生贄の羊 - 1/5

 このじいさん、傭兵を便利屋か何かと勘違いしてんのかな、とエフは思ったし実際無意識に低くそう溢していた。
「じゃあやらんのか。いらんのか、金」
 村長はテーブルに置いた袋に緩慢な動作で手を伸ばす。しかし傭兵はそれよりもずっと機敏に金貨袋を掠め取った。
「やらないとは言ってねえ」
 開いた袋の口から見えるのは依頼の内容にしてはまあまあの金額。エフは向こう傷で箔がついた凶悪な顔に下卑た笑みを浮かべた。

 木と鉄枠の見慣れた扉を叩く。反応を返してくるのは庭先で飼っている羊だけ。しばらく羊の啼き声を慰めに待ち、舌打ちしてもう一度拳を振り上げた瞬間にぬるりと扉が開く。主の気配に羊は一斉に啼き止む。
「子供が寝てるんですから」
「から、なんだってんだよ」
 振り上げた拳をそのままに、エフは家主を見下ろす。質素な服の少年はじっとり濁った目だけで彼の頭二つ分以上大きい男を見る。臆する風も警戒する風もなく。
「夜にいきなり来るのも、けたたましいノックもやめてくださいね。常識的に考えて」
 抑揚に欠けた気怠げな喋り方は苦情を申し立てているというよりは、億劫そうな響きを持っていた。
「はいはい、いつも不躾で、下品で、粗野で、常識がなくて、すいませんねえ」聞き飽きる程いつも言われている事だ。
「あと不潔」
 少年によって付け加えられた汚点にも、はいはい、そーでございますね、とエフはおざなりに頷く。
「わかっているのになかなか矯正されませんね。死んでも治らないとはこの事なんでしょうか」
 嫌味にしか聞こえない言葉の他には、入れとも帰れとも言わず、少年は踵を返して室内に戻る。エフもむくつけき巨躯を狭苦しい戸口から捩じ込みあとに続く。腰に佩いた段平や背に負った十字弓が扉の枠を擦って予兆めいた不穏な音を立てた。
 勝手知ったる他人の家といったところで、エフは勧められる前にどっかりと卓につく。剣呑な得物もそのままに。普通は物騒だなんだと嫌がられるが、ここではその限りではない。そんな物はこの場では何の役にも立たないからだ。
「それで、なんですか」
 少年は暖炉に火を入れ直しながらエフにぶっきらぼうに問う。隙なく武装した傭兵に背を向けたまま一瞥もくれず。随分と舐め腐って油断してくれるものだ、と毎度の事ながら少々面白くない。
「夜食でも食べに。それとも散髪ですか。お風呂はもう無理ですよ。お湯抜いて掃除してしまったので」
 火に照らされた横顔は透き通った磁器のようで年頃の男にしては傷や痘痕の一つもなく清らに整っている。水の入った盃をエフの前に置いた手は、何かする度に羊の油脂を神経質に塗りたくっているためか日々酷使している割には白く滑らか。そして手の甲に透ける青い血管。手だけを見れば、少年は王侯貴族か上流階級の子息だ。
 エフは提供された清浄な水などには目もくれず、段平とは逆側の腰にくくりつけた皮筒を取り出す。
「ここでアルコールを摂取して欲しくないので浄水を出したんですが」
 傭兵は犬歯も露わな攻撃的な笑みで返す。
「昼間っから呑んでるわけでもねェし、ガキ共も寝てんだろ、なら何を遠慮する必要があるんだ、先生さんよォ」
 エフを非難した人物は歳若く見えるが既に成年で、先生と呼ばれるに十分な齢だった。とはいえエフと比べれば子供のようなもの。
「あんたも呑むか。もう羊のミルク飲んでる歳でもねェだろ」
 ほれ、ほれ、とエフは酒で満たされた皮筒を掲げて振ってみせるが、反応は色良くない。
「他人が口をつけたものは飲めません」
