乗船日和 上 - 5/6

「顔も体も蕩けて、猫みたいに甘ったるい声を出して、濡れて、女の子みたいになってる……」
 僕の乱れっぷりを見て女の子女の子と言うけれど、つまり彼女は女の子とこういうのをした経験があるのかな、造詣が深いのかな、とヘンな事を考えてしまう。女の子同士の行為はすごく綺麗なんだろう。特に彼女が絡むならば。そう思うと死に体だった尻がきゅんと締まって、彼女の指に強く吸い付き喰んでしまう。
「女の子って言われると感じちゃうのかしら」
「ぅ、ん……」
 およそ女らしさとはかけ離れた風体だが、確かに身の奥底深くには生娘じみたり女々しい部分もある。これで外見が玲瓏な女性の形ならば気後れせずに男らしく彼女と接する事ができるのに。睦言を吐いて彼女を喜ばせたりだとか、こちらから積極的にキスしたり愛撫したりだとか。
「わたしの前ではたくさん女の子してね」
 主人にそう言われたので、僕は腰をゆっくりくねらせて媚を売る。商売女っぽく、婀娜に、煽情的に。大きく動かしすぎて彼女の指が抜け落ち、中が切なくなる。
「はふ……ぅ、して……いれ、て、もぅ、だいじょぶ、っだから……」
「縛ったままでしてもいい?」
 僕はうんうん頷いて、芋虫のように転がって床に伏せ、重たい尻を掲げて彼女に捧げた。
「後ろからするの? 顔が見えないのは少し残念だけれど、いいわ、あなたがそうしたいなら」
 彼女の手が尻に触れて割り開かれ、局部が露出する。視線に射られているように感じられて全身の毛穴がぞわりと沸く。期待に割れ鐘のように心臓が拍動して、そして。
「……はっ……あ゛、お゛……ッ、おおぉお゛——」
 一瞬息が詰まる。
 その後勝手に濁った声が漏れていて一気に挿入されたとやっと気づいた。
 脳が揺れて痺れる。肉体的精神的快楽が暴発する。尻をこじ開けているそれを強く締め付けてしまい、尚更感じてしまう。突き出した舌先から垂れた唾液が床に滴る。
 背後で彼女が僕の名を呼び何か言っているようだが、頭がごちゃごちゃになっていてよくわからない。ただ本懐遂げられた充足感だけが内を満たして理性と知覚をばらばらに散らしていた。
 怒張で圧し潰された泣き所が存在を主張して疼く。拍動し、彼女の硬い怒張を押し返そうとしているが無駄な足掻き。互いに昂るだけだ。
「お゛ッ、はほぉっ、お、おォッ、んぉッオ゛、だっ、め、壊゛れぅ、ごわじでッ、あ゛ァー……ッ」何が言いたいのか自分でもわからない。たぶん無理矢理動いて壊して欲しいのだとは思う。
 しかし直腸をひしめく肉環の連綿が引き締まり彼女を離さない。身体はこれ以上の刺激には耐えられないとわかっているのだ。それを宥めるように、尻と密着した彼女の腰がゆるく回されて、抜き差しなしに中を寛げ始める。性質の違う肌と粘膜が混ざり合って馴れ合う。お互いの熱が交換されて腰のきつい痺れがじんわりと解れて、詰めていた息が和らいだ。
「はあ……っ、ん……ぁあ」死にかけの獣のように切羽詰まっていた息が、女の吐息の体をなす。
 しばらく緩やかに繋がっていると内臓を拡げる自分以外の気配に馴染んできて、締め付けは甘えたようになり、肉環の蠢きは戦慄というよりかは媚態に変わった。太く硬い彼女の怒張を舐めしゃぶるような恥ずかしい動きだった。
「甘えんぼうなおしりになってきたのよ。もう動いてもいいでしょう」どこか遠くで聞こえるような彼女の声。
「う、ん゛……」
 僕は顔を横に向けてぎこちなく頷いた。視界の端に映る彼女の表情は涙の膜と逆光で朧げだったが、目だけは爛々と暗く輝いて見えた。鬼火かセントエルモの火のようで魅入ってしまう。この世のものとは思えない。首輪から伸びる紐に指を絡ませる仕草には支配的な魔性が滲んでいる。
