嫉妬と献身 A - 4/5

 矢も盾もたまらず、マナはT4-2を試着室に押し込み、乱暴に壁に押し付ける。
 三方壁が迫るような室は二人で入るには狭すぎるし、人並みより頭二つは抜きんでた男には低すぎる。形の良い頭が、壁面に取り付けられた小さな蛍光灯にぶつかりそうな程。
 公の場であるという背徳感と圧迫感がマナをより昂らせる。
「今回はすべて、あなたにお任せする事になってしまいますね」
 軀の部位を失い、しかしそれでも尚、気丈に微笑む男は、いや増しに妖艶。
「別に。いいの。そういうの好きだから」
 マナは背伸びをして、T4-2は片足を軽く折り曲げて、互いに唇を重ね合わせる。
 三本の指がカーテンを閉める。途端に空間がより狭く感じられてくる。
「閉める必要ある?」
 慣れた手つきがネクタイとベルトを鞭のように引き抜く。
「こんな狭い場所でする必要がありますか」
 閉じられた密室でしたいから来たのだろうとでも言いたげ。
「あんたがでかすぎるから狭く感じるだけ」
「警察が到着した時に、丸見えでは困るでしょう」
「それまでに終わる」
「随分お早い事です」
 見上げる目は怒りに燃えて獰猛だが、見下ろす目は期待に拡散して淫蕩。
「服のボタン引き千切るよ」
「嗚呼」視線は無くなった袖と裾に向けられ、声色はわざとらしい。「それだけはご勘弁を」
 磁力が服の留め具という留め具を破裂物のように弾き飛ばす。
 シャツのボタンも金属なら手間がないのに、と思いながら、そちらの方は一つずつ丁寧に外してゆく。
「ん……はぁ……」
 布一枚挟んで触れる女の指の感触に、吐息を漏らす男。二本の指が悩まし気に己の微笑を這う。形容するならエロチック。唇同士の淫らな接触を望んでいるかのようでもある。
 シャツのボタンを半ばまで外したところで、マナの手が止まる。
 良い加減ではだけた白いシャツから覗く、濃い灰色の肌。色調のコントラストの妙がある。
 そして隙間からちらつく、雄々しく張り出した胸と深い谷間。男らしくもあり、そしてこういう状況では婀娜っぽくもある。
 マナはシャツを左右に掻き分けて、硬い胸板だけを完全に露出させる。白枠に強調された鈍色の胸は非常に色っぽい。
 ベストやら上着やら、外套やらはそのままに、寛げられた前合わせが退廃的に揺れる。
 これくらいが好い。T4-2においては身に着けている物すら彼の一部。
「嗚呼……我ながらなんと言いますか、卑猥な軀ですね」そんな風に思った事など今までないのですが、と服装の乱れた己に興奮して熱っぽい吐息を漏らす機械。
 一方マナは汚れたブラウスとスカートを乱雑に脱ぎ捨てる。野生児のような彼女にとっては服など邪魔なもの。特にこういう時には。
「あなたもとうとう、遂に、ようやく、満を持して、そういうものをお召しになるように」
 しなやかな身体の線に沿った、短めのスリップを目に映した男がそう溢す。
「今日だけね」つまり、T4-2と外で会うから着たという意味なのだが。
 照れ隠しの仏頂面で、マナはレースのあしらわれた胸元をくしゃっと掴む。
「本日だけというのは大変勿体ないです。また着てください。毎日でもお洗濯いたしますので」
 その声色は甘く蕩けて、視線はマナの下着を忙しく彷徨う。
「小麦色の肌とアイボリーのコントラストが美しい。ぴたりとあなたの身体に沿うようで、とても仕立てがいいです」
「ババアに作ってもらった」
「奇遇ですね、私のシャツも」
 どうりで妙にT4-2の軀に馴染んで、色気が増していると思った。隣人の作ったものだというなら納得。
 しかし隣人の顔やお小言まで連想されて「なにそれ、萎える」
「似合いませんか?」試着室の鏡を見ながら、残存した指が胸元をなぞる。「あなたはお似合いです」
 T4-2の指が、マナの脇腹を伝い、太腿の半ば辺りにある裾レースを弄う。
