生贄の羊 - 3/5

「ん、は……ぁ、も、やめ……ろ、くっつかれたら、動けね、だろーが」
 拒絶の言葉を吐く割に身体は甘えたように女に縋りつき、腰の動きは緩く浅く媚びてしまう。苛烈だった表情も蕩けて、眉尻は下がって視線は茫洋を彷徨う。自然と開いた唇からは乱れた息が漏れる度に舌先が外気を舐める。
 下腹部を撫でていた手が肉棒に絡む。吐き出されていた精と絡まってぬめぬめと蠢く手。直接触れられると流石に堪らない。腰骨が甘ったるく痺れてもどかしく、どうにも淫らに揺れる。その媚びた腰遣いたるや、商売女にでもなったかのような気分だ。そうなると深くまでラムを受け入れた臓物までもが滾ってくる。
「お……ぉッ、はぁッ、んぉ、だから触んなって……」
 そんなエフの哀願など当然のように無視されて、竿を握って扱かれ、もう片方の掌で先端を包み込んで擦られる。尻を荒らす暴虐と相まって怖気に似た快感が背筋を登ってくる。
 ゆったりと、時に追い上げるような扱いは随分と堂に入っている。こんなに手慣れて、一体どこのどいつとこんな事、と一瞬脳の血管が沸き上がってブチ切れそうになるが、どうせ自慰して慣れただけだろうと無理矢理納得させる。
「ああ、勃ってきましたね。確かに私が謝る必要ないくらい大きいです。こんなもの女の人の中に出し入れするなんて暴力じゃないですか?」
「ん゛ッ……そ、かも……なぁ……」
 自分の中を荒らし回るそれを思えば確かに暴行じみている。双方合意の上での暴力だ。そう考えるとひどく特殊な行為のような気もしてくる。
「殺すとか、こんな極端な事をする前に、一言行くなと言ってみようとは少しも思わなかったんですか」
 ラムの指がエフの腰をじんわりと撫でる。彼女の指先は筋の渓谷にぴたりと沿って流れる水のように這う。先程からの男の性感を高めるような妙に官能的な仕草に愛撫は、いつもの冷淡で不感症気味な様子からするとあまりにもらしくない。
「ん、で……そしたらお前はそれに従うってのか……?」そんなわけもなかろう、と自嘲に歪む唇に柔らかな指が触れる。そんな顔をするなとでも言うかのように。
「ええ、まあ、あなたがそう言うなら」常ならば光のない目がエフの深くを覗き込んで少しだけ濡れたように輝く。「合理的な理由があるんでしょうから」そして何故か困ったように眉尻を下げて伏し目がちに微笑む。ひどく奇麗に見えた。いつぞや誰かに抱かれて見た教会の天井画のように。男とも女ともつかない容姿で猛禽の翼を背負った天の使いが描かれたそれ。
 今夜はどうかしている。お互いに。エフはそう感じた。肌を重ねるだけでこんなにおかしくなるものだろうか。己というものを失ってしまう事があるだろうか。
 エフは視線を逸らして吐き捨てる。
「そんなもんはねえよ」
「ではお金のためですね。お金は大事です。触ると手が汚れますけどね」ラムは再び、いつも通りの何を考えているのか分からない、死んだような顔に戻る。エフはほんの刹那見せてきたあの表情の意味を知りたいと切望してしまう。
 エフはラムに覆い被さるように密着して窮屈な状態で腰を振りたくる。早く先に達してくれないとこちらが保たない。自分が自分でなくなる。男か女かよく分からない頭おかしい異世界人に絆される狂った人間になってしまう。
「これ以上俺みてェなオッサンをその気にさせて惑わせんじゃあねえぜ」
 はあはあと、荒い息の隙間にどうにかこうにか言葉を捩じ込む。
