留守番する彼 - 5/8

「つづき、つづきって……」いい加減にしないか、とイザドラの命令をはねつけようとしたドゥーベ氏の下腹部にイザドラの手が忍び寄る。従わなければもっと酷い目に遭わされるのは火を見るよりも明らかだった。「わかった言う! それで君はこれまでの淫らな暴虐を回想しながら自慰に耽るんだ! 自分の手で幼い性器を拙く弄り、か細い声で喘ぎながら、何度も絶頂する」
「今のあなたのように?」
「ああ、ああそうだよ! そして最後は私の手に堕ちる。いつも君が私にするように、私は君を無理矢理引き裂き、これまでの行いを詰り、ぬかるみに柱を突き立て子宮を直に犯し、使い物にならなくなった雄の性器を謗り、尻を引っ叩き、泣いても喚いても腰の動きを止めず、君の中の穢れをかき出し、代わりに自分のものをたっぷりと注ぎ込み、空が白むまで責め立て凌辱し続けるんだ!」
 最後は半ば自棄を起こして、咆哮するように叫ぶ。それに臆する事もなく、イザドラは唇を蠱惑的に歪めて笑む。
「なんだかそれって、あなたがいつも発禁処分にするだの何だの息巻いている小説のようよ。いいえ、それよりひどいかも」
「く、う、本当に小説にするよりかはましだと思うがね」
「それにしたってあなたの妄想、あまりにも変態的すぎるわ。妻が大勢の男に犯されて寝取られて、そして最後はあなたがねちねち虐めるなんて。そういう願望がおありなの? わたくしあなたの願いならなんでも叶えてあげたいと思ってはいるけれど、他人に不躾に身体を触られるのはやあよ」
「こんな最悪な妄想、ずっといけないと思っていた。思っていたが考えるのを止めるのは無理だ。それにこんな事考え始めたのは君とこうなってからだ!」
「わたくしが悪いとおっしゃるの。あなたに元からそういう素質があっただけよ」イザドラが寝椅子に乗り背後に迫る気配にドゥーベ氏の広い背が粟立つ。「わたくしのせいにするなんて。おしおきが必要だわ!」
 イザドラの声は嗜虐の悦びに葡萄弾のように弾け飛んだ。
 再びドゥーベ氏の身体の奥へとイザドラの指が無遠慮に潜り込む。いい場所で折り曲げられ、泣き所を二本の指でこれでもかという程押し潰される。
「ほひっ、おおおぉ、んっお゛、お゛お゛!」
 無理矢理射精させられ、ドゥーベ氏が四つ這いのまま背を仰け反らせて鳴き喚く。
 ドゥーベ氏の先端から滴ったそれはもはや申し分程度の量しかなかった。それは先走りとさほど変わらないくらいに薄く、あまり精液の体を成していないようであった。
 もう出がらしなのはどう見ても明らかであったが、それでもドゥーベ氏の中をまさぐるイザドラの指は容赦ない。
「もう出ない! も、出ないぃっ、ひいいぃ、おお゛っ」
 そう言いつつも、しかし性器の裏側を執拗に揉み潰されると射精感に肉棒が鎌首をもたげ、精髄もどきが塔を駆け昇ってくる。悲しき雄のさがである。そしてそれ以上に悲しいかな、そんな乱暴を肉壺は悦んでしまっている。何度もイザドラに雌として凌辱されたせいである。
「出ない出ないとおっしゃるけど、じゃあこれはなあに。あなたのいやらしいお肉、また石塔のように固くそそり立っていますのよ」
 悦びまくっている肉穴を指で掘り抜くのと同時に、イザドラはドゥーベ氏の睾丸と肉棒を一緒くたに弄り倒してくる。ほとんど空っぽな二つの入れ物をだらしなく弛みかかった皮ごと引っ張るかのように弄られると、腰の神経が引っこ抜かれるような暴力的な快感が骨の髄まで襲ってくる。ドゥーベ氏は自身の身体を支えるので精一杯だった。
「ほら、わたくしの手の中で暴れて、もう出そう」
 肉棒が牛の乳でも搾るかのように逆手に扱かれる。その中を遡ってくるのは……。
「も、おお、ちがう、射精じゃない、いいいっ!」
 放出したいと訴えるのは睾丸ではなく膀胱の方だった。これ以上刺激を受ければ子供のように小水を漏らしてしまうだろう。
「ゆ、許してくれ、謝るから……もう妄想して自慰はしないからあああ! いやだ漏らす……んぐ、出るうぅっ」
 ドゥーベ氏の身体が緊張に張りつめる。神経はすべて下腹部に集中し、堤防の決壊を押しとどめる。
 この力が途切れた時、自分の矜持は失われるのだ、とドゥーベ氏ははっきりと自覚していた。
「それでいいのよ、全部出して」
「んんっ、いやだ、あああぁあ゛っ……」
「もう、仕方ありませんわね」
 イザドラの指がドゥーベ氏から離れる。
 やっと諦めてくれたのか、とドゥーベ氏が安堵に油断した時だった。
「くひっ!?」
 ひんやりした指がドゥーベ氏の弾力に富んだ乳首を摘まみ、掌が陰毛の上から下腹に触れる。
 敏感な乳首をまるで性器のように無遠慮に扱き抜かれ、その快感が直に腰に響く。そして下腹が掌全体でずしりと押し込まれる。
その責めがドゥーベ氏の我慢をすべて崩し去った。
 腰が痙攣し、下腹に籠めた力がぶつんと途切れる。厳つい唇から肉厚な舌がだらりと垂れ、その先端からとろんと涎が垂れる。