「はぁ……丈も絶妙で大変に善いです。あなたの身体をとても魅力的に……嗚呼、蠱惑的と言っても差し支えない程に……こんな姿私以外の誰にも……良かった、あなたが連れて行かれなくて……きっと奴らの首魁によってあなたは肉体的に籠絡されて……」
 マナは脚にねっとりと這う手をぱしっと叩き落とす。
「触らない。変な事考えない。あたしにお任せなんでしょ」
 T4-2の指が惜しそうに何度か蠢いた後、左腕はぱたりと力を失った。
 マナは艶めいた金属の肌に手を這わせる。フロアを半壊させるような大立ち回りを演じた後なら、生身であれば汗にしっとり濡れているだろうに、傷の一つさえなく清廉。
 首筋を手の甲でしっとり撫で下ろしながら、胸に口付けを落とす。分厚い外殻越しにでも感じる彼の星の鼓動。何度か唇で吸い付けば、深い吐息と共に緊張が解けたように胸部が和らぐ。
 マナの手がシャツの上からT4-2の軀の稜線を這う。
 鋼鉄の軀に縦横無尽に走行する筋肉の凹凸に似せた、柔軟な部品の数々。それはシャツ越しにも堂々たる存在感を示してきて、視覚的にうるさく、いやらしい。
 脇腹を荒々しく隆起させる畝の谷間はマナの指がぴったり沿う幅。触れるか触れないかで、布一枚挟んで磁力を与えてやりながら腹部を撫で回す。
 女に委ねきった男の巨躯が淫らにうねる。「あぁ……、うぅ、ん……」熱っぽくなる喘ぎと軀。
「人前でシャツ一枚にならないでよ」マナの兄なんかは、炎天下は上着を肩に担いでシャツ一枚になるのだが。「あんたの場合は露出狂」
「シャツというものは元々は」「なるな!」「そう言おうとしたのですが」「ならないとだけ言うの、こういう時は!」「留意しておきます」
 マナはT4-2の下衣を引き下げる。滑らかな肌を抵抗なく滑り落ちるそれ。太い大腿と膝下に装着されたガーター。素肌に巻き付くベルト的な何かは拘束具めいてマナの目には非常に淫らに映る。
 マナはT4-2の臀部を撫でながらその手を右の大腿にやり、右脚を小脇に抱えるように持ち上げる。できる事なら太腿のシャツガーターを好きなだけ好きなように弄り倒したい。だが興奮と嗜好を知られるのも嫌で、すぐに手を遠ざける。
 しかしマナの手の内心の内は、機械仕掛の掌の上。
「あははあはあ」下手な笑い声。「ガーターがお好きなようですね」
 T4-2が滑らかで緩慢な動作で右腿を掲げる。
「もっとつけましょうか、軀中いっぱいに」
 マナを見つめる瞳は煽るように細められて濫りがましい。
 薬指と小指が軀とシャツガーターの間に潜り込み、その巻きつきを強調するかのように粘っこく蠢く。
「大腿にももう一巻きして……」
 ガーターから引き抜かれた指は艶かしい動きで太い脚腰をゆっくりと撫で上げる。
「上腕と肩口にも……」
 己の身体を這う指とは別に、彼の右の内腿がマナのボディラインをなぞり、愛撫する。マナの息が乱れてぞわぞわとした快感にびくつく。
 T4-2の指がいよいよ彼の胸に差し掛かり、肉感的に際や谷間を這い回る。
「胸の上下もベルトで締め付けましょう」
 雄々しい豊かな胸が強調されて、さぞいやらしい仕上がりになる事だろう。
 T4-2の指がマナの首筋から顔に飛び散った自身のオイルを拭い、その指で己の首を掻き切るようになぞる。
「あとは首にもつけましょうか、ねえ」鈍色の首を横切る赤い筋。「それは革製で、鋲と鑑札付き」媚びるように傾げられる頭。
「それ首輪でしょ変態」そして淫乱。
「やぶさかではありません。あなたの愛玩物になりたいと常々願っておりますので」
 マナはT4-2の右脚を大きく開かせ、その付け根に手をやる。マナが躾けて使い潰すべき部位がそこにある。彼女の指が上蓋をなぞると、そこは従順に秘所を晒す。
