大司教のいとも絢爛なる霊感 - 4/6

「ご、ごめんなさい、わたし何も、知らなくて……」
 タベルナは蕩けた切なげな顔で大司教を見つめ返す。
「あの、今抜きますから」
 ぼーっとした顔でタベルナは腰をぐっと退き、慣れていない媚肉をまた一気に擦りこむ。
「ま、待てまだ抜く……なああああっ!」
 腰ごと持っていかれそうな強烈な快感に大司教が叫ぶ。
「んあふ、ご、ごめんなさい、抜かなくていいんですね」
 絡みつく肉壺に感じまくっていたタベルナはまた一気に腰を戻す。
「だっ、だからまだっ、動くなああはああぁっ……!」
 大司教は喉を晒してだらしなく緩んだ顔を手すりから乗り出した。突き出した舌から唾液の塊が垂れ、遥か下方に滴った。
「あ、あ、どうしたら、いいんですか、わたし……」
 タベルナも息も絶え絶え大司教に聞く。
「はぁっ、くあ、だから動くなばか……っ。コントじゃないんだコントじゃ!」
「はい、わたしばかです。ごめんなさい」
 タベルナは大司教の広い背にくたっともたれ、ふえ、と熱に浮かされた情けない声を上げた。顔は湯気が出そうなほど真っ赤だ。
「うっ、んん、ま、いい。今回は、な」
 珍しく寛大な、そして照れた声色をタベルナに投げつけると大司教は前を向いた。
「はい」
 タベルナは仔猫のように大司教の背に熱っぽい顔を擦りつける。心なしかおしゃれな匂いがして、やはり自分とは違う所の人なのだと知る。
「すきですオクタビウスさま、すきです」
 名前を呼ばれて愛を囁かれた事に感じ入ったのか、大司教の内部が卑猥に脈動する。まるでタベルナを誘うように。
「あっ、んっ、動いてもいいんですか?」
「いやまだ」
 お互いの熱を交換し、寒空の下でもうっすらと汗ばんでくる。
「ん、でも、猊下が変に締め付けてくるからもう出ちゃいます……けど……」
「少しくらい我慢しろ、この早漏娘」
「んー……」
 タベルナは大司教の温かな背の上で劣情を炙られながらも、言いつけ通りお互いが馴染むのを待った。けれど大司教の締め付けはまだ強固で、タベルナの細い腰は砕けそうになってしまう。
 肉体的に愛を交わす事がこんなに善いとは知らなかった。それとも、単に大司教の身体が善いだけなのだろうか……。タベルナは妙に淫らになった自分の考えを慌てて追い払った。そうでもしなければすぐにでも遂情してしまいそうだったからだ。
「ん、ふぅ、いい子だな……」
 大司教は従順なタベルナに満足したようで、蕩けた顔で深く息を吐いた。背が波のように大きくうねり、肺に溜まった空気を低い声と共に押し出す。その声の厭らしい事といったらない。タベルナには十分な毒だった。
「あ、でも、やっぱり、だめ……です」
「お、おいっ、何が駄目なんだ何が!」
 大司教は叫んだ。
「大司教様がいけないんですっ」
 タベルナは腰を奮い立たせ、律動を始めた。
 ぐちゅっ、こちゅっ、ぱちゅっ。
「や、やめろっ、いっ、ぐお、おおっ!?」
「あ、や、猊下、んあ……!」
 大司教の肉壺は引き抜こうとすると離すまいと止めにかかり、しかし挿入しようとするとそれを阻みにかかる。
「やだ、やああ、ちからぬいてぇっ」
 入口はきつく、奥では優しく絡みついてくるというあまりの善さに、タベルナは涙を流して大司教の背に涎を垂らしながら懇願する。その快感に、腰は暴れて止まらない。
「お、お断りだ。んっぐ、ぶ、無様に泣きながらっ、さっさとイけっ!」
 大司教は努めて顔を笑いの形にし、余裕であるかのように見せつけた。
 悪態をついてはいるが、自分で狭めたその中をタベルナの逞しい物で無理矢理こじ開けられ、その甘美な痛みを激しく叩き込まれると変な声が出てしまう。つまりタベルナの責めは実に善いものだった。できれば自分でも腰を振って淫らに喘ぎたかった。しかしそんな事負けず嫌いの彼には出来ない事なのだ。
「あああ、ぐあ、んお」
 大司教は低く鳴いた。
 己の肉壺を狭めてタベルナを打ち負かそうとすると、彼自身をも追い込まれる。拒んでいるのに突き進んでくる様に、征服されているような背徳の悦びを感じるのだ。まさに諸刃の剣というわけだった。
「あっ、ああん、猊下、わたし出ちゃいます、猊下、げーかぁ……っ!」
「んいっ、いいから、出すならはやくしろっ!」
 タベルナが手すりに縋りつく大司教の手に自身の手を乗せる。そしてその背に密着すると、腰の動きを早めた。
 ぱちゅっ、ぱん、じゅぷっ、ぱんっ!
