ばん、ばん、ばん、と御者が最後の引導を渡すために大きく腰を打ち付けるように、ドゥーベ氏は腰を突き出し掌で肉棒全体を擦る。そして御者に突き入れられたイザドラの蜜壺のように、肉襞は無骨な指で凌辱され追い詰められる。
陰穴が掌を通してドゥーベ氏の陽根を締め付け、そして陽根が指越しに陰穴を抉る。
じわりと肉棒の先端に白いものが浮かび、腰が痙攣し、絶頂が脳も理性も焼きはらう。
「っほぉお、んっお、お゛、お――っ゛!」
指が肉壺の急所を穿ち、肉襞がきつく収縮し、指を、男根を締め付ける。
じょぷ、びじゅっ……。
汚い音を立てて精液が迸る。それはどぷどぷと透明なグラスに注がれ、まるで子宮を穢しているようにも感じられた。
放尿のような開放的な快感の後には寒気のような甘美なそれが背筋や腰を支配し、身体中に感電するかのように散ってゆく。
「うぁ、ん、んはあ、お、おぉっ……」
身体の内に押し寄せる連続的な快感はなかなか過ぎ去らず、絶頂に疲労した身体を責め苛む。
ドゥーベ氏は巨体をどさりと寝椅子に預け、後快楽を享受した。
「ん、あ……ふは、ぁ」
雄の快楽だけの時にはすぐに次の仕事に移れるというのに、それどころか性的な快感を得た事自体が汚らわしく非常にくだらない事のようにさえ感じてしまうというのに、雌の快楽を味わった後にはいつもこうだ。身体中が心地よい疲労に包まれて、まるでまどろみの中にいるかのよう。そして絶頂したばかりの肉体はより敏感になり、触れればもっと先の高みへ行けてしまう。
ドゥーベ氏の手がまたゆっくりと自分の身体に伸び、脳裏はイザドラの受難の続きを思い描く。
あまりの仕打ちに部屋の浴室で泣きくれていれば、そこにいつもよくしてくれる少し年上の女中がやって来て、イザドラを風呂に浸からせ、雄共に穢された身体をやさしく洗い流してくれるのだ。
水仕事のせいで荒れてはいるが、慈愛の感じられる手は小ぶりな胸や滑らかな腹、小さな引き締まった尻に泡を擦り込み、汚れを落としてくれるだろう。そして最後は穢れを一身に受け入れた蜜壺を……。
ドゥーベ氏の手が自身の感じやすい胸や腹を這う。それは徐々に股座へと降りて行き、指が肉壺に――
「まあ! あなたが頭痛のせいで心細くしてらっしゃると思って、わたくし気が気で無くて予定を早めてこの吹雪の中帰ってきましたのよ。なのにブリュノさん、あなたったら……あなたったらなんて不埒な人なの」
ドゥーベ氏の夢想は突然の帰還を果たした現実のイザドラに一気に打ち砕かれる。ついでにプライドも。
扉の方へ目をやれば、そこには呆れているような怒っているような表情のまま腕を組んで仁王立ちをするイザドラがいた。
「い、イザドラ、ちがう、これは違うんだ!」
全然違ってはいないのだが、人間は決定的な瞬間をおさえられると大抵こう口をついて出るものだ。ドゥーベ氏はやっと取り調べされる側の精神構造がわかった。違うと叫んでも状況の打破にはならないのだから、もっと理論的にましな事を言えばいいのに、そういう事も考え付かないから人の道に外れた事をするのだ。そうずっと思ってきたが、それは違うのだ。本当に違うのだ。
「何が違うのかしら。ご自分のそれを触りながらおしりに指を入れようとなさって。それって何かいやらしい事でしょう。この前わたくしに教えてくれようとした、自慰というものなのでしょ」
「ち、ちが……そうだ」
ドゥーベ氏は裸のまま唇を噛んで大人しく観念した。もう状況が味方でないなら無駄な抵抗はしないのが吉なのだ。とりあえず長年の経験はそう言っている。殊イザドラの前ではそうしておけと。
「頭が痛いというのはうそ?」
「いやそれは本当だ。痛い、すごく」
だからもう勘弁してくれという事を言外に含ませ、ドゥーベ氏はガウンと毛布をかぶる。
「なら治してあげる」
「いい、いらない! 寝れば治るから!」
こちらににじり寄ってくるイザドラをかわすように、ドゥーベ氏は寝椅子の上で身体を退く。その弾みで脚の間に置いてあったグラスが床に落ちた。幸い絨毯に包まれて割れるという事にはならなかったが、しかしイザドラの目をごまかす事は出来なかった。
「あなたお酒までお飲みになったの。頭が痛い時はいけませんとわたくしいつも言ってますのに。いけない人。その上なあに、空いたグラスをこんな事に使って」
グラスを目の高さに掲げ、その底でねっとり凝るドゥーベ氏の快感の残滓をまじまじと見つめるイザドラ。
「仕方ないだろう、受け止めるものが何もなかったんだ」
ドゥーベ氏はそんなイザドラの視線から逃れるかのように顔を下に傾げる。
「何を考えて弄っていらしたの」
外の冷気を放射するイザドラの真っ白い顔がドゥーベ氏の顔に近づく。紅茶の香りの漂う唇は艶めいて、今にもこちらに襲い掛かってきそうだった。
「聞かれて素直に言うと思っているのかね、そんな事」
「言わないなら言いたくなるようにするだけですのよ」