 秘所の入口は濡れて、不健康な蛍光灯の明かりの下でも照り輝き、マナの視線に刺されてひくつく。
 既に異様な興奮状態で、金属の内臓は待ちかねたように、とろりと清純な蜜を垂らす。透明な液は舐める様に左の内腿を伝い、ガーターを穢す。
「ああー、うそでしょ、やらしすぎる。なんなの本当……」
「そんなにまじまじとご覧にならないで……あぁ、それだけで……」達してしまいそうなのだろう。巨きな胸が途切れ途切れの震えに悶えて、壁に凭せ掛けた背がよじられて躍る。秘所は緩慢に収縮と弛緩を繰り返し、愛してやまない者の肉杭の打ち付けを待っているかのよう。
 そんな男の酷く乱れ堕ちた姿にはまったく我慢がならない。
 マナはT4-2の陰部に中指を埋める。ぬるく、ぬるつき、ひくつく銀の肉。指は貪欲に飲み込まれ、媚びる様に吸いつかれる。
「あふっ、んっ、あぁ……!」
 男の腰がゆるゆる揺れる。鈍色の指が艶かしく唇を掻く。硬い微笑を彩る朱。
 指だけでこんなに狂喜乱舞されると、どれだけ与えられる悦楽に飢えているのかと詰りたくなる。
 しばし指で男の性器を堪能する。細かい金属の環が指を程よい強さで揉み込んでくる。まるでマッサージ。かき混ぜてやれば、化学的に清浄な液体が立てる穢れた音。
 金属製だというのに、微細な部品が作り出す内部は柔らかく、襞壁と言っても差し支えない。入口は腫れぼったく圧迫感があるが、その部分を抜ければ非常に柔軟になる。指の腹で押すように擦り撫でてやれば、じわりと滲んでくる合成愛液。人差し指と薬指で入口を割り拓くと、粘液がとろりと中指を伝って掌に溜まる。
「すごいびしょびしょだよ。女でもここまで濡れないんじゃないかな」
「ああ、仰らないで、そんな事……羞恥でより感じてしまいます」
 生身の女のそれなど知りようもないが、おそらく快感を生み出す事においては実物以上の働きをしているはず。
 右脚を支えるついでに、色濃い陰影を作る部品の際をなぞる。人間の筋肉の走行を模した、巨大で立体的な葉のような部品がひしめき重なり合う大腿。
 彼の軀はどこを切り取っても均整のとれた彫像めいて見事で芸術的で耽美。筋肉だけの堅そうな見てくれではなく、その上にうっすら脂肪が上塗りされたような、柔らかそうな膨らみを帯びているのも好い。この型を設計した人物は相当の偏執狂に違いないとマナは見ている。
 マナはこれを解体しようなどと思う輩の気がしれない。半裸に剥いて一日中視姦して、磁力で撫で回して、狂わんばかりに好がらせてやりたいくらいなのに。
 大腿に淫らに絡まるガーターの下に指を潜り込ませ、弾くようにして肌に打ち付けてやる。ガーターが鞭のように撓って膚を叩く度に、患部を震源地として軀が慄き、それに併せて愛液が迸る。
「っあ、あっ、はぁっ、くっ、うぅ、んッ……」
 触覚に敏感であるが故の浅ましい喘ぎと分かってはいるが、その痛めつけられた身の上故の呻吟にも聞こえる。
「体勢苦しい? どういうのがいい……?」
 T4-2から抜いた指と彼の間に淫らな汁の架け橋がかかる。
「あなたらしくもない事を仰いますね」
 愉悦にちかちか瞬いていた目が、ほんの一瞬、理性と諧謔の輝きを宿す。
「優しい言葉が好きなんじゃなかったの? ああもう信じられない、最悪」
 マナはもう片方の脚も持ち上げ、壁と己で鋼鉄の軀を圧迫して強く貫く。
「あぁ——ッ!?」
 身も世もない叫び声。びくんと痙攣し、仰反る軀。壁にがつんと打ち付けられる鉄頭。
 挿入の角度のせいか、散々痛めつけられたお陰で被虐心が昂っていたためか、マナの性器にかかる圧迫感が並々ならず好い。
 マナも思わず腹の奥からの熱い息を吐く。
「締まるっ……、あー、動けないこんなの」
 奥をがんがん突いて苛め抜き、快感を得たいと逸っていたのに、目的地に到達するまでもなく、マナは強い快感に縛り付けられていた。