 とはいえ久しぶりの肉の交わりで使われ方を忘れていた肛門で無理矢理抜き差しを行い壊すような真似はしない彼女の気遣いというものは感じられて、愛おしさで心臓が弾け飛んでどうにかなりそうだった。
 僕の中から肉棒がゆっくりゆっくり抜けてゆく。
「はあっ、あ……、うぁ、ぉ……」
 こじ開けられていた肉壁が奥から緩慢にぴったりと張り付いてゆく。自分の飢えた粘膜と粘膜が閉じ合わさる物足りなさ。それを埋め合わせ慰めるように粘膜同士が喰み合う切なさ。ついさっきまで挿入に足掻いていたのが嘘のようだった。そして立てた腰が抜けていく怒張を追ってしまう。
 気遣ってゆっくり動く必要などないのに。性処理道具か性奴隷扱いでめちゃくちゃに腰を打ちつけて扱き、好きなだけ精を注ぎ捨てる種壺にしてくれて構わないというのに。むしろそうして欲しい。捨てる間際のいらない物のように扱ってほしかった。
 しかし怒張が肉の縁ぎりぎりまで抜けて、腰肉に彼女の指が沈み込んで、やっと、緩慢な動作はこれから行われるであろう暴虐の前触れに過ぎなかったのではないかと——
「オ゛ー……ッ!?」
 尻を叩かれた。肉を打つ乾いた音が鳴り響く。
 意識が白む。筋という筋が産熱する。内臓が、腰の奥深くの性感帯が、性器が震えて、気も狂わんばかりの肉悦が背筋を脅かす。
 嵩のある代物で閉じ合わさっていた粘膜が再び無遠慮にこじ開けられて、前立腺を重く押し潰されて、今のところ入り得る最奥をその先端でぬるりと舐められる。
 そこでやっと、僕の尻を叩きつけたのは平手ではなく華奢な腰だったとわかった。
 そこからの間を置かずの抜き差しは疾く苛烈だった。
「オ゛ほッ、ぉう゛、っぐ、うァあ゛ッ!」
 背後から突かれる毎に汚い悶絶と唾液、そして腺液が押し出される。彼女の細い骨格のどこにそんな雄々しい膂力があるのか。
 潤滑剤と興奮でねとついた肉粘膜を掻き回され、もはや当初躾けていた良い場所など関係もなく内臓の隅々までが性感帯と成り果てていた。
 鋒で肉襞をこそげ落とされ、中太りした柱で肉環を強く押し広げられる。抜き差しの合間に平手で尻を叩かれると、怒張を咥え込んだまま中が震えて射性を伴わない浅い果てを味わわされる。
 肛虐と折檻がぐちゃぐちゃに混ざり合って、執拗で後を引く絶頂が漣のように襲いかかってくる。それが引かぬまま次の絶頂に追い上げられ翻弄される。
 叩かれる臀部が熱い。腹の奥はもっと熱い。熱溜まりのよう。
 視界がぐるりと上向いて、肉厚の重たい舌はべとりと床に垂れて、なかなか酷い顔をしていると思う。しかし取り繕う力は奪われて、野生の本能のまま、犯される雌の悦びを甘受する。
 思慕し崇拝すらする者に思い描いた通りに手荒に扱われる。これ程までに悦ばしい事はない。
 しかし本能に忠実にいると欲望というものは尽きず、足るを知るという謙虚さも失せていて、それ以上を求めてしまう。
「ああぁ、うぁ、あ……もっとっ、ひいっ……ひどいことっ、お゛、罵倒っして、なじって……ッ」お願い、お願い、と僕は首を横に振って譫言のように繰り返す。「もっと、ばっ……罰して、ぼく、……だめな人間だから……よ、弱いから、たくさん、乱暴にされないと、ぼくは……ぅ、ふうう……」完膚なきまでに打ちのめして貰わないと、僕の呪縛を解くには至らないだろう。
 彼女は僕の言わんとする事を察した様子で、困った笑いのような吐息を一つ吐く。そして一転して冷たく鋭い声で言い放つ。
「卑しい被虐趣味者。嬲られるだけでなく詰られたいなんて」興が乗って激しく荒っぽく叩きつけられる腰。「恥じらいもなく罵倒してだなんて、よく他人にそんな事が頼めるものだわ」