「あっ、ふああ、やあ――」
 最後にぐいっと腰を奥まで突き入れると、タベルナは淫靡に震える肉壺に精液を吹きつけた。その瞬間、大司教を愛おしいという気持ちが爆発して頭を真っ白にさせた。
「くおっ、タベルナっ――」
 大司教も絶頂の渦に巻き込まれかけるが、自尊心と生来の負けず嫌いがそれを阻んだ。
 大司教の凝り固まった怒張は法衣の中で絶頂寸前の快感に腹筋にべちべちと反り返って打ち当っただけで、精液の代わりに先走りを垂らしただけだった。
「んんっふ、ふお、おぉ、ん……」
「あ、れ……猊下、終われなかったんですね」
 タベルナは未だに耐えるような息をつき、唇を引き結んで眉を苦しそうに顰めている大司教に訊ねた。
「……うるさいよこの早漏」
「オクタビウスさまが早くいけとおっしゃったんです」
 タベルナが突然ずるりと萎えた肉棒を抜き去った。
 すっかり油断し、予期していなかった快感に大司教が喘ぐ。
「んあがっ!?」
 そして腰を高く掲げ、内股で震えながら法衣の中にどぷどぷと精液を放出した。力んだせいで、暗い音を立てて肉穴からタベルナの白濁が溢れて太腿をとろりと伝う。
「ふ……、うあ、ぁ」
 出し切った大司教はぐったりと手すりに身体を預けて荒く事後の息を吐く。ひくひくと疲労と後快楽に痙攣する尻からは、いまだに白濁が湧き出ている。
「んおぉ、あはあ、あ……」
 息とともに吐き出される喘ぎは低く濡れて艶やかで、タベルナの劣情を誘う。
「えっ」
 一部始終を見ていたタベルナは大司教のあまりの痴態に赤面し、きゃー、と遅ればせながら顔を覆った。
「おまえ……お前今頃顔を覆っても遅いよ! 全部見たくせに! 変態変態! ばーかばーか!」
 大司教は羞恥に顔を紅潮させながらタベルナを詰った。
「ご、ごめんなさい」
 しおらしく謝りつつも、タベルナはまた背後から大司教の身体を抱く。
 大司教の尻にまたすっかり元気を取り戻したタベルナの肉棒が触れた。
「うぐっ、お前……っ」
「猊下の恥ずかしい所を見ていたらわたしまた……」
 耳下で上ずった声で囁かれ、大司教の熱がまた上がり始める。もう初冬で風も乾いて鐘楼は肌寒いというのにだ。
「余も罪作りであるな」
 大司教の表情と声色に先を促す調子がある事に気付き、タベルナはまた大司教に挑みかかった。

「んん、んー……」
 鐘楼の石の床に横たわった大司教が、切なげに眉根を寄せながら喘ぐ。表情は快感に蕩けて、緩慢に震える腰と怒張がいやらしい。時折舌で唇をなぞる動きも実に扇情的だ。脱ぎ捨てられた法衣が大きな身体の下で捩れ、まるで食卓のゲヘナフレイムに見えた。
 そんな大司教の姿はすべてをタベルナに任せきって捧げているかのようで、彼女はどぎまぎしてしまう。
「もっと優しくしろ! 傷ついたらどうする、あともっと奥だよ!」もっとも、据え膳状態なのは姿だけで、「入口ばっかり弄られても、ああまったくよくない!」大司教はタベルナの行為に容赦なく悪態をついてくる。
「うう、すみません……」
 タベルナは大司教の肉穴を指で慣らしながら、これってどんなプレイなの、と内心溜息をついた。ズボンの下で性器は萎えまくって、この先ちゃんとできるだろうか、と一抹の不安を覚える。もし出来ないとなったら大司教はきっと……。タベルナはもう一度溜息をついた。心の中で。
 確かに、至らぬ点があれば指摘を、と言って始めたのは自分だ。大司教にはよくなってもらいたかったし、タベルナ自身も彼の心地よい場所を知りたかったのだ。
「はっ……下手糞」
 しかしここまで貶されるのはどうかと思うのである。思いやりがなさすぎる。まあいつもの事なのだが。
「えっと、厭ならやめますけれど、猊下」
 タベルナはおずおずと大司教の顔色を窺いながらそう申し出た。もしやめると言ってくれたなら、もしそれが激昂しながらだとしてもこれ程有難い事はなかった。このまま行為を続けてタベルナが使い物にならない事がばれたら、きっと先程以上の罵倒が待っているに違いないからだ。
「お前は料理を教わったときも、檄を飛ばされる度にそう答えたのか」
 しかし大司教は厭味っぽく眉を跳ね上げてそう返してきた。
「ええっ、でも、それとこれとは違いますし……」
「何が違うんだ!」
 大司教は身体を起こし、引き抜かれそうになったタベルナの細い手首を掴んだ。
「料理もこれも、余に奉仕するための物だろうが。違うか、んん?」
「ち、違いますっ!」タベルナは顔を真っ赤にさせてかぶりを振った。「りょ、料理は猊下以外の方にも饗しますもの」
 それを言ってからタベルナはしまった、と冷や汗を垂らした。相対する男の表情が凄味を帯びた事に気付いたからだ。
「お前は余の料理人だろうが! なら余の言う通りにしていればいいんだよ!」
 大司教はタベルナに対面して膝立ちになり、自身の肉穴に伸びているタベルナの手に己の手を添えて奥へ押し込んだ。
「くっ、う……ここだっ! ここ!」
 タベルナの手に大司教の秘められた性感が触れる。
「ああっ」
 その存外柔らかく頼りなげな感触に、タベルナは溜息のような驚きの声を上げ、思わず指を震わせる。
「くお、んんっ」
 大司教は喉を反らせて悶えながらも、空いた手でタベルナの無沙汰な方の手を掴み、それを自身の怒張に絡めた。そしてタベルナの手に手を重ね、己を扱いた。
「やっ、猊下、そんな……」
 タベルナの手に大司教のそれが擦れ、まざまざとその逞しさを伝える。隆起した血管や筋は雄々しく滾り、彼女の柔らかな掌を焼く。
 大司教の後ろに埋められたタベルナの指は、大司教が腰を躍らせるせいで彼の快感の膨らみを嫌が応もなく擦り上げてしまう。温かなはらわたの肉も貪欲にタベルナの指を飲み込み、離すまいと締め上げてくる。