「いっ、んぉ、く……ッおぉお……」
 T4-2の言葉にならない低い悶絶が頭上から降り注ぐ。
「すっごい、好い、苦しそうなあんたも……」
 柔軟な軀が与えられる快感により硬く引き締まり、そして声も性器も泣き濡れる大の男。そうさせているのが自分だと思うと征服欲が膨れ上がり、しかし片っ端から満たされる。
「……ッ、あ、この体勢っ、敗けてッ、連れ込まれて、あぁぁ……無理矢理襲われているようで……善いですッッ……!」
 喉を反らし、壁に頭を擦り付けながら譫言の様に溢すT4-2。
「それでこんなにきついわけ。マゾっ気が極まりすぎでしょ」まるで強姦願望ではないか。
 呆れるが、しかし屈強な男を斃して犯して鳴かせていると思うと悪くはない。
「お望み通り、乱暴してあげようね、保安官さん。野生の馬の調教みたいに」
「そんな、酷い事……」
 言葉と裏腹に、期待に拡散する光と強請る様にきゅんと収縮する性器。
 マナはいいだけ甚振られた怪我人に、構わず暴行めいた激しい突き込みを食らわせる。T4-2の淫靡な臓物は一突き毎に激烈に締まり、痛いくらいに腰に効く。気を抜けば情けなく先に遂情してしまいそうだ。
「あ、あっ……かふっ、マナさ、ぁあー、ハ、ぁ、ンッ、ぃんっ、いぎ……ッ、あー」
 壁に縫い留められた腰を中心にして無様に蠢く軀。
 突き入れれば末端まで隈なく戦慄し、抜き去る際には、呆けた様な蕩けた声を出して腰と秘部が追いかけてくる。
 その動きたるや、まるで生きたままピンで貫かれて標本にされた瀕死の虫螻。欠けたる四肢は限りなく無残で、蠢動する凹凸の陰影濃い胴はさながら甲虫か蛆虫の柔らかな腹、揺れる外套の裾は傷つき無用な羽めいて哀れを誘う。
 三指で無意識に縋り掴んでいるのであろうカーテンが強く引かれてカーテンレールからぷつぷつと外れてゆく。
「公共物を壊さないの」
 磁力漲る柔らかな掌が、ぱし、と硬い尻を叩く。「おっ、ぁ……ッ!?」強烈な電撃にぴんと伸びる鈍重な脚部。爪先が舞踊家のように天を衝く。
 絶頂だった。一等激しく収斂した後、その性器は役目を放棄したかのように緩まる。垂涎するかのように流れ落ちて床を汚す熱い体液。
「イっちゃったね」
 追い上げられた余韻に太い胴と脚がびくっ、びくっと震える。一方で糸が切れたように垂れた首。瞳は夢見る様に焦点が合わずに朧。酩酊しているかのごとく揺れる頭。
「ッ、はー、ふぅ、ぁ、あ……申し訳、あっ……ですがっ、軀ぁ、善くてッ言う事聞かな……ぁ、あなた、そんな……ッ、まだ、遂情なさっていない……?」
 咥え込んでいるマナの肉杭の凶悪さにやっと気づいたのか、慄き震える腰。
「お尻叩かれると感じるんだ。こんな硬いのに」
 その頑健さを確かめるかのように、再び振るわれるマナの手。
「ぐっ!? ぅ、ん……腰ぃっ、勝手に動いて……ぅ、んお……ッ!!」
 淫虐に襲われ、壊れたように左右に揺れる男のどっしりとした腰。マナの先端が勝手にT4-2の鋼の内臓に擦られる。それに加えて、泣き濡れた陰部の荒々しいまでのうねりと拘束に、マナの怒張は出し入れを行わずとも性的充足を叩き込まれる。
「どんだけ酷い事されるの好きなわけ」
 詰ってやれば、否定の意に激しく振られる頭。
「違っ、はぁっ……んん……ああした荒事の後はッ」凶漢確保、聴取、領収書整理、資料室清掃——がこの手によって確実に果たされた暁には、と後に口早に付け加えられる。
「身の内が、隕鉄が昂って……ぇ、身も心もあなたを求めて」
 引き攣るように股関節が暴れる。右脚の切断面から再びどろりと垂れる血潮のような油がガーターを色濃く染める。悍ましく、猟奇的で、しかし耽美。
「あなたに手酷く凌辱して欲しくて堪らなくなるのです……」