 まったく仰る通りで、僕は情けなくなる。ご奉仕を受けてばかり。僕が彼女にしてやれる事など一つもないのに。
「は、ぅあ、ああ……ごっ、ごめんなさぃ」床に額を擦り付けて認めて卑屈に謝るしかない。「はーっ、ッふぅう……ぼく、は、醜くて、卑しい、です……ぅんっ」後ろから責められ揺さぶられ、躍る息を吐きながら自分を卑下する事のなんと快い事だろう。
「肉付きいい淫らな身体をいつも持て余していたのでしょう」
 まるで昔からそうだったかのように言われると、それはまったくの事実無根であるが、真とか偽とかは今はどうでもいい事だ。重要なのは僕が彼女に謗られているという事だけ。
「こんな体でよくも軍隊になんていられたものだわ。四六時中欲情して慰めを求めていたのではないの? 迷惑な人」
 首輪が後ろに引かれて上体が床から浮く。喉仏が潰されて、窒息感に視野が狭まる。無様に白目を剥いているかもしれない。
「かはっ、お゛ぐ、……ぅ」
 喉奥で低い喘ぎがとぐろを巻く。刹那の酸欠さえも僕の神経は快感と捉えてそのように反応するよう身体に指示を撒き散らす。
「躾の最中になんて声を出すの」
 ばしり、と尻と腿の境目を叩かれた。
「あ゛ッ!?」
 堰が崩れて重たい腰から何かが解き放たれる。
 苦しい、嬉しい、気持ちいいの相乗効果で僕は肉棒の先から大量の精液……ではなく尿を迸らせていた。
「ああーッ、や、ォあ……ッ……! ひぐっ、ぅ……っ」
 解放感にぶるりぶるりと断続的に肥体を震わせながら放尿を重ねる。身は締まっているのに、腰の辺りだけは弛緩して失禁を押し留める事ができない。床で跳ね返る飛沫が内股を濡らす。
「はっ……あぁはぁ、うぁあ、はぁ……」
 あんまりな情けなさに感情の箍が外れて笑い声のような気の抜けた音が漏れてしまう。
「汚い」
 尻の表面を引っ叩かれ、内部の奥深くを殴りつけられ、尿の勢いが一際強まり、そして途切れた。
「んあっ、あぁ……うぁあ、ごめっ、なさ……ぃ……」
 ひいひい言って子供のように泣くしかない。流石にここまで無様を晒す気はなかったから。排尿すら意思を打ち破って自由にできなくなるなんて。
「恐慌状態で泣きながら謝られるとすごく気分いいわ」他人に謝ってもらった事ないもの、と彼女は吐き捨てる。その身の内に燻る何かへの怒りを僕に転嫁しているようにも感じられた。
 彼女に罵られるごとに、深く受け入れるごとに、肌が触れ合うごとに、死の気配を遠ざけるために忌敵に心身を下げ渡し卑しく媚びて痴れた行いに明け暮れていた虜囚時代の記憶が剥がれ落ちて……記憶が焼き切れるなんて言い方では生易しく、脳が溶けて身体中の穴という穴から流れ出ていくような凄まじい愉悦。自分がなくなっていく。彼女にただ委ねるだけ。自らの尊厳を他人に委ねきってしまう開放感。法悦と言った方がいいのかもしれない。
「ふぅ、っん゛……はぁ、ォ゛、おぉ、っほ……」
 声が再び甘く鈍く蕩けてきたのが自分でもわかる。媚びているわけではなく、血肉の髄から自然と溢れてくるのだ。
「かわいい声。とろとろして」賤しく局部が引き締まる。「あ、中きつくなった……うれしいの?」僕は発情した鳴き声をあげながら頷く。大の男の痴態に彼女は愉しそうに笑う。「素直、従順。だいすき」好きと言われると弱く、詰られた後の甘言は落差が大きいだけ大変効いた。僕は、あーとかうーとか呆けた声を出してみっともなく吐精した。それでもまだ劣情が抜け落ちる事はなく昂りは続く。未だ確固たる形を維持している屹立が肉襞を刮ぎ落とさんばかりに出入りしているのだから当たり前の事だ。