「そんな事してません」かさついた言葉と潤った指先がエフの肌身を撫でる。「認知の歪みでは」
「どうしようもねえな……」
 気がないというのなら、こうして毎度都合無視でふらりとやって来る素性のよくない男を気安く迎え入れるなと言いたい。食べさせる飯も使わせる風呂もないと拒絶するべきだ。前線で文字通り散った身体を拾い集めて大枚叩いて蘇生して、そして心身共に蘇生の後遺症が治まるまで付きっきりで看護なんてして欲しくなかった。
 そうまでされて体よく利用してやっていると思える程、利己的で合理的な性格ではない。
「好きになる以外にねえだろうよぉ……」
「あなたが逗留している宿屋の主人の事ですか。確かに彼女は艶っぽくて魅力的です。ああいう風になりたいものですね」
「他の女の話はするな! てめえ以外に誰がいる!」
「ああ、はあ、ここには私以外いません」
 異世界人まるで話通じねえ。頭おかしい。エフは絶望する。
「ああ、つまり、いまは私の事だけ考えてくれるという意味ですか。嬉しいです。たとえ今だけでも。私あなたのこと好きなので」
 突然の思いもよらない言葉にエフは目を剥き間の抜けた声を上げる。
「えァ、はぁー……ッ?」
 ぞくりと神経が爪弾かれて痙攣する。肉粘膜が切なく狭まり腰が甘く痺れる。好きというのが皮肉などでなく言葉通りの意味ならば、これほど情緒に訴え揺さぶってくる言葉はない。
「お゛……んん、やば、なんっ……で、こんな……」
 背筋を迸った肉悦が脳天を貫き、肉棒が反り返って腹を打つ。性器の裏側を抉るような刺激が突然立ち現れたせいだった。
「気持ちいい所わかったみたいですね」前立腺に当たってます、とラム。
 腰を動かす度にラムの屹立がそれを磨り潰してゆく。挿入時には張り出した亀頭に押し上げられ、引き抜く時には道連れにするかのように引き摺り回される。肥えた竿には磨り潰され、圧迫される。暴虐に晒され、弱々しいその場所は常に惨めにひくつくしかない。
「おォ゛ッ、んぉ、ふーッ、中、おかしく……ッ、っはぁ、ァー……」
 先程までの苦痛はもはや性感帯を直に刺激される快感に流され、あるいは置き換わり、肉粘膜は雄竿に馴染みきって求めていた。
 身の外側も内側も強請るようにラムに縋りつき、快感の糸口を探りながら貪欲に腰を振る。肌に愉悦による珠の汗が浮かび、肉の鬩ぎ合う渓谷をとろりと流れ落ちる。
「力強いのがこんなに淫らに見える時があるなんて、不思議ですよね」
 熱っぽくなったエフとは対照的に落ち着き払った抑揚で宣うラム。またそれが酷くエフの羞恥を煽って欲となる。
「てめえばっかり余裕の顔、しやがってよ……」
「余裕ではないですよ。好きな人のご奉仕を受けているんですから。ただそういう時、どういう反応をしたらいいかまだ知らないだけで」
 腰を上げ、打ち下ろす瞬間、下から迎えるように叩きつけられる腰。自分で動くことによってある程度、僅かながら抑制できていた官能が乱され噴き上がり脳天を打つ。
「お゛ぅッ——!?」
 唐突に深くを穿たれ視界が明滅する。気を張って堪えるには遅すぎて、相対する半陰陽の痩せた胸元に噴き上がる白濁。刃傷による乾きかけた血の赤を淫らに縁取る。
 汚い、と謗られるかと思ったが、ラムは興味なさそうに自身の胸を見下ろすだけだ。そんな目をされるくらいなら詰られる方がマシだった。
「はッ、ぉあ、くそ……っ」
 尾を引く快感に震える肉粘膜は未だ硬くそそり立ったまま自身を貫く怒張を噛み締める。閉じ合えない肉襞が痙攣してそれがまた新たな後快楽を生む。