 つれないねェ〜、と言葉だけ落胆してみせるエフに対して“先生”は一言、ご用件は、と手短に返すのみ。
「村長のジイさんから聞いたぜ」エフの酒に焼けた声色が地を這うほどに一層低くなる。「引っ越すって?」
 相手がどんな反応を示すかと、酒を呷りながら目の端で姿を捉えておく。顔馴染みに引越しを伝えなかった事に関して何らかの情動があるかと思いきや、その表情はまったく変わらない。蝋細工の作り物のようにそのまま。いつもの事だが癪である。良くも悪くも自分に何の感情もないのかと思うと。
「ああ、はあ」
 何にも興味がなさそうで、およそ感情というものが死んでいそうな平坦な声。これで孤児院を営んで子供達の面倒を見ているというのが信じられない。この世にいくら頼れる者がいなくとも、こんな情緒不感症気味の人物に継続的に世話されたくないとエフは思っていた。
「そうですね、ここはもう手狭ですから」
 いつ始まりいつ終わるとも知れなかった戦争は先頃に案外呆気なく終わったが、それでもまだ戦禍の影響は色濃く、路頭に迷う子供は多い。村外れの森の入り口に建つ、かつては番小屋だった建物も、めっぽう古びているし子供十人以上が住むには狭すぎる。
 暖炉の前には背もたれに毛布が無造作にかけられた揺り椅子が一つ置いてあり、部屋にあぶれた教師はいつもそこで夜を明かしている様子。
「ああ、引越しの手伝いに来てくれたんですか。なら助かりますが、夜中ですよ。いつも自分の都合でふらっと来て、あなた本当に……」迷惑とか、変な奴とでも言うのだろう。分かりきった言葉尻にエフは己の言葉を重ねて掻き消す。
「便利屋じゃねェんだ手伝うわけがねえだろうが。どいつもこいつもよォ。その逆だ」
 エフは徐に立ち上がり家主に詰め寄り暖炉横の壁際に追い詰める。
 近くで見れば少年というよりも女のように見える顔立ちだ。それもそのはず、“コセキ”とやらの上では女だとか。ちなみにコセキ上の名前はチョウズヤ・ラム。コセキというものが一体何なのかエフは知らないが。まあ、異世界からの転移者の言う事なんて分からない方がまともだ。
 転移はよくある異常な現象で、ラムは別の世界から来た人物だった。それ故に常識も思想も嗜好も何もかもがこちらの人間とは違った。それでも転移者というものは、エフにとっては甚だ癪な事に、かなり重宝されるのだ。
「どんな手を使ってもお前さんを引き止めろと言われてる」
 言葉の端に勝手に滲む殺気。凶悪に凄む顔。身に染み付いたもので、押し留めようとしてどうにかなるものでもない。押し留める気もエフにはさらさらなかったが。
 巨躯が今一歩転移者に肉薄し、得物が剣呑な金属音を立てる。まさに臨戦体制といった風合い。しかし異世界人にとってはそんな空気も脅威にはならない様子で顔色一つ変わらない。
「あなたの得意な方法は私には通じないと分かっているとばかり」
 言うや否やエフの腰の段平が、背負った十字弓が、解けるようにその刀身と金属の機構を失う。剣の鞘と木製の弓身が遅れて床に激突する。次いで脇腹や大腿、ブーツに留め置いていた暗器も同様に音もなく刃を失い床に散らばる。木組みの床を叩き鳴らすけたたましい音。
「うるせえなあ、ガキ共が起きちまうだろうがよお」エフは焦るでもなく性悪そうな顔を笑みに歪める。こうなる事くらいは想定の内だ。
 大抵の転移者は魔法とは性質の異なる得体の知れない力を持つ。
 ラムの場合は転移の際に何者かから“世界を浄化する力を与えた”と大層な事を言われたらしいが、ある意味ではその通り。