「へぎっ、がっ……んほ、んお゛、ん゛……おお゛……っ」
 腹の奥で凝っていたものが堰を切って勢いよく肉棒を遡ってくる。こうなるともう押しとどめる事は不可能だ。
 つまり、とうとう漏らしてしまうのだ。
 迫りくるあんまりな結末にドゥーベ氏の理性が焼き切れる。瞳がぐるんと裏返り、喉と背が大きく反る。
「ほひぃ、んほ、おおっほ、んほぉ……っ」
 先端が破裂するような感触と共にそれが噴出する。ばちゃ、と音を立ててグラスの中の白濁に飛沫をあげて混ざり込むのは……。
「ほら、まだこんなに出るのにブリュノさんたら出し惜しみして」
 それは果たして小水ではなく正真正銘最後の精髄であったが、理性の瓦解しているドゥーベ氏にはもうそんな事知る由もない。
 それにその快感は実に排尿に似ていたのだ。
 通り道が熱いマグマにでも荒らされているような感覚、そして先端を洗うように流れ落ちる粘性の少ない液体。それよりなにより老廃物が体内から押し出されていくような爽快感。
「おんっ、おお、んお、おおほ……」
ドゥーベ氏はだらしなく口を開け、舌をだらりと外に突き出し、その先端から垂涎しながら低く喘いだ。顔は涙や鼻水でみっともなく彩られていた。
 すべての放出が終わると腰を虚無感が襲う。ばちゃ、と萎えた肉棒がグラスに堕ちる。
 最後の一滴まで絞り出されてしまったのだ。
「これで終わりですのね、きっと。はあ、よかったわ、これでブリュノさんがきれいになった」
 座椅子に沈んだドゥーベ氏の先端にイザドラの唇が落とされた。ふんわりとした唇が逝き過ぎて敏感になった亀頭に優しく触れ、尿道に残った手淫汁がちゅう、と吸われる。
「お゛ぉ……お゛」
 いつもなら暴れんばかりの快感だというのにぼんやりした身体はあまり反応を返してやることが叶わない。緩み切った腰が幽かに震え、くぐもった喘ぎを漏らすに留まる。
「やっぱり、悪い妄想でできたお汁は変な味よ」
 真っ白な喉を反らして残滓を飲み込んだイザドラは訳知り顔でそう言うと、ドゥーベ氏の巨躯の上に横たわり唇を重ねてくる。
 そして清廉な舌に残る雄の穢れを無理矢理口に押し込まれ、塗り付けられる。
「ほおらね。へんなあじ」
 でしょう、と同意を求めるような表情でイザドラは首を傾げて微笑みかけてくる。だが自分自身の味なんて知っている訳がない。そこまで変態ではない。
 ドゥーべ氏は妻に向かってそう訴えたかったが、身体の末端まで疲労に喘いで言う事を聞かないのだ。であれば末端も末端の唇はそれ以上に使えないだろう。いつもなら地獄の窯から漏れるような、誰も彼も震え上がらせる音を響かせるそこは、今は役立たずに情けない息を漏らすのみ。
「うふ。なんだかいやらしい。酔いと羞恥と愉悦にその大きなお身体すべてが征服されて、ほんのり赤らんで、震えて、のたうって、とってもお淫らよ」
 そう言いながらイザドラはドゥーべ氏の腹を跨いで膝立ちになると己のドレスの裾をたくし上げる。まずは絹光する靴下に包まれたほっそりした太腿が現れ、次に意味深な黒い百合の図案が織り込まれた靴下留め、そして……。
「みて、わたくしのおちんちん、こんなになってしまったの」
 イザドラは見せつけるように脚の間の勃起を扱く。どこの遊び人の魔羅だ、と問い詰めたくなる程にそれは醜悪だった。黒光りし、太い筋がまるで黒雲を切り裂くいかづちのように奔り、重々しい。
 天に向かってそそり立つ魔羅は鎌首をもたげる蛇などという形容では生易しい。海で千人、山で千人の女を犯し尽くした蛇だ。すなわちそれは淫らな背徳で創られた龍。それほどまでに逞しく、雄々しい。
 一方でその呪われた柱を中心に抱く身体は実に処女的で美しい。夜空に浮かび上がる月のように白く、のびやかで清廉なのだ。そして未だに熟さず、どこか少年のようでもある。
 なんと醜く美しい身体だろう。
「ブリュノさんを見ていたら昂ってしまったの。あなたのせいよ。あなたがいやらしいから」
「違うだろう、君が……君自身が淫乱だから私のような者にさえ昂ぶりを覚えるんだ」
 イザドラは細く薄い腰を反らし、しどけなく横たわる夫を糾弾する。
「嗚呼、いつも何でもわたくしのせいにして!」
 小さな手にむちむちと身体を揉まれ声は震える。
「んあああ……っ」
「喜んでくださいな。あなた以外の誰に、わたくしがこんなに欲情する事があるかしら」
 ドゥーべ氏の下腹部にイザドラの怒張が突きつけられる。どっしりとした竿が彼自身の萎えたそれをぺたぺたと打つ。
「悪い気が抜けきってふにゃふにゃ。かわいいわ」
 イザドラは満足げに笑い、乾いた精液がこびりついてごわつく陰毛ごと、彼の性器を手で包み込む。
 だらりと垂れた肉棒を弄くられて笑われる事のなんと屈辱的なことだろう。
「ああ……っ、なんて、なんて酷い……!」
 半陰陽の掌の上で玩ばれ、ドゥーべ氏は悔しさやら心地良さやらに嘆いた。