「この遅漏が……!」
「あなたが早すぎるんでは」
 下から掻き混ぜるようにゆるりと腰を振られ、弱々しい部位が甘く圧迫されて再び軽い絶頂が脳を焼く。萎え切っている性器から、とろとろと覇気のない精液が溢れる。ぶるりと震える巨躯。
「む゛、ぅ……」
 じんわりとした愉悦の頂に押し上げられたまま帰ってこられないエフに追い討ちをかけるように、ラムは自身の胸元を指して心ない言葉をかける。
「綺麗にしてもらえますか」しかし彼女は胸におずおずと伸ばされたエフの指に自身の指を絡ませて封じる。それは甘やかな恋人同士の交歓のためではなく「舌で」辱めるためなのだった。
「信じらんねぇよお前、最低だな……」
 そんな言葉とは裏腹に熱に浮かされた身体は従順に女の指示に従ってしまう。大柄な身を窮屈に丸めて滑らかな胸元に唇を寄せる。
「こういう時は言う事聞くんですね。じゃあ髭も剃ってもらえますか」
 調子に乗るんじゃあねえよ、と悪態を吐く代わりに上目遣いに睨みつけて滑らかな肌に舌をくっつける。当たり前だが己の排泄物はあまり趣味のいい味ではなく、勝手に顰めつらしい顔になる。
「良い子ですね」
 頭を撫でられ、灰色の硬い髪を細い指が梳く。子供と同じ扱いをされるとは随分見縊られたものだ。
 舌をべたりと肌に張り付けたまま精液の味を追い、手負いの獣のように荒い息を吐く。目の奥がじわりと熱くなる。なんとか穢れをすべて絡めとった舌を口内に押し戻し、無理矢理嚥下する。
 白い指が蠕動する喉に伸びて、愛玩動物にそうするように下から上へと指の背で撫で上げられる。エフは心地よさに目を細め、顎を上げていやましに野生味溢れる肉体の急所を晒してしまう。
 ラムがエフに対して脅威を感じないのと同様に、エフもまたラムが自分を無意味に害する事はないとわかっている。信頼や情愛というとよく言い過ぎだが、なんらかの情緒的な結びつきがあると信じたくなる。
 精神に引っ張られるように身体もまたラムを求める。肉環は吸い付き嫋やかに搾り取る動きで硬い怒張を慰め、その先を浅ましく強請る。即ち絶頂に至る刺激と相手の絶頂の証を。
 エフは譫言のように半陰陽の名を執拗に呼びながら腰を振って肉悦を極めてゆく。
「名前、そう熱っぽく気持ち良さそうに呼ばれると悪い気はしませんね」そしてラムもまた、傭兵の耳朶に彼の名を一つ吹き込み口付ける。
 男の神経の一本一本が愉悦に震えて、溶けかけた脳は押せば潰れる熟した果実のごとく。
「んお゛ッ、い゛……ふぅ、ん……」
 吐息も肉体も腑抜けて蕩けたところで腰を掴まれて引き寄せるように中を穿たれる。肉環をこじ開けられ、前立腺を筋張った竿で磨り潰されて、間伸びした息が鋭く飲み込まれて晒した喉の奥で凝る。
「う、ぁ……あ゛ー……ぁ」
 もはや射精を伴わない絶頂が腰を痺れさせる。その行き過ぎた心地に体勢を保つ事ができず、エフはラムを抱きしめたまま卓に倒れ込んだ。
 重い、と心底嫌そうな声が耳元でするが、それすらも心地よく呆けた声が漏れる。
「あなたばかり絶頂しては意味ないのでは」
 もはや売り言葉を買うだけの余裕も、体勢を立て直す余力もなく、持てる力すべてを腰を動かすそれに充てる。
 上半身は押し倒したラムに甘えたままに、尻だけを浅ましく上下に振りたくる姿はさぞ無様だろうと微かな理性の残滓で感じるが、だからといって他に手立てはない。
 尻を犯させる卑猥な音とエフの荒れた吐息が室内に響く。