 彼女の身に宿る力は肉体と金属を石鹸化させるという物騒な代物だった。本人の解説によると死亡が結合で喧嘩がどうのと言っていたが、エフには今もってまったく分からない。所詮異世界人の言う事だ。真面目に考えるだけ無駄である。
「次はあなたをこうしますから」異世界人は足元に散らばった白い粉を爪先で指し示す。「あなたの場合は石鹸カスではなく死蝋になります。よくご存知とは思いますけど」
「それだ。あんたは謂わば抑止力だ、先生。村にいるだけで野盗共の襲撃を防げる」
 近頃まことしやかに、この村に狼藉を仕掛けようとすると神の裁きで石化するだの、得物が塩粒になるだのという噂が流布されている。それだけで人並みの信仰心と畏れのある輩は村に近づかない。国境が近く、帝国の威光が届かないこの半無法地帯には非常に有難い噂である。そしてそれは単なる噂ではなく実際に起こり得る事だ。
 しかしそうした野盗共を駆除するために村に雇われているエフにとっては死活問題だった。なにせ固定給でなく野盗の首一つで幾らの出来高払いなので。
「お陰でてめえがここにふらっと来やがってから俺の商売は上がったりよ」
 それがつまらなくて、正々堂々徒手空拳で挑みかかろうと考えた事もあるが、見せしめとばかりに敷地の入り口に置いてある賊の蝋人形めいた死体を見て腕力で勝つのは諦めた。力量を見極めて勝ち目のない戦いはしないのが細く長く生きる秘訣である。こういう稼業に身を置いていても人並みに元気で長生きはしたいのだ。
 今となってはこの村でのエフの仕事は害獣を狩ったり、神のお裁きなど気にも留めない畏れを知らぬ無法者を“神”より先に索敵必罰してやったりするくらいのもの。最近宿屋と酒場のツケについての追求が苦しい。エフとてそろそろこんな村とはおさらばしたい所である。ツケを置き土産にして。
「いや、それはそれとして、だからどんな手を使ってでも村に引き止めろとさ。村の奴ら全員の総意だ」
 そしてあの決して安くはない報酬には、異世界人をむざむざ取り逃して別の土地、特に敵国領に行かせるくらいならいっそ殺してしまえという含みもあるはずだ。
 崇めて利用して殺す、まるで「生贄みたいなもんだよなァ」独り言のように呟く。同情や憐憫にも似た、なんだか妙な感情が胸に蟠る。この異世界人を見ていると大抵そんな名状し難い気分になるのだった。
「ああ、はあ、生贄、そういう事ですか。自由意志も人権もあったものではないですね」
 どろっとした眠そうな目がエフを見つめてくる。こんな覇気もやる気もなさそうなのに純粋に力で捩じ伏せられないなんて傭兵としての自負がズタボロだった。
 しかしここまで警戒心が薄くなった今なら虚をついて仕留められない事もない。少し手を伸ばして細い首の骨を折るか、石を削って作った匕首で胸を一刺しすればいいだけだ。おそらく死の間際に相打ちに持ち込まれるだろうが。
 あるいは物陰から十字弓で頭を一撃。それなら己が身は安泰だろう。しかし仕留めたのがいつも舐め腐っているこの自分だと相手に知らしめられないのは癪なもの。
 というわけで、エフの方針は決まった。というか、当初の作戦を実行するだけだ。
 エフはより女に近寄り薄っぺらい痩躯に己の分厚い巨躯を押し付ける。
「少し遊んでやるとするかね、お嬢ちゃんよォ」
 そして厚く着込んだ防具の留め具に手を掛けて自ら武装解除してゆく。積年の荒事の痕跡が刻まれた金属製の肩当てと腕や脚を覆う無骨な革鎧を床にぼとぼとと無造作に落としてゆく。残るは身体の線にぴたりと沿う手甲とズボン、そして胸鎧とブーツ。
「あんた俺の体好きだろう」
