う。すでに大司教のはらわたは許容というものを越えていて、入りきらなかったそれが勢いよく床に滴った。
「うおぁ、お……っ!? まだそんなに、出るのか、この絶倫……野郎」
 大司教の声色はすでに敗戦の色を帯びていた。眠気も余裕もまるで感じられない。
「わたし野郎じゃないです。それに絶倫って貶し言葉じゃないですよね」
 射精したというのにタベルナの肉槍はいまだ衰えない。というのも大司教の情けない姿とその蠢動する肉壺が欲望を繋ぎ止めて離さないからだ。
「ん、じゃあ……っ、この早漏が……っ!」
 もはや罵り言葉にもキレがなく、追い詰められているのはそういう事に慣れていないタベルナの目にさえも明らかだ。
「じゃあ猊下は遅漏じゃないですか!」
 タベルナは大司教の腰を上から床に押し付け、また腰を大きく動かし始めた。それだけに留まらず、その勃起をぐちゅぐちゅと扱く。
「猊下はまだ一度も出していませんもの。遅いんです、鈍いんです」
「ぬお、おおっ、ばか、やめ、ぇ……ろ! いっ……痛い! 下手糞!」
 下手糞、というのはあながち間違ってもないだろうが、痛いなんて嘘だとタベルナには分かっていた。大司教の肉壺はぎゅうぎゅうとタベルナの怒張を締め付けてきていたし、彼の怒張それ自体は彼女の手に暴れながらも吸い付いていた。
 タベルナは手にした得物の筋張る刀身を握りこみ、切っ先を親指で扱き、性急に快感に臨ませる。焦らして弄ぶなんて高度すぎて出来そうもない。海千山千の大司教ではないのだから。それにとにかく絶頂させるのが先決だ。眠たいだなんて寝言は寝て言えというのだ。
 先走りの滴る小さな小さなその穴を爪で優しく、しかし激しく抉ってやれば大司教は壊れたふいごのような声をあげた。
「お゛っ、ぉ……!」
 それは絶頂へ至る合図だった。
 タベルナの手の中で肉棒が脈動し、どっぷどっぷと粘ついた濃い精髄が迸る。
それと同時にタベルナは自身の怒張を大司教の奥深くへと差し込んだ。鋭敏な感覚を持つそれが、大司教の泣き所を擦り上げ押しつぶした事をつぶさに伝える。
「はひいぃ……ん」
 追い打ちをかけられ、大司教は瀕死の獣のような声をあげながら二段階の絶頂を迎えたようだった。
 タベルナも同じ場所へ道連れにされそうになるが、なんとか腰を矯めて持ちこたえた。我慢が成就したタベルナは射精を伴わない妙な達成感に安堵の笑みを浮かべた。
 大司教はといえば、口を閉じる力も、唾液を押しとどめる力も失われてしまったようで、どちらもだらしなく重力のまま、怠惰に垂れる。そのうちにタベルナを激しく責め苛んでいた肉襞のきつい締め付けも緩み、残るのは媚びだけ。怠惰に彼女に縋りつき、行かないでくれとねだるのみ。
「あぅ……お、ほ……ぉ」
「目は覚めましたか、猊下」
 だらしない面を晒す大司教にタベルナは問う。そろそろ降参して悔い改めれば、大司教が立てていた当初の予定に乗ってやろうと思っていた。つまり大司教に抱かれたって構わないと。だがこういう時に負けを認めないのがこの男なのだ。
 大司教は背中越しにタベルナをかえり見た。
「く、う、そんなわけ、あるか。手で抜かれたせいでもっと眠たくなって、きたんだよ。そんな、そんな力任せで荒削りなやり方じゃあ……先に根を上げるのはお前の方だろう、な」
 ふうふうと荒い息を吐きながらも強気な笑みを浮かべる。だが口角は震えて、眉根も悩ましげに潜められていた。
「もう、いつもそうなんですから」
 タベルナの中では猛りよりも呆れの方が勝ってはいたが、本人が本人でチャンスを不意にしたものを今更どうしようもない。変に勝ち負けに固執するのもここまでくると考え物だ。いや、どちらかというと素直に負けを認められないと言った方がいいかもしれない。
 相手がこう頑なならこちらだって情けは無用というわけだ。負けましたと言うまで、いや、言わせるまで責めの手を緩めてはいけない。でないと多分こちらが流されてしまう。
 タベルナは大司教の片足を抱き上げ、横から激しく腰をぶつけ始める。
「おっ、い、それは……っ! あ! ああ! ぐあぁ!」
 丸太のような脚に両腕を回して胸の前で抱え込み、腰を突き込む。
「早く、起きて、くださいっ」
「んお、お、ほおぉ、まだ、だ。眠くて眠くて、あくびが、でる」
 と、本人談であるが、下の口はあくびに広がるどころか覚醒しきってタベルナにしゃぶりついてくる。
「もう!」
 うそばっかり!
 タベルナは大司教の強がりのせいで益々いきり立つ肉槍で眠れる襞の一つ一つを目覚めさせにかかる。先端で押し広げながら突き、竿で押し潰し、擦り抜く。
「緩くなるから、ん、もう、っやめろよ、おおお! お前のは無駄に、でかいんだから!」
 埒をあけたばかりで責め立てられるのは辛いのだろう。肉穴は一擦りごとにわなないて怯えているようだ。堂々とした巨大な腰もタベルナの攻撃に合わせて踊り狂い、抱えた脚は釣り上げたばかりの鮭のように腕の中でびちびちと暴れる。
 だが嫌がっているようには感じられなかった。
「ゆるくてもいいです、すきですから!」
 本心ではあったが、自分でも程度の低い言葉だと思う。
「それにお尻はわたしとだけだし、ゆるくても誰も困りませんよねっ」
「は……あ、お前専用、みたいに……言うんじゃねえ、よ!」
「ええっ、つまり他の人ともしてるんですか! お尻で!? ひどい!」
 涙目で非難しながらも、タベルナは勢いを抑えず大司教を求める。
やっぱり愛人が沢山いるんだ! それも男の! じゃあ寝取ってやる……とまでは言わないが、自分が一番善いと言わせたい。向上心はそれなりにある。じゃなきゃ料理人なんてやってない。それも、大司教の。
 タベルナは肉穴に自分を覚え込ませるように、柔軟にそれでいて執拗に責め立てる。緩急つけた腰遣いで、待ち受けている時には行かず、油断している時には激しく凌辱する。
 そんな事をしていると、寧ろこうやって大司教の身体を使っていやらしい事を覚えてしまっているのは自分の方なのでは、と疑問に思わなくもなかった。
「ひどい……」
 こんなに大司教に弱い自分が最低で酷い。