 窮屈そうに身を屈め、落ちてくる唇がマナのそれに重なる。香ばしい血色のオイルの味。マナが舌先を出してやれば、ゆるやかに頭が振られて微笑が舌を堪能する。
「私を使い棄てのように雑に用いて性処理して、淫楽を得て……たっぷり射精していただきたくて……」熱にうかされたような濡れて蕩けた媚声が響く。「公だけでなく、あなたに私的に使役していただく事もまた無上の悦びなのです」言葉に載せられる、低い恍惚とした吐息。マナの神経が聴覚から犯され背筋が張り裂けそうだ。
「つまり、あたしに酷い事されたいって意味でしょ」
 マナはT4-2の内腿を軽く叩く。
「あああっ! あぁ、ふうぅ、そう、です……あとは……」
 T4-2の内部がまろやかに媚びに媚びる。相反してその丸太のように太い脚は壊れたように断続的に痙攣する。絶頂が近いのだろうか。
「褒めてください、私は、今日も頑張ったでしょう……?」
 幼児のように無垢に傾げられる首。縋るような哀れっぽく濡れた高性能な目。すすり泣いているような掠れた声。
 悲痛で、愛くるしく、情が掻き立てられる。劣情だけでなく、愛情だかいうものも。
「えらいねえ、頑張ったねえ、内藤丁くん。今日も……いつもあたしをたくさん助けてくれる。ありがと……」
 機械をとても優しく愛撫する手。慈母のような和らいだ表情。女の二面性が色濃く表れ、生まれながらの孤児のような男を手酷く打ちのめす。
「は……あっ……、嗚呼……っ! 嬉し……いッ」
 法悦に感極まった機械がマナの手に身を擦り付けて背筋を慄かせる。
「ァっ、絶頂……ぅあはぁっ、ん……またッ、耐えられません、お許しください、どうか……!」
 とち狂った様な締め付け。T4-2の腰が暴れ、乱れっぷりが酷く、互いの性感を刺激する。
「好きにしていいよ、T4-2」
 マナは壁も、汎用亜人型自律特殊人形も壊さんばかりに激しく突き入れる。
「はッ、は、ぁッ、あッッ! 御免なさ、ぃ、マナさっ、んぅ、いくっ……うう——ッ」
 快感に張って引き締まる軀。押し付けられる腰。暴れる足が試着室の薄い壁を蹴る。カーテンが完全にレールから外れて地に落ちる。
「はー……っ、い……ッあ……、は、ぁ——」
 弛緩した巨躯がマナにぐったりと寄りかかる。生身の凡夫ならばその重さに潰れていたが、磁力の超能力者ならまた別。彼のために生まれたのではないかとさえ思える肉体は、その支えとなり、疲労に頽れゆく軀を優しく包み込む。
 むくつけき大男の苦しげな吐息と縋り付く様子はなかなか可憐に感じられる。
 マナはT4-2を抱え、繋がったまま彼の左半身を下にして床に横たえる。そして彼の左の内腿の上に自身の尻を落とし、断ち切れた機械仕掛の右脚を天井へ向けて割り開く。怪我人にしていい体位ではないが被虐を畢生の趣味とする男には褒美でしかない。
「あ、あっ……いッ、ひぅ……!」
 悦楽冷めやらぬ内部を怒張で擦られ、身も声も震わせて喘ぐT4-2。目をぎゅっと瞑るかのように、一際鮮烈に輝いた光学鏡が昏くなる。
「またイった?」
 引き締まるT4-2の性器に自身の怒張をきつく苛まれ、再び彼が絶頂したと気づくマナ。
「ふぅ、ん、はー……ッ、う……はい、絶頂して敏感な所を、体位を変えられて、中が……擦れて、また……」
 呼吸を整えるように深い息を吐きながら、己の惨状を説明するT4-2。
「擦れて気持ちいいね」
 マナはT4-2の丸太の様に太い右大腿を抱きしめる。腰が密着し、マナの凝り固まった肉柱がT4-2の淫らな隘路を拓く。
 刹那、組み敷いた軀が胸を頂点に仰け反る。
「んっ、ん……んん——ッ!」
 またもや絶頂。抱えた脚が壊れんばかりに暴れる。
「本当に敏感。あたしも今イきそうだった」
「ふ、う……あなたは……何故、一度も……っ」遂情に至らないのか、と言いたいのだろう。