 しばしばラムの湿った暗い眼光が体に纏わりついてくるように感じられる時がある。しばしばというか、会えばいつもそんな感じがする。
「ああ、はあ、ずっしり身の詰まった堅そうないい身体ですよね。私はいくら鍛えてもそういう感じになりませんから憧れます」本当にそう思っているのかと言いたくなるくらい平坦で冷めた声色だ。
「俺の体、使いたくて仕方ねえんだろう」
「ええ、まあ。けど前に言いましたよね。私……」
 エフはしばらく前にもラムに迫った事がある。
 男のなりはしているが、よくよく見ていれば女だと気づいた。そういう野生の勘と観察眼は滅法鋭いのだ。
 ラムは何年経っても育ち盛り一歩手前の少年のような体型のままで、胸も申し分程度に脂肪で膨らんでいる。一度そう思うと顔立ちも中性的な女と言えない事もない。身のこなしも男っぽくはないし、声も女にしては低いが男のものにしては軽い。
 そしてエフを見る情念籠った目付きといったら。飢えた獣のように原始的で攻撃的だが、そういう関係になりたいと望む眼差しだ。女からよくそうした視線を投げかけられるからわかる。つまりラムはまごうかたなく女だ。
 物理的な力が通じないのであれば閨房で打ち負かしてやろうという低俗な考えでエフはラムを物陰に連れ込み、心にもない甘言を吐き散らしながら抱き締めて滑らかな身体を愛撫した。
 大抵の女はこれで心身蕩けて肌を許すに至るのだが、そこは常識から何から違う異世界人、まったく一筋縄ではいかなかった。
「私竿付きですが、そういうの大丈夫な人ですか」いつもの無表情に腐った魚のような目が男を見上げた。
「はァ?」
「両性具有です。戸籍の上では女ですし、名前だけは二次元美少女っぽいし、学校ではずっと女子の制服着てましたけど」
 何を言っているのか解釈を試みているうちに存外強い力で手首を取られて導かれたラムの下腹部。そこには随分ご立派な屹立があった。
「ゎぁ……」
 先程の愛撫で凝り固めてしまったのだと思うと言葉が詰まる。
「ちなみに竿は使いたい派です。相手が男だろうと女だろうと」
「ァァ……」
「で、どうするんですか」
「帰るわ……」
「今日の夕飯はケバブです」
「食うわ……」
 その日食べた夕飯は味がしなかった。
 こいつに関しては勝ち負けに拘泥するのはやめよう、エフはその時確かにそう決心したのだった。
 しかし今はその決心さえも捨て去る局面であった。金のためだ。そう、それだけ。金のためなら何でもする、混沌にして悪を極めた傭兵なのだ。と、エフは自分では思っている。
「けど前に言いましたよね。私両性具有だって。そうしたらあなた神妙に夕飯だけ食べてすごすご帰りましたよね。忘れたんですか。蘇生の後遺症ですか」
 時折こうしてエフが死んだ時の事をあげつらってくるのが気に入らない。エフの死体を寺院に運び、なかなか高額な蘇生費用を支払った事を笠に着ているのだ。頼んでもない余計なお世話をしておいて。
「うるせェよ。確かに俺はてめえを抱けねえ。竿見たら多分絶対掛け値無しに萎えるだろうよ。けど逆ならいける」つまり、抱かせてやるというわけだ。滅茶苦茶な作戦だとエフ自身も思ってはいる。しかし金子や懇願や恫喝が効く相手ではない。
「ああ、はあ、コペルニクス的転回ですね」
「なに? とにかくそうやって余裕ぶっていられんのも今のうちだ。離れる気なんざ無くなるさ。そんで俺に泣いて土下座して頼むようになるんだよ、やらせてくださいってなァ」
 肩までを覆う両腕の手甲はそのままに、エフは胸鎧を外して諸肌脱ぐ。筋骨隆々とした堅固な土台の上にうっすら脂肪の載った肉体は膂力と精力に溢れている。若さによる瑞々しさはもうないが、不惑を間近にこれから熟していく艶のようなものがある。