 果敢に蠕く傭兵は汗みずくだが、下敷きの半陰陽には一雫の汗すらない。それどころか物体か死体のように冷たい。筋肉も脂肪もなく微動だにしないせいとは分かっているが、互いに共有できる疲労と熱すらないのだと思うと酷く切ない。好き合っている筈なのに何もかもが違いすぎてまったく分かり合える気がしない。
 刀身に掻かれて柔肌に浮き出た薄桃は既に失せて、胸元の血の赤は色褪せ乾き、あの刹那の熱狂はまるで夢か幻だったかのようだ。若さ故の治癒力の高さは、もはやそれを喪失し、古傷の一つ一つに心覚があるようなエフに分厚い隔絶を突きつける。
 薄桃の腫れや生々しい血の色がそうなってしまったように、きっと三日と会わねば辺鄙な村で出会った傭兵の記憶など色褪せ乾いて剥がれ落ちてしまうだろう。前途にはありとあらゆる愉しみと苦難ひしめく若者故に。
 そう思うと甚みに押し潰されそうになる。しかしエフにはラムの肌身に忘れ得ぬ深い傷をつける事など能わない。彼は彼自身や周りが思うほど下劣でも弱くもなかった。
 男は女の滑らかな肩口に顔を埋め、その清廉な肌と香りをせめてもの慰めにする以外はなかった。
 腰を沈める毎に絶頂に飛びかける頭と身体、弱々しい精神を奮い立たせるために、吐息に任せて、畜生、くそが、と意味なく汚穢に満ちた言葉を吐き散らかす。
 そうして生温い息をラムの首筋にかけながら行為に耽溺していると、頬に手を添えられて顔を横に向かされる。快楽と寂寞に潤んだ視線と死んだように暗いそれがかち合って、交錯する。
「Fワードはやめてくださいね」教育に悪いので、と唇が相手のそれで塞がれて、意味のない言葉が吸い上げられる。
「ふ……っ、う、む……」
 酷薄そうな印象を与えるエフの薄い唇が執拗に喰まれて、舌でなぞられる。そうして緩んだ唇から舌が忍びこみ歯の窪みの一つ一つ、口蓋を丹念に舐めてくる。エフのすべてを検め慰めるような接吻であった。
 粘膜が触れ合うと年甲斐もなく青臭い高揚が身に迫り、喉を鳴らして飲み込む唾液は通り道を焼き払いながら臓腑へ流れ落ちてゆく。
 行為それ自体は穏やかで愛おしむようなのに、エフの感じ方はひどく乱れたものだった。
「俺はっ、不潔……なんじゃねえのかよ……」
 接吻の合間に、みだりがましい息を吐きながら言う。
「私が清浄に拘るのは私自身が不浄の者だからです。豚が豚に惹かれるように、不潔は不潔に惹かれるのでは。そして、あなたは汚いけれど綺麗です」
 はァ? 意味わからん、と言いたいが呂律は回らず、あやふやなエフの声は再び接吻に包まれて飲み込まれる。
 清い口内に舌を導かれ、上の前歯と下唇で挟まれて軽く噛まれる。こりこりと筋肉組織が揉まれて骨の髄まで快感が迸る。閉じた瞼の裏で火花が散る。
 喰われている、と思った。
「ふうぅ、ン、む……ッ」
 硬く太い屹立を咥え込んだ腑がより深く強くそれに縋り、全身が鋭く痙攣して絶頂を示す。舌を捕らえられ唇を吸われたまま登り詰めるのは脳が茹だって痺れんばかりの愉悦があった。
「射精しないで至れるようになったんですか。あなた本当に器用な人ですね」
 言われてやっと、頂きに至っても吐精がなかった事に気付き、雌に堕ちた己に絶望と、そして悦びを覚える。もはや性器となった臓腑が雄の象徴に媚びて蠢く。
「う、あっ……あぁ……」蕩けた声が再びの軽微な絶頂を相手に知らしめる。
「また絶頂を。私を使って自慰をしているみたいですね」