 傷口のように熱を持ち腫れぼったくなった肉穴の際から入り得る最も奥までを激しく抉られ掘り抜かれる。ぐちゅぐちゅと水っぽい音と肌が当たって弾ける音が混ざり響いて耳からも脳髄を振り回して犯しにかかってくる。ひどく淫らな音だ。血の滴る肉片や臓物を鈍器で潰すような、凄惨で淫靡な交尾音。
「んっ、出そう……あなたの中、汚しちゃうからね」
 汚すなんて。その逆だ。
「わかっている? あなたわたしの自慰の道具として使われているって。惨めよ」
 惨めだなんて。嬉しい以外のなにものでもない。
 硬くてぬめる亀頭が奥を重点的に責め抜いてくる。腰を鷲掴みにされ、はらわた全体が引き攣るまで揺さぶられる。打ち捨てられて腐敗してぐちゃぐちゃになった肉片の塊に杭を打ちこむかのように深く雑に穿たれる。
 彼女の絶頂の兆しはわかる。愛らしい息が詰まり、幽かな甲高い声が聞こえる。
 僕は最後の力を振り絞って彼女の腰に尻を押し付け、なるべく奥へ迎え入れる。
 互いの息が交錯して、そして止まる。
 待ち侘びていた新鮮で若々しい種の恵みに与る。熱い奔流を肉粘膜に一心に浴びる。乱れきって蕩けた粘膜に染み入る彼女の情け。妙齢の女らしからぬ容赦なく執拗で偏執的な射精。量が多く、長く、溺れてしまう。
「はっ……はぅっ、んお゛……ッ、おぉお——!」
 はらわたの奥底深くからの重たい絶頂に強襲される。暴発する快感が電撃的に脊椎に迸って背筋が折れんばかりに反る。
 僕は完全に果てた。出すものはもはやなく、腰は空虚に震えて、しかし満たされていた。彼女の精汁によって。この身体を肉壺とか蜜壺と僭称してもいいだろう。
 汚されたわけでも、惨めなわけでもなく、それは聖別であった。
 ぬかるんだ精液溜まりを何度か名残惜しそうに掻き混ぜてから彼女は一仕事終えた性器を引き抜いた。
 ふう、というか細い吐息がなんとも愛らしく、男を組み敷き雌扱いしていたのが嘘のようだ。
 仰向けになったはずみで精液がとぷりと溢れた。もったいなくて口を締めようとするが、いいのよ、と彼女は言う。
「残っているとお腹痛くなるもの。きれいにするから出てしまっても構わないのよ。それに……終わった後の汚いのがこぼれてくるおしりも淫靡だわ。つやめいた血色いい粘膜のお口を白いのが彩って。嗜虐心と征服欲が満たされるの。ああ、こんなになるまで中に出したんだって」彼女もなかなか倒錯している。
 一層悦ばせるために僕は仰向けのまま尻を持ち上げて指で入り口を広げ、白濁の絡みついた肉色の粘膜を晒しながら異物をとろとろと床へ垂らした。粘膜に引っ付いている分は指で掻き出す。まるで自慰だった。
 僕自身が撒き散らした尿やら精液やらと尻から追い出した彼女のそれが床で混ざり合って、卑猥な雄の匂いを放つ。
 熱気籠った部屋にどちらからともなく再び熱く蕩けた息を吐く。
「おっ……おね、がい……も、ちょっとだけ……いじめて……」僕は自分からねだり、なるだけ艶かしく腰をくねらせ尻を指で慰め昂らせながら誘う。
「ん……強いのね。じゃあ、あと一回だけ……」
 蠱惑的で毒々しいまでに赤い唇が僕の唇に重なった。
 二度目の行為はより凄まじく気持ちよかった。僕の中は熟して馴染んで、何度か精を抜いて余裕を持った彼女の動きと相まって完全に性の悦楽の高みに上り詰めた。僕の縛は解かれて、肌に色濃く残る痕に色香を感じ取った彼女は熱心に僕の首や腕に口付けていた。
 彼女の再びの射精を身に受けた後、僕はそのまま中での放尿を強請り、彼女は僕を変態と詰りながら望みを叶えてくれた。
 度重なる絶頂と精液を塗りつけられて甘え切った恥肉が熱い液体により檄されて念入りに清められてゆく。水が厳を穿つような刺激が肉の尿瓶と化した内臓を駆け巡る。
 僕は完全にまごうかたなく彼女専用の排泄穴となれた酩酊と多幸感の中、意識を手放した。