「随分な自信ですね。精々頑張ってください」
 注がれる生温い視線が肌身の官能を刺激して妙な気分になってくる。憧れるような明朗なそれではなく、這い寄るような邪な視線がどういうわけか心地よいのだった。身体をくれてやるのも、おあずけ喰らわせるのもこちらの胸先三寸と思えば尚気分が良い。いつ何時でも飄々とした半陰陽の平静を乱してやれそうだと思うと気持ちが逸る。
「自信も何も、すげえ物欲しそうに見てるじゃねえか。涎でも垂らしそうな勢いだ」
「毛蟹みたいに毛深いなと思って」
「はァ?」
「蟹食べたくて。こっちに飛ばされてから食べる機会がありません」
 カニといえばエフの身の丈なぞ余裕で超える程巨大で、金属鎧を着込んだ屈強な男すらバターのように真っ二つに断ち切る鋭いハサミがあるというのに、そんなものを倒してあまつさえ食べるというのか。やっぱり異世界人はおかしい。
「お前、その目はそーゆー……」
 そういえば初めてラムに会った時は丘の上で羊を火炙りにしていた。後に聞いたところによると石鹸を作ろうとしていたらしいが、邪教の生贄の儀式と聞いた方がまだ理解できる。とにかく異世界人はどうかしている。
「余計な事考えてんじゃねえよお」
 自分にも言い聞かせるように呟いて、エフはラムの手を取り胸板に置く。表面を磨くように上下に動く掌が胸を緩やかに歪める。
「色気のねえ触り方だな」
 言うや否や唐突にラムの顔が歪んだ胸に埋められる。そして胸元で大きく吸い込まれる空気。
 エフは驚いた。まさか相手の方から馴れ馴れしく接触してくるとは思わなかったから。
 色気のない振る舞いに出立ちではあるが、密着されるとそれはそれで感じるものがある。
「お風呂入ってから来たんですね」
 清浄な匂いを嗅ぎ取ったのか、ラムがエフを見上げてくる。よく見ていないとわからないくらい僅かに、驚いたような光が瞳をよぎる。
「じゃないとそもそも近寄らせてもくれねえだろうがよォ」
 ラムは衛生に煩い。外から帰ってきたら手洗いうがい、毎日服を替える、一日の終わりには身体を清拭する……顔を触るな髭を剃れ顔についた食べかすはすぐ拭け傷口は洗って清潔な布でおさえろだのと本当に煩い。そんな事をしても死ぬ時は死ぬというのに。
「でも来た時に手は洗ってないですよね」
「こまけえなあ。手ぇくらい……」
「あなた子供達全員合わせたより感冒や腹痛になる回数が多いですよ」
「ちょっと黙ってろや」
 エフは壁に手をついてラムを自身の陰で覆う。そして女の顎を持ち上げて噛み付くように唇に吸い付いた。ラムは死んだように目を開いたまま。風情も何もない。あと怖い。
 しかし唇の感触それ自体は柔らかく瑞々しく極上。正真正銘女の口唇だった。顔の角度を変えて何度も浅く唇を重ねる。思わず惹き込まれて堪能している己に気付き、狼狽して離れる。吐息が混じり合う程の至近距離で見つめる顔は案の定、無味乾燥。エフの甘く湿った官能は挫かれる。やっぱ首の骨折ってやろうかな、と傭兵は思い直す。
 ラムの顎に触れていた手を細い喉頸まで滑らせても、その不感症な態度は変わらず「お風呂は入っても髭は剃ってくれないんですね」いつもと同じような事を同じような調子で言う。警戒くらいはして欲しいものだった。しかしこんな様子を見せるのは子供達以外には自分に対してだけなのだろうな、とエフは柄にもない事を考えてしまう。
「ちゃんと毎日手入れしてんだからそんくらいは許せよ」エフは自身の灰色の髭を無造作になぞる。