 エフは唸り声をあげて首を横に振りそれを否定するが、自分だけが享楽を極めている状態であるのもまた事実だった。
「違うというのなら」今度は私が上になりますから、という間延びした声が耳殻をどろりと撫でて、エフは暗い期待に身を震わせた。

 管理の手が入らなくなった暖炉の炎はいつの間にか消えて、しかしそれでも卓に焼け付くように身体は熱く汗がしとどに流れ落ちる。頭の中はひりついて、まともな考えは浮かばず、そして何かを考える必要もない。
 エフは俯せの状態で卓に膝をつき、肩から先はだらりと投げ出して、尻だけを高く掲げた格好で後ろからのきつい肛虐の憂き目に身も心も委ねていた。
「お゛……ん゛うぅ、あ゛ー……」
 もはや苦痛はない。ただ蕩けるような肉悦だけ。茹だる熱に浮かされて、低く這うような声が喉の奥からどろりと溶け出る。
 ラムはエフの背後から彼の肩を押さえつけ、体重を乗せた重たい打ち付けを果敢に見舞う。まるで肉食の獣が獲物に飛びついて喰らうがごとく。行為は荒々しいが吐息にも身体にも乱れはない。
 中に怒張を突き入れられる度に快感が脳天を突き抜けて汚れた嬌声が漏れる。
「あ゛ッ、ぉあ、っン゛……ん」
 大の男が出すにはあまりにも艶かしい。
「ひどい声ですね。子供達が起きてきたらどうするんですか。性行為を見せるのも虐待なんですよ」
「じゃ、やめりゃ、いいだろ……が」
「始めたのはあなたでしょう」
 仕置きとばかりに叩きつけるように肉環を広げて粘膜を擦り込まれ、力無く垂れた肉棒から薄くなった精液が滴る。掲げた腰の下には穢れた体液の溜まりが渦巻き凝っていた。
 こうなるまでに何度放出しただろう。数える事すらもはや忘れた。
「はぁ、んおぉー……」
 生ぬるい喘ぎを撒き散らしながらエフは絶頂と執拗に尾を引く快感に溺れる。神経という神経が官能的に爪弾かれて、勝手に身体が艶かしく蠢く。ひしめいては広がる背の筋肉を興味深げになぞる冷たい手。
 あなた案外マゾヒストなのでは、という呟きが項を撫でる。言葉の意味は分からないが、それが自分を謗っているという事だけはわかる。
 首を横に振って意を唱えてみるが、無抵抗で震える腰と浅ましい吐息ではあまり説得力はないだろう。
 埋められていた屹立がゆっくり焦らすように引き抜かれてゆく。
「んぉ、ぉおー……っ」
 膨張した先端でこそげ落とすようにねばっこく粘膜を擦られると、腹の奥で血潮が沸騰する。快楽そのものは激甚であるが、しかし何かが足りない気もした。閉じ合わさる粘膜が欠落したそれを求めて互いを貪欲に吸い合い、自分で生み出すその浅ましい動きさえ淫猥な肉悦をもたらしてくる。
 尻から抜け落ちるぎりぎりまで後退したラムの屹立を惜しむように肉色の腑が付き纏う。
「ああ、あなたの内臓が追い縋ってきますよ。好きなんですね」熱量の低いラムの声に、エフは地に目を落とし俯いたまま浅く頷く。「お尻を犯されるのが」いや、好きなのはそれではないのだが。本当に波長が合わない。
 精神的なそれは合わないが、肉体は徐々に絆されて媚態を示し始めていた。
「もっと奥、入りそうですよね」
 肩に乗っていた穏やかな重みがふと退いて、代わりに汗みずくの腰に食い込む十本の指。これから行われるであろう蛮行に期待と脅えが綯い交ぜになって身を吹き荒び、低俗な獣のように疾く浅い息が漏れる。
「乱暴にされるの好きなようだし」構いませんよね、と囁かれ、肯首する前に悲鳴とも言えない哀れっぽい声が漏れる。