「今日は疲れたから、多分一回しかできないよ。だから、あんたがおかしくなっちゃうまで、しっかり篭絡して堕とした後で、全部たっぷり奥に出すから」ね、保安官さん、といつになく愉悦と嗜虐心に塗れたマナの満面の笑顔。
「そんな、酷い事を……」
 左腕を支えにして上体を起こし、濡れて淫らな目で同情を誘うようにマナを見つめるT4-2。
「滅茶苦茶にされるのが好きなくせに。それに、あたしはもっと気持ちよくなってからイきたい。お互い好い事しかないよ」
 マナは容赦なくT4-2に勃起を抜き差しする。
「お゛、ぉほ……ッん」
 性器を無遠慮に刺激され、汚い声を張り上げるT4-2。
「あたしは良い人だから、我慢させたりしないからね。好きなだけイって」
 マナは抱えた右脚を付け根から切断面にかけてねっとりと愛撫し、腰を突き入れる。
「そんな風に……、ぁ゛、またっ、お゛ぉッ!」
 中も外も敏感になり果てている機械仕掛の軀が跳ねる。軽微な絶頂に乱される声。
「は……ッ、はー、ォ、ん゛、ふぅ、うう゛ぅ……」その後の吐息も乱れて淫靡。
 マナは後快楽に弛緩したT4-2の右脚に体重をかけ、脇腹へ向けて押してやる。金属製の股関節は滑らかに緩んで、外側は縮んで内側は伸び、人間以上に柔軟に外向きに広がる。
「あたしより関節柔らかい。女の子みたい」
 女の何を知っているわけでもないが、T4-2を昂らせるために言ってみる。
「私は、女性では……いいえ、なんだかもうよく分かりません。女の子……? そんな、あっ……嗚呼……そうかも、しれませんね……」T4-2の掌が己の下腹をしっとりと撫でる。人間の女であれば、胎のあるその場所。機械の身の上で、そこに決定的な何かがあるとでも言うのだろうか。それともいつものよくない迷妄か。
「女の子みたいに、可愛いと思ってるよ」
 事実可愛いとは思っている。愛らしく、いじらしい所が。
「そんなっ、あぁん……」
 より深く繋がり、互いの身体が悦びに蕩ける。
 マナの先端がT4-2の一番の性感帯を衝く。その臓器の行き止まりを。
「ッッ——!」
 吹き荒れる快楽の恐慌に声にならない声がT4-2の喉から漏れる。苦しげで、切なげで、淫悦に塗れたそれ。
 何度果てれば気が済むというのだろうか。
 マナは行き止まりを荒らしまわり、突きまくる。完全にマナに委ねきられたT4-2の膣は締め付けるというよりは甘え切って随分と堕ちたもの。マナの突き入れに慄き、引き抜きには媚びて引き留めにかかる。
「ん……お゛っ、深……ぁ、……入りそ、う゛っ……まだっ、今はだめッ……!」
 T4-2が頭を振る。
「なんで。いつもは奥の行き止まり突っつかれるの好きじゃない」
 マナは小刻みな腰運びで最奥を突く。嫌がる割にT4-2の最奥はマナを求める様に吸い付いてくる。まるで浅い接吻。
「おっ、ぉ、ッ、ほっ、好きッ、ですが……あ、んぁ、後でっ、必ず説明します、それから……ッ、でないと……いやッ、はっ、ァ、ん゛」
 マナの突き上げに軀を揺さぶられながら、T4-2は息も絶え絶え切願する。
「浅いところ開発して欲しいって事ね」
「そういう事では……」否定するが、マナが奥を激しく突いてやれば途端に言葉を翻す。「あ゛ッ、あ゛、お゛ぉほッ、それでいいですっ! 浅い所っ、弄んで、性感帯にしてください……ッ! マナさん、どうか……っ」
「そうやって頼まれたら、聞いてあげないわけにいかないでしょ」
 マナは腰を引き、浅い出し入れに終始する。
 いつもなら先端で触れる事のない横壁をぞりぞりと擦る。奥のように吸い付く感覚はないが、剥けた笠に当たる壁面の金属襞はそれはそれで気持ちいい。
「んッ、そこ……ッ、いつもと違う所に当たって、ぇ……はぁっん」
 雌の快感に男の頑健な腰がかくかく震える。
「ここも好きなんだ」