つまり自白するまで拷問するという事だろう。性的に。
自分の妄想を妻になど言いたくはなかったが、言って許してもらえるのなら……。
ドゥーベ氏はしぶしぶ口を開いた。
「それで、やっと宿を逃げ出して馬車に乗ったわたくしはどうなるの」
「はあ、んぉっ、不倫の口止めと称して御者にも犯されて……」
ドゥーベ氏は自分の野太い怒張を弄びながら妄想を執拗に吐露させられていた。寝椅子の上で立膝したドゥーベ氏の股間の真下にはグラスがあって、そこにはすでに半分ほどの高さまで生臭い欲望の残滓が溜まっていた。
イザドラ曰く、妄想の悪い気でできたお汁とやらを全部出してきれいな身体にならなければいけないらしい。本当は従いたくはないのだが、嫌がってイザドラに遠慮なしに滅茶苦茶にされるよりはましだとドゥーベ氏は判断したのだ。ああ、これ以上ない最良の賢い判断だった。今は自分にそう言い聞かせて……諦めるしかない。
「犯されて、それで? わたくしどう犯されるの」
「馬車の中で、座席に腹這いに倒されて、後ろから入れられて」さっきの妄想のハイライトを追想させられ、嫌が応にもまた昂ってくる。声色は低く艶を帯びて「子宮を貫かんほどに腰を打ち付けられて、ああ……ぁ、君は家の前で犯されている事に罪悪感を抱きながらそれすらも快感で、そんな淫らな自分に絶望しながら喘ぐんだ……」語尾は湿った吐息と消えた。
睾丸が緊張し、妄想の産物である悪しき種汁が怒張を登ってくる。ドゥーベ氏の手の動きが早まりかかるが、それをまだ頭の隅に引っかかっている理性で抑える。そんなに性急にしては腰の中が虚ろになって甚大な疲労が襲って来そうだった。それだけは避けたい。
「それで?」
「それで、それで……君の子宮は雄に従順な淫らな袋に成り下がって、精液を放出する御者の肉棒に吸い付いて絶頂を迎える」
「あら、わたくしってなんていやらしい子」
ドゥーベ氏が絶頂をやり過ごそうとしている事に気付いたのか、イザドラは含み笑いをこぼしながら彼の胸の突起を指でこりんと弾いた。
「んおぉっ!? お……あぅ、ああー……」
乳首責めという快感が唐突に加わり、絶頂への道のりを追い上げられる。
ドゥーベ氏は怒張を押し下げ、グラスの中にどぷどぷと精液を注いだ。びゅくんびゅくんと無駄に野太いだけの情けない肉が脈動して精液を零す動きに連動するように、尻たぶの奥に秘められた肉穴もまた慄く。
悍馬のような脚が震えて重たい腰は砕けそうだった。それだけ何度も絶頂していたのだ。
「御者に犯された後は、わたくし家に帰れるんですの? ちゃんと最後まで話してくださらなければやあよ。うそついて省略したってわかるんだから」
だというのにイザドラはまだ責めの手を緩めはしない。
「ふぅ……ん」
あまりの仕打ちにドゥーベ氏は鼻を鳴らしてむせび泣いた。これが自慰の代償なのか。それにしては酷過ぎる。なら年頃の少年達は何度こんな刑罰を受けなければならないのだろうか。
「その後君は女中に風呂場で身体を清めてもらいながら法悦を感じてしまう。再び女の手で、泡と共にまさぐられながら。雄共に穢された秘部を清める事にかこつけて、女中は君のそこをかき回す。ねっとりと。君は浴槽の泡にまみれて絶頂し、自由の利かない身体をいいだけ女中に弄ばれる。彼女の日頃の鬱憤が晴れるまで。ブラシの持ち手を挿入され、お湯を注がれ、ああ、これなら男の肉棒に犯されていた方がましだったと、君は同性同士ならではの無遠慮で暴力的な快感に泣き喘ぐしかない……っ、ひ、おおお、ん……」
どうにも女同士の交わりというものに弱いドゥーべ氏はそこまで言ってまた吐精した。肉体の精の蓄積はもう空に近く、放出した精液は勢いが緩い上に量も少なく、純白とは言い難かった。
「あっ……おぉ、お゛」
ドゥーベ氏は目をきつく閉じ、苦しげな息を吐く。腰の奥の虚脱感が激しく、それが最後の精液のように思われた。
「その続きは?」
そう問いかけて来るイザドラの表情は純粋だが、腹の中は不純そのものだ。
「も、もう、勘弁してくれ」
ドゥーベ氏は膝をついたまま汗の噴き出す上体をぐったりと寝椅子に伏せた。萎えて垂れ下がった肉棒は擦りすぎてひりひりと痛んだ。一方で肉穴は貫かれるのをまだかまだかと待ち受けるかのようにひくついている。
「まだ出るでしょう」
そう言い放つなりイザドラは疲労に喘ぐドゥーベ氏の穴に指を突っ込み、性器の裏側辺りをぎゅっと腹側に押しながら睾丸を締め付けた。
「ん゛おぅっ、ほひいいぃ……っ!?」
小さな手に押しつぶされ、喝を入れられた睾丸が竿に精液を押し出し、先端から精液が迸る。それは快感からの射精ではなくただの反射だった。
ドゥーベ氏は寝椅子の上にせくぐまったまま、過ぎたる暴虐に痙攣するのみ。
「妄想のわたくしで作りだしたえっちなお汁なんてこの世で一等いらないものよ。全部出してしまわなきゃ。さ、早くつづき」