 T4-2は唇に指を這わせてこくこく頷く。「ハっ、お゛、おォぉ……」その合間にも漏れる浅ましい息と愛液。
「自分でそういう風に作ったんでしょ」
 鋼環と鋼環の間から分泌されるとろみが、マナの亀頭を苛む。逆流して尿道を犯されそうなほどだ。
 T4-2の顔はマナから背けられ、それとは逆に彼女に向けられる欠損した掌。
「いいえっ……あぁ……慣れていないだけで、感じすぎて……ですから乱暴に、しないでくださ……ッ」低く掠れた声の弱々しい哀願。
 マナの腰の奥が悶えるような寒気を覚え、敵愾心だの征服欲だのが膨れ上がる。そして劣情。
「そういう事言われたら乱暴にするに決まってるだろうが! 滅茶苦茶に慣らしてやるからな!」
 マナの腰の動きが容赦なく烈烈たる様相を示す。濡れた不埒な音を立て、愛液がしとどに漏れる。
「い゛……ッ、いきすぎてっ、おかしく、オ゛、いぐっ、んん゛ッ!」
 壁面を削ぎ落すような責め苦に、T4-2は気をやり咽び泣く。指が更衣室の起毛のマットを掻く。色濃く残る歪な三本の線。
「お゛、あ゛っ、が……、ん゛あ゛ぁ……!」
 絶頂への間隔が短くなってきている。完全に果てるのも近いか。いかな機械仕掛とはいえ、限界がないということはないだろう。それも傷ついた身の上で。
「感じてる時の野太い声、やらしいよね。聞いてるだけで……うん、イきそう……」
「ごえ゛、あ゛ー……ッ!」
 褒められているとでも思ったのか、再び汚い嬌声を上げて達する機械。子供が駄々を捏ねる時のように振られる頭。
「それだけでイっちゃうんだ……かわいー」
「あっあぁお゛ッ、うっ……!」
 絶頂と共にどぷどぷ垂れる清廉な分泌物。
 溢れた愛液のお蔭で、マナの腰の動きがいやましに滑らかに、激しく、淫猥になる。
「ぬるぬるして滅茶苦茶気持ちいい……出していいかな、もう」
 敏感な笠を刺激され、怒張は痺れて痛むような快感を覚えている。上り詰めて放出を求め、意志とは関係なく腰を振りたくって遂情したいくらい。
「はやくっ、おぉお゛、出して、壊゛れる……ぅ、許して、……奥っ、使っていいので、早く出してください……ぃいっ! ォ゛、も゛、だめッ、狂うぅ゛」
 自分から拒絶していたくせに、今更奥を使うよう言ってくる。もう滅茶苦茶だ。
「もう十分狂っておかしいじゃない。あー、もうだめ、やらしすぎる……」
 マナの全身が力んで引き締まり、肉棒の根元が雄々しく脈動してT4-2の中に性汁を送り込む。金属の襞に精液を塗りつけながら、浅層から奥まで肉棒で制圧する。
「や゛、動きながら、お゛ぉっ、ぉオ゛、ほぉ、イ゛っ……あ゛ー、出て……ハッ、ァ……」
 亀頭が襞の一つ一つを弾き、白濁が部品の隙間に染み入る。その度に巨躯が小刻みに震えて瞬く様な絶頂に狂う。
「はー、好い、めちゃくちゃ出る……」
 眉を顰めてうっとりと唇を開くマナ。乱れた髪が首筋に纏いつき、血色のオイルが滲んだ淡い色の下着は凄絶。
「ッ……きれいです、マナ、さぁ、ぁん……」
 T4-2はマナを見て甘えたような声を出したかと思えば、喉を反らして激甚な快感を極める。痛々しい掌が火花散らんばかりの双眸を覆う。
「かはっ、あ゛、善゛っ、ォ、おぉぉ——ッ」
 男の騒々しい絶叫に掻き消されたが、マナも確かに歓喜の声で彼の名を呼び、最後の一滴までをも注ぎ込んだ。
 マナが本懐を遂げた性器を引き抜くと、粘膜同士の擦過が卑猥な音を響かせる。T4-2の性器からは泡立った大量の性汁が濁った音を立てて溢れ、濃い鉄色の内腿を伝う。
「ふぅ、ん……マナさん」
 後を引く快感に鼻にかかった声をあげ、T4-2がマナとの触れ合いを求めて手を伸ばしてくる。マナはT4-2の軀にしなだれかかる。
 二人はただ触れ合うだけの法悦と恍惚に包まれ、疲労の吐息を絡ませるように身を